前編
王都にある商業街の一角に、ひっそりと佇みながらも人気の魔法香水店はある。
カランとドアベルの音をたてて入ってすぐ目に入るのは、決して大きいとは言えないその店の壁三面を埋める棚へと繊細な模様の彫られた小瓶がずらりと並べられている光景だ。
窓のない部屋の中でつるされた幾つかのランタンの光を受けてキラキラと輝くそれらは、例えばほんの少し可愛く見せるまじないのかかった香水や、心を和らげるまじないのかかったお香。
気休め程度、けれど確かに効力のある魔法の香水を多くの女性たちは求めてやってくる。
そしていらっしゃいという声に店の奥に目を向ければ若いとも幼いともつかない女性がカウンターからこちらを見て微笑んでるのだ。
ある目的を持って訪れた人はそこで彼女にこう告げる。
「愛の花の蜜が欲しい」
それを聞いて女性―店主は艶やかに笑んでその依頼主を店の奥へと招き入れてくれ、彼らの本当に欲しいものを手に入れるための手助けをしてくれるらしい。
そんな噂が王都でまことしやかに囁かれていることを、店主である女、アナスタシアはもちろん知っている。
むしろそのおかげで商売繁盛しているのだからどんどんと流してもらいたいものだとすら思っている。
とはいえ今は接客中のためその嬉しさはおくびにも出さず内心では満面の笑顔で今の客も招き入れたが、それとは裏腹に彼女から差し出されたものに困惑もしていた。
「本当に?これで作るのです?」
「ええ、そうよ。ソレの持ち主が好む香りを作ってちょうだい」
「本当に?これで?」
その女性客は一見、裕福な家庭の女主人ともとれる恰好をしていたが、それが人の目を掻い潜るための変装であることは誰の目にも明らかだった。
入店からにわかに傲慢な物言いの女性が貴族階級の女性であることはわかっていたことだし、そういう人はよくこの店にも来るのだ。
だからアナスタシアもいまさら彼女の身元になど困惑はしない。
ならば何故彼女が困惑しているのかといえば、例の言葉と共に店の奥の商談スペースに招かれたと同時に投げられるように渡されたものが原因だった。
秘密の合言葉を告げる依頼主たちにはみんな同じ目的がある。
アナスタシアの魔法香水店には多くのまじないのかかった香水やお香、香油などが置かれている。
しかし、それらは個人の持つものに少しの付加効果をかけるくらいなものだ。
周りの異性から好感を得られるだとか、魅力的に見えるようになるだとかその程度で、恋に悩む少女にとっては気休め程度でしかない。
けれど合言葉を告げた後に店主によって案内される品物は違う。
愛の花の蜜がほしい、といったところでそれそのものが出てくるわけではもちろんなく、その言葉は本当にただの合言葉でしかないのである。
彼女たちが求めるのは想い人からの好意。
けれど人の心に直接かける魔法の類はこの国では禁止されている。
だから彼女たちは欲するのだ。
蝶が花の蜜に寄せられるように、想い人が自分に寄ってくるような香りを。
アナスタシアが合言葉と共に彼女たちに提供するのは、彼女たちの想い人が好む香りを放つ香水なのだ。
そしてそれをつくるためには相手の好みをまず知らなければならない。
そのためにアナスタシアは相手の体の一部、例えば毛髪や唾液など、そういったものを持ってくるようにしてもらっている。
そこから魔法で抜き出した情報によって相手の好みにあった香りを作り出すことができるのである。
だからこれまでの女性と同じように今のこの女性も相手の体の一部を持ってきてはいた。
ポス、と情けない音をたててローテーブルに投げ置かれたベルベットの小袋には少し固い質の黒い毛が5、6本程度だけ入っていた。
しかし、その毛を一本手に取ってその質を確かめたアナスタシアは眉根を寄せる。
僅かに感じた違和感に念のためにそう聞いたのだが、女性客は苛立たし気に顔を顰めるだけだった。
「しつこいわね。そう言ってるでしょ?何よ。できないわけ?」
「……いいえ。失礼しました。ではこちらで承ります。この量ですと約一週間ほどいただくことになります」
「一週間も?……まあ、いいわ」
「こちらをよく読んでサインを」
お願いいたします、と言い終わらぬうちに奪い取られた羽ペンで殴るようにサインが書かれてしまった。
よく読みもしないで契約するなんて、この人は何かしらの商売には向かない性質だろうなと思いつつアナスタシアは契約書に目を通した。
しっかりとサインの施されたそれに目を通し、頷いた。
どちらにせよこの契約書に書かれていることは今しがた口頭で説明したことと同じ内容だ。
終始イラついた様子で相槌を打っていた女性客がその内容を理解しているかも疑問ではあるが、こちらは商売規定にのっとって口頭と書面での説明を行ったのだから、その後の責はこちらのものではない。
