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ワールドクルセイダーズ  作者: ビジョンXYZ
南アフリカ ファラボルワ
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第14話 原初の地母神

「タ、タビサ……!」


 傷つき魔力の粘土に捕らわれて一方的に攻撃を受け続けていた小鈴達が、霞んだ目でタビサを見やる。


「ふむ、そう言えば君の事を忘れていたよ。この連中はいつでも始末できる。だが君は仮にもこの国の国民だ。君の伯母さんと同じように説得(・・)してあげよう」


「……! や、やっぱり……伯母さんに何かしやがったんだな?」


 洗脳を仄めかすジャブラニの台詞にタビサは身体を戦慄かせる。彼女の怒りを受けてジャブラニは肩を竦めた。


「彼女は少々(・・)頑なだったのでね。安心したまえ。身体(・・)には一切危害を加えていない。そしてそれは君に対しても同様だ」


 奴が手を挙げると、今まで離れた所に控えていた部下のプログレス達と……ズヴァナがこちらに向かってきた。



「お、おい、伯母さん。やめろよ。伯母さんはそいつに洗脳されてるんだよ!」


「相変わらず馬鹿な事を言う子だねぇ。私は洗脳なんかされていないよ。むしろこんなに気分が爽快なのは初めてかも知れない。お前も先生(・・)に診てもらえばすぐに気分が良くなるよ」


 だがズヴァナは姪の必死の訴えをせせら笑って、明らかな害意を持って近付いてくる。プログレス達が素早くタビサを包囲して、逃げられないように押さえつける。


「ぐ……くそ! 離せよっ!!」


 タビサは精一杯暴れるが、勿論逃れられるはずがない。押さえつけられて床に這いつくばる姿勢になる。そのタビサの頭にズヴァナが手を近づける。その掌にはボゥッと魔力(・・)の灯火が宿っていた。


「さあ、先生から頂いたありがたいお力だ。お前にも分けてあげるよ」


「お、伯母さん! やめて……!!」


「タビサ! く……」


 タビサの危機に小鈴達は何とか動こうとするが、ダメージが大きいのと粘土の拘束が強く動けない。その間にも近付くズヴァナの手。


「伯母さん、よせ! よせぇっ!!」


 必死にもがくタビサの頭に無情にも近付く伯母の手。そして遂にその手が頭に触れた――





 ――その瞬間視界が光に包まれて、タビサは見覚えのある場所に1人で立っていた。


 そこは彼女がよく行くサバンナの風景であった。地平線まで人工物が無く、背丈の低い木々が見渡す限り立ち並んでいる。遠くには小高い丘が見え、空は抜けるような青空。土と砂が混じったような独特の大地。


 学校や仕事が無い時は自転車でサバンナの外れまで繰り出し、この自然を体一杯に感じるのが好きであった。


「あ、あれ……アタシ、何でこんな所に? 皆は? 伯母さんは?」


 タビサは戸惑って周囲を見渡す。あの悍ましい工場の地下室は影も形も無かった。そして小鈴達も含めて誰も居なくなっていた。戸惑うのは当然だ。



『……ようやく我が声が届いたか。長らく待ったぞ、この時を』



「……っ!? 誰だっ!」


 突然響いてきた『声』にタビサはギョッとして辺りを見回す。しかしやはり自分以外に誰も人間はいない。


『馬鹿者。()だ、下。まあ以前に一度呼び掛けただけなので、忘れるのも仕方なかろうが』


「し、下……て……っ!」


 今度は明確に低い女性(・・)の声が響いてきて、タビサは戸惑ったように下を見下ろす。勿論自分の足元には土……つまり大地しかない。そこで初めて彼女は思い出した。以前に一度だけ見たあの明晰夢……


「……アンタは?」



『我が名はノムクルワネ。お主にはそれだけで伝わるであろう?』



「……!! ノ、ノムクルワネ!?」


 タビサは目を瞠る。確かにその名称は知っていた。学校でも教養の授業でも習うが、彼女はそれよりも前にズヴァナからよく読み聞かされて馴染んでいた。 


 即ち……太古から伝わるズールー神話(・・・・・・)の物語を。タビサ達も含めてこの地に住まう民は皆偉大なズールー族の末裔である。少なくとも彼女はズヴァナに繰り返しそう教えられてきた。


 彼女の記憶が確かなら、ノムクルワネとは……この大地そのものを司る女神。つまりは『地母神』のはずであった。最高神であるウンクルンクルに次ぐ……いや、時としてウンクルンクル以上の神としても扱われる事がある。


