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ワールドクルセイダーズ  作者: ビジョンXYZ
スウェーデン ゴットランド島
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第16話 掃討戦

「ど、どうしましょうか、テンマさん」


 とりあえず操られていた女性を近くにあったベンチに寝かせてから、シャクティが不安げに問い掛けてくる。だが天馬は特に動揺していなかった。それどころか好戦的な笑みを浮かべる。


「へっ、向こうからご招待してくれるってんなら手間が省けたってモンだ。遠慮なく乗り込ませてもらおうじゃねぇか」


「むぅ……しかし正面から乗り込んで良いものか? ほぼ確実に罠があると見ていいだろう」


 アリシアが懸念を呈する。勿論その可能性はある。というより彼女の言う通り、罠はあるという前提でいた方がいいだろう。だがそれでも……


「罠があっても関係ない。その罠ごと叩き潰すだけ」


 ミネルヴァが静かな怒りを内包したまま呟く。天馬もそれに同意した。


「そうだな。それにこっちにはミネルヴァも覚醒してディヤウスが4人もいる状態だ。即席の罠なんぞ屁でもねぇだろ」


 天馬達がこの島にやってきて騒動に巻き込まれたのは、時間にすれば精々半日前ほどだ。とても巧妙な罠を仕掛ける余裕などない。時刻的にはもう夜と言っていい時間帯で視界は悪くなるだろうが、それは敵も同じ事だ。


「ふむ……確かにここであれこれ考えていても始まらんか。こうなれば出たとこ勝負だな」


「そ、そうですね。それに早くこの島の人々を邪神の支配から解放してあげたいですし……」


 アリシアとシャクティも最終的には合意して、一行は神力によって最低限の回復だけを行って、そのまま敵の言っていたフォーレ島を目指す事になった。




「……フォーレ島にはスウェーデンの軍事基地が置かれていて、20世紀までは民間人の立ち入りが制限されている場所だった。今世紀に入ってからその制限も解除されたけど、好んで移り住む人も少なく、また観光的な資源にも乏しいから、結局今でも寂れた人気のない島となっているわ」


 目的地に向かう途上でミネルヴァがフォーレ島についての一般的な知識を説明している。第二次世界大戦や東西冷戦を経て、主に東側諸国を監視する目的でフォーレ島に基地が築かれ、兵士が常駐していたのだとか。


「今世紀に入ってグローバル化が進んで、欧州もEUが出来て少なくとも表面上は平和になった。それで一度は基地も撤去されたんだけど、最近になってまた『軍事演習目的』でフォーレ島の基地は再建されたの」


「……! 最近になって? どうもきな臭ぇな、その基地とやらは」


 ミネルヴァの説明を聞いていた天馬が眉を顰める。基地以外に何もない島らしいので、そうなると必然的にその基地が怪しくなってくる。


「……敵はスウェーデン軍人の可能性もあるという事か。そうなると別の意味でも由々しき問題だな。ここで邪神の影響を排除しておく事の意義は大きい」


 主権国家の軍の中にも邪神勢力が蔓延っているとなれば確かに大問題である。アリシアの言うようにこの敵は別の意味でも排除しなくてはならないだろう。



 話している間にもディヤウスの身体能力で高速に移動している彼等の視線の先に、大きめの集落が見えてきた。ビスビューよりは小さいが、それでも町と言っていい規模の集落だ。


「見えてきたわ。あれがゴッドランド島で最北の町フォーレスンドよ。フォーレ島にはあそこから船で渡るしかない」


「……ふん、なるほど。罠を仕掛けるなら絶好のポイントって訳だ」


 天馬は不敵に笑う。それが解っていても今更退く気はない。ここまで来たら一気に突入するだけだ。4人は油断せず、しかし躊躇う事無くフォーレスンドの町に踏み入る。


 家や店舗の扉は固く閉ざされ、通りには誰も人の姿が無い。いくら時刻が夜とはいえ、まだ真夜中という程ではない。ここまで人の姿が見えないのは不自然だ。


「……テンマさん、どうも囲まれているようです」


「へっ、やっぱりお出でなすったか」


 油断なく周囲を索敵していたシャクティが一早く察知して皆に警戒を促す。それを受けて天馬が『瀑布割り』を顕現させつつ臨戦態勢になる。勿論他の3人も各々の神器を顕現させて準備万端だ。


