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ワールドクルセイダーズ  作者: ビジョンXYZ
スウェーデン ゴットランド島
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第8話 陰謀の全容

「どけやっ!」


 天馬の気合一閃により、立ち塞がっていたプログレスの首が刎ね飛ばされた。アリシア達が殆どの敵を引き付けてくれていたが、このプログレスはまるでこの場所の警護を任されているかのように待ち構えていたので、仕方なく戦闘によって排除した。


 硬い防御に多少手間取ったものの、敵が一体だけなら既に危なげなく倒せるようになっていた。他に敵が駆け付けてくる様子はない。アリシア達も多数の敵相手にいつまでも持ち堪えるのは難しいはずなので、悠長にしている時間はない。


「よし、市長室はこの先だな。他に敵はいないようだし、さっさと踏み込むぜ」


「ええ」


 言葉短く頷くミネルヴァ。この市庁舎に踏み込む前の段階では、市長がここに必ずいるという確証は無かった。しかし今、天馬はこの先に抑え込まれた強い魔力を感知していた。これが市長なのか、そして市長だったとして本当にウォーデンなのかは分からないが、この先に強い魔力を持った何者かがいる事は間違いない。



 遮る者がいなくなった市庁舎の廊下を駆け進む天馬とミネルヴァ。魔力反応は増々強くなる。その反応を辿って進んだ先は市長室ではなく、奥に向けて沢山の座席が並んだ広い講堂のような場所であった。


 その部屋の奥、座席が向いている先の壇上に誰かが立っていた。40代くらいの壮年の男性だ。


「やれやれ、この穏やかな島の平和(・・)を脅かす危険なテロリスト達が、遂に私を標的にしたか。いや、それとも最初からそれが狙いかな?」


 その壇上にいる男が、天馬達の姿を見ても慌てた様子なく皮肉気に声を掛けてくる。


「ミネルヴァ、あいつが……?」


「ええ、ハンス・ベルセリウス市長よ」


 彼女が肯定すると同時に、男――ベルセリウスが壇上から軽やかな動作で降りてくる。


「よりによって我々(・・)にとって大事なこの時期に、島の外からディヤウスがやって来るとは何ともタイミングが悪い。未覚醒のディヤウスがこの島にいた事も想定外だったよ」


 奴が邪神の眷属であり、尚且つこの件に関与している事を示す台詞。天馬が刀を向ける。


「大事な時期だ? 旧市街をあんな巨大な『結界』で覆ったりして、テメェら一体何企んでやがる」


 答えを期待しての詰問ではなかったが、意外にもベルセリウスはあっさりと肩を竦めた。



「君達も既に見当が付いているのではないかね? 旧市街に足を踏み入れた人間は例外なく魔力による洗脳が浸透し、我々の管理下(・・・)に置かれる事になる。特に男は時間が経てば強制的にプログレスに変化するだろう。【外なる神々】との親和性に関係なく(・・・・)、ね」



「……何だと?」


 テンマは僅かに目を瞠った。あの旧市街を利用して人々を洗脳しているというのは予測できたが、プログレスへの強制変化というのは想定外だ。通常プログレスに変わるのは、邪神との親和性……つまり邪悪な精神を持つ男だけに限られる。


 なのでプログレスの数もある程度限定されている訳だが、もしその「邪悪な精神」という条件を取り去って全ての男をプログレスに変えられるとしたら…………とんでもない事になる。


「……旧市街や他の観光名所を『修繕』してるのはその為か」


「ご明察。この街を……この島をもっと『観光名所』として魅力ある場所にする。そうする事で我々は労せずして勢力を拡大できるという訳だ。何しろ世界中から勝手に洗脳されに(・・・・・)集まってきてくれるのだからね」


「……!」


 それがこの連中の企みの全容か。ミネルヴァによるとこのベルセリウスが市長になって以来、他にもかなりあからさまに観光業促進の政策が進められているらしい。


 エジプトで戦ったマフムードは観光客を嫌って鎖国しようとしていたが、ベルセリウスは逆にその観光を逆手にとって利用しようとしている。



「さて、我々の目的が解った所でそろそろ本題(・・)に入ろうじゃないか。君達もそのためにここまで来たのだろう?」


「ああ、そうだ。そして今の話を聞いたからには、尚更テメェをここでぶっ殺しておかなきゃならなくなったぜ!」


 天馬は『瀑布割り』を構えると、後は問答無用とばかりにミネルヴァを後ろに下がらせてベルセリウスに斬りかかった。これは試合ではないので開始の合図は無いし、奇襲も不意打ちも何でもありだ。