「一週間後にお手元にお届けいたしますが、用法容量は正しくお使いくださいませ」
態度の悪さにほんの少し上乗せした代金を頂戴して最後の念押しとして告げた言葉も面倒くさげに聞き流したその女性客は荒だたしい音をたてて帰っていった。
これは面倒なことになりそうだなとよく働く勘に則って、彼女は先手を打つべく今しがた成立したばかりの契約書を商業ギルドへと承認させるために店を後にした。
アナスタシアたち商業街の人々が呼ぶ商業ギルドとは王城直属管轄の商業管理組織で、この国で商売するにはそこへの登録が必要になる。
様々な規定や制約はあるが、そこに登録していない店は裏商売と見做され見つけ次第摘発・処分されることになる。
そして何を売ってどれだけの利益を得たのかも商業ギルドに登録しなければならないのだが、まっとうに商売をしていればこのシステムも悪いものではなかった。
それを登録しておけば、うちはこういうものをこういう値段で売りました、という証明をギルドが請け負ってくれるので、よほどのことがない限り客側からの理不尽なクレームを退けることができるからだ。
アナスタシアが取り扱うまじないの香水は特に客の主観によって効き目がどうのと難癖をつけられやすいのでしっかりとした事前説明とこうした契約書の登録を頻繁にしている。
物が物だけに密やかに契約は行われてはいるが、その実情はしっかりと商品としてギルドに登録されている。
もちろん守秘義務としてそれらは厳重に守られ、滅多のことでは表に出ることは無い。
とはいえいつもならある程度溜まってから持っていくのだが、ある種の予感でもって彼女は早々に登録してしまおうと思ったのだった。
哀しいことにアナスタシアのこういった悪い予感はよく当たるのだ。
店の鍵を内側からしっかりと閉め、外から見えるように「CLOSE」の看板をドアの窓に提げてから裏口の鍵もしっかりとかける。
侵入者避けと結界を厳重にかけるのは、この店の香水もそれに使われる原材料も金目のものになりうるからだ。
けれどここに店を構えてからこの店が悪漢に襲われたことは一度だってない。
か弱いように見えて、アナスタシアはこの国でも1、2を争うほどの凄腕の魔術師でもあるのだ。
彼女の結界を破れるような輩はこの街にはいない。
そうしてアナスタシアが例の客と契約をしてから早くも二週間が過ぎていた。
一週間前にはあの女性客待望の魔法香水を届けたが、その後どうなったかは知らない。
彼女と同じように買い求めた女性たちにはその後の展開を感謝の気持ちと共に報告に来てくれることが多い。
ほんの数人恨み言を言いに来るものもいるが、こちらは結果までは責任を負えないことを事前に説明しているためにあちらも強くも言えないのだ。
そういった人たちにはアフターサービスに心を慰めるためのお香や、さらなる魅力を高めるためのおまじないをほどこした香油なんかを破格で提供している。
一応商売だから無料でというわけにもいかないことを申し訳なさそうにすれば案外それで良しとしてくれる。
そうしてまた一人気持ちが浮上した女性を見送ったドアが一拍置いて再び開かれて、アナスタシアは目を見張った。
そこには珍しくも男性が佇んでおり、彼は少し店内を見渡し逡巡したあとに口を開いた。
「愛の花の蜜を」
驚きで声をあげなかったことを褒めてほしい。
この店を開いてから5年と少し、これまで多くの女性客と少しの男性客は訪れていたが、その数少ない男性客の中には誰一人としてその合言葉を口にした人はいなかった。
つまり初めて男性から告げられた合言葉に内心は腰を抜かしそうなほどに驚いていたが、かろうじて保った体面で彼女は店の奥へと彼を案内することができた。
さて、と商談用のソファに向かい合わせで座り早速本題に入ろうかと口を開いたアナスタシアに男は待てというように手を眼前に翳した。
「何か?」
「商談に入る前に確認したいことがある」
「…何をでしょう?」
「まず、ここは商業ギルドに登録されている店で間違いないな?」
商店街のひっそりとした一角とはいえ、堂々と看板を掲げている店に対して当たり前過ぎる問いかけに訝し気にしながらアナスタシアは頷いた。
それから商品の登録や、契約の形態など商人としては当たり前のことをいくつか聞きはじめた男は見た目通り用心深い性質だった。
少し質の悪いシャツに草臥れたようなズボンを身にまとっているくせにピンと伸びた背筋にきちっとズボンにしまわれたシャツのせいでそれらが台無しになるほど、男のいで立ちは庶民からはかけ離れたものだった。
もはや隠す気なんてないんじゃないかと思えるほど貴族然としたこの男をアナスタシアは知っている。
そしてこの男も、きっとアナスタシアの正体に気が付いているだろう。
「最後に、偽名での登録は規約違反じゃないのか、アナスタシア・レイ・ジンデル侯爵令嬢?」
