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祝福(ギフト)を駆使して目的探し  作者: 齊藤 或蘭
第一章
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2

 出発前にそれぞれの準備を行う為一旦別れたスヴェンはダルクの夕焼け亭へと訪れた。

 部屋に置いてあった荷物も鞄の中へと仕舞ってから受付へと向かい、タイガにキャンセル料と共に宿泊予定を繰り上げる事を伝えた。


 「なんだ、もう行っちまうのかよ」


 「えぇ、急に決まったものですから。またダルクへ訪れた際は泊まらせていただきますね」


 「なんならいっそ定住しちまえっての。で、何人パーティーなんだ?」


 二人パーティーで目的地はコッコ村と伝えると、「ちょっと座って待ってろ」と言い残し奥のキッチンへと姿を消す。

 待っている間に野営道具の確認を行う事にしたスヴェンは、食糧やアイテムは余裕をもてているか、保存状態は問題ないかとひとつずつ丁寧にチェックし、鞄から荷物を出してはしまいをしばらく繰り返していると袋を持ったタイガがドタドタと音をさせながら戻ってきた。


 「ほらよ、昼飯にでもしな。今回の飯代はサービスするからいずれまた来いよ」


 そういって袋を手渡してきたので確認すると、使い捨ての容器に盛られた弁当がふたつ入っていた。

 思わぬサービスに微笑みながら礼を伝え、点検も終了したため貰った弁当も鞄に入れてから席を立つ。


 「ありがとうございます」


 「おう、気にすんな!いってらっしゃい!心配ねぇとは思うけどな、気ぃつけるんだぞ!」


 「はい、いってきます」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 「遅なってごめんなー、荷車がちょっとガタきてしもてて修理してたんや……。ほないこかー」


 待ち合わせ場所の噴水にてしばらく待つと、荷車を引いたノンノが声を掛けてきた。

なんでも、商人になりたてであるために馬車は持っておらず、その身と荷車ひとつで行商を行っているのだとか。

 ヒューマンでは体力的に厳しいものがあるが、狼の獣人族である彼女は体力に自信があるため選んだ方法だと笑う。


 「大丈夫ですよ。コッコ村までは2日というところですが、無理せず行きましょう」


 「せやなー、休憩はさみながらまったり行かせてもらうわー」


 他愛のない会話をしつつ門までたどり着き、門番に出立を伝えて街道へ出た。

 コッコ村はダルクの街から見て南西の方向に有り、途中までは整備された街道が続いているがある程度進むと荒れ道や小さい山もあり、道中では稀に山賊やモンスターも出るため注意が必要とされている。


 金級冒険者である自分にとって危険は少ないが、護衛対象も存在しているため用心すべきだと自らへ言い聞かせつつ、周囲の警戒を欠かさず行うが特にそういった問題に出会うこともなく進み、街道が途切れて山が近くなってきたところで日が頭上まで達していた為昼食を摂ることにした。


 「やっとお昼やなー!……そうやって次々準備するもん出てくるの見ると、やっぱ亜空間収納つきの鞄は便利やから欲しいもんやでって……あーっ!!修理に気を取られてて今日の昼ご飯買うの忘れてしもてた!!」


 簡易テーブルと椅子を鞄から取り出している様子を見ながらうんうんと頷いていたかと思えば、唐突に叫ぶと同時に四つん這いになって落ち込んでしまっているノンノに苦笑いを浮かべながら設営を完了させ声を掛けた。


 「安心してください、ノンノさんの分も用意してもらっていますから。さ、いただきましょうか」


 「ほんまかいな!!スヴェンさん神やー……ありがたやー……」


 素早く身を起こした彼女は垂れていた耳をひょこっと立てて顔を上げ目を輝かせ、両手をすり合わせてスヴェンへ祈りだしたかと思えばすぐさま取りやめにへらと笑う。

 そんなやりとりをしつつ二人とも簡易のイスへ腰掛けてからタイガに貰った弁当をテーブルに置き、飲み水も用意してから同時に蓋を開けた。

 香りとともに目に飛び込んできたのはトーストしてからレタスとチーズを挟んだパニーニ、ガガの香草焼き、一口大に焼かれた少し硬めのオムレツにポテトサラダ。

 綺麗にまとめられたそれは、豪快な店主が短時間で仕上げたとは思えない盛り付けであった。

 

 「めっちゃ美味しそうやんかー!いただきまーす!~~~!!」


 大口を開けてパニーニにかぶりついたノンノは口いっぱいに頬張ると幸せそうに目を細め声にならない声を出している。

 スヴェンも一口食べ舌鼓を打つ。そして食べながらあることに気付き、味もさることながら、それ以上にこの弁当で素晴らしいのはその形と盛り付け方だと考えた。

 使い捨て容器とはいえ弁当箱に入っているにも関わらず、パニーニには紙ナプキンで持ち手が作られており、彩り鮮やかに盛られたおかずには少し長めの楊枝が刺さっている。

ポテトサラダは厚紙を円形にした台座型の容器へと入れてあり、型くずれも防いでいた。

 道中に多少手が汚れたとしても直接手で触れず食べられる様に作られていて、汗をかくことを見越してか香草焼きは少しだけ塩を多めに使っていたその弁当はスプーンやフォークなどの他の食器も必要なく、タイガのこういった配慮は流石だと言わざるを得ない出来であった。


 そうして食事を終えると、満足そうに腹をさすりながらノンノが訊ねる。


 「ごちそうさまでした。めちゃくちゃ美味しかったわ、これどこのお店?」


 「ダルクの夕焼け亭ですよ。店主が持たせてくれました」


 「ダルクの夕焼け亭……と。この弁当めちゃくちゃええな!大々的に売り出すつもりないか今度聞かな!!いやでもいきなりそんなん言われても迷惑かな……」


 「メモするのは構いませんが、食べ終わったなら先に片付けさせてもらえますか?」


 「おわっ!堪忍や!」


 ノンノは慌てて椅子から飛び退くと謝りながらメモをしまいつつもまだうんうんと唸っていた。その様子を見ながらスヴェンは手早く片付けを済ませ、出発する準備が出来たと伝えると彼女は荷車の取っ手を引き上げる。

 これから山道に入る為により一層気を引き締めなければとを考えつつもコロコロと表情や仕草を変え、一緒に居て退屈しない依頼主との旅を僅かばかり楽しんでいるスヴェンは歩き出した。


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