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ナハト

 

 最初に見た時から気に入らなかった。


 ほっそりした肢体よりも、むっちりした肉感的な体が好きだ。

 甘やかすよりも甘えたい、未来に希望に満ちた眼差しよりも、何処か諦めながらも愛を乞う目が好きだ。


 彼女を見ると何故かイライラする。


 その日、学園の窓から外を見ていると、桃に金の髪をした少女が大きな木の下で昼御飯を食べていた。

 は?淑女が外で?目が点になる。

 偶々通りかかった人間にあれの名前を聞いた。


 名前を聞いてさらにイラつく。


 よくよく聞くと、ハロルドやバルセルと懇意にしているって、あいつら頭大丈夫なのか?

 

 その日はイライラが重なって気持ちが制御出来なかった。


 前日の夜、何時ものように抱き締めていたラフォーレが、唐突に別れを告げてきた。


「ラフォーレ、突然何を言ってるの?」

「だから今日で終わりにしたいの」

「なんで?僕のこと嫌いになった?」

「好きよ?」

「じゃあなんで!」

「縁談がきたのよ」

「!?」

「分かってくれた?私だけの気持ちの話じゃなくてね」

「ラフォーレ、義母になんて言われた?」

「聞かない方が言いわよ、まだ家族でいるんでしょう?」

「…迷惑かけてしまったんだね、ごめんねラフォーレ」


 白くなる程きつく握りしめていた手に、ラフォーレは優しく重ねてくれる。


「謝らないで」

「うん、わかった」


 五年前に母が亡くなった、表向きの理由は病死とされたが、本当は毒殺されたんだ。父の愛人によって。

 12歳の僕は何も知らないで悲しむだけ、大人達は巧妙に母の死の真相を隠していた。


 母が亡くなり1ヶ月すると、僕の4つ上で16歳の少女が嫁いできた。父の愛人だった少女の名前はミレニアナ、彼女の腹には来年には生まれる僕の弟か妹がいた。


「こんにちは、今日から私があなたのお母様よ」


 変な汗をかいて視線を合わせない父。

 改めて後妻を見れば、底意地悪そうな大きな目、細い体、尖った顎、優越感丸出しの表情、あまり手入れをされていない髪、品のなさ。

 僕は子供だけど馬鹿じゃない、僕の顔からゴッソリと表情が抜け落ちる。


「ひっ!何なのこの子!気持ち悪い!!」

「気持ち悪いのはお前だよババア」

「バ、ババア?!まだ16よ、私」

「ねぇ知ってる?そいつ婿なんだよ?」

「え?そいつって?!婿?なんなの?」

「頭悪いなあ、この侯爵家は僕の母の実家なんだよ?」

「!」

「やっとわかった?残念なのは母の祖父母が亡くなってることなんだけどさ、生きてたら今頃は…」

「や、やめないかナハト!」

「五月蝿いよ、もうあんたは親だと思わない。ていうか」


 母譲りの冷たい視線を向ける。


「ロリコンなのによく子供出来たね」


 蔑んだ目を少女に向ける。


「子供みたいな体型だもんね、あんたら本当に気持ち悪い」

「私を侮辱して!許さないから!」

「はん!どうぞご勝手に?僕が継いだらお前らどうなるか楽しみだな」

「!!」


 父は小心者で金の勘定が得意な処を、祖父が見込んで婿にした、父の伯爵の次男で母が15になってすぐ結婚し僕が生まれた。

 隠していたつもりの愛人がみな少女だった事に気がついた母は、僕を溺愛して父を容赦なく扱き下ろす毎日だった。


 もう少し祖父母が生きていてくれたらまた違ったかもしれない。


 僕と義母は折り合いが悪すぎて、父は僕を学園の寄宿舎へ押し込めたが、社交界では父と義母が非難され嗤われているようだ。

 なにせ、生まれた子供は全く父に似ていなかった、父はすぐに義母への興味を無くし新しい愛人を作っていた。


 愛とは、憎しみあい扱き下ろし嫌味を言いあうものだろう?と半分本気の半分冗談で悲しそうに言うと大抵の婦人は僕の事を抱き締めてくれる。

 祖父の遺言で婚約している少女はいるが、僕の家の醜聞で迷惑していることだろう、かなり前から距離を置かれているのは確かだ。


 僕が15になった時、ひさしぶりに僕をみた義母の目が気持ち悪すぎて笑えた。

 どうやら、義母は父から僕に乗り替えようと必死のようだ、僕の母を殺したのによくそんな風に思えるもんだ、義母の脳味噌は虫以下のようだ。

 最近では、思い出したように義母が嫌がらせをしてくる。

 僕の恋人を遠ざける。

 休みで領地へ戻れば、部屋に入ろうとしてくる。

 媚薬を持って関係を持とうとしてくる。


 本気で殺していいかな?って思う時があるけど、この家を滅茶区茶にした時の顔が見たくて我慢している。

 流石に母を毒殺されて、媚薬を盛られてきたので証拠抑えと毒薬の知識を蓄えてきた。


 魔が差した。


 義母に似てる名前のあの女、イライラするあいつ。





「ねぇ君ハロルド知らない?」

「!」

「あ、ごめんね。食事中に」

「いえ、ハロルド様でしたら教室ではないでしょうか」

「そうなんだ!ありがとう、これお礼にどうぞ」

「そんな、お礼なんて」

「気にしないで!食べて」


 彼女が困惑してるのが伝わってくる。


「ねぇ、食べてくれるよね?」


 ほんの少しお腹が痛くなる程度のクッキーだ。

 彼女はありがとうございますと言うと表情を消して食べ始めた。勘がいいのかな、毒ってわかってるのかな。


「あとさ、こんな目立つ所に居ると苛められちゃうよ?僕に」


 彼女は急に身仕度をして逃げるように去っていった。


 なんだか、その姿があまりにも滑稽で涙が出るほど笑ってしまった。こんなに笑うのはいつ以来だろう。


 お気に入りのオモチャを見つけた、お気に入りすぎて壊したくなるけど。



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