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ワールドクルセイダーズ  作者: ビジョンXYZ
南アフリカ ファラボルワ
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第16話 大地の怒り

「シャオリン! この岩の巨人は私が抑える(・・・・・)! 君達はその間に奴を倒すんだ!」


 ぺラギアは短い逡巡の間に決断した。岩巨人とジャブラニのどちらを優先するとなれば、当然本体のジャブラニに決まっている。ならばウォーデンと戦う最低限のラインである3人のディヤウスを奴に当たらせ、岩巨人は残った1人が抑えるという戦術で行くしかない。


 そうなるとこのメンバーでは最も防御と継戦能力に優れたぺラギアが岩巨人を担当するのは自明の理だ。


「……! 解ったわ! ラシーダ、タビサ! ぺラギアを信じて、私達は奴を集中攻撃するわよ!」


 2人に指示しつつ、自ら率先してジャブラニに突撃する小鈴。だが周囲に群がる岩人形どもがそれを阻んでくる。



「く……邪魔よ!」


 小鈴は毒づきながら岩人形どもを蹴り壊す。だがその隙を突いて巨大ミミズとなったジャブラニから遠距離攻撃が飛んでくる。


『モケーレの土槍雨!!』


 奴の周囲の地面が盛り上がり、それが何本もの鋭い『槍』と化して、凄まじいスピードで小鈴に殺到してくる。岩人形を相手にしていた事もあって小鈴に躱す余裕はない。だが……


「させるかよ!」


 タビサが彼女を庇うように割り込んで大きな岩石の楯を展開する。岩石の槍と岩石の楯がぶつかり合い、物凄い衝撃にタビサの身体が揺さぶられる。


「ぐ……! 結構……キツいな……!!」


 伝播する衝撃に顔を歪めるタビサ。しかしなんとかジャブラニの攻撃を耐え切る。その間に後方でラシーダが『セルケトの尾』を振りかぶっている。


『テラー・ニードル!!』


 致死の猛毒を内包した針が先端に付いた鞭が高速で振るわれジャブラニの巨体に迫る。ジャブラニは巨大ミミズの姿にしては動きが速いが、それでもラシーダの攻撃を躱せる程ではない。そしてラシーダの攻撃は当たれば必殺だ。


『馬鹿め!』


「……!」


 だがそこで目を疑うような現象が起きた。何とジャブラニがその環状の身体をくねらせると、地面(・・)に向けて頭から突っ込んだのだ。すると地面は液状のようになって抵抗なく奴の巨体を受け入れ、ジャブラニは一瞬にして地中に潜り込んでしまったのだ。


 当然ラシーダの鞭の先端がその後を追って地中に突っ込もうとするが、何と今度は地面が一瞬で固形化し岩のように硬くなって鞭を弾いてしまった。


「そんな……!」



『ファハハ、この鉱山一帯は我がテリトリーのような物。大地全てが我が武器であり鎧なのだよ』



 地中に潜ったはずのジャブラニの耳障りな哄笑が明瞭に響く。当然だがミミズの口で喋れるはずがなく、元から思念波のようなもので喋っていたのだが。


 しかし厄介な事になった。地中に隠れられていたのではこちらからは手の出しようがない。しかもそれでいて恐らくは……


『モケーレの土槍雨!』


 地中から奴の声が響くと同時に、再び地面から大量の槍が盛り上がって空中に浮かび上がると、向きを変えて小鈴達に遍く降り注いでくる。それだけでなく周囲の岩人形達もその数を増やして再び襲い掛かってきた。


「くそ……やっぱりね!」


 小鈴は毒づきながら必死に土槍を躱し、岩人形を打ち砕く。ラシーダもタビサも必死になって同じ攻撃に対処している。


 だが反撃したくともジャブラニは地中に潜っていてこちらの攻撃は届かない。それでいて奴は地中に隠れたまま自在にこちらを攻撃できるのだ。一方的に攻撃を受け続けるだけで反撃できない。アンフェアというのも愚かしい状況だ。


『マンランボの土海!』


「ッ!!」


 打開策を見出せないまま防戦を強いられる小鈴達だが、そこにジャブラニが再びあの地面を粘土と化す技を使ってくる。足元が一瞬にして汚泥と化し、脚に纏わりついて動きを阻害してくる。


「く……そ!」


 小鈴は必死に防戦を続けるが、汚泥に絡め捕られて動きを封じられた状態で多数の岩人形が襲ってくる状況に徐々に対処できなくなってくる。ラシーダとタビサも似たような状況だ。そして……



『ケラウノス・サンダー!』


 岩巨人を相手に単身で奮闘するぺラギア。強烈な電撃が岩巨人を打ち据えるが、破損させるのが精一杯で破壊には至らない。そして破損個所はすぐに地面から素材を吸収して再生してしまう岩巨人。キリが無い。