「……ギルドはこちらの事情も汲んで偽名での登録を良しとしてくれていましてよ、マクシミリアン・リー・アルフォード公爵様?原本は本名ですしね」
「そもそもなんで君が商売なんかしてるんだ、ステイシー」
そう言って男、マクシミリアンは呆れたような顔でため息をついた。
どうしても何もアナスタシアがやりたいからに他ならないが、そんなことはこの堅物には理解できないだろう。
令嬢は令嬢らしく、そう思っているような質であることをアナスタシアは不本意ながら知っている。
本当に不本意ながらだ。
この男、マクシミリアン・リー・アルフォードは不本意ながらアナスタシアの幼馴染なのだ。
年齢こそ5つ年上の彼女の兄と同年ではあるが、子供の頃など一緒くたに遊ばされてしまうのだから幼馴染には変わりはない。
幼い頃から兄たちを追いかけ回すアナスタシアに、女の子なのだから大人しくしていろと口うるさく言っていたその性格がほんの数年で変わるはずもないのだ。
しかし、この商売については彼にだって口を挟む余地は無い。
「我が家の方針に何かございまして?」
そもそもアナスタシアの家、ジンデル侯爵家は古くから外商を手広く商い、その手腕で持って国内の商業を取り仕切る役目をになってきた家でもある。
つまり王城管轄の組織のトップは商業庁長官であるアナスタシアの父、バーナード・ヴァン・ジンデル侯爵なのだ。
そこに登録しているのだからこの店も父親公認ということになる。
さらにいえば家督を継ごうが継ぐまいが、1度は何かしらの商売経験をすることがジンデル家の習わしともなっているからこそ、アナスタシアは今こうして商業街に店を構えている。
まあ、たしかに多少がめつく習わしの域を出ていることは認めるが、れっきとした勉強なのだと胸を張った彼女にマクシミリアンはもう一度ため息をついた。
しばらく夜会以外で顔を見ないと思えば、まさか一般市民の多く住まう商業街でこんなことをしているなんて思いもしなかったが、習わしと言われれば彼女の兄もそういったことをしていた心当たりがあったので彼もそれきり言葉を留めた。
「というか、よく分かりましたわね。髪の色も髪型も変えておりましたのに」
「むしろそれでよく誤魔化せると思うな?」
「あら。髪色と髪型が違うだけで雰囲気は変わりますもの、意外と平気でしてよ?」
そう言いつつさらりとまっすぐな黒髪を横に流した。
今彼女の髪は黒く癖のないストレートであるが、本来の彼女の髪はふんわりと波打つ金髪なのだ。
髪以外のその他の目鼻立ちや瞳の色は変えていないのだが、金から黒、ウェーブからストレートに変えるだけで人というのは案外別人として認識してしまうものだった。
現に夜会で何度か会ったことのあるはずの貴族女性とこうして話していても誰一人として彼女がジンデル家の令嬢であると見抜いた人はいない。
もちろんその念頭に侯爵令嬢がこんなところで働いているわけがない、という思い込みも十分に手助けとなっていることは否めない。
「それで?こんなところにまでわざわざお説教でもしに来ましたの?」
「……いや。あの合言葉を言えば特別な魔法香水が手に入ると聞いた」
「まあ!マクシーにもついに春が!」
「違う!最後まで聞け!」
好きな人の好きな香りを求めるための噂を聞いてこの店に来たというマクシミリアンに一瞬アナスタシアはわざとらしく声のトーンをあげてみたが、すぐに怒鳴りつけられて意気消沈してしまう。
「じゃあ、なんですの?違法嫌疑で摘発でもしに来ましたの?あら、でもそんな権限アルフォード公爵にあったかしら?」
「違法商品なら摘発権限はなくとも通報はできるぞ。……いや、そもそもそのために来たわけじゃない」
不貞腐れたようなアナスタシアにマクシミリアンは首を振りそう言うと彼は懐から一枚のハンカチを取り出してテーブルへと置いた。
そのハンカチはよく見れば赤黒いシミのようなものがついている。
「ある女が嫌う匂いを作って欲しい」
「嫌う匂い?」
想い人を射止めるための噂を聞きつけてきたというのに、求めるのはその真逆な効果のものだとはどういうことなのだろうか。
そんなアナスタシアの疑問にマクシミリアンはひとつ頷いて、今現在彼が悩まされている事情を話し始めた。
今社交界には様々な話題を一身に集めている女性がいる。
必要最低限の夜会くらいにしか顔を出さないアナスタシアも件の女性の話はよく耳にするほどだ。
その噂のほとんどは淑女としては眉を顰めるようなものばかりであるにも関わらず、当の本人はまるで気にするでもなく自由奔放に振舞っているのだから大したものだと思う。
すでに見目のいい男を数人侍らせていながら、夜会に出るごとに次から次にまた新しい男に声をかける。
それがまたどんどんランクアップしているのだ。
