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壊腕  作者: Oigami
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第八話:暴露

 外から演習場を見ていた昴は、目の前の光景に絶句した。


「は……?」


 くわえていたタバコがグランドに落ちる。昴の回りにいる生徒達も同じように絶句し、目の前の光景を呆然と見つめていた。視線の先には演習場の一部が崩壊していた。そして、崩壊した二階から二つの人影が現れ、三階の外壁を破壊して中に消えて行った。


「今のって……」

「ああ……」

「鬼神と獅士……だよな?」

「あーあ、あんなにぶっ壊して……」

「どういう戦いをしたらあんなに壊れるんだよ……?」






 三階。

 破砕音が響き、窓ガラスとコンクリートの壁が砕けた。


「い、いいんですか闘鬼さん? こんなに壊して……」

「さぁな。だが、これだけ荒らしても姿を現さんとは……真紅、他に探していない場所はどこだ?」


 闘鬼は瓦礫を退けながら問う。


「ここで最後です。それより、辰希さんと魔衣さんと合流しないんですか? 二人ともこの階にいるみたいですし」

「あれはあいつらの仕事だ。俺達は俺達の仕事をする。それだけだ」


 そう言ってから、闘鬼は歩き始めた。


「どこに行くんですか? もう全ての場所を探したはずですけど?」

「ああ、頭で認識した場所はな……」


 闘鬼は歩きながら壁や天井を破壊しはじめた。


「な、何してるんですか!?」

「さっきも言ったが、人魚の『唄』は特殊な周波数を出していると言っただろう?」


 真紅は頷く。


「それと『唄』には、もうひとつ厄介な能力がある。催眠術や暗示をかけることだ」

「それじゃあ…霧谷さんは僕らに暗示か催眠術をかけて隠れていると?」

「ああ」

「じゃあ、この破壊の意味は……?」

「身を隠しながら俺達に暗示をかけ、さらに自分の小隊メンバーと連絡を取るにはどこかで動かずに集中しなければならない。だから奴をいぶりだすためには、集中できない環境にすればいい」