『その通り。そしてお前が受けた我が種子を発芽(・・)させる条件は、「一度でもあの汚らわしい者共の魔力による侵害を受ける事」であった。そしてお前はたった今その条件を満たした』


「……!」


 ズヴァナの手を介して洗脳を受けそうになった事だ。恐らくそれ以前にも、あのプログレスとかいう連中の攻撃を受けたりした場合も条件を満たした事になったのかも知れない。


「アンタの力があれば……伯母さんを救えるのか?」


『さて、我はあくまでお前に力を貸す(・・)だけだ。逆に言えばそれ以上の介入は出来んのだ。お前の大切な者を救えるか否かは、あくまでお前自身(・・・・)に懸かっておる。それを忘れるな』


 地母神の突き放した様な回答。だが否定はされなかった。ならばそれだけで充分だ。


「それでいいよ。だったら後はアタシがやる。必ず伯母さんもシャオリン達も救ってみせる。だから……アタシに力を貸してくれ!」


『元よりそのつもりだ。むしろ待ちくたびれた程だぞ。我が力、喜んでお前に授けよう。必ずこの地を蝕む邪気を祓い、この地だけでなくこの星を救ってくれ。頼むぞ、タビサよ……』


 地母神の了承と共に、彼女が立つ大地が鳴動した。そして凄まじいまでの光の奔流が地面を突き破って、大地から噴出する。そしてタビサを包み込んだ。





 光が弾けた。気付くとそこはあの精製工場の地下であった。ズヴァナがこちらに手を伸ばしてくる。どうやら体感時間的には1秒にも満たない時間であったらしい。


「離せぇぇぇっ!!」


「……!?」


 タビサの叫びと共に彼女の身体から激しい光が放出されて、押さえつけていたプログレス共をまとめて弾き飛ばす。ズヴァナが驚いて手を引っ込めようとするが、タビサはその腕を掴んだ。


「……! お、お放し……!」


「伯母さん……目を覚ませっ!!」


 タビサは逆にズヴァナの頭に自らの手を乗せた。するとその手から淡い緑色の光が発生し、ズヴァナの頭に染み込んだ。


「……ッ!!」 


 ズヴァナは大きく身体を震わせて白目を剥くと、そのまま倒れ込んでしまう。その身体を受け止めてゆっくり壁にもたれさせるタビサ。


「ごめんよ、伯母さん。すぐに終わらすからちょっとだけ休んでてくれよ」


 そして立ち上がるとジャブラニの方に振り返った。その身体からは抑えきれないほどの神力が漏れ出している。



「す、凄い……なんて神力だ。これが彼女の中に眠っていた力なのか」


「こ、この力……もしかしたらテンマよりも……?」


 ぺラギアとラシーダが呆然としたように覚醒したタビサを見やる。確かに彼女から溢れ出す神力は凄まじいものがある。だがディヤウスとしての強さは神力の強弱だけで決まるものではない。タビサの力はまだ未知数だ。



「き、貴様……貴様もディヤウスだったのか。それにこの力は……?」


「お前はもう終わりだ、ジャブラニ・ムラウジ。お前だけは絶対に許さないぞ。地母神ノムクルワネの怒り、存分に味わわせてやるぜ」


 初めて動揺を見せるジャブラニに、タビサは自信に満ちた態度で宣言する。ジャブラニの目が吊り上がる。


「ノムクルワネだと!? ハッタリを抜かしおって! お前達、その小娘を殺せ!」


 ジャブラニがタビサの周囲にいるプログレス達に命じる。彼女がディヤウスだと知って洗脳しようという気は無くなったようだ。



 命令を受けたプログレス達が一斉に変身する。その下半身が様々な四足獣の身体へと変じる。数は全部で四体。だが四体のプログレスに囲まれ殺意を向けられてもタビサに動揺はない。それどころか好戦的に口の端を吊り上げる。


「はっ! アタシの力を試す丁度いい練習台だね! 掛かって来な!」


『ほざけ、小娘がっ!!』


 少女に挑発されたプログレス達が激昂して一斉に襲い掛かってくる。最初に豹の下半身を持ったプログレスがその前脚の爪で引っ掻いてくる。爪には魔力の瘴気が纏わっている。


 しかしタビサはそれまでの無力な少女ぶりが嘘のような素早い動作でその爪撃を躱す。そして彼女が手を翳すと、その手に土と岩を固めて作ったような巨大な『拳』が出現した。


『……!』


「お返しだ! 『大地の拳!!』」


 瞬間的に直径が30センチ程にもなった岩石の『拳』が全力でプログレスに叩きつけられる。プログレスは巨体ごと錐揉み回転しながら吹き飛び、壁に激突した。一体どれほどの威力であったのか、プログレスは起き上がってくる気配なくそのまま消滅してしまった。