どうやってなのかは知らないが初めは男爵や子爵などの低位貴族の男が中心だったはずの彼女の取り巻きに、伯爵が加わり辺境伯が加わり侯爵まで加わり始めた。
一時期はあまりにも男たちが簡単に取り巻きになることから魅了などの魔法を使っているのではという疑いもあったが、国の最高位の魔法師の鑑定でも彼女が魔法を使った形跡を見つけることはできなかった。
彼女は彼女の手腕のみで彼らを魅了しているのだと証明されてしまったのだ。
そしてそれが彼女を調子に乗らせることとなってしまった。
このままいけば公爵や王家も魅了できるのではと考えたのかどうかはわからないが、ちゃくちゃくと上り詰めてきた彼女の次のターゲットに選ばれたのがマクシミリアンだった。
マクシミリアンは弱冠22歳にしてアルフォード公爵位を継いだエリート中のエリートだった。
実際には騎士を多く輩出しているアルフォード家の前公爵が病床に伏したために若くして継ぐことになったのだが、そうでなくても優秀な彼が近く爵位を継ぐことは誰もが予想していたことだった。
その容貌も艶やかな黒髪にきりりと整った眉、涼やかな目元に水底を覗いたかのような深い藍色の瞳。
騎士としても活躍をしているために背筋のピンと伸びた逞しい体つきに強く抱きしめられたいと願う令嬢は少なくない。
そしてなんといってもアルフォード家というのが数代に一度王家が婿入り嫁入りしている裏王家ともいえる家系であり、彼自身も祖父が前国王の弟の王位継承権8位を持っている身なのである。
そんな彼は彼女にとってはまたとないターゲットなのだろう。
国随一の魔法師からの思ってもみなかったお墨付きをもらった直後から彼女はマクシミリアンへと接触を始めたらしい。
最初は挨拶から始まり、徐々に話題を広げていく。
その親交の深め方自体には他の女性たちと大差ないものではあったが、なるほどどうにも彼女は相手の心を擽る言動が多いようだった。
魔法でも何でもなく、彼女はずば抜けて恋の駆け引きというものが得意なのだろう。
しかし、マクシミリアンにはその彼女の手腕はどうにも発揮されないらしく彼女がだんだん焦っているように周りには見えていた。
いきなり親し気に話しかけたり、許可なく名前を呼んだり、さらには自慢の体を押し付けるように密着し始めたり。
はしたないともいえるほどあからさまなアピールを夜会のたびにしかけ始めたのだ。
しかし、相手はマクシミリアンなのだ。
小さな子供時代であっても女の子が走り回るものではないと窘めるような気質の男なのだ。
結果その行動は余計彼女に対しての嫌悪感を抱かせるだけで、まったく効果は見られなかった。
「しかも最近は異様な香りを纏っていてな……いい加減どうにかしたい」
「あー、なるほど。それでここに?」
「ああ。相手の体の一部から好きな香りの情報を抜き出して作れるというのならその逆もできるのではないかと考えたんだが、どうだろう?」
「……その発想はなかったですが、確かに可能ですわね」
好き好んで相手の嫌いな香りを欲しがるような人はいないためにアナスタシアもそんなことを考えたことはなかったが、原理としては可能なのだ。
相手の一部が必要な理由は持ってきたものそのものを、好みの匂いを発する魔術を施した液体に浸して香水にするからだ。
ようはその術式を嫌いな匂いに組み替えればいい。
「でもやったことはないことですから、うまくいくかはわかりませんわ。そもそもその方のみじゃなく他の方への影響を及ぼす可能性だってありますもの」
「というと?」
「うーん、そもそも魔法香水というものがどういうものかご存じです?」
「まじないのかかった香水じゃないのか?」
「ああ、ええ。店先に並んだものはそうですわ。けれど、あの合言葉で求められる香水はそれらとは少し違いますの」
訳の分からないという顔のままのマクシミリアンにアナスタシアもどのように説明すればわかりやすいかとしばし考え、言葉を選ぶ。
「例えば、そうね…マクシーは住居を移したことはありますわね?」
「ああ。騎士の仕事に着く時に領地から王都に移り住んだときに王城近くの宿舎をいただいた」
「では、その当時のことは覚えていらっしゃる?部屋に入った瞬間の居心地の悪さ、今まで住んでいたところとは違う空気感を感じたでしょう」
「……たしかに。あったような?」
それももう数年も前のことで、当時は忙しくてそれどころではなかったこともあり朧気ではあるがたしかにそういった気分になったことはある気がする。
「けれど今はどう?帰ればほっと息を付けるのではなくて?」
「ああ」
「それはあなたの匂いがその家に染み付いた結果。人は獣ほど匂いに敏感ではないけれど、だからといってそれに動向や意志、精神を左右されないなんてこともないものですの」
最初こそ居心地悪かったとしても今ではマクシミリアンにとって帰るべき部屋の一つとなっている。