「ひはっ!」


 ベルセリウスは奇声を上げると天馬の斬撃を防ごうとするかのように自らの腕を掲げる。奴の腕ごと一刀両断にしようと斬り下ろす天馬だが、何とその斬撃は奴の腕によって止められた。


「……!」


「ぬんっ!」


 ベルセリウスがもう一方の腕を薙ぎ払ってきたので、跳び退って回避する。いつの間にかベルセリウスの両腕は袖が破け飛んで、下から青っぽい(・・・・)剛毛に包まれた太い腕が露出していた。


「テメェ、それは……!?」



「ふぁはは、あのお方(・・・・)の計画を邪魔する愚か者共、今この場で排除してくれるわ」



 哄笑したベルセリウスの身体が一気に肥大する。そして服が全部弾け飛んで、その下からやはり青い剛毛に包まれた巨大な怪物が出現した。


 それはあのビッグフットのようなプログレス達を更に一回りか二回り以上巨大にしたような怪物で、その体長は3メートル近くあるかも知れない。剛毛の下からでも解る筋肉の厚みははち切れんばかりで、体重は下手したら500キロに及びそうな勢いだ。


『くははは……身体中の骨を砕いて殺してやるぞ、小僧』


 ベルセリウスが巨大な獣じみた醜悪な面貌で嗤う。だが天馬はそんな見た目の迫力には惑わされずに違う事が気になった。


「テメェ……プログレス(・・・・・)だと!?」


 果たしてベルセリウス市長はウォーデンではなかった。これはプログレスだ。エジプトで戦った亀男やインドの六本腕、中国のキョンシー使い、そして日本で戦ったあの魚男と同じで通常のプログレスよりは強力な個体のようだが、それでもウォーデンでない事は確かであった。 


 それは先程ベルセリウス自身が口にした『あのお方』という言葉からも明らかだ。恐らくはそいつがこの事態を引き起こしている真の黒幕……ウォーデンだ。


『当然だ。貴様如き小僧、あのお方の手を煩わせるまでもない。儂だけで充分だ!』


 ベルセリウスが吼えると一気に突進してきた。その巨体からは想像もできないスピードで、一瞬にして天馬の前に出現する。そして文字通りの丸太のような太さの剛腕を振り下ろす。その拳速も通常のプログレスより速い。


 だが天馬に見切れない程ではない。彼が大きく跳び退って躱すと、奴の拳はそのまま床に激突し、硬いフローリングの床に巨大な陥没を作った。破片や瓦礫が盛大に飛び散る。見た目通りというかパワーも桁違いらしい。


 しかし当たらなければどんな威力の攻撃も無意味だ。今度は横薙ぎに振るわれた巨腕を躱すと、そのまま敵の懐に潜り込む。


『鬼神崩滅斬!!』


 そして至近距離から目にも留まらぬ連撃を仕掛ける。無数の斬撃がベルセリウスの巨体に斬り付けられる。だが……


『馬鹿め! 無駄だ!』


 パワーやスピードだけでなく、当然その耐久力も遥かに強化されているのだろう。ベルセリウスは天馬の攻撃が全く効いた様子もなく嗤うと、そのまま攻撃を喰らいながら両腕を頭上に掲げてハンマーナックルの体勢になる。 


「……!」


 天馬は半ば本能的な動きで身を躱す。直後に破城槌を上回る威力の凶器が、唸りを上げて叩きつけられた。先程よりも更に大きなクレーター(・・・・・)が形成され、大量の瓦礫が飛散する。


 だが天馬は些かも怯む事無く、即座に反撃に転じる。奴の耐久性が高い事は見た目からして明らかだ。恐らく通常のプログレスよりも更に硬いのだろう。だが基本的な対処法は同じなはずだ。


 天馬は一撃でも当たったら大ダメージは必至の剛腕による攻撃を巧みに躱しながら、冷静にそして着実に自身の攻撃を当てていく。そして……



『ぬぅ……貴様……!!』


 やはり普通のプログレスよりかなり時間がかかったものの、徐々に奴の動きが精彩を欠きはじめた。


「へっ、どうした、デカブツ? 声に余裕がないぜ?」


『……!』


 天馬の挑発にベルセリウスの顔が歪む。奴のスピードは速いが、それでも天馬を捉えられる程ではない。であるなら奴の攻撃を冷静に躱しながら、ダメージが蓄積されるまでひたすら攻撃を当てていく。単純な理屈だ。


