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ワールドクルセイダーズ  作者: ビジョンXYZ
南アフリカ ファラボルワ
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第7話 恩寵

「話が決まったならとりあえず簡単に自己紹介だけさせてもらえないかな? まだ私達の名前も知らないだろう?」


「あ、そういやそうだな。アンタ達の名前も知らないや」


 ぺラギアの提案でタビサはそれに気付いて居住まいを正した。


「アタシから言わせてくれ。アタシはタビサ・ムウェネジ。この近くの高校に通ってる」


「高校生なの? 歳は?」


 小鈴がびっくりして問い返す。女性に年齢を聞くのも何だが、同性だし高校生に年齢を聞くのは別に失礼ではないだろう。


「歳? 17だよ」


 天馬の1つ下という事になる。今までのメンバーでは一番若いのではないだろうか。天馬達が向かったスウェーデンにいるだろう人物については解らないが。


(天馬って年下の方が好みって事はないわよね?)


 ふとそんな事が気になった。


「シャオリン?」


「……! あ、いえ、何でもないわ。……オホン! あー……私は(スー)小鈴(シャオリン)。中国人よ。あ、でも勿論硯盛資源とも中国政府とも無関係だから安心して?」


 ぺラギアに訝し気な反応をされた小鈴は、慌てて取り繕って自己紹介に移る。恐らくタビサの『中国人』に対する印象はかなり悪いと思われるので、一応補足は入れておく。


「私はラシーダ・アル=ジュンディー。エジプト人よ。さっきは叩いたりしてごめんなさいね?」


「あ、ああ、それは別にいいよ。アタシも言い過ぎだったし……」


 ラシーダが謝罪するとタビサもバツが悪そうな顔で頭を掻いた。一応興奮して暴言を吐いたという自覚はあったようだ。


「私はぺラギア・ディアマンディス。ギリシャ人だ。とりあえず宜しく頼むよ」


「ああ、こっちこそ宜しく。でも……中国にエジプトにギリシャだって? ホントに世界中を旅してるんだな……」


 ぺラギアと握手しながらタビサは興味深そうな呟きを漏らす。全く外国や世界に興味がない訳でもなさそうだ。



「さて、互いに名前も解った所で……これからの方針について話し合わないかい? 君の伯母さんが連れ去られたとの事だが、居場所の当てはあるのかい?」


 再びぺラギアが口火を切ると、タビサは神妙な表情で頷く。


「ああ、アンタ達のお陰で伯母さんを連れ去ったのは硯盛資源の連中だってのが分かったからな。いるとしたら奴等の採掘工場に違いない。他の所だと何かしら街の人達の目に付く可能性があるし」


 やはりそこが一番怪しいか。タビサの言う事にも一理あるので、とりあえずそこに潜入するという方向で行くべきだろう。


「でも硯盛資源は何のために彼女を攫ったのかしら? 単に彼女が操業の邪魔をしているというだけなら、その……言い方は悪いけど、もっと手っ取り早い方法(・・・・・・・・)があるはずよね?」


「……そう、ね」


 ラシーダがタビサを気にしながらも、何故中国人達がズヴァナを殺害(・・)しなかったのか疑問を呈する。確かに小鈴の祖国はそういう事を平気でしでかしそうな闇がある。あえて連れ去るという手間(・・)を掛けるからには何か理由があるはずだ。



「あのプログレス……。自分達のボス(・・)も一枚噛んでるって言ってたわね。プログレスが従ってるって事は、そいつは多分ウォーデン(・・・・・)よね? だとするとどんな超常的な力を持ってても不思議じゃない。ズヴァナさんを洗脳か何かするつもりじゃないかしら」



 ディヤウスある所にウォーデンあり。以前ぺラギアが言っていた言葉はこの街にも当てはまるのかも知れない。そして敵が邪神の勢力である以上、常識に囚われずあらゆる可能性を考えておかなければならない。


「なるほど、一理あるね。そういう事ならどっちみち急いだ方が良さそうだね。これ以上時間を掛ければかける程ズヴァナさんの身は危うくなる」   


「……! そ、それじゃ早く伯母さんを助けにいかねぇと!」


 タビサが目を見開いて身を乗り出す。確かに最低限の状況把握は出来た。相手は常識が通用しない外法の集団だし、自分達もまた警察やなんやではない。色々な段階を踏んでいる場合ではないし、その必要もない。


 ならばあとは行動(・・)あるのみだ。



「じゃあ準備が出来たら早速その採掘工場に向かうべきね。案内してもらえるかしら?」


「……! あ、ああ、勿論だよ! あそこには何度も行ってるんだ」


 ラシーダが促すとタビサは一瞬驚いたように目を瞠ってから、すぐに勢い込んで頷いた。どうやら足手まといだからここで待ってろ的な事を言われると思っていたらしい。それにどう反論してくっついて行こうか考えていたのだろう。なのでこちらから同行を求められて驚いたようだ。


