今日から巫女見習い
軽く読むつもりが夢中になってしまった。
椅子から立ち上がると辺りはどんよりした夕焼け色になっている。
集中するとのめり込む癖が出てしまった。
きゅううとお腹が鳴る、物凄くお腹すいた。
急いで台所へ向かう。
「あっ!」
台所には新しい調味料や調味道具が揃えられていた。
なぜか、それを見ると突然胸の奥がきゅっとした。
私の為に色々揃えて貰ったと思うと、なんとも言えない感情が広がる。
貯蔵庫からベーコンとパスタを取りだし、調味料に鷹の爪があったので簡単なペペロンチーノを作って食べた。
独りで食べる食事、昨日や今朝が特別だっただけでシンと静かな部屋にため息がでた。
何処から鐘の音が聞こえる。
アスファルトの道路、白いガードレール、悲鳴、あぁ起きないと。
意識が浮上する、息が苦しい、体が動かない、鼻にチューブが着いている、あぁ起きないと。
ボソボソと囁く声が聞こえる、ダメ、聞いてはダメ、起きろ。
飛び起きると、汗ビッショリだった。
何か嫌な夢を見ていたけど、忘れてしまった。
まだ、どきどきしている。
鐘が鳴り終わる。
新しいローブとベールを被ると私なんかでも巫女さんになった気分になる。
祭壇に行くとナタリーさんと隣に小柄な女性が立っていた。
「おはよう、ミレニアちゃん、よく眠れた?」
「あ、おはようございます!ナタリーさん」
「良かったらこれ」
籠にリンゴが入っていた。
「ありがとうございます!服や調理道具もナタリーさんですよね?」
「良かった、よく似合ってる、そんなたいしたことしてないよ」
「あら、可愛い子じゃない!」
「紹介するわ、隣に住んでるマーサよ」
「ミレニアです、初めまして」
「宜しくねぇ、雑貨が欲しかったら贔屓にしてね」
「暫くは大変だと思うけど頑張ってね」
「はい、ありがとうございます」
マーサさんにどんな雑貨を扱っているか聞こうとしていると、小柄の赤い顔をした男性が祭壇に怒鳴りこんできた。
「そんな余所者になに油うってんだマーサ!」
「あんた!何言ってるんだい!新しい巫女さんに!!」
「はん!余所者は余所者だ!ほらさっさとこい」
「ダグラスあんたまた酒飲んでるのかい!?」
「ナタリーにミレニアさん、ごめんなさいね」
顔色が変わったマーサさんが、慌てて酔っぱらいのご主人を引っ張って帰って行った。
あ、やっぱり余所者だよな私。
悪意を向けられると足がすくむ。
「びっくりしたでしょう」
「は、はい」
「飲まないと小心者のダグラスって有名なのよ」
「は、はあ」
「まぁ色々あると思うけど頑張って!」
ナタリーさんにパンっと背中を張られよろめいた。
元気だしなよと声に出さないで応援されたみたい。
「ほっそいわねぇ!ちゃんと食べるんだよ!」
「は、はい。あ、そう言えばお聞きしたいことが」
「なんだい?」
「あの、神殿の貯蔵庫っておかしくないですか?」
「あぁあれかい?あれはね、あたしらにはよく分からない、何とか魔法っていうので、各地の神殿にお供えされた物が昔からずうっと貯蔵庫に仕舞われる仕組みなんだってさ、凄いよねぇ」
「空間魔法ですか?」
「そうそうそれだよ!よく知ってるねえ」
「いえ、私もちょっと聞いたことがあるだけなので」
「あれはね、神殿の管理者しか開けれないんだよ」
「成る程~」
「まあ飢饉になった時なんかは、貯蔵庫から食料を出すのも神殿のお役目だから、あんたが来てくれてこれでひと安心だよ」
「は、はい、教えて下さってありがとうございます」
「そんな堅苦しくしなくてもいいんだよ」
「はい」
「んじゃちょっとマーサが心配だから帰るわ」
「はい、気をつけて!」
「あんた、そんな時は『女神の道しるべがありますように』っていうんだよ」
「女神の道しるべがありますように!」
パァっとナタリーさんに金の粉が降り注ぐ。
「女神の祝福じゃないかい!あんた凄いね!」
びっくりしてる私にご機嫌でナタリーさんは帰って行った。