 町の建物の陰から次々と異形の影が這い出して来る。例のビッグフットのようなプログレス達だ。2、30体はいる。奴等はその数で天馬達をぐるりと取り囲んだ。


 その後ろから1人の男が歩み出てきた。この男はまだ異形の姿になっていない。この街の警察官の制服に身を包んだ壮年の男だ。



「私はゴットランド警察の署長、エドガー・ベックマン! テロリスト(・・・・・)の諸君、君達は完全に包囲されている。これ以上の抵抗は止めて今すぐ投降したまえ」



 異形の怪物達を率いるベックマンの方が客観的に見て危険人物であったが、現状でそんな評価に意味はない。


「警察か……。署長も奴等の一味なのは間違いないだろうが、奴がウォーデンではなさそうだな」


 アリシアがそう断じる。ベックマンからは魔力は感じるが、今まで相対してきたウォーデンのようなプレッシャーは感じない。天馬やシャクティも同意見であった。


「市長や学長だけでなく、警察署長まで……。この街には手術(・・)が必要ね。それがこの街を離れる私に出来る、最初で最後のボランティアよ」


 ミネルヴァが『ブリュンヒルド』の穂先をベックマンに向けつつ、少し悲し気な表情で呟く。


「ふん、そうか。あくまで抵抗するという訳だな。愚かな奴等だ。ならばこの場で死ぬがいい!」


 ベックマンが合図すると、包囲していたプログレス達が一斉に襲い掛かってきた。



「あの署長は俺がやる! お前らは残りの連中の抑えを頼む!」


「解った。気を付けて」

「了解した!」

「解りました! お任せ下さい!」


 天馬が素早く指示すると、三者三様の答えが返ってくる。後は彼女らを信じて背中を預けるだけだ。天馬は他の雑魚共を意識から切り離して、一直線にベックマンに向けて突進する。


「馬鹿め! 1人で私の相手をしようとはな!」


 ベックマンは嗤うと天馬を迎え撃つべく変身(・・)した。


「……!」


 天馬は変身したベックマンの姿を見て僅かに目を瞠った。毛むくじゃらのビッグフットのような姿。予想はしていたがやはりウォーデンではなく、ベルセリウスらと同じような強化個体のようだ。ただその姿がこれまでの連中と比べてやや異質であったのだ。


 ベルセリウスやレイグラーフと違って、体格的には通常のプログレスと大差ない。だが……奴の両脇の辺りからそれぞれもう一本の腕(・・・・・・)が生えていたのだ。『腕』の太さや長さは本来の両腕と比べても遜色ない。つまり『合計で4本の腕を生やしたビッグフット』がベックマンの姿であった。



『ファハハ! 今更後悔しても遅いぞ、小僧!』


 自分の姿に目を瞠った天馬の反応にベックマンが哄笑する。だが天馬はすぐに平静に戻った。


「はっ、だから何だ? 見掛け倒しの雑魚野郎は今まで腐るほど見てきたぜ」


『何だと、貴様!?』


 ベックマンが一転して激昂すると、牙を剥いて飛び掛かってきた。だが天馬は強がりを言った訳ではない。一瞬驚いたのは確かだがそれだけだ。多腕の敵ならこれまでにも戦闘経験があるし、何より直近のギリシャで戦った同じ四本腕のギュゲースに比べたら文字通り大人と子供のようなものだ。


 ベックマンはその四本の腕を使って息もつかせぬ連続攻撃を仕掛けてくる。それぞれの腕による攻撃は通常のプログレスの全力攻撃に相当する。まともに当たれば神衣を纏っている今の天馬でもダメージは免れない。


「へっ……!」


『何!?』


 だが天馬は多腕の動きに惑わされず冷静にその軌道を見切って回避していく。腕が増えたとはいっても所詮その動きは通常のプログレスの延長上だ。そして以前にインドで六本腕と戦った経験も活きている。


 初見であれば惑わされたかも知れない多腕の動きも、今の天馬には通用しない。


「むんっ!」


『ギェッ!?』


 そして敵の攻撃が怖くないなら、その合間の隙に反撃を差し込んでいく事も容易だ。天馬の『瀑布割り』が煌めくごとにベックマンの身体に傷が増えていく。


『馬鹿な……この私が、こんな小僧如きにィィィッ!!』


 追い詰められたベックマンが破れかぶれに四本の腕を大きく開いて掴みかかってくる。勿論掴まれたりしたら終わりだ。だが天馬に焦りはない。むしろこの時を待っていたくらいだ。


 天馬は回避を選択せずに、むしろ自分から前に踏み込んでベックマンに突撃する。『瀑布割り』には既に十分な神力を練り上げてある。


『鬼神三鈷剣!!』


 敵の攻撃を躱しつつすれ違いざまに一閃。練り上げた斬撃はベックマンの首を一撃で斬り落としていた。



「ふぅ……ま、こんな所か。あっちも……大丈夫そうだな」


 ベックマンを討ち取った事を確認した天馬はミネルヴァ達の戦況を確かめようと向き直る。尤も数が多いとはいえ雑魚相手だ。特に心配はしていなかった。


 そこでは案の定というか、ミネルヴァの『ブリュンヒルド』から吹き付ける強烈な冷気によって凍結したプログレス達がシャクティとアリシアの攻撃によって次々と打ち砕かれている所だった。


 やはりミネルヴァが正式に戦力として加わったのは非常に大きい。彼女の冷気を操る力は、肉体の頑健さだけが厄介のこのプログレス達にとって天敵とも言えるようだ。


 程なくして彼女達の方も敵を殲滅する事に成功していた。



「よし、皆無事だな? 流石に敵ももう打ち止めのようだ。後はフォーレ島まで渡るだけだな」


「ええ、この町の北東側に船が停泊している小さな港があるわ。そこから対岸のフォーレ島に渡るの」

 

 ここまで来て躊躇う理由はない。天馬達は頷くと、ミネルヴァの案内で港に向かってフォーレスンドの町を駆け抜けていくのだった。


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