ヒロイン、目が覚める
一瞬自分が何処にいるのか分からなかった。
そうだ、昨日の夕方にこの村に着いたんだ。
騎士団の飛竜に乗せられ半日、ここは西の最果てランドナ村、ハロルド様が手配した神殿は寂れた村にポツンとある。
この地にある神殿は、2人しか居なかった神官と巫女が10年前に流行した病で亡くなり今は誰も居ない。
この世界は女神信仰が盛んで、創設の昔に女神が神殿が建造された逸話通り、建てられたままの姿を保ち神官や巫女が世界の障気を祓っている。
障気が溜まってきたのに、こんな僻地にくる神官も巫女も居なくて困った村人より嘆願書が届いていたそうだ。
飛竜はあっという間に開けた枯れ地に舞い降りた。
どんよりとくすんだ夕焼けに染まる中、ひとり男が立っている、騎士より飛竜から降ろされ男性の所へ連れていかれる。
「村長のグラファです」
「第2騎士団所属クロイツです、罪人の引き渡しの確認をお願いします」
「ええ聞いております、この人ですか」
50歳くらいの農夫姿をしたがっしりした男が厳しい顔で私を見る。
お辞儀をすると男性はおや?という表情をした。
「では、こちらの書類にサインと、こちらが引き受けて頂いた謝礼金です」
手続きが終わると竜騎士はさっさと帰っていった。
「では改めて、わしはこのランドナの村長をしてるグラファだ」
「ミレニアです」
「今日はわしの家に泊まってもらう、明日から神殿の管理をしてもらうからそのつもりで」
「はい、わかりました」
無愛想な村長に案内されたお宅は、意外にも居心地がよく暖かい家庭のそのもので、村長の奥さんのナタリーさんは恰幅のいい肝っ玉母ちゃんであれこれと世話をしてくれる。
「娘が二人いたけど、二人とももう嫁に行ってね」
「やっぱり女の子がいると良いわね!」
「ほら、もっと食べて!あっトイの実もあったわ、持ってくるから」
「あ、そんな、大丈夫です!もうお腹いっぱいです!!」
ナタリーさんは話を半分も聞かずに奥の台所へ行ってしまった。グラファさんは無言でエールを飲み、皿のおツマミを食べている。
あれ?私一応罪人枠できてますけど、こんなに良くしてもらっていいのかな?。
「王都ってのは明るいとこなのかい?」
突然、グラファさんが話し掛けてきた。
「そうですね。…綺麗な青空でした」
思い出したのは入学式の空、澄みきった空だった。
ミレニアになってから1年、落ち着いて空なんか見たのは入学式くらいで後は覚えてない。
毎日ただゲームのシナリオを、なぞる為だけにそこに居ただけだ。
ようやく気がついた。
私、全然生きてなかった、この1年ただミレニアのストーリーを再現していただけなんだ。
これじゃ死ぬ前と一緒だ、悲劇の人ぶって他人のせいにしちゃ駄目だ。
私、色々な人に迷惑をかけてここにいるんだ。
「そうか、いい所なんだな王都は」
想いに沈んでいた私に、ぼりっとカブの漬物を噛んでグラファさんは言う。
「ここはな、毎日どんよりとした曇りや雨なんだ」
毎日がくもり?
「あぁ、澱みが酷すぎて、空が見えなくなっちまったんだ」
グラファさんは、この世界の天候と戦ってきた人なんだ。
「別にあんたが王都で何をしてきたのかは興味ない、人殺しなんかは神殿に入れないしな、まぁ何かしら人の輪から弾かれてここに来ちまったんだろう」
木のコップに入ったエールを飲み。
「神殿の管理人、それだけで俺達や村の者は助かる。それだけは覚えておいてくれ」
と、静かに立上がり、寝るとだけ言って寝室へ行ってしまった。
神殿の管理人がグラファさん達にとってどれだけ切実なのかは後からわかった。