 今度は両脇からリカオンの下半身をしたプログレス達が同時に飛び掛かって挟撃してきた。一方は黒い剣、もう一方は黒い槍を作り出して握っている。


「あ、危ないっ!」


 小鈴が思わず声を上げる。だがタビサはやはり動揺する事無く、まるで敵を受け止めるかのように両手を左右に突き出した。


『拒絶の壁!!』


 次の瞬間、彼女の両手にそれぞれ分厚い岩石の楯が出現していた。ぺラギアが使う小盾のような小さなものではなく、大楯とでも言うべき大きく分厚い岩石で構成された無骨な障壁だ。


『『……ッ!!』』


 突然目の前に出現した岩石の壁にプログレス達が動揺する。奴等はそれぞれ武器を繰り出すが、岩石の楯を僅かに削るだけに終わった。凄まじい防御性能だ。しかしこの『楯』の恐ろしい所はそれだけではなかった。


『排絶の棘針ッ!!』


 何と、敵の攻撃を弾いた岩石の楯の表面から岩の突起が次々と突き出し、それがまるで散弾銃のように撃ち出されたのだ!


 至近距離でカウンターの岩散弾を喰らったプログレス達は一溜まりもなく、全身を岩の槍に突き刺されてボロクズのようになって吹き飛んだ。当然即死だ。



『オノレェェェ、化ケ物メガッ!!!』


 最後に残ったプログレスは巨大なワニの下半身を持つ個体であった。奴は飛び掛かってはこずに、その両手に黒い魔力を溜めるとそれを波動として連続で撃ち出してきた。タビサ相手に接近戦は危険だと判断したらしい。


「化け物はテメェらだろ!」


 タビサは大楯『拒絶の壁』を今度は正面に掲げて、プログレスの黒い波動弾を防御する。黒い砲弾は楯に当たって弾けるが、ワニ男は構わず凄まじい勢いで黒い波動を連続で射出する。着弾のたびに黒い波動が弾けて散乱し、それが幾度も積み重なる事によってタビサの姿を覆い隠していく。


『ヌハァァァァッ!!』


 ワニ男が両手を合わせて、一際巨大な黒い波動の弾を放った。それは直径が数メートルはありそうな大きさで威力も相応に強いと思われる。恐らくまともに喰らったらディヤウスといえども大ダメージは免れないだろう。


 巨大波動弾は物凄い勢いで撃ち出され、タビサのいる場所に着弾する。直後、凄まじい爆発(・・)が発生した。黒い爆発だ。


 それは少し離れた所にいる小鈴達が思わず顔を背けなければならない程の爆風(・・)を伴っていた。タビサの姿が黒い靄で完全に覆い尽くされる。そして小鈴達が固唾を飲んで見守る中、靄が晴れるとそこには……



「……ふぅ。流石に今のはまともに喰らってたらちょっとヤバかったな」


『……ッ!!』 


 無傷のタビサが息を吐いた。その両手に掲げた岩の楯は大きく破損していたが、タビサを完全に守り切る事に成功したようだ。自らの攻撃が通じなかったワニ男が激しく動揺する。


「今度はこっちの番だな! 『回帰の大槌!!』」


 タビサが叫ぶと、彼女の両手に残っていた大楯が完全に崩れた。そして融合しつつ別の形に再構成(・・・)される。それは長さが優にタビサの身長を越え、重さがパッと見数トンはありそうな馬鹿げた巨大さの、岩塊で構成された両手持ちハンマー(・・・・)であった。


『……!!』


 それを見たワニ男が慌てて逃げようとするがもう遅い。ジャンプしながら大きくハンマーを振りかぶったタビサが、全身を使ってそれを振り下ろした!


「おお……りゃあぁぁぁぁぁぁっ!!」


 巨大な質量はワニ男を身体ごと跡形もなく押しつぶす。そしてそれだけでは飽き足らず、地面着弾(・・)して小規模なクレーターを作りつつ大きな地揺れを引き起こした。



「……! 拘束が……!!」


 その揺れの衝撃は、小鈴達を拘束している粘土から彼女らを引き剥がす効果も付与されていた。地面に衝撃が伝播すると、粘土の拘束が恐れ慄いたように振動して、小鈴達を解き放って元の土に戻ってしまったのだ。


 あっという間に4体のプログレスを倒し、小鈴達をも救い出してしまったタビサ。これで残るはジャブラニだけだ。

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