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以前途中まで投稿していたものを手直し&再編集したので新たに投稿し直しました。
拙い文章ですが、どうぞよろしくお願いいたします(´・ω・`)
「ごめんね……せめて、これから幸せに過ごせます様に……」
そう言い残した両親は二度と振り返らず、身なりの良い者のもとへ歩いていった。
泣きながらシスターに抑えられ止められる自分を放っておいたまま…。
「何回、見りゃいいんだ……」
何度も見たことがある、幼い自分を孤児院へ預けた両親との別れの夢。
考えても仕方がないと頭を振り払ってから寝台から起き上がり、衣服を着替える。
いつもの様にネクタイを結んで整えると、備え付けの台所で湯を沸かす。
頃合を見計らって気に入っている茶葉をティーポットへ準備し、沸騰した湯を入れしっかり蒸らしてからカップへ注いだ。
(なんてことはない平和な朝だ)
と悪夢から醒めた自らへ言い聞かせつつ紅茶を飲みながら、まだ夜も明けきっていない薄く明るい空を窓から眺めて心を落ち着かせる。
しばらくそのまま紅茶を楽しんで一息つき、改めてこの宿に再び泊まって良かったと感じた。
少し硬いながらも汚れのない寝台に簡易とはいえ備え付けの台所、シャワーまでついている。
これで相場より遙かに安い1泊2ウォルという価格なのだから初めて泊まる訳でも無いのに驚きは変わらない。
紅茶を飲み終えカップとポットを洗い、亜空間収納が付与された鞄へとしまう。付与のギフト持ちが作成したこの鞄は、肩に提げられる大きさでありながら小さな部屋一部屋分程度の荷物は入る。
あくまで“入るだけ”であり重量は感じるというのが欠点だ。もっとも、その欠点を補って余りあるメリットがあるが。
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一通り荷物を整えてから鞄へと収納し部屋を出ると、下の解で朝食の支度をしていた宿の主人であるタイガに声を掛けられた。
「お、スヴェンか。はー…相変わらず朝はえーなぁおめーさんは。仕事かい?朝飯は?」
「今日は休みです。偶には散歩しながら外で食べてみようかと」
「そうかい。あー!!やっぱりここでダルクの夕焼け亭の朝飯食っときゃよかったぁぁぁ!!って思ってももう遅いからな?」
「わかっていますよ、大丈夫です」
「あいよ。じゃ、いってらっしゃい!!」
「いってきます」
朝からいつも通り元気でオーバーリアクションな彼に挨拶をし宿を出る。
以前近くまで依頼で来た際に偶然見つけたこの宿で彼の陽気さと料理の味でに惹かれ、それ以来はこの街で他に宿を取るつもりはない。
しかし、ハッキリと名前まで覚えられていたのは予想外であった。
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ダルクの街という名のここは他の街より比較的大きく、昼にもなると行商人や冒険者が集まり賑わっているのだが……夜も明けきっていない今の時間ははまだ人はまばらにしか居ない。
早朝の新鮮な空気を楽しみつつ街を歩を進めると、人が少ないこの時間帯とはいえ街の中央の噴水そばにある幾つかの商店は既に開いて、行商人等が仕入れを行っているのが確認できる。
そんな中人だかりが出来ている店があり、そこから声が響いてきた。
「えっ……?なんでそんな高いんよ!?おかしない?」
人の多い所を迂回しようとした矢先、聞き慣れぬ方言が聞こえてきたため歩を止め確認すると、なにやら蒼髪の少女が店主と揉めている。
「そうは言ってもウチじゃこの値段なの。地方出身だからわかんねぇんじゃねぇの?」
「ゆーてそない変わらん筈やんか!しかもどこに聞いてもここしか売ってへん言わはるし……」
段々声が小さくなる少女は、しょんぼりと耳を垂らす。
「観察」
小さく呟きギフトを使用する。
普通では気付きにくい些細な変化や異常などを可視化出来るこの能力は、使い方次第で非常に便利なものであった。
