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ワールドクルセイダーズ  作者: ビジョンXYZ
南アフリカ ファラボルワ
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第2話 祖国の闇

 ランセリア空港に着いたタクシーは、小鈴達を降ろすとほうほうの体で逃げて行った。ヨハネスブルグ郊外にある比較的小規模の空港で、専ら国内便専用となっていた。しかしそれだけに国内移動であればチケットが取りやすく、予約も無しで即ファラボルワ行きの便に乗る事が出来た。


 ここから数時間は空の旅になる。長距離バスを使っていたら安くは済んだが、その分1日以上かかっていたと思われ、小鈴達の目的を考えたらやはりここは空路がベストではあっただろう。



「ファラボルワってどういう所なの? シャクティと違って今まで外国にそんな興味が無かったから、余り詳しく知らないのよね」


 当のファラボルワに向かう飛行機の中で小鈴が質問する。一応これから行く任務の舞台となるであろう場所なので、最低限の知識くらいは持っておきたい所だ。その質問にはぺラギアが答えてくれた。


「この国のほぼ東端、モザンビークとの国境付近に位置している小規模の街で、すぐ近くにクルーガー国立公園が広がっている。アフリカではセレンゲティ国立公園に次ぐ広大なサバンナで、ライオンやアフリカゾウなどアフリカにしかいない大型哺乳類を見れる場所として有名な観光スポットさ。だから世界中からサバンナウォッチングの客がやってくるから、その観光業で発展してきた街でもあるね」


「へぇ……そうなのね」


 サバンナと言われると何となく想像が付く。確かに普段動物園でしか見られないような希少な動物たちを野生下で見られるというのは、好きな人からしたら堪らないのかも知れない。


「でも……その観光収入だけでやっていける程アフリカは豊かな国ばかりじゃない。アフリカには沢山の地下資源が眠っていて、それを掘り起こせば重要な産業になり得る。だから近年ではそちらに産業シフトする国が増えてきたのさ。そしてそれはこの国も例外じゃない」


 ぺラギアが少し複雑そうな表情で呟く。地下資源という言葉を聞いて、そういえばラシーダもタクシーで似たような話をしていた事を思い出した。あの時はトラブルで話が中断していたのだ。


 彼女の方に向き直ると、ラシーダもやはり何故か少し複雑そうな顔をして頷いた。


「そう……。でも白人達を追い出して経済的技術的にも貧しいアフリカ諸国には、折角の豊富な地下資源も宝の持ち腐れだった。そこで……それらの国々に経済援助(・・・・)を申し出て、自分達が代わりに(・・・・)地下資源の採掘を担ってやると申し出てきた国があるのよ」


「タクシーでも言ってたわね。その国って?」


 その問いにはラシーダではなくぺラギアが答えた。



「……君の祖国だよ」



「え……?」


 小鈴が僅かに目を見開くが、ぺラギアは真面目な顔のままだ。ラシーダもそれに同調して頷く。


「エジプトでも似たような状況よ。急速に経済発展した中国は、その資金力と膨大な人口を背景にアフリカのみならず世界中の貧しい国々に経済援助(・・・・)を申し出て、その国のインフラを整えたり資源の採掘などを行ったりしているのよ」


「え……で、でも、それって良い事じゃ……?」


 2人が何故言い辛そうな微妙な表情になっているのか解らず小鈴は戸惑う。彼女とて中国で暮らしていた身として、祖国が急速に発展している事は実感していたし、外国に対して様々な援助(・・)をしているという話も知識として知ってはいた。だがそれは何も悪い事ではないはずだ。


「その援助がきちんと対象国に還元されているならね。でも実際には中国は労働者は殆ど自国の移民のみで賄い地元の経済に寄与せず、『自分達が作った施設』の使用権(・・・)を独占したり、『自分達が掘り出した』資源を非常な安値で買い叩いたりと、やりたい放題なのが現状なのさ」


「……!」


 驚く小鈴にラシーダが説明を引き継ぐ。


「でも決定権を持つ現地の高官は殆ど買収されていて、そうした無茶な条件に異を唱えられる者は誰も居ないのが現状なのよね。そして中国はそれをいい事に増々好き勝手に振舞うようになる。アフリカの一般国民達は単に安い現地労働者として使われるだけで、相も変わらず貧困に喘ぐまま。彼等からすれば支配者(・・・)が白人から中国人に変わっただけなのかも知れないわね」