遠征から帰って来た時、残業続きで王城に泊まり込んだ時、部屋に帰りついて一息付けば帰ってきたな、とホッとすることができる場所となっていることは納得するが、それが魔法香水とどうつながるのかはわからず首を傾げる。
「それで?その話と魔法香水の話はどう繋がる?」
「まあ、そう急かさないで。魔法香水は普通の香水とは違い、使う人そのものの体臭を変えますの。そして人それぞれ好みの匂いが違うというのなら、苦手な匂いも違うということ。それはお分かりですわね?」
店頭に並ぶ魔法香水と件の香水が違うものだといったのは、その魔法香水はその香水自体が付いている間だけ香りを発するものではないからだ。
普通の香水ならば日によってまたは時間によって会う人に合わせた香りをつけることが可能だが、この香水はそうもいかない。
徐々に徐々にその人自身の香りと混ざっていき、その人そのものの匂いを変えていくものなのだ。
そしてそれはそう頻繁に変えられるようなものではない。
「多くの時間を共有する家族や使用人、頻繁に会う友達。そういった人ならば徐々に変わる匂いに同時に慣れていって気が付かないこともありますわ。けれど、離れて暮らす祖父母や親族は?長く会っていなかった幼なじみは?夜会でしか言葉をかわさない友人だっているでしょう。そしてそれが彼らにとって苦手な匂いだったら?」
「!」
「きっと、疎遠になることでしょうね。徐々に慣れたはずの人達だって、もしかしたらいつか耐えきれなくなって関係に変化が訪れるかもしれない。そういうものなのですわ、この香水は」
「そんなもの、売ってもいいのか?」
「こちらはちゃんと届け出をだして承認をもらっていますわ。私は今したような説明を購入希望者には説明するし、書面でも渡してますもの。もちろんその場で読んでもらって承諾のサインも貰う。ちゃんとそういう契約だもの。好きな人の代わりに信頼する人を失ったとしてもこちらの責任ではないんですわ」
実際にこの商品がどのように作られてどのような効果をもたらすのか、そういった仔細をアナスタシアはギルドへと登録している。
この香水のもたらすメリットとデメリットを考査したうえで承認を得て販売している。
そしてそれら全てを了承した証として契約書にサインをしてもらっているのだ。
「それに、わたくしが不適切だと判断した人には売っていません」
「不適切?」
くどいほどの事前説明と契約書のサインにはもう一つの意味がある。
長ったらしい説明にはその重大さを何度も言い聞かせ、考えさせることが目的なのだ。
店頭の香水は洗って落とせば効果は消えるが、この香水はそうではない。
今まで培ってきた関係性や周辺環境を変えてしまうようなことであり、それらは容易に取り戻せるものではない。
そうまでしてその恋にそれほどの価値があるのかどうか。
そして本当にそうでもしないとその恋が叶わないものなのかどうか。
さらにいえばそうしたからと言って必ずその想い人を射止められるとも限らない。
説明を聞くほどに迷いを見せる客にはもう一度しっかりと考えなおすことを勧めてお引き取りしてもらい、それでもどうしてもという人にアナスタシアはその香水を売っている。
二週間前の女性客のように簡単にサインしてしまう人の方が珍しいことであり、たいていの客はそこで思いとどまることができるのだ。
「幸いにしてこれまで大きく人間関係が拗れたという人はいないけれど、それでも可能性は否定できない。それが誰かの嫌う匂いだというのならなおのこと」
「では、できないと?」
あまりお勧めはできないという気持ちが滲んだ言葉にマクシミリアンは沈んだ声を出した。
気落ちして落とした肩が頼りなく小さく見えて、なんとなくアナスタシアを罪悪感が襲う。
「……作ってから決めてもいいですわよ。身体につけるから体臭が変わるのであって、まず瓶に入れた状態や物につけた状態で周囲の人に確かめてもらうこともできるでしょう」
「試用期間ということか?」
「本来はそんなものないですが、今回は事情が事情ですものね」
大事な幼馴染の危機ですもの、といたずらっぽく笑ったアナスタシアにマクシミリアンも苦く笑った。
では早速とりかかろうかとハンカチを手に取ったところで、ドアベルの音が鳴り、ついで合言葉を告げる声が聞こえた。
その聞き覚えのある声に二人は顔を見合わせ、途端に慌て始めた。
「とりあえず念のため奥の部屋に!」
「あ、ああ!」
商談スペースよりもっと奥にある調香のための部屋にマクシミリアンを押し込め、アナスタシアは急いで彼のいた痕跡を消して店先へと戻る。
そこには二週間前の女性客であり、マクシミリアンの悩みの元でもあった女性が怒ったような顔で佇んでいた。
「ちょっと!全然効果ないじゃない!会うたび香水をつけてすり寄ってるのに全く靡く気配もないのよ!?」
