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ワールドクルセイダーズ  作者: ビジョンXYZ
日本 東京
142/175

第2話 班分け

「とはいえ変に注目を集めすぎる前にとっとと場所を移した方がいいな」


 このままでは落ち着いて今後の方針や作戦も立てられない。天馬は仲間たちを促して足早に空港を後にする。しかし腐っても世界有数の規模と人口を誇る世界都市。少なくとも空港の周辺はどこを向いても人、人、人で、『人目の少ない場所』を探すのも一苦労だ。


 とりあえず空港を出た大田区を進んで、目についたビジネスホテルに飛び込みチェックインする。流石にビジネスホテルの中なら静かだ。ここなら落ち着いて話が出来るだろう。といっても敵に入国がバレている可能性が高いと考えると、ホテルでゆっくり一服という訳にもいかない。あくまで作戦会議(・・・・)のための一時的な仮拠点のようなものだ。




「とりあえず無事に東京には着けたね。この後の方針は考えてあるのかい? 敵との戦いや、君の……幼馴染を救出する算段についてって話だけど」


 このホテルでは一番広いツインの部屋に全員が集まると、代表してペラギアが天馬に確認してくる。全員の視線が天馬に集まる。彼はかぶりを振った。


「いや、残念ながら奴らの本拠地も判ってねぇ状態だ。どれくらいの数がいるのかもな。当然茉莉香がどこに囚われてるかも。なので基本的にはそれらを探る(・・)ってのが当面の方針になると思う」


「なるほど。じゃあギリシャで『破滅の風』を相手にした時と近い感じね」


 小鈴の言葉に天馬は頷いた。


「ああ、そうなるな。ウォーデンはともかくプログレスは魔力を隠すのが下手だから、探知に集中すれば距離にもよるが見分けは付けられるはずだ。後は勿論俺達が街を歩いてれば向こうから襲ってくる事も考えられる」


「……! ははぁ、そいつらを返り討ちにして本拠地を聞き出そうってんだな?」


 強気な発言で嬉しそうに手を叩くのはタビサだ。天馬はそれにも苦笑するように頷く。


「まあ、そうだ。勿論襲ってくるのはプログレスだけとは限らないから、そう上手く行くかは分からねぇが」


「それで……具体的にはどのように動くのだ?」


 神妙な表情で問うのはアリシアだ。彼女は以前に日本で敗北を喫して、天馬と共に逃げるように旅立ったという負い目があり、それが同じ日本にやってきた事で気負いに繋がっているようだ。



「そうだな。一口に東京といっても広い。二十三区もあるしな。捜索の網を広げる意味でも、ここは二人一組で計四つの班に分かれて行動して貰いたい。それぞれが独自に奴らの痕跡を探るって形で行く」



「……!!」


 二人一組という言葉を聞いて、部屋の中に妙な緊張が走った……気がする。


「オホン! ……でもここは既に敵のテリトリーなんでしょう? 戦力を分散してしまって大丈夫かしら? 敵が各個撃破を狙ってきたりはしないかしら?」


 咳払いしてその空気を払いつつ懸念を表明するのはラシーダだ。だがその懸念自体は尤もだ。天馬は解っているという風に頷く。


「そいつは尤もな心配だ。確かに二人なら勝てると思った敵が襲ってくる危険性は高い。だが……だからこそいい(・・・・・・・)。そうだろ?」


「……! 敢えて誘き寄せるって事?」


 小鈴が目を丸くする。天馬は首肯した。


「そうだ。8人一丸となってりゃ確かに安全だが、それだと敵も警戒して仕掛けてこないかもしれねぇ。そうなるとこっちが索敵して探し回らなきゃならなくなるが、全員が一か所に集まってたらこの広い東京をとてもじゃねぇが探索しきれねぇ。全員が集まってりゃ神力の索敵範囲が広がるって訳でもねぇから、はっきり言って重複した分が無駄になっちまう。『虎穴に入らずんば虎児を得ず』だ」


 全員で一塊になっているのは、はっきり言えば『守り』だ。それでは何のために東京まで乗り込んできたのか分からない。


「二人組で行動していて、実際に敵に襲われた場合はどうすればいいのでしょうか?」


 シャクティが若干不安そうな声音で眉を顰める。やや臆病な性質の彼女らしい慎重さだ。


「勿論二人だけで撃退できそうな相手だったら、各自で撃退してくれ。だがもし手に負えないくらいの数のプログレスか、もしくはウォーデンが出てきた場合に備えて緊急用の合図(・・)を設定しておく」


「合図、ですか?」


「そうだ。神力を花火(・・)みたいに上空に打ち揚げて爆発させるんだ。勿論それ以外の班も、感知できる範囲で他の班が強大な敵と遭遇していると判断したら、状況が許せば適宜救援に向かってくれ」


「な、なるほど……」


 シャクティは消極的ながら納得して頷く。リスクを承知で二人一組で分散という方針を取るからには、完璧に安全な作戦という物は存在しない。とりあえずはこれで納得してもらうしかないだろう。