 確かに彼女が一般人(・・・)であればそうしていただろうが、タビサは未覚醒なだけで小鈴達と同じディヤウスなのだ。邪神との戦いに勧誘しに来たのにその戦いから遠ざけるというのは本末転倒だし、何より今の彼女を1人にしておくと、またプログレス達に襲われる危険性もある。


 ならば最初から一緒にいた方が守るのにも都合が良かった。


 準備と言っても採掘工場は街からそう離れていない場所にあるらしく、ましてや小鈴達が借りている車があれば10分程度で着くとの事であった。



 ズヴァナの家を出てタビサも一緒に乗り込むと、早速件の採掘工場へ向かう一行。車はすぐに街を抜けて木々が点在するサバンナへと風景が移り変わっていく。住んでいる街のすぐ外がライオンなどの棲息しているサバンナという環境は、成都で暮らしていた小鈴には想像も付かなかった。


「そうなのか? 流石にライオンは滅多に来ないけど、ヒョウだのチーターだのは結構街外れをうろついてる事が多いし、群れからはぐれた若いヌーやクーズーなんかがしょっちゅう道路を歩いてたりするぜ。この前なんかゾウの親子が通学路を塞いじまって、お陰で遅刻したしな」


「そ、それは凄いわね……」


 恐らくアフリカならではの光景を想像して小鈴は顔を引き攣らせる。だがそこでタビサの表情が曇る。


「でも……ここ最近はそういうのもめっきり減って来てるんだ。動物たちの活発さや活動性がなくなってきてる。そんな感じがするんだ。いや、感じってだけじゃない。アタシには解る(・・)んだ。小さい時からアタシは何となくだけど、動物たちの『心』が読めるんだ。伯母さん以外には誰にも話した事ないけどさ」


「……!」


 タビサの言っている事は嘘や比喩ではなく恐らく事実(・・)だ。ディヤウスは未覚醒の状態でもその身に受けた種子の影響か、常人にはない特性を無意識に顕在化させている事が多い。


 小鈴の『気』を操る力やラシーダの毒薬作成能力などは未覚醒の時から備わっていたものだ。ぺラギアの特性は少し変わっていて、自分がいる地域の『天気』を10日ほど先まで正確に予測できるというものだ。


 だが変わっていると言えば、タビサの特性が最も変わっていると言えるかも知れない。



「勿論動物は人間の言葉なんか喋れないから、『心』って言っても言葉みたいのじゃなくて()っていうか()っていうか……言葉じゃ説明しづらい感覚的な物なんだけどさ。でもそれでその動物の感情みたいのが読めて、考えてる事が何となく解るんだ」


 言語化できない思考という物を表現しようとすると確かに曖昧になるのも仕方ないだろう。人間でも言葉を覚える前の赤ちゃんの思考を読み取るようなものだ。


「その動物達がこの所、苦しんだり不快感を訴えてるような感情を発散する事が多くなってきてるんだ。それに当てられて狂暴化してるような動物も増えてきてるし。それはあいつら(・・・・)があの採掘工場の操業を始めた時期と一致してるんだよ」


 巨大な採掘鉱業のもたらす土壌汚染はじわじわと大地を浸食している。それは河川や植物などに浸透し、目に見えない所で周辺のサバンナに住まう動物にも影響を及ぼしているのかも知れない。


「だから伯母さんと一緒によくあいつらの工場に対する抗議とかに言ってたんだ。でも当たり前だけどアタシらだけじゃどうにも出来なくって……」


 挙句にしつこく妨害行為を繰り返すズヴァナに業を煮やした硯盛資源が強硬手段に出たという所か。



「……事は国同士の政治レベルの話が絡んでいるものだから、正直私達にもこの問題を根本から解決する術はない。それが現実だ」


 ぺラギアが神妙な口調で諭す。そう。小鈴達はディヤウスであり人には無い力を持っているが、所詮は一個人に過ぎない。そしてどれだけ強くとも『個人』で『国』に対抗する事などできない。政治とはそういうものだ。だが……


「けど、それでも私達にも出来る事はあるわ。あなたの伯母さんを救出して、この案件に邪神の勢力が関わっているならそれを取り除く。私達は私達に出来る事をしましょう」


 ラシーダの言葉は小鈴達全員の代弁でもある。ディヤウスが戦うのはあくまで邪神の勢力だが、その『邪神の勢力』が人間に対して悪影響を及ぼしている事も事実だ。だから小鈴達が邪神の勢力を駆逐する事で、間接的に出来る事はあるはずだ。  


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