そして案の定綻びを見つける。言い合っている当人達は気付いていないであろうが、店主の顔の筋肉が不自然な動きをしていたために嘘を言っていると判断出来たので助け船を出す事にして声を掛けた。
「……失礼。ご主人、こちらの方はどの様なご注文を?」
「ぁん?この嬢ちゃんがよ、ガガを丸々一匹くれっていうから3ウォルだっつってんのに高いってゴネてんだよ」
「それはそれは、大変でしたね。ところで、ガガ一匹の相場は1.5ウォル程と記憶しているのですがいかがでしょう?」
タイミングが良いもので、昨日宿屋で食べた夕飯がこのガガの煮付けだった。
タイガが「今日も丸々一匹で1.5ウォルで仕入れられたぜ!今週は安定していて助かるんだよな、高くても2.5だからそこまで滅茶苦茶変わんねぇけどな!」と笑いながら言っていたので記憶に新しい。
「それは昨日までの価格だろうが!」
「今週は安定しているそうですね、いきなり倍になりますか?」
「行商用に凍らせたり手間かかんだよ!」
手間賃と言われては仕方ないと顎へ手を当てて思案する。
……しかし、出身を馬鹿にしたり相場より明らかに高い値段をふっかけたりと目に余るので商業ギルドへ報告しようかと思っていた矢先に隣の少女が悪い笑みを浮かべて続いた。
「ほな凍らせんでえぇんやったら1.5ウォルやねんな?言うたな?ほ凍らせずにまんまで売ってくれへんかな、おっちゃん?」
そうまくし立てられては店主も手間賃を取る訳にいかずにしどろもどろとし始め、更に周囲には騒ぎを聞いた他の行商人の人数まで増え始めている。
これ以上は不利と悟った店主は相場価格で少女にガガを売り、舌打ちをしてから店の奥へ消えていった。
解決したのでこれ以上居る意味は無いと立ち去る為歩き出すと、後ろから呼び止められる。
「にーちゃんおおきにな?ほんま助かったわ」
騒ぎとなったその場から少し離れてから隣に走ってきた彼女はガガを両手で抱えてそう言った。
「いえ、お礼を言われる程ではありませんよ。ところで、凍らさなくてよかったのですか?」
「それは大丈夫やでー!ほいっ!《凍れ》」
彼女が言葉を紡げばガガがみるみる凍っていく。水属性の術使いならばたしかに、わざわざ店で手間を掛けて凍らせる必要もないという訳だ。
「これで木箱にしまってから収納っ!と。えっと、ウチはノンノいいます。……不躾やねんけど、コッコの街まで護衛してくれる冒険者さん探してて……ギルド知ってはらへん?」
「こちらですよ、案内します」
先程の店での威勢は消え、急におろおろとし始めた彼女をギルドまで案内する事にしたスヴェンはついてくる様促すと、パッと笑顔を浮かべた彼女が後に続いた。
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「いらっしゃいませ。用件はなんでしょうか?」
「コッコ村までのウチの護衛を頼める冒険者さん探してます。依頼出来るやろか?」
「護衛依頼でしたらコッコ村までで報酬は5ウォルです。すぐに受注されるかとなると難しいかもですが、貼り出しますね」
ノンノから依頼票を受け取った受付嬢は、そのまま掲示板へ貼り付けたのを見たスヴェンはそれを手に取り受付嬢へ渡す。
すると驚いた顔がふたつ。
ひとつは受付嬢で、もうひとつはノンノだ。
「おにーさん……冒険者やったんかいな……」
「スヴェンさん、本当にこの価格で大丈夫なんですか……?あなたならもっと高額の依頼が……」
「大丈夫ですよ。受注してよろしいですか?」
それならば問題ないと受付嬢は手続き行い、正式に護衛依頼を受けたため依頼主へ挨拶する。
「改めまして金級冒険者のスヴェンです。宜しくお願い致します」
「金……って、えぇーっ!?」
明らかに青級冒険者までの依頼を受けた人物のまさかのランクに驚いた少女の絶叫が響いた。
予想通りの反応に微かに笑う。
日は上りはじめ、雲も少ない。
(朝飯は食べ忘れたけど、いい旅路になりそうだ)
スヴェンはひとりそう思いながら、物語の幕は開けるのであった。
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