ヒロイン、目が覚める 2
「おはようございます」
「おはよう!ミレニアちゃん良く眠れた?」
「あらあら髪が絡まって、こっちきなさい」
「柔らかいわねーこれでいいわよー」
「ありがとうございます」
「ほら綺麗な髪よ!」
「ん、そうだな。おはよう」
目が覚めて居間へ行き、グラファさんとナタリーさんに挨拶したら、ナタリーさんが話す合間にグラファさんが一言話す、うまい感じに息があってて見ていて面白い。
「さ、朝御飯出来ているから食べてってー」
「はい、頂きます」
朝食を頂くと、グラファさんが神殿へ案内してくれた。
朝なのに薄曇りで、じっとりまとわりつくような霧も出ている。
人が絶えた道の跡、膝にまである雑草をグラファさんが押し分けて進むと神殿が見えた。
古代の技法で建つ小さな神殿は、白く光る石作りの社で思ったよりもかなり綺麗だ。
「なにやら、いにしえの技法とやらで建ってるから昔のままなんだと」
古の姿のまま朱色の輝きを保つ門をくぐり抜けて、入り口の鍵を開けて中に入ると、直ぐに祭壇の広間と奥に続く廊下が見える。
そこでグラファさんは、改まって私に向き合って話す。
「一応、あんたの表向きの身分はこの神殿の巫女見習いだ」
「はい」
「ナタリーにも村の者にも、あんたが王都から追い出されたなんて知らせてねぇ」
「はい」
「だからといって、変な真似したらこの村からも出てってもらうからそのつもりでいてくれ」
「はい」
「食料なんかはこの神殿の貯蔵庫から好きに使ってくれ」
「はい」
「それとこれ渡しておくぞ、出ていきたかったら好きにしな」
「え?」
私に渡されたのは、竜騎士がグラファさんに渡していた支度金と神殿の鍵。
革袋がズッシリ重い。
「え?でもこれは」
「あんたの話を受けた時にもうかなりの額は貰ってるんだ」
「は、はい」
「ぶっちゃければ、あんたみたいな騒動の種はこの村から出てって貰ったほうが後々いいんだがな…」
そこでグラファさんは困った様に頭をかくと、少しだけ柔らかな雰囲気になり私に告げる。
「あんた、そんな明日死にますみたいな顔してたら、わしも出てけなんて言わんさ、まあ元気になるまでは大人しくこの村でゆっくりしろや」
そう言うと私の返事も聞かずそのまま帰っていった、グラファさんやこの村からしたら厄介者なのに…。
祭壇の奥には小さな部屋と台所に貯蔵庫。
グラファさんから勝手に使っていいと言われた貯蔵庫の扉を開けると、あきらかに奥行きがおかしい広大な冷凍庫にみっちり色々な食べ物が並んでいた。
「うわあ?広い」
取り合えず手前の目立つ赤い包みを開くと塊のベーコンだった。
この貯蔵庫とか理解不能なので、後でグラファさんに聞いてみよう。ベーコンの包みを棚に戻して貯蔵庫からでる。
次は部屋に行くことにした。
神殿の管理ってどうすればいいんだろう。
何か書き付けがあればいいけど。
部屋は6畳程の大きさで、壁全てギッシリと詰め込まれた本棚とベット、それに小さなチェストと机と椅子が置かれて、窓には深い海色のカーテンが掛かっている。
机の上にメモが置かれていた。
朝は起床の鐘で起きること。
朝一番に女神様に祈ること。
裏の菜園の手入れをすること。
健康でいること。
それだけ書かれていた。
グラファさん?にしては紙が黄ばみ古そうだ、もしかして亡くなった神官か巫女のメモかもしれない。
私は、メモをそっと机の引き出しの中に大切に保管した。
チェストの中を確認すると、灰色のローブが10枚と白生地に金糸の刺繍が美しいローブが入っていた。
新しい物だ、ナタリーさんが用意してくれたのかもしれない、明日からこれを着ることにしよう。
壁の本棚には、ざっと見ても統一性は全くない。
『楽しい刺繍』の次は『光魔法入門書』『確率と演算式における魔法』『薔薇の育て方』様々だ、もしかしたら歴代の神官や巫女の本かもしれない。
ふと、光魔法の入門書が気になったので手にとって中を見た。
光魔法とは、光の精霊の力を借りて、他者を癒やす魔法である。
なるほど、ヒールとか言うあれか。
光魔法の資質の見分け方、植木鉢に種を植えて種を癒やす事、資質があれば発芽する。
ま、まさかあ、そんなの出来たらト○ロじゃん。
…ちょっと、後で植木鉢探そう。
光の精霊とは、言い伝えでは小さき体に薄い羽根を持つ者と言われている。
あー、ファンタジー凄く見てみたい。