ヒロイン真実を知る
赤ワインを掲げ乾杯し上機嫌で話をしている。
「さて、上手く断罪されたな」
「こんなに上手くいくとは」
「全くだ!」
興奮が落ち着くと、銘々がグラスを掲げ宣誓し始めた。
「私は昔からの夢だった冒険者になる!」
「僕は憧れの魔道塔へいく」
「俺はようやく北で、新しいエネルギー物質の採掘が出来るぜ」
「私もこれで神官になれます」
「我は昼夜戦いが出来る場所にいける!」
「殿下は本当に戦闘狂だよね」
うんうんとみなが頷き、ふと思い出したように。
「ところであの娘はどうするんだ?」
「誰か引き取るのか?」
「いや、殿下は戦闘にしか興味がない、ユーレンは妹を連れていくだろう?バルセルは強い女が好きで、ナハトは熟女が好きだろう、私は女性に興味がないからな」
「ならハロルドの伝で神殿にでも押し込めたら?」
「そうしようと思って、目ぼしい神殿は決めてある」
「さすがハロルドだな」
「ここにいても、もう彼女は社交界に居場所な無いからな」
「全員に媚びや愛想を振り撒いて売女なんて影で言われていたようだしな」
「ま、良いように使わせて貰ったけど、可哀想だったかな?」
「そ、そんなことないと思う、だって彼女なにか最初から僕たちの事、物か何かみたいに見てたし、正直色々言い当てられて気持ち悪かったよ!」
「確かに、何処かの国の間者かと思ったよな」
「だねえ」
アハハハハハハハハ。
殿下達の嗤い声が廊下にまで聞こえてきた。
私の中で何かが砕け散る。
『もう会えなくなるだろう、最後の挨拶でもするといい』と陛下に言われ、騎士に連れられてきた部屋の中、彼等は私を嗤っていた。
陛下は私に最後の罰を与える為、これを聞かせたのかもしれない。
『自分はヒロインだ!』なんて浮かれていたけど、本当は彼等の駒でしかなかった。
それもそうか、私も彼等を攻略者としかみてなかった。
彼等を好きだったけど、ターゲットとしてみてたのはお互い様か。
気が遠くなるのをなんとか堪えて、地下牢の固いベットに横になり、そのままじっと夜を明かす。
目をつむると嗤い声が聞こえて、結局、一睡も出来なかった。
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前世はゲームが大好きでした。
人と話すのが苦手で、顔も人並み、運動も苦手でぽっちゃり体型、頭も良くなくて、結構拗らせてた陰キャでした。
ゲームに熱中していると、現実を忘れることができました。
『君に贈る、僕達の百の恋』
5人の攻略対象と100個という多彩なエンドシナリオで大人気になったゲームです。
私が特に好きだったのは、学園で皆の人気者になり攻略対象全員から愛される逆ハーレムヒロイン、現実の私と真逆の世界に憧れていました。
そんな私が大学入試でバスを待っていると、車に突っ込まれ気がついたらこの世界のミレニアになっていました。
今までのミレニアの記憶は全く無いのに、明日から学園という状況。
もしかして、これは神様がくれたチャンス?
あんなに大好きだった人達の側で生きることが出来るの?
私の事を愛してくれるの?
思えばこの時が一番幸せでした。
転生の興奮とミレニアの甘い砂糖菓子の様な容姿に、もう私の脳は色々な思いが溢れ満開の花が咲き乱れました。
拗らせてた私が未来は薔薇色だ!なんて思える程に。
そして、たどり着いてみたらざまぁされました。
それも全員から。
馬鹿みたい、思い上がって私なんかがハーレムなんて。
冷静になって考えてたら、物凄く恥ずかしい。
こんな心が捻れる思いは辛くて辛くて涙が出てくる。
悲しい、大好きだった、本当に大好きだったのに。
もし、頭がお花畑にならなければ。
もし、彼等に近寄らなければ。
いいや、そもそも、前提が違うんだ。
私みたいなのが幸せになれる訳がないんだ。
絶望、諦め、虚無感。
ストンと腑に落ちると心が楽になる。
そのまま誰にも会わず、私はハロルド様が用意した神殿へ送られた。