風が吹く 2
貯蔵庫を開けたら、棚に張り紙があった。
『何処の誰か知らないが、俺のベーコン盗った奴は誰だ!赤い油紙に包まれて物は個人所有くらい知ってるよな!俺のベーコン返せ!』
衝撃の事実、確かにベーコンは赤い紙に包まれてた。
赤くて目についたから包みを開けたんだ。
うわ、どうしよう!!
食べてしまったからもう何もない!
知らなかったとは言え、食べ物の恨みは非常に怖い。
急いでナタリーさんから貰ったリンゴでアップルパイを作り、丁寧な詫び状を添え赤い油紙に包みベーコンのあった場所にそっと置く。
『ベーコンの方へ』
『申し訳ありませんでした、巫女見習いで神殿に着た者です。
前任者がすでに亡くなっていて、引き継ぎや作法を知らず食べてしまいました。
ベーコンの変わりをすぐ用意できなく、取り急ぎアップルパイを作ってみました、良かったら召し上がって頂けないでしょうか。後日、ベーコンを用意しますので本当に申し訳ありませんでした。
ミレニア』
そっと貯蔵庫を閉めると、急いでナタリーさんの家に向かった。
ナタリーさんから、村の猟師のザストさんを紹介してもらい、ザストさんに事情を話すと。
「いやぁ流石に今手持ちにベーコンはないなあ」
「そ、そうですよね」
「2週間くらい待って貰えたら作っておくよ」
「本当ですか!助かります!」
「良かったね、ミレニアちゃん」
「はい、ナタリーさんに紹介して貰ったおかげです!お代は幾らくらいでしょうか」
「それじゃ準備と獲物を仕留めるのもあるから、前金で50銀貨出来上がったら残り50銀貨ってとこかな」
「はい!それでお願いします、急にお願いしてすみませんでした」
「いやいや、それじゃ確かに、出来上がったら神殿に持っていってやるから、待っててくれや」
「…良かった」
ナタリーさんと一緒の帰り道。
「しかし、色々な決まり事があるんだねえ」
「本当ですね、私何もわからなくて」
「ちょっと亭主に聞いておくよ、もしかしたら神殿から教えてくれる人を数日でも来てもらえないかとかさ!」
「助かります、ナタリーさん」
「いんだよ、巫女さんが居てもらって助かるのはうちらなんだからね」
あんまり気を張るんじゃないよーなんて言いながら、小道でわかれた。
数人が通ったせいで獣道のような細い跡が神殿に延びている。
そよそよと風で雑草や木が揺れる。
大丈夫かな…、私ここでやっていけるのかな。
『お前みたいなのが満足に出来るわけないだろう!』
耳元にもう聞こえない筈の罵声が甦る。
耳をふさいで立ち尽くす。
大丈夫、大丈夫、落ち着け、ここにあの人達はいない。
ヒロインの仮面が剥がれれば、18で死んでしまった自分に戻ってしまう。
時折、強い風が吹く。
風に乱されていると、後ろから足音が聞こえた。
振り返るとオレンジ色の髪をした背の高い少年が立っている。
「こ、こんにちわ」
「…」
少年は何も言わないで元きた道を帰っていってしまった。
何だったんだろう。
とりあえず、風が強くなってきたので神殿に急いで戻った。
 