「…お客様、事前に説明しました通り効果の出方には人それぞれ差があるのです。すぐに効果の出る人もいれば一か月、半年、一年と徐々に効果の出てくる方もいらっしゃいます。もしかするとお相手様はそういった方かもしれません」
「はあ?一年も待てっての!?どうにかできないわけ!?」
「そういわれましても、この商品以上に効果的なものはございませんし……」
「作る努力しなさいよ!…まあ、いいわ。もうなくなりそうなの、追加で作ってちょうだい」
「え!?もう!?お客様、用法容量はお守りくださいとあれほど」
「うるさいわね!効果が薄いのが悪いんでしょう!?早く追加ちょうだい!」
苛立ちのままカウンターを叩く女性に再三告げた注意事項をもう一度言うも頭に血が上りきった彼女は全く耳に入らない様子だった。
用法容量を守るべきではあるが、守らなかったからと言って直接体に害をなすようなものではない。
精神面から体調不良を起こすことはあるが、ここまで情緒不安定になるほどに多用する人はいなかったためこれが容量を守らなかったせいなのか元々の彼女の気性によるものなのか判断できなかった。
このままでは怒りに任せて店内にあるものに当たり散らしかねないと思い、アナスタシアは急いで追加分を用意すると約束して一度お引き取り願うことにした。
一応これまでの商品はサンプルとして手元に残してあるので、そこから同じ商品を作ることは難しいことではなかった。
なので2、3日中にお届けしますと言えば、彼女はあっさりと店を後にしていった。
嵐のような来客に今日はもう一日の元気を使い果たしたような気がして、アナスタシアはそのまま店じまいすることにした。
そしてすっかり施錠してしまってから店の最奥、調香室へと入ればそこには顔を青くしたマクシミリアンが待ち構えていた。
「おい……おい、まさか。まさかだよな?」
「お相手の方のお名前は契約上聞かないことになっております。が、彼女が持ってきたのは黒毛髪数本でしたわ」
「そんな!」
その情けない顔で悲鳴のような声をあげるマクシミリアンを見せればあの女性も彼を諦めるのではないだろうか。
一瞬そう思いはしたが、すぐにあの人がそんなことで諦めるとは思えなくてその考えを打ち消した。
そしてどうにかしてくれと縋るマクシミリアンを押しのけるようにアナスタシアは調香台へと足を進めた。
「とにかく!まずはマクシーの依頼をこなしますわ。今チャチャっと作りますから待っていてくださいな!」
「そんなすぐにできるものなのか?」
「通常は皆さん毛髪ですとかそういうものを持ってきますけれど、マクシーはどうやって手に入れたのかは知りませんが彼女の血を持ってきましたので情報を得やすいんですの。どうやって手に入れたか知りませんが!」
「それは彼女が夜会でヒステリックにワイングラスを割った拍子に」
「別に説明はいりません」
そういえば数日前に彼女が他の令嬢と言い争いの末にワイングラスをたたき割ったという噂が出ていたような気もする。
その時に怪我でもした彼女にマクシミリアンは騎士精神に則ってハンカチを貸したのかもしれない。
その紳士的な行動が余計に彼女の気持ちを高ぶらせている原因となっているとは露とも知らずに。
嫌なら関わらなければいいものを、女性=守るべきものとして見ているマクシミリアンにはどうにもそれができないようだ。
罪な男である。
まず初めに彼女は羊皮紙を取り出しそこに魔法陣を書き込み始めた。
魔法とひとえに括っているが、この世の中には二種類の魔法が存在する。
一つは精霊魔法。
これは精霊の力を借りて魔法を繰り出すもの。
その人そのものには魔力がない場合が多く、精霊と心を通わすことで発動するので魔法陣や詠唱なしでも魔法を使うことができる。
もう一つは魔術。
こちらは使う人自身に宿る魔力を魔法陣や詠唱を媒介にして魔法へと変えるもの。
魔力と知識があれば誰でも使うことができるが、精霊魔法には劣るものだ。
一般には全てまとめて魔法使いと呼ばれているが、正式には前者は魔法師、後者を魔術師と区別している。
ちなみにあの女性の鑑定をしたのは魔法師なので彼女は精霊によって魅了ではないと判断されたことになる。
魔法陣を駆使してまじないをかけるアナスタシアが使っている魔法はもちろん魔術だ。
アナスタシアは近年稀にみる魔力量を持って生まれ、本人も強く魔術に興味を示したこともあり成人した暁には王城の魔術師になることが決まっていた。
それまでの力試しと趣味の研究もかねて家の習わしの商業経験を魔法香水の店にしたのだが、思いのほか楽しくなってしまい期限だった二年を超越してもう五年も続けてしまっているのだ。
来年には魔術師として城へ上がることになるのでこの店もやめなければならないのだが、あまりにも人気がありすぎてどうにかして続けるすべはないかと父親に掛け合っている最中でもある。