「な…………」


 小鈴は絶句してしまう。彼女らが小鈴に殊更ネガティブな説明をするはずがないので、それは事実という事だ。ましてやラシーダはエジプト人なのだからその話には実感が伴っている。そういえばエジプトで戦ったあのマフムードも中国人がどうとか言っていた気がする。あれはこの事だったのだ。



「まあ中国は外向きの情報は閉ざされた国だから、その中で暮らす君達がそうした裏の状況を知らなかったのも無理はないけどね。勿論私達は中国政府と一般の中国人は全てがイコールではないと解っているけど、現地のアフリカ人達がどう思っているかとなると何とも言えないからね」


「これから行くファラボルワも例に漏れず、クルーガー国立公園のすぐ近くに中国企業が所有する(・・・・・・・・)巨大な採掘プラントがあるらしいわ。どんな状況なのかは現地に行ってみないと分からないけど、一応政治的にそういう状況にあるという事だけは念頭に置いておいて欲しいの」


「…………」


 勿論小鈴とて子供ではない。中国が人民には情報を統制して、外では無体を振りかざしているという事は普通にあり得るだろうと解っている。


 それでも祖国が悪者(・・)になっているかも知れない状況と、現地民の対中感情がどうなっているかの可能性を考えると、どうしても複雑な心境にならざるを得なかった。



*****



 クルーガーパーク・ゲートウェイ空港。ファラボルワに隣接したこの空港が街の空の玄関口であり、それは取りも直さずクルーガー国立公園への観光に来る者達の玄関口という事でもあった。


 小さな空港に着いた飛行機から降りると、すぐに照り付けるような陽光による熱気を感じた。ヨハネスブルグよりも少し気温が高いようだ。


 空港のすぐ近くは街路樹が並び道路が舗装された高級住宅街になっているようだが、飛行機から見えた限りでは街の西側は赤茶けた貧民街が広がっている様子であった。



「ふぅ……ようやく着いたね。ここがファラボルワの街。そのジューダス主教によると、この街に未覚醒のディヤウスがいるという事で良いんだよね?」


 旅の埃を落とすぺラギアの確認に小鈴は頷いた。


「ええ、そのはずよ。尤もこの街にいるという事以外、顔も名前も素性も解らないから捜しようがないんだけど」


「んん? それじゃ君達は今までどうやって仲間を集めてきたんだい?」


 ぺラギアが驚いたように目を見開く。そういえば彼女はディヤウスとしてのキャリア(・・・・)は長いが、今までずっと1人で戦って来ていて、仲間探しの旅は今回が初めてであった事を思い出した。


 普段は先輩(・・)である彼女より先んじている経験があった事に小鈴は少し気分が良くなって、悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「ふふ、まあそう思うのが普通よね。でもディヤウス同士には『無意識に引き合う特性』があるらしいのよ。それを利用するって訳。そして未覚醒のディヤウスは見たらすぐに感覚で解るの」


「無意識に引き合う特性だって? そんな不確かなものが当てになるのかい?」


「勿論よ。実際に私達が今まで集めてきた皆がその何よりの証拠でしょ? 今までだってやっぱり顔も名前も何も分からなかったのは同じなんだから」


「ぬ……」


 否定できない実例を示されてぺラギアが唸る。これまでジューダス主教に示されて赴いた街で、ディヤウスと邂逅できなかったという例は今の所存在しない。ならば今回も必ずこの街に未覚醒のディヤウスはいるはずであった。


「だから私達がこの街で何をするかといえば、特に何もしない(・・・・・・・)が正解よ。いえ、正確には『街にいさえすれば何をしててもいい』という事になるのかしら。だから日がな一日ホテルで寝ていても、レストランを食べ歩いても、観光名所で観光に勤しむのも、何をするのも自由なのよ。この街にいさえすれば何をしていても自然に出会う。そういうものなのよ」