 このまま攻め立てれば天馬の勝ちは揺るがないだろう。だがここで奴が異なる作戦(・・・・・)を取ってきた。



『調子に乗るなよ、小僧? 儂が何の備え(・・)もしていないと思ったか!』



「何だと……?」


 天馬が眉を顰めつつ警戒の度合いを高めると同時に、講堂の奥にある控室のような部屋のドアが開いて、そこから男が2人出てきた。男達は出てくるとすぐに本性を表わしてプログレスの姿に変じた。


「……!!」


 2体ともベルセリウスのような強化個体ではない。であるなら奴等の動きを既に見切った天馬なら、例え3対1でも倒せない事は無い。


「へっ……奥の手って割にはショボいな? テメェら如き3体まとめて相手してやるぜ」


『くはは……誰が貴様(・・)を狙うと言った?』


「……!」


 ベルセリウスが合図すると、増援のプログレス達は……ミネルヴァの方に向かって移動する。その意図は明らかだ。


『どうする、小僧? あの女を庇いながら儂に勝てるかな?』


 未覚醒のミネルヴァを狙う事で天馬が彼女を庇わざるを得ない状況を作り、その隙を突こうという作戦だろう。要はエジプトで戦った亀男と同じ戦術だ。あの時もそれでかなり苦戦させられた、卑怯だが有用な作戦でもある。


 だがあの時はラシーダが覚醒する事で危機を脱する事が出来た。となれば……



「へっ、だからどうした? 庇う? そんな事するつもりなら、そもそも最初から連れてきてねぇよ」


『何……?』


 戸惑うベルセリウスに視線を固定したまま、天馬は声だけでミネルヴァに語り掛ける。


「ミネルヴァ、俺はアンタを戦力(・・)として連れてきてる。だから庇うつもりはねぇ。アンタはそれを承知で付いてきた。後は言わなくても解るな?」


「……ええ、解ってる」


 無情とも言える天馬の言葉に、ミネルヴァは動揺する事無く頷いた。当然最初からこういう事態を覚悟の上で付いてきたのだ。今更泣き言を言う気はない。この期に及んで覚醒できなければ、自分はここまでだ。天馬達の力になって共に戦う資格もない。


 最初から不退転の覚悟で臨んでいた。



「そういう訳だ。当てが外れて残念だったな、デカブツ?」


『き、貴様ら……強がりを言いおって。儂にブラフは通用せんぞ! その女を殺せっ!』


 天馬達の態度がハッタリだと思い込んだベルセリウスが、部下達にミネルヴァの抹殺を指示する。それを受けてプログレス達が本当に彼女を殺そうと迫ってくる。そして天馬は言葉通りそれを無視してベルセリウスに斬り掛かる。


 彼が本当に自分を助ける気が無い事を見せつけられて、ミネルヴァは明確に自らの死を意識した。自分を助けられるのは自分しかいない。


(……ヴァルキュリア)


 ビッグフット達が容赦なく迫る。そして彼女の頭を叩き潰そうと、その太い腕を振り上げる。 


(……ヴァルキュリア!!)


 ハンマーのような腕が唸りを上げて振り下ろされる。直撃すれば当然即死だ。そしてそれは最早避けられない運命――



「――ヴァルキュリアァァァァァァッ!!!」



 絶叫。生来寡黙な性質で感情の起伏に乏しく、常に達観していた彼女にとって生まれて初めての事だ。彼女は生まれて初めて自らの感情を解放して、その激情の赴くままにシャウトする。



*****



 ――気が付くとミネルヴァは、あのいつも夢で見ていた靄に包まれた幻想的な空間の中にいた。


『ようやく吾の力を心の底(・・・)から求めたな。この時を待っていたぞ』


 そして彼女の前に現れたのは、あの神々しくも冷徹で非人間的な雰囲気の女戦士であった。今なら彼女が本物(・・)であると解る。


「これまでの私の態度なら謝るわ。今は悠長に問答している時間も惜しい。私に力を貸して」


『ふ……相変わらずだな。いや、それでこそか』


 ミネルヴァのにべもない態度にヴァルキュリアは苦笑したように見えた。そして頷くと彼女に向かって手を翳す。


『さあ。では望み通り吾の力を貸してやろう。この世界を蝕む邪神共との闘争、お前に託すぞ』


「ええ、任せて」



 ――そして彼女は銀色に輝く光に包まれ、内から湧き出す力を自覚した。


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