第5話 集結
「テンマさん、アリシアさん、お待たせしました!」
「アレもウォーデンなの?」
シャクティとミネルヴァが駆け寄ってくる。
「うむ、助かったぞ、2人とも。見ての通り我等の攻撃が全く通じん。このままではジワジワ攻められるだけだ」
アリシアは2人に礼を言いつつも、苦虫を噛み潰したような顔で唸る。だがそこに天馬も合流してくる。
「奴に攻撃が通じない理由が解ったぜ。恐らくアイツの身体は俺達の神力を無効化できるに違いねぇ」
「何、神力を……!?」
アリシアが目を瞠る。シャクティ達も驚いている。
「そ、そんな……それじゃどうやって攻撃したら……」
「神力が効かない? それだと無敵という事になるけど……そんな敵が本当にいるの?」
シャクティが絶望に顔を歪めるが、冷静なミネルヴァはやや懐疑的だ。
『ファハハ……その通り。私は対ディヤウスにおいては無敵の存在。我が前に現れた時点で貴様らは詰んでいたのだ。解ったらこれ以上無駄な抵抗はやめて、大人しく我が剣の錆になるがいい』
話が聞こえていたらしいベネディクトが球体を震わせた。そして再び表面から突き出した無数の光る剣を回転させ始める。
「確かに神力が通じねぇの本当のようだが……それ以外のものは防げねぇみたいだな?」
『……!』
だが天馬の言葉にベネディクトは僅かに動揺する気配を見せる。アリシア達も眉根を寄せる。
「それ以外のもの?」
「ああ。さっきミネルヴァが冷気で作り出した『氷』だけは奴に纏わりついたまま消えずに、奴の動きを阻害した。奴は神力は無効化できるが、神力で起こした物理現象までは無効化出来ねぇようだ。同様に神力の通ってない普通の物体による攻撃もな」
「……!」
ミネルヴァ達も天馬の言っている意味を理解して目を瞠った。
『……ふん、よくぞ見抜いたな? だが見抜いた所でどうなるものでもないがな。依然として貴様らの最大の攻撃手段が効かんという事に変わりはない。残りカスのような攻撃で私を倒せるかな!?』
一瞬の動揺から余裕を取り戻したベネディクトが嗤う。そしてこれ以上の問答は不要とばかりに光の剣を回転させながら突っ込んできた。天馬達はそれを避けるように一斉に散開する。
「ミネルヴァ! お前はとにかく氷を作り出す技で攻撃しろ! さっきの技でも氷柱みたいなヤツでも何でもいい! こっちで合わせる!」
「わかった。任せて」
ミネルヴァが請け負う。ここでの攻撃の要は彼女だ。天馬も含めた他のメンバーはいずれも神力で直接攻撃するタイプなので、ベネディクトとは相性が悪い。先程のようにオブジェクトや、またはその辺に散乱している瓦礫などを打ち当ててミネルヴァをサポートするしかない。
(あいつらが居りゃあな……!)
天馬達と別行動を取っている残りの仲間達の顔を思い浮かべる。小鈴は炎を、ぺラギアは電撃を、そしてラシーダは毒や酸を武器に戦う。勿論それでも神力を無効化されるのでは攻撃力は落ちるだろうが、少なくとも天馬達よりは幅広く戦えるはずだ。南アフリカで新たに仲間にしていると思われる人物の事は解らないが。
だが今ここに居ない者達を当てにしても仕方がない。自分達は自分達に出来る事をやるしかない。
『スコルグ・ブロート!』
ミネルヴァが槍の穂先から強烈な冷気による氷柱を作り出して、それをベネディクトに何本も射出する。本来は強固なはずの氷柱も神力が消されてしまうので、ただの自然な氷柱となってベネディクトの表面に当たり粉々に砕け散る。
ミネルヴァはめげずに何度も氷柱を叩き込むが、全て虚しく砕け散ってしまう。しかし掻き消されて無効化されている訳ではないので、僅かでも侵害は与えているはずだ。
『ええい! 鬱陶しいやつだ! 貴様からなます斬りにしてやるわ!』
「……!」
その証拠に忌々し気に球体を揺らしたベネディクトが、明確にミネルヴァにターゲットを切り替えた。
「ち……させるか!」
天馬は鬼刃斬を放って柱や照明など周囲のオブジェクトを切断して、それをベネディクトに当てる事で妨害する。アリシアやシャクティも出来る限りの妨害を行うが、やはり直接攻撃できないでは限界がある。
『ファハハ! 無駄だ、愚か者共!』
ベネディクトはそれらの儚い抵抗を嘲笑うかのようにむしろ突進を加速する。更にそれだけでなく、回転する奴の表面から光の粒子のようなものが四方八方にばら撒かれる。
「……っ!」
一発一発の威力は然程でもないが、それでも天馬達の動きを逆に阻害するくらいの威力はある。まさか奴が飛び道具まで備えているとは予想していなかった。
天馬だけでなくミネルヴァもそれによって足止めを余儀なくされてしまう。そこに光る剣を高速で旋回させながら突っ込むベネディクト。
「……!!」
光弾によって足止めされたミネルヴァは回避が間に合わない。先程のアリシアの時と同じ状況の再現だ。そのまま為す術もなく轢き潰されそうになった時……やはり再現かのように同じ状況が発生した。
ベネディクトの突進を足止めする新たな妨害。だがそれは冷気による凍結ではなく、床を突き破って出現した分厚い土壁によるものであったが。
『何……!?』
「何だぁ!?」
図らずもベネディクトと天馬の困惑の叫びが重なる。ベネディクトを妨害してミネルヴァを助けたからには、これは味方の仕業という事になる。だがアリシアもシャクティも天馬と同じく唖然としており、当然ながらミネルヴァ自身も同様だ。
そうなるとこれは自分達以外の味方がやったものという事だ。そして一瞬困惑した天馬だが、すぐにその心当たりが付いた。しかも彼が知る限り、あの3人にはこのような能力はなかった。つまりこれは……
「てめぇもあいつらの仲間か! アタシが来たからにはもう好きにはさせねぇぜ!!」
「……!」
聞き慣れない声に天馬達はその声がした方向を仰ぎ見る。破壊されたオブジェクトが積み上がって一段高くなった場所に、野性的な印象の黒人の少女が仁王立ちしてこちらに手を翳していた。
この分厚い土壁はこの少女が作り出したものらしい。自分達の知らないディヤウスの少女。明らかにアフリカ人と思われる外見。そこから導き出される答えは明白だ。
「はっ! よくやった! 流石だな、小鈴!」
天馬が喜色を浮かべると、まるでそれに応えるかのように新たに3つの影が聖堂内に飛び込んできた。
『アシッド・クラウド!』
強酸の雲を作り出してベネディクトを攻撃するのは、『セルケトの尾』を構えたラシーダ。
『ケラウノス・サンダー!!』
小剣『ニケ』を振るって激しい雷の束をベネディクトの球体に叩きつけるのはぺラギアだ。そして……
『気炎連弾!!』
梢子棍『朱雀翼』を縦横に振るって、連続で炎の塊をベネディクトに撃ち込んで攻撃するのは……
「天馬、お待たせ! 私達も加勢するわ!」
南アフリカへと赴くもう一つのチームを率いていた小鈴であった!