「つまりこちらから探し出す必要はないと? ……何というか、少し想像していたのとは違うね」


「ええ……その気持ちはよく解るわ」


 ぺラギアが拍子抜けしたような微妙な表情になると、ラシーダも共感するように苦笑しながら頷いた。彼女もギリシャで似たような反応をしていたのを思い出した。



「さて……そういう訳で特に予定はないのだけれど、この後はどうしましょうか?」


 ラシーダがそう言って話題を移す。といってもそれこそ何をしていてもいいので迷う。


「そうねぇ。とりあえずホテルだけは確保しとくとして、後は折角だしサバンナウォッチングでも行かない?」


 小鈴が提案する。クルーガー国立公園もある意味ではこのファラボルワの延長上といえるので、一応街にいるという定義は満たせるはずだ。


「まあ飛び込みで行ってチケットが確保できればだけどね。他に予定もないなら行ってみようか」


 ぺラギアも賛成したので、とりあえずサバンナウォッチングに向かうという方向で決まる。空港の職員にガイドを兼ねるレンジャー事務所と、おすすめのホテルなどを聞き出しておく。パークレンジャーの事務所はこの街の外れ、クルーガー国立公園との境界辺りにあるらしい。


 費用の心配はしなくていいので(聖公会のお陰だが)高級住宅地にある小さいが質の良い平屋のモーテルのような宿にチェックインしてから、早速郊外にあるというパークレンジャー事務所へと向かう。



「あったね。あれだ」


 レンタカーを運転しているぺラギアが指差す。街の外れにジープやトラック、バスなどの大型車両が何台も停まっている広い敷地を持つ建物があった。観光用のバスや、自分達と同じようなレンタカーと思しき車も何台か停まっている。


「業務用の車両も何台か残っているわね。これならアポイント無しでも行けるんじゃないかしら?」


 ラシーダが駐車場の様子を見ながら呟く。時期にもよるだろうが閑古鳥が鳴いているという程ではないものの、常に満員キャンセル待ちという程でもないようだ。


「なるほど、これだと確かに他の産業にシフトしたくなる気持ちも分からないではないね」


 ぺラギアも皮肉気に鼻を鳴らしている。空いているスペースに車を停めた小鈴達は、車から降りて事務所の建屋へと向かうが……



「――ふざけんなよ! アンタ、伯母さんが……自分の姉弟が心配じゃねぇのかよ!?」



「……!」


 年若い少女と思しき怒鳴り声が響いてきた。事務所まで誰かが揉めているようだ。レンジャーの制服を着た壮年のアフリカ人男性に、それよりはずっと若いと思われるやはりアフリカ人の少女が食って掛かっているという構図だ。この少女が今の怒鳴り声の主らしい。


「お前は結論を先走りすぎだ! 彼等の仕業などという証拠は全くない! ズヴァナは独立した大人だ。数日間連絡なしに遠出する事ぐらいあるし、本当に行方不明(・・・・)だったとしても、それは警察の仕事だ」


「警察なんざ当てになるかよ! どうせ皆奴等(・・)の金をたんまりポケットに入れてるに決まってる! それに伯母さんは伝言もなしにいきなりいなくなる事なんてない! 絶対に何かあったんだ!」


 2人の関係は解らないが、どうやら誰かが行方不明になっていて、少女がそれを捜してほしいと男性に詰め寄っていて、男性はそれを渋っているという形のようだ。


「決めつけるんじゃない! それに私はあくまでレンジャーであって警察ではないんだ! 公園内の事ならいざ知らず、街での事は警察に相談しろとしか言えん。もしあと数日してもズヴァナが戻らなければ改めて警察に捜索願を出す。それが限界だ」



「それじゃ遅いって言ってんだよ! クソ! もういい! アンタなんかには二度と頼らねぇよ!」


「おい、待て! タビサ!!」


 男性が呼び止めるが、その少女――タビサは怒り心頭に発した様子で、聞く耳もたず駆け去ろうとする。だが余りに怒っていて視野狭窄になっていたのか、近くまで来ていた小鈴達に気付かず、中央にいた小鈴と肩がぶつかってしまう。


「……っ」


「……ってぇな! どこ見てんだよ! どけよ!」


 男性とのやり取りで気が立っているのか、ぶつかったというのに謝罪もせずに睨んで毒づいてくる少女。小鈴は息を呑んだ。といっても別に少女の眼光や態度に怯んだわけでは勿論ない。


(この子……!!)


 この感覚には憶えがあるのですぐに解った。未覚醒のディヤウス(・・・・・・・・・)と邂逅した時の感覚だ。まさかこんなにすぐに会えるとは思ってもいなかった。ディヤウス同士の引き合う力というのは相当な物のようだ。

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