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ワールドクルセイダーズ  作者: ビジョンXYZ
南アフリカ ファラボルワ
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第15話 『大姦』のジャブラニ

「……地母神ノムクルワネ。まさか本当にお前がその種子を受けたディヤウスだと言うのか」


 ジャブラニが妙に抑えた口調で呟く。だが小鈴は奴の身体から発せられる魔力がどんどん強まっているのを感じ取った。これは……


「へっ! これでハッタリじゃねぇって解っただろ! テメェも父さんの仇だ。今更謝ったって遅ぇぞ」


 ジャブラニの様子の変化に気付いていないタビサが、岩の大槌を奴に突き付けて大見得を切る。しかし彼女はディヤウスに覚醒したてでウォーデンと戦うのはこれが初めてのはずだ。だから気付いていない。


「タビサ! あいつに隙を与えては駄目よ! 一気に畳みかけて!」


「え……?」


 小鈴が叫ぶがタビサは解っていないらしく戸惑ったように振り返った。駄目だ。もう間に合わない。


「どいて! 『気炎弾!』」


「仕方ないわね。『ポイズン・ショット!』」


 それでも小鈴と、同じく遠距離攻撃を持つラシーダがジャブラニに妨害攻撃を仕掛けるが、当然そんな物が効くはずもない。奴の周囲に黒い半透明の膜のような物が出現し、それらの牽制攻撃を弾いてしまう。


「な、何だ、ありゃ?」


「気を付けて! 来るよ!」


 目を剥くタビサと、ぺラギアの警告の声が重なる。ジャブラニを覆う黒い膜が完全に透明度を失い、真っ黒い瘴気の球体がそこに出現する。数瞬の後、その球体に大きな亀裂が走る。亀裂はどんどん大きくなり、やがて全体に広がると黒い球体は中からの圧力で粉々に砕け散った。


 魔力の爆発が奔流となって拡散し、小鈴達は思わず顔を背けて吹き飛ばされないように踏ん張る。そして奔流が収まり彼女達が顔を上げると、そこには……



『おお……聞こえる、聞こえるぞ。ツァトゥグア様の飽くなき食欲を満たさんとする暴食の唸りが。もう少しだけお待ちください。すぐに極上の贄を献上いたしますので』



「……!!」


 小鈴達は揃って目を瞠った。それは一見(・・)すると恐ろしく巨大な蛇に見えた。だが、違う。その長い環状の身体の体表には鱗が無く、ヌラヌラと気色悪いテカりを帯びていた。そして身体の先には『頭』と呼べるものがなく、ただすっぽりと筒状の『穴』が開いているだけであった。この外見は……


「ミ、ミミズ……?」


 小鈴が顔を引き攣らせる。そう……そこにいたのは、体長が優に10メートルに及びそうな一匹の巨大ミミズであった!


「鉱物の神から土を食う地虫に変じるか。まさに堕落(フォールダウン)そのものだね……!」



『ファハハ……ツァトゥグア様に頂いたこの力、貴様らにも存分に味わわせてやろう』


 ぺラギアが吐き捨てるが、幸か不幸か気色悪さに慄いている暇は無かった。超巨大ミミズと化したジャブラニが動き出した。しかも本来のミミズのイメージとは異なり、その巨体からは考えられないような速さだ。


「……っ! 気色悪ィんだよ、テメェ!!」


 タビサが大槌を振りかぶる。アフリカの田舎育ちの彼女も、流石にこのサイズの巨大ミミズが素早く動く光景には免疫がないらしい。『回帰の大槌』が新たな岩石を吸収して更なる大きさに肥大すると、彼女はそれを再びジャンプしながら全力で叩きつける。


『馬鹿め!』


 だがジャブラニは回避行動を取る事は無かった。その代わりに彼女の攻撃を受け止めた(・・・・・)存在があった。


「……! 何だ……!?」


 それは地面から生えた巨大な『腕』であった。ジャブラニが人間状態の時も操っていたものだ。だがタビサの全力の一撃を受け止めるとなると、その強度は遥かに向上している。いや、それだけではない。


 その『腕』が更に盛り上がり『頭』が突き出した。続いて『胴体』が現れ、そしてもう一方の『腕』も出現した。


「こ、これは……巨人(・・)!?」


 ラシーダがその現れたモノを見て驚愕に目を見開く。それは下半身が地面に埋まったままの人型の岩巨人とでも形容すべきモノであった。地面から突き出ている部分……つまり上半身だけで5メートル程はある。


 この地下倉庫はかなり高い天井の空間であったが、その天井にもう少しで頭が届きそうな程だ。



『ファハハ……我が『浸土巨神(ガイアバトラー)』の力、思い知るがいい小娘共』



「……!」


 その上半身だけで5メートルはある岩巨人……ガイアバトラーが、まるで地響きのような轟音と共に動き出した。その下半身は地面に埋まったままだが、全く停滞なく地中を動いているようだ。恐らくジャブラニの魔力による何らかの特性だろう。


