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筆を置いて早数年。またゆっくりゆっくりと書き連ねていきたいと思います。
一文字でも読んでくださった皆様に、感謝を( ˘ω˘ )
翌朝になってからクーメルが漏らした疑問を洗うべく、スヴェン達は村長へ死体の確認を行いたいと申し出るもアンデット再発の危険性から既に焼却したと返されてしまった。
ただし交戦した者、処理した者曰く「見知った顔は一人も居なかった」との証言が得られた事から一行は墓地へと赴く。
するとそこにあったのは“全く荒らされず、掘り起こされた痕跡もない”墓地であった。
このことからあのアンデットは“どこかから連れてこられた者達”であったことが確定。報告書へ付け加えるため手帳へとメモする。
「問題は“どこの国の人達だったかってことよね」
「そうですね。それがわかれば絞り込めそうなのですが……」
「そない簡単にはわからへんやろなぁ。うちも多少は色んなとこ行ったけど服装とか見覚えなかったし」
「ま、欲しかった情報は手に入ったんだ。それでよしとしようや」
セスの言葉に頷いた一行は村へと戻り、追加情報を書き足した報告書をビーグと共に抜けがないか確認してからスヴェンが預かる。
本来の目的であるガガの引き渡しも終えたため、翌日にダルクへ戻る旨を伝えたところ「ちょっと待ってくれんか」と呼び止められた。
「これを受け取ってくれんかの?使い古しじゃがまだまだ使える亜空間収納鞄じゃ」
「めっちゃ高いやつやん!?おおきに!!」
「あともうひとつ。娘……ミーシャからの贈り物での」
陽気に鞄を受け取った彼女はその名前を聞いて驚きを隠せないまま鞄を床に置き、小さな長方形の木箱を震える手で開けると、そこには丁寧なつくりのそろばんが納められていた。
「娘の遺品に入っておった。これまでの手紙からノンノちゃんへ贈ろうとしていたことはわかっておったでな、よければ使ってやってくれんかの?」
「……実はな、村長さん。ウチ、この荷物届けるんを最後に商人辞めようか思っててん」
「娘が聞いたら怒りそうじゃな。「自分は友達が一人前の商人になったら専属で護衛するんだ」と手紙に書いておったからのう」
「……そっ、か。うん、ウチ決めた。絶対成功して、このそろばんと一緒に皆に誇れる……世界で有名な商人になったる。そんでな、先に逝ってしもたこと……後悔、させたるんや……」
震えたままの手と木箱に滴をこぼしながら宣言した彼女の夢を笑う者、そこには居なかった。
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「ほな皆さん、お世話になりました」
翌朝になり見送りに来ていた村人達へ礼を言うと、荷車の持ち手を掛け声とともに上げる。
虎の牙の面々は近辺の見回りに出ていたらしく、この場には居なかったが、前日に挨拶は済ませていたので問題はないであろう。
「スヴェン殿、手数掛けて申し訳ない。報告、頼みましたぞ」
「えぇ、承りました。それでは皆様お元気で」
「ほななー!!」
スヴェンが一礼し、ノンノが元気にぶんぶんと手を振りながら荷車を引きながら村を発つ。
途中見回り中の虎の牙のパーティーメンバーともすれ違い、軽く挨拶も出来た。
そこから行きと同じ日数を掛けダルクの街へと戻り、宿を取る為ダルクの夕焼け亭へと向かうことにする。どうやらノンノも同じ宿へ宿泊する様で、そのままスヴェンの後を追って店の前にある空きスペース荷車を停めた。
スヴェンが扉を開け中へ入ると、カウンターに居るタイガが此方へ気付いた為声を掛けてくる。
「おう、おかえり。早かったじゃねぇか」
「ただいま戻りました。二部屋空いていますか?」
「空いてるぜ。いつも通り記帳してくれや。ところで……」
「初めまして。お世話になりますー」
「その訛りはイシュタールのもんだな。悪いが書き方はスヴェンに聞いてもらっていいか?仕込みが手ぇ離せなくてな。鍵は先渡しとくからよ」
「了解やでー」
「……本人は了承した覚えはありませんが、仕方ないですね」
自分が台帳を書いている間にそんなやり取りをして奥の厨房へ戻っていくタイガの後ろ姿を見やりながら溜息を吐きつつも記入方法や代金についての説明をノンノへ行い、先に彼女が受け取っていた鍵も受け取ってすぐ近くにある階段を上がり部屋へ荷物を置いた。
身分証や必要な道具を鞄から取り出し部屋から出ると、ちょうど同じタイミングで出たノンノと合流し、集合時刻について打ち合わせてからそれぞれのギルドへと向かうため別れる。
数日ぶりに少し重たい扉を開け、受付を担当している者へギルド長への報告のため取り次いでほしい旨を伝えて少し待つと声がかかったので奥へと進み、ギルド長の執務室へと入った。
「お忙しい中突然すみません」
「いや、なんてことはないよ。ところで、君ほどの冒険者が緊急の報告とは……なにがあったのかな?」
「コッコ村までの護衛任務をしていたのですが……」
まとめた書類とともに、先のコッコ村で起こった出来事について伝え、質問にも答えていく。
