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ユーレン


 騎士団長の父は、稽古だ鍛練だと言って朝早くに城へ行き、夕食も騎士団の仲間が大切だとかで城で食べてから帰ってくるそんな人だった。


 病弱な母は、兄と俺と妹を産むと儚くなった、病弱なのに立て続けに3人も産むとか父も母も頭がおかしい。


 そんな訳で子育ては丸っと乳母と使用人に任せっきりなった。


 兄は跡継ぎだから厳しく教育され、俺と妹は殆ど放置と言うか誰も興味が無かったようだ。

 カルス坊っちゃまと呼ばれる兄に対して、下の坊っちゃまと妹様としか呼ばれない僕と妹。


 必然的に僕には妹しか、妹には僕しかいなかった。


 僕は母に似て可憐で儚げな容姿、妹は父に似て意思の強そうなきつい顔立ち、でも体の作りは母に似て病弱で、妹が熱をだし体調を崩して生死の境をさ迷ったのは1度や2度じゃない。


 その度に僕は思った、神様!妹を僕から取り上げないでと。

 僕と妹は生に固執し毎日を必死に生きて、二人で常に死に怯えていた。

 僕は外で遊べない妹の為に、絵本を読み聞かせたり、子供向けの楽しい冒険話を作って聞かせると妹は物凄く喜んでくれた。

 

「ユーレンにいさまといつかドラゴン見たい」

「じゃあ!カティアと一緒にドラゴン退治だな」

「うん、とってもとっても素敵ね」

「僕達は冒険者だ!ダンジョンも一緒だ!そして色々な物をみるんだ」

「はい、ユーレンにいさま!」

「だから頑張ってこの薬を飲んで健康になろうな」

「ユーレンにいさまがんばる!」


 いつしか僕と妹は、冒険者になり何処までも旅するなんて夢を持つようになった。


 そんな10歳の誕生日、僕は初めて父に書斎へ呼ばれた。


「ユーレンお前の婚約者だ」


 渡されたのは姿絵と手紙。


「5日後に顔合わせをする、そのつもりでいるように」


 コンヤクシャ?僕の頭は考える事を停止する。


「何をしている?もう行っていいぞ」


 誕生日おめでとうの言葉も無く僕は書斎から出された、多分、今日が僕の誕生日なのを覚えていないのだろう。


 部下の子供の誕生日は覚えている癖に。

 僕達に興味がないのならそっとしておいて欲しかった。

 



 相手は伯爵の娘で僕と同じ年の子供だった。

 深い緑の髪と琥珀の瞳、愛情をふんだんに与えられた子供、僕達とは違う。


 父からお前は次男だからこの伯爵家に婿入りしろと言われた。

 

 僕が婿入りしたらカティアはどうなるの?


 目の前が真っ暗になる、カティアと離れるなんて嫌だ。

 僕は、目の前の少女よりも誰よりも、カティアが世界で一番大切な存在だって気がついた。


 次の日から婿入りした後の領地経営について学ぶ事になる、それは別に構わない、ただカティアとの時間が減るのが我慢ならなかった。

 この頃からどうやったらカティアとずっと一緒に居ることが出来るか真剣に考えるようになり転機はすぐに訪れた。


「宜しく、ライアだ」

「宜しくお願い致します、ライア殿下」


 僕は王子の側近候補という立場を手に入れた。

 父よりも兄よりも権力を持つこと、それが僕の出した答えだった、ゆっくりとではあるが僕は力をつけてゆく。


 貴族世界の社会勉強をこなしてゆくうちに、父は俗にいう脳筋という事がわかった、白か黒、はいかいいえ、言葉よりも肉体言語、やる気が足りないという根性論。

 

 役に立つか立たないか、それだけ。


 成る程、父が兄を気に入っているのは、自分に似た容姿とそっくりな性格なのだろう。

 見た目が儚げな僕は最初から父は気に入らなかったのだ、ましてや、病弱な妹など論外なのだろう。


 学園に入り殿下の側近候補達のハロルドやナハトにバルセルと出会った事でまた僕の思考は屈折するようになった。


 正直、僕に彼等は眩しすぎた。


 大切に育てられ、愛情を知っていて、家族が普通の家族である彼等。


 そんな時、彼女に出会った。


「君どうしたの?」

「あ、すみません、体調が悪くて…」


 妖精みたいな少女が廊下でうずくまり、顔色はとても悪くて動くのも辛そうだ、その姿は妹と重なった。

 彼女を救護室へ連れて行くと気を失うように眠ってしまった、何か悪い物でも食べたのだろうと救護室の治癒師は教えてくれた。


 次の日、昨日のお礼だと彼女が僕に話し掛けてきた、だんだんと僕の中で彼女の思いが大きくなって、そして彼女は妹の次に特別な存在になった。




 だから。


 本当はライア殿下とハロルド達が計画している事で、彼女が傷つく姿は見たくなかった。


 だけど僕は妹以上に大切ものはこの世にない。

 彼女がどんなに傷ついたとしても、僕は大切な妹とずっと一緒に生きていける未来を選んだ。 


 妹か彼女か、白か黒か、はいかいいえか、迷わず妹を選び、僕は初めて自分が父の血を引いている事を実感した。



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