 岩巨人がその拳を大きく振り上げる。拳には巨大な棘のような突起がいくつも突き出ていた。


「……っ! 散れ!」


 ペラギアが咄嗟に叫ぶ。次の瞬間、岩巨人の拳が小鈴達目掛けて叩きつけられた。直後に地面が爆発(・・)した。そう形容するしか無いような凄まじい轟音と衝撃、そして瓦礫や粉塵が迸った。


 4人は間一髪飛び退って直撃は免れたものの、その爆風による衝撃が襲い吹き飛ばされる。しかし倒れるものはおらず、全員何とか足から着地して体勢を立て直す。


 岩巨人の攻撃の跡はちょっとしたクレーターが出来上がっていた。凄まじい威力だ。



「こんな奴を野放しには出来ないね! 『ケラウノス・サンダー!!』」


 ペラギアが剣に雷の束を纏うと、岩巨人目掛けて一気に薙ぎ払う。的がデカいので外したり躱されたりする心配はない。豪雷が岩の巨人を打ち据える。だが……


「むぅ……! 見た目通りの耐久力みたいだね」 


 岩巨人は所々破損はしていても、殆どダメージを負っている様子がない。しかもその僅かな破損箇所もすぐに地面から新たな素材(・・)を吸収して元通りになってしまう。こいつを倒すのは至難の業のようだ。ならば……


本体(・・)を叩くだけね!」


 小鈴は素早い動きで岩巨人の間をすり抜けて巨大ミミズと化したジャブラニの元に突進する。奴を倒せばこの岩巨人は消えるはずだ。


『馬鹿め……そう来るだろうと読めていないはずがあるまい? 『マンランボの土海!』』


「……!」


 ジャブラニがせせら笑うと再び地面が半液状と化し、小鈴の足を絡め取って動きを封じてくる。しかし小鈴の後ろからタビサが大槌を抱えたままジャンプした。


「こっちもそのくらいは読めてんだよ! 『回帰の大槌!』」


 タビサのハンマーが液状化した地面を叩くと、その衝撃が伝播し地面が震え、液状化が強制解除される。


「ありがとう、タビサ!」


 礼を言いつつ、ジャブラニへの突進を再開する小鈴。朱雀翼に炎を纏わせ神力を限界まで高める。



『甘いわ。先程までならともかく、今の私の力はそう簡単に打ち消せんぞ』


 だがジャブラニに慌てている様子はない。よく見ると液状化が解除できたのは小鈴達の周囲だけで、ジャブラニの周囲の広い範囲はまだ液状化したままだ。その液状化した地面が盛り上がって、まるで海岸に打ち寄せる巨大な波のような形状になって小鈴に覆い被さってくる。


「ち……! 『拒絶の輪壁!!』」


 タビサが舌打ちして前に出ると、先程よりも大きな土壁を出現させて粘土の波を受け止める。小鈴はそれを迂回してジャブラニへの特攻を継続する。


侵土兵(ガイアスポーン)!!』


 しかし奴の周囲にあの岩巨人を小さくしたように人間サイズの岩人形が何体も出現し(こちらは下半身まである)、一斉に小鈴に群がってくる。


「くそ……!」


 小鈴は毒づいて朱雀翼を振り回す。岩巨人のような耐久力はないらしく一撃で砕けるが、数が多いうえに、砕いた側から新しい岩人形が出現しキリがない。小鈴の足が完全に止められてしまう。



「近づくのは困難みたいね。だったら……」


 それを見ていたラシーダが『セルケトの尾』を振り上げて遠距離攻撃の技を放とうとする。しかしその彼女の頭上に巨大な影が掛かる。


「っ!!」


 間一髪で身を躱したところに、岩巨人の拳が打ち下ろされた。直撃は免れたが再び爆発が発生してラシーダを吹き飛ばす。



「ラシーダ!? ち……どうやらこいつも足止めしないといけないようだね……!」


 ペラギアが顔をしかめて岩巨人を見上げる。ジャブラニは岩巨人を完全に自律的に動かしつつ、自身も個別に技を使って戦えるらしい。言ってみれば敵が2体いるようなものだ。この岩巨人を遊ばせたままジャブラニだけを集中攻撃する事はできない。その逆もまた然りだろう。


 そうなるとこちらも岩巨人に対するメンバーと、ジャブラニに対するメンバーとに分かれて戦わねばならない。ウォーデンとまともに戦うには最低でも3人のメンバーがいなければならないので配分が難しいところだが、それでもやるしかない。


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