すらすらと羊皮紙に魔法陣を描いていくアナスタシアの手元をマクシミリアンは感心したように見守っていた。
陣に描かれる模様や文字は用途によって違うものを使っているらしいが魔術師ではない彼には魔法陣はみな同じものに見えてしまう。
所属する部隊の中にも魔力を持つ騎士はいるため全く見かけないことはないが、そもそも騎士団で魔法陣は戦闘補助付与や回復付与、もしくは罠などしか使っていないために他の魔法陣を見る機会などなかった。
子供のころには度々アナスタシアがお披露目してくれたこともあったがそれぞれ大人になるにつれそんな機会はなくなっていた。
小さな白い手が迷わず引いていく線を見て見事なものだと思わずにはいられない。
最後の一筆を描きようやく羊皮紙から顔をあげたアナスタシアは思いのほか近くにいたマクシミリアンに驚いてしまった。
今しがた描き上げたばかりの魔法陣に視線を落とし、伏せられたまつげは女性が羨むくらいに長い。
幼馴染で見慣れていたはずのアナスタシアでさえもことあるごとに見惚れてしまうのだから、社交場の女性たちが熱をあげるのも頷けるというものだ。
今も夜会などで挨拶と少しの会話を交わす仲ではあっても、こんなに近くに寄ったのなんてマクシミリアンが騎士団に入団する前以来だろうか。
小さいころは距離など全く気にせず鼻先が触れそうになるほどに顔を突き合わせて内緒話をするのもよくあることだった。
今のように魔法陣を興味津々で覗き込んではすごいと褒めてくれた笑顔に、幼いアナスタシアが恋をしてしまうのなんて必然的なことだろう。
アナスタシアが大人しくしていろと窘められてもマクシミリアンについて回っていたのは少しでも彼と一緒にいたいという健気な恋心ゆえのことだった。
それも成長して相手からどのように見られているのか理解するにつれて出来なくなってしまったけれども。
あの頃はまだ幼さも残っていた顔つきは今ではもうすっかりと男らしいものへと変わっていた。
騎士として活躍をし、爵位も継いで社交界に名を馳せる彼はもう自分だけの幼馴染ではなく、みんなの憧れとなってしまっている。
夜会で女性に話しかけられているのを見る度に胸が締め付けられるような思いをしているが、例え妹と見られているとしても自分と話している時の親愛の籠った微笑みを見るだけでアナスタシアの気持ちは幾分か慰められた。
幼馴染という立ち位置に甘んじてアピールすることもできない臆病者だと罵られるとしても、まだもう少しこの近くも遠くもない位置で彼を見ていたいと思うことくらい許してほしいと思う。
じっくりと見すぎていたのか不意にその視線があがり目が合ってしまい、アナスタシアは慌てて視線を逸らした。
熱くなっていて自信はないが耳が赤く染まっていないことを祈りながら誤魔化すようにマクシミリアンから離れて材料を取り出し始める。
「そういえばマクシーは香水はつけない人でしたわよね?」
「……ああ、匂いで敵に勘づかれることもあるし、要人警護するにしても周りのものが皆それぞれ違う香りをさせていたら気分を悪くすることもあるからな」
「そう、なら香水よりも香油のほうがいいかもしれないわね。一日の終わりにそれでマッサージすることで疲れも取れるでしょうし」
これまでは相手が女性だったからこそ香水の一点張りだったが、マクシミリアンのようにそれまでつけなかった人がいきなり香水をつけるのは違和感があるだろう。
香油ならばリラックス効果のある香油を手に入れたとでも誤魔化しがきく。
そう思って普段使っている精製水ではなく油を手に取った彼女は魔法陣のうえに置いたガラスの器へとそれを注ぎ、ハンカチをそれの中へと浸した。
そしてそれに手をかざしたアナスタシアは魔力を手のひらに集中させる。
そうすれば見る見るうちにハンカチから固まっていた血痕が染み出していき、ついには溶けて消えてしまった。
それからまた違う魔法陣のうえに器を置き換えて魔力を注げばなんの変哲もなかった油が強く香り出した。
しかし、香ってきた匂いに二人して首を傾げる。
女性の嫌う匂いというからには多少異臭を覚悟していたのだが、これはそれとは似つかないどこか懐かしいような香りをしていたからだ。
「なんか……思ったよりもいい香りだな」
「そう、ですわね…この香りが嫌いだなんて、変わったお方なのね」
「なんだろう。少し安心するような匂いだな」
「それはよかったですわね。使う側の人間が嫌うようでは自分の体調を崩す恐れもありますもの。好みの香りであるに越したことはありませんわ」
そういいながらアナスタシアは数ある瓶の中から比較的シンプルなものを取り出してその中に出来上がった香油を注いでいく。
そして大小二種類の瓶に入れたそれをマクシミリアンの目の前へと差し出した。