「敵のアジトが判明したらその時こそ戦力を集中させて一気に叩く。この数が揃ってりゃウォーデンでも敵じゃねぇって事はアメリカで実証済みだしな」



「それで……実際の班分け(・・・)はどうするの?」


 それまで黙っていたミネルヴァが本題(・・)に踏み込む。全員が再びなんとなく緊張した。


「あー……そうだな。自由意思でってのも決めづらいだろうし、提案したのは俺だから、異論がなければ俺が勝手に決めさせてもらうがいいか?」


 学校の体育や行事などで二人組を作らねばならない時に、教師が丸投げで『好きなやつ同士で組んでいいぞ』というアレがトラブルの元になったり、その後の人間関係やクラスカーストに及ぼす影響は意外と馬鹿にならない。また女性陣の人数は奇数だし、必ず一人余り(・・)が出てしまう。それに天馬自身と組みたいと希望する者がバッティングしてしまう可能性もある。これは決して自惚れではないはずだ。


 外国人も『ペアのジレンマ』は理解できるのか誰も反対する者はおらず、天馬が適性を考慮して割り振る事に賛成してくれた。



「基本的には前衛と後衛のペアが望ましい。なんで『前衛組』は俺、小鈴、ペラギア、ミネルヴァの4人に分かれる。これは確定事項だ」



「……! うぅ……やっぱりそうなるわよね」


 早々に天馬と別の班が確定してしまった小鈴が唸る。だが班分けの基準としては至極妥当なので文句は言えない。


 残りはアリシアとラシーダに関しては完全に後衛型だが、シャクティとタビサは遠近両用型といった感じだ。天馬はそれも踏まえた上で割り振りを決める。


「よし、じゃあまず1班は小鈴とアリシアだ。この大田区を始め、品川区、世田谷区を中心に南側方面を頼む」


「……はぁ、分かったわ。宜しくね、アリシア」


「うむ、お前と組むのはインド以来だな」


 東京の大まかな地理は、アメリカから日本までの飛行機の中で皆に伝達してある。それに今は携帯があれば地図くらい簡単に見れる。皆ディヤウスなので日本語も問題なく読めるし、初めての異国でも特に迷ったりする心配はないだろう。


 アリシアと小鈴は仲間内では古株で、気心が知れていて連携も確かなので安心だ。


「続いて2班はペラギアとシャクティだ。お前たちは東京の西側の杉並区、練馬区、板橋区と武蔵野など区外の探索を頼む」


「了解。じゃあ西側は任せてよ。いいね、シャクティ?」


「も、勿論です。宜しくお願いします、ペラギアさん」


 若干主体性がなく臆病なシャクティは、ベテランのペラギアと組ませる事でその不安を解消させる。本当は天馬自身がそれを引き受けても良かったのだが、彼女とペアになる事でそれに不満を抱く(・・・・・)メンバーがいるかも知れないという配慮もあった。


「そして3班はミネルヴァと……タビサだ。お前たちは東京の北東方面、即ち荒川を越えた江戸川区、葛飾区、足立区の辺りだ。頼んだぞ」


「解った。任せて」


「……まぁしゃあねぇか。おっしゃ! アタシに万事任せとけよ!」


 本当は天馬と同じ班になりたかったらしいが、それでも小鈴やシャクティらも別班である事で納得したらしいタビサが拳を打ち立てて請け負う。対照的に言葉少なに頷くミネルヴァ。この2人はディヤウスとしては新参で連携も心許ないが、その分個々の能力の高さはそれを補って余りある。あた暴走して熱くなりがちなタビサを抑えるのにミネルヴァの冷静さは丁度良いだろう。


 ここまで決まればもう班分けは終わったようなものだ。


「じゃあ私はテンマと一緒に新宿など中央部を担当という事でいいかしら?」


「ああ、そうなるな」


 ラシーダの確認に天馬は首肯した。彼女は攻撃力は非常に高いがその分防御や接近戦に難があり、運用(・・)が難しいという側面があった。その能力を十全に活かすには彼女を武器(・・)として扱う冷徹さが必要であり、前衛組でラシーダを最も有効に活用(・・・・・)出来るのは自分だという自負はあった。


 また天馬に対する感情もお互いにドライで常に一歩引いている感のある彼女なら、他のメンバーも納得(・・)するだろうという打算もあった。



「思う所のある者もいるかも知れないが、極力適正などを考慮した結果だ。この4つの班に分かれて邪神の勢力を捜索する。今日は皆さすがに疲れてるだろうから部屋に戻ってゆっくり休んでくれ。俺も周囲を警戒しつつ極力休むようにする。その代わり明日から宜しく頼むぜ」


 彼には幼いころからの修行の成果で、周囲に意識のアンテナを研ぎ澄ませつつ身体を休める事が出来る特技があった。それを用いて今夜の哨戒を買って出ていた。きちんと休む事も戦いのうちだと女性陣には納得させてあった。


 かくして行動の指針と班分けを終えた天馬たちは、明日からの捜索と戦いに備えて各々英気を養うのであった……


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