状況を把握したギルド長は「ふむ……」と眉間に皺を寄せながらしばらく考え込み、書類をテーブルへ置いた。
「これはギルドのみで当たれる案件ではなさそうだね。国王陛下のもとへは私から報告させてもらうけれど、もしかしたらそちらにも連絡がいくかもしれない」
「わかりました。しばらくは待機したほうがよろしいですか?」
「いや、街を出る時どこに行くかだけギルドへ伝えてくれればいいよ。手間をかけてすまないね。さて……私はさっそく報告させてもらうから、帰るときにまた受付へ声を掛けてくれるかな?」
「了解です。それでは、失礼しました」
返答に頷いたギルド長がテーブルの片隅にある端末を操作するのを見つつ、スヴェンは部屋を後にした。
待ち合わせ場所の噴水へ到着するも、ノンノはまだ来ていないようなので縁へ腰掛け辺りを眺める。
夕暮れ時のためか周りには屋台が多く並び、仕事終わりの者がそれぞれ軽食を楽しんでいる様だ。
自分も串焼きを一本買おうかと腰を上げたところに、丁度ノンノがやってきた。その両手には大きな串焼きも二本握られている。
こちらを確認し隣へ掛けた彼女は串焼きの片方を差し出してくる。費用を支払おうとしたら断られた。
「遅なってしもて堪忍な。荷車の査定が長引いてしもたんよ。やからそのお詫びやと思ってくれたら嬉しい」
「なるほど、わかりました。それでは遠慮なくいただきます」
串焼きに刺さった大ぶりな肉を口に運ぶと、外側がカリッと香ばしく焼き目をつけられているにもかかわらず噛む度に肉汁が溢れ出る。
塩胡椒の他に香草も使われていて、脂もくどく感じない仕上がりとなっておりたまらなく旨い。
気付けば一本の串しか残っておらず、ふと横を見るとにまにまとしながら彼女がこちらを見つつ食べ進めていた。
「スヴェンさんってさ、美味しいもん食べてる時わっかりやすいよね」
「そうですか?」
「一瞬めっちゃ真剣な顔になったか思ったら二口目にすんごい幸せそうな顔するもん。買ってきてよかったわ」
「本当に美味しかったですから。ありがとうございます、ごちそうさまでした」
「ほいほい。ほな宿戻りましょか」
スヴェンは頷き歩を進めながら、抱いていた違和感について質問してみた。
「そういえば荷車はどうされたのですか?」
「あぁ、あれに載るくらいなら貰った鞄に入るんがわかったから売ってきたで」
コッコ村で貰った亜空間収納鞄を親指で差してにこりと笑う彼女に、スヴェンは念の為あることを伝える。
「亜空間収納鞄は便利ですが、口に入らない大きさの物は収納出来ませんし、重さが無くなるわけではありませんよ?」
「所有者変更するときギルドでちゃんと聞いたから大丈夫やで。あとなんかこれ、若干やけど重量軽減もついとるみたいやし」
「……買うとしたら何ウォルかかるかわかりませんね」
「せやなぁ。職員さんも扱いには気ぃ付けって言うてはったわ。登録証も見たことないやつ出てきたし」
と、鞄の中にある登録証をチラリとスヴェンに見せる。勿論、周りから見えないよう角度に気をつけてだ。
基本的に亜空間収納鞄というもの自体、作成出来る人物が限られているので希少といえば希少なものである。
質はピンキリであるが、スヴェンが持つビジネスバッグのような物でさえ普通に購入すれば数万ウォルはする代物だ。
それより大きく、更に重量軽減まで付与されたこれは一体幾らの価値があるのか……想像すら出来ない。
故にこれら亜空間収納鞄は所属するギルドで“登録”を行う。
こうすることによって登録した本人にしか鞄を使えなくするというもので、手放す時には本人が登録証と共に解除する、若しくは代理人にそれを行う旨を書いた書類とともに登録証を用意し解除する。この二パターンである。
この“登録”を行うことが出来る人物も、登録や解除を行う方法に登録証を使用する必要があるため鞄の中に入れてさえしまえば、技能を持った人物ですら基本的には悪用して自分の物にするということが出来ない。
難点としては再発行が出来ない事と、もし所有者が突発的に亡くなってしまった時に二度と使用することが出来なくなるという事であるが……あくまでそれは所有者の責任として扱われている。
そして今回ノンノが見せたその登録証はかなり上級のものであり、誰かに脅されている可能性があるなど、登録解除の際に不審な行動を行った場合はギルドが即座に所有者を保護、安全を確保する様にするといったものであった。
「登録料、大分掛かったのでは?」
「それがな?ギルド長が「今回の報告、現地での怪我人治療などへの報酬の一部としたい」って無料でやってくれたんよ。助かったわ」
「それは良かったですね」
「ほんまになー。これで宿泊まるのも楽になるで」
と話していた辺りでダルクの夕焼け亭へ到着した。
扉を開けると飲食スペースが人で賑わっており、様々な香りが鼻をくすぐる。
先程串焼きを食べたばかりだというのに、その匂いに対して二人同時に腹が鳴って堪えられず笑い合う。
「まずは晩御飯にしましょうか」
「まずは晩御飯にしよーかー」
またも二人同時、綺麗にハモってしまいくすくすと笑いながら、空いているテーブルへ着席するのであった。