「まず小さな方の香油を二、三日持ち物などにしみこませて関わりの深い方や関係を壊したくない方への確認に。それがすんで問題無さそうならあとは普通の香油と同じようにお使いくださいな」
小さな方と言われた瓶は普段はサンプル品を補完するために使っているもののために本当になんの飾り気のない無色透明の瓶だった。
対して大きな方はシンプルと言えどしっかりと繊細な装飾が施されており、濃紺のガラスがランプの光を受けて水面のように輝いていた。
受け取ったマクシミリアンがそれを揺らせば、水よりも重い粘度をもった液体がとぷんと揺れる。
「マクシーは普段香水をつけない性質ですし、疲労回復付与もつけておきましたからマッサージがてら適量を手に取って首筋などに揉みこめばよろしいですわ。もちろんマッサージ後は余分な香油は丁寧に拭き取ること。あとは夜会や彼女に会いそうな時の前にほんの一滴だけ耳裏や手首に落とせば十分でしょう」
「わかった。本当にありがとう」
「どういたしまして。くれぐれもつけすぎないように。過ぎる香りは下品ですわ」
「肝に銘じておくよ」
最も重要とばかりに指を立てて注意するアナスタシアにマクシミリアンは苦笑を浮かべながらもつけすぎないことを約束した。
それから数日後、アナスタシアはジンデル家のタウンハウスにてマクシミリアンからの手紙を受け取った。
手紙の内容は香りの問題はなく、今はマッサージがてら香油を揉みこんでいるという。
試用期間と言ったせいか報告書並みに固い文章で周りの反応も詳しく書かれていた。
なんでもみんな一様に香りを纏っていることを珍しがってはいたが、その後すぐに訳知り顔で頷くのだそうだ。
中にはにやにやとしながらお前もついに色気づいたか、なんて言ってくるものもいたそう。
少しだけ不愉快そうな顔のマクシミリアンを想像してくすりと笑ったアナスタシアも次の一文には首を傾げることとなった。
《そういえばジンデル侯爵とブライアンにも確認のため別々に会った時のことなんだが、二人ともにステイシーに会ったのかと聞かれた。二人に店を訪れたことを話したのか?》
ブライアンというのはマクシミリアンの同い年のアナスタシアの兄のことだ。
彼は商業庁長官である父の跡を継ぐために今は父の補佐官として城勤めをしている。
そのために父と兄は家族であるアナスタシアよりもマクシミリアンと顔を合わせることの方が多い。
確かに定期的に父や兄に手紙で近況報告は行っているが客として訪れたマクシミリアンのことは報告はしていない。
商売人は信用が第一なのだから身内だろうと顧客情報をおいそれと他者に教えはしないのだ。
だというのに父と兄がアナスタシアのことを口にしたということは、何かしらの勘でも働いたのだろうか?
二人とも妙に勘に鋭いところがあるためありえなくもないと一人納得したが続く文章に目を通して焦り始めた。
《来週の狩猟大会には魔術師としても協力すると聞いた。ちょうど彼女も父親に同行するようだから、効果をその目で確かめてほしい》
この狩猟大会のことをすっかりと忘れていたのだ。
狩猟大会は5年に一度のスパンで行われるのだが、基本的にこの大会は国王と王子、貴族位の各家から一人の他は騎士団や兵士の中からも希望者が狩猟に参加することができる。
そのほとんどは男性で、女性で狩猟へ参加するのは騎士団と兵士団に入隊している人くらいなものなのだ。
しかしこの大会も立派な社交場ともなっているために夫人や令嬢も会場へと同行はする。
とはいえ狩猟自体に参加しない彼女たちは拠点で優雅にお茶会などをしながら参加者の帰りを待つだけとなる。
そんな大会に普通の令嬢ならば当日までにどの服を着て行こうかくらいで済むが、アナスタシアはそうもいかない。
武の心得のない彼女が狩猟へ出ることはないが、魔術師として様々なまじないを施した武器や罠、治療道具などのサポートグッズを用意しなければならないのだ。
このことは数か月前に招待状と共に知らされていたのだが、大会のこと自体すっかりと忘れていたアナスタシアはそれらに全く手を付けていなかったのだった。
本来まだ正式な魔術師になっていないアナスタシアには絶対の強制力はなく協力を求む程度のものではあるが思い出したからにはやれるだけのことをしなければならない。
そうと決まればすぐに用意をして集中できるところへ行かなくてはと、近くにいた侍女へと数日の着替えの準備をさせた。
タウンハウスにもサポートグッズをつくるだけの設備はあるが、商業街にある店に併設した工房の方が材料の買い足しなどにも便利だ。
「リナ、私しばらく工房に籠るわ。一応通信は繋げておくけれど、必要最低限以外の来客はお断りしてくれる?」
「かしこまりました」
そう侍女頭に言い置いてアナスタシアは用意させた荷物を持って商業街へと出かけて行ったのだった。