 岩巨人が巨大な拳を打ち付けてくる。それを大きく跳び退って躱すと、今度はその身体から無数の岩棘が射出されてくる。


「く……! これは……マズいね」


 岩のショットガンを『アイギス』で防ぎながらぺラギアは唇を噛み締める。小鈴達は明らかにジャブラニを攻めあぐねている。だがぺラギアとて岩巨人を引き付けるので精一杯だ。これ以上打つ手がない。


 このままではジャブラニに押し切られてしまう。ぺラギアの中で焦燥が膨れ上がる。だが……




「……ふざけんなよ。絶対にテメェらの思い通りになんてさせるかよ」


 ジャブラニの哄笑と攻撃が降り注ぐ中、それを防ぎながらタビサが静かな怒りを内包した呟きを漏らす。こいつらは彼女の住んでいる街を汚染し、大地を傷つけ、大切な伯母を洗脳して利用しようとした。そして何より父親を虫けらのように殺し、彼女から和解の機会を永遠に奪った。


 絶対に許さない。許してはならない。ここでこいつらに負ける事は、連中の罪を『許した』のと同じ事だ。


「父さん……アタシに力を貸してくれぇぇっ!!」


 タビサは限界まで神力を高めながら両手を掲げる。するとその手の先に岩石と土くれが集まり……一本の巨大な『剣』を形成した。タビサの身長の倍くらいある巨大で武骨な『剣』だ。


『地母神の鳴動!!』


 そしてその『剣』を思い切り地面に突き刺した! 岩と土で出来た『剣』は停滞なく地面に深々と突き刺さった。


「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」


 タビサの気合いと共に、彼女が限界まで絞り尽くした神力が『剣』を伝って大地に浸透していく。それに伴って大地が震動し始め、その揺れが次第に強くなっていく。



『……!? 何だ……これは!?』


 その揺れが強くなると、初めてジャブラニが動揺したような戸惑いを示す。同時に奴の魔力によって構成されていた汚泥の海や岩人形達の動きが明らかに精彩を欠くようになる。大地の揺れが更に強くなる。


『ぬ、ぬ、ぬ……!!』


「コソコソ隠れてねぇで……出てきやがれぇぇぇっ!!」


 タビサは地面に突き立てていた巨剣を全身の力を使って一気に引き抜いた!


 するとそれに合わせて大量の岩石や土砂が盛り上がり、まるで無重力になったかのようにそれらが浮き上がった。そしてその中には……醜い巨大ミミズと化したジャブラニの姿もあった。地母神の加護を受けたタビサの力が地中に潜む不浄の存在を排出し、地表に引きずり出したのだ。



『馬鹿な! こんな事が……!!』


「今だ!! やれぇぇぇェェェェッ!!!」


 ジャブラニの驚愕の呻きとタビサの血を吐くような叫びが重なる。


「……っ! ラシーダ!」


「ええ……!!」


 小鈴はラシーダに合図を送りつつ、自らは表に引きずり出されたジャブラニに向けて特攻する。


『ヌガッ! 貴様ァ……!』


 ジャブラニは咄嗟にそのミミズの口から溶解液のようなものを吐き付けてきたが、そんな苦し紛れの牽制に当たる小鈴ではない。高く上空にジャンプしながら溶解液を避けた小鈴は、そのまま神力を高めつつ朱雀翼に炎を纏わせる。


『炎帝龍撃打ッ!!』


 勢いよく打ち下ろしの一撃を叩きつける。炎を纏った朱雀翼はミミズの巨体に打ち付けられ、強烈な打撃と共にその身体を炎に包み込む。


『ウギェェェェェェェェェェェッ!!!』


 聞くに堪えないような絶叫と共に、炎に巻かれたジャブラニがのたうち回る。だが流石にウォーデン。これだけでは倒せない。しかし小鈴の役目は奴を倒す事ではなく、致命の一撃(・・・・・)を入れるための隙を作る事だ。


『ブラッド・アブソリューションッ!!!』


 小鈴が奴を攻撃する間神力を溜め続けていたラシーダが、ジャブラニに大きな隙が出来たのを見て取って、その神力を一気に解放した。


 まるで意志を持っているかのように突き進んだ『セルケトの尾』が見事ジャブラニの身体に突き刺さり、そこから致命の猛毒を流し込んだ。


『……ッ!? ……!!』


 ジャブラニの巨体がビクンと跳ね上がる。そしてそのミミズの身体が溶けるように崩れていく。同時にぺラギアが引き付けて戦っていた岩巨人が形を保てなくなり、ただの岩石の塊となって崩壊した。


 この部屋のみならず建物全体を覆っていたジャブラニの魔力が消えていく。決着だ。


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