「なるほど……でも霧谷さんが動いてないって確証はあるんですか?」


 真紅は飛び掛かる破片を避けながら問う。


「昔、これと同じものを喰らったことがある。対処法も今回と同じだ。だが、その時は回りを焼き払ったがな……」


 闘鬼は微笑をまじえながら答えた。


「そ、そうなんですか?」

「……この階にはいないようだ。次の階に行くぞ」


 そう言って闘鬼は床に拳を振り下ろす。破砕音が響き、床に2メートルほどの穴が空いた。闘鬼はそこを通って二階に降りた。

「ちょっと! ……無茶苦茶な人だな……」


 真紅はため息をついてから後に続く。





 三階。


「速すぎよ魔衣ちゃ〜ん!」


 演習場の屋上で魔衣と水瀬の二人が飛び交う。


「蕨さんが遅いだけですよっ」


 二人は空中で交差するように攻防を繰り返していた。

 魔衣は持ち前のスピードを駆使し、アクロバティクな動きでフェイントをしかけつつ水瀬を翻弄していた。対する水瀬は、防戦一方。


「行きますよ!」


 魔衣はコンクリートの床上ギリギリを飛び、下から上にえぐるような攻撃を仕掛ける。水瀬は紙一重で身体を後ろに倒し、魔衣の爪を交わす。

 (確かに速いわね……でも……)身体を起こし、地面と水平にスライドするように飛ぶ。


「次は当てますよ!」


 魔衣は水瀬の真上に移動し、翼を折り畳み、垂直に落下するように突撃した。


「甘いわよ魔衣ちゃん!」


 水瀬はスライドするように交わすと、破砕音を立てて魔衣が床に激突した。


「直線しか動かないなんて、猪じゃないんだからさ〜ちょっとは考えないと駄目よ?」


 水瀬は笑みを作りながら魔衣の落下地点を見る。が、

「…あれ?」


 そこに魔衣の姿は無く、代わりに50センチ程の穴が空いていた。


「まさか……ヤバイ!」


 瞬間、水瀬の足元が割れ、魔衣が真下から角を突き出し、床から飛び出した。


「くッ!」


 咄嗟に左にスライドして交わす。


「惜しい!」


 魔衣が空中で減速し、浮遊する。


「惜しい! ……じゃないわよ魔衣ちゃん! こんなのまともに当たったら死ぬわ! それよりその角って飾りじゃなかったの!?」

「何をおっしゃる蕨さん! どこの魔族が、伊達や酔狂でこんな角を生やしますか? 魔族の角の強度は、軽く金剛石以上というのは常識です!」


 えへん、と付け加えて魔衣は水瀬を見下ろす。


「金剛石て……普通にダイヤモンドって言えばいいのに……」


 水瀬は苦笑しながら、思考を巡らせる。

 (自爆させることもできないとなると……やっぱしあの直線的な動きを見切るか……動けないようにするか……いっそのこと取って置きを使おうか……)体制を低くして構える。


「さてと……行くわよ!」


 水瀬は緩やかに水平移動しながら徐々に加速すると、残像を発生させた。


「やりますね! でも……それくらい私もできますよ!」


 魔衣が同じように残像を発生させながら直線移動で速度を上げると、水瀬の残像が一つ一つ独立して動き始めた。


「え……残像じゃ……ない?」


 魔衣が気づいた時には数人の水瀬が魔衣を取り囲んでいた。


「分身!?」


 咄嗟に真上に加速した瞬間、

「は〜い捕まえた〜」


 真上にいた別の水瀬に捕らえられた。


「!?」


 水瀬の拘束を振りほどこうともがくが、次々と分身の水瀬が魔衣を取り押さえる。


「マト○ックスですかこれは!?」

「ムフフ〜リローデットは私も見たわよ〜。意味不明だったけどね……――さてと関節技と吸血……どっちからいく?」


 水瀬はニヤニヤしながら魔衣の両肩の関節を外す。


「選択肢はないんですか!?」

「やっぱり〜、血を吸ってる時に暴れられたら困るしね〜」


 笑いながら両足の関節を外す。


「じゃ……いただきま〜す!」


 魔衣の首筋に牙を立て、噛み付く。


「ほほう……これはなかなか……美味ね!」

「あ……」


 水瀬が魔衣の首筋から歯を離すと、魔衣が消えた。


「あり……? そんなに吸っちった? ……つーか、ヤバイじゃん! アタシ魔衣ちゃん殺しちゃったのか!?」


 瞬間、真下のコンクリートが割れ、魔衣が現れた。


「あれ?」


 水瀬が下を向いた瞬間、魔衣の拳が水瀬の顎を打つ。


「残念でしたね蕨さん! その分身は私の血を使った特別製です!」






 二階。

 部屋という部屋は破壊され、壁という壁には穴が空き、通路には瓦礫が散乱している。


「……闘鬼さん……楽しんでません?」

「そう見えるか?」


 真紅の問いに、闘鬼は鼻で笑う。


「ええ……すごく……」


 真紅は顔を引き攣らせながら闘鬼を見ていた。


「それにしても……この階にも霧谷さんはいませんね。一体、どこに隠れているんですかね?」


 辺りを見回すが、人影はない。あるのは闘鬼が破壊した物の成れの果てだけだった。

「真紅、残り時間は?」

「あと4分です。このまま時間切れを待ちますか?」

「4分か……それだけあれば十分だ。真紅、モニターをしっかり見ていろ。いいな? 霧谷が集中を乱しても、センサーにかかるのはおそらく一瞬だ。絶対に目を離すなよ?」


 言ってから、闘鬼は柔軟体操を始めた。


「何をするんですか?」

「いいからモニターを見ていろ」


 真紅は端末のモニターに目を移しながら、闘鬼の様子を見る。すると闘鬼の身体から火花が散ると同時に、身体が赤く染まり、頭部には深紅の角が一対と、人間の時とは対称的な漆黒の髪が背まで伸びている。


「もう一度言う、モニターから目を離すなよ?」

「は、はい!」


 真紅は目をモニターに移した瞬間。


「行くぞ!」


 闘鬼の身体が消えた。その刹那、床や天井、壁が次々と破壊され、飛び散る破片は空中で粉々に砕けた。建物そのものが悲鳴を上げるかのように内部が崩れていく。


「ちょっ!? ええ!?」


 真紅は頭を抱え、身体を丸める。だがそれでもモニターから目を離さない。破壊は徐々に拡大し、上の階や下の階からも破砕音が響く。


「まだか真紅?」


 破砕音と共に、闘鬼の声が響いた。


「ま、まだ出ません!!」


 真紅が答えた瞬間、破壊のスピードが更に上がった。


「うあぁ!!」


 数秒後、モニターに表情されていた一部に黄色い光が点滅し始めた。


「い、いました! い、一階、正面玄関の隣の部屋です!!」


 真紅は力のかぎり叫ぶ。


「よくやった」


 闘鬼の声が聞こえたかと思うと、内部の破壊が一瞬で止んだ。






 一階。


「!?!?」


 突然のことに湊は頭を抱え、声も出せずにうずくまっていた。建物の内部が揺れ、瓦礫が次から次へと落ちてくる。


「な、何……?」


 揺れが収まり、辺りを確認すると瓦礫が散乱している。


「は、早く……しないと見つかっちゃう」


 湊は『唄』のために再度集中する。が、突然天井が砕け、何かが落ちてきた。


「こ、今度は……何?」


 恐る恐る何かが落ちた場所を見ると、そこには血のように赤い身体の鬼が立っていた。


「あ……あぁ……あ……!」


 その姿を見て、恐怖のあまり声が出ない。なんとか声を絞り出して発した言葉は、

「鬼神君……?」


 恐怖で目に涙を浮かべながら闘鬼を見る。


「心配するな、手荒な真似はしない。ただ少しの間だけ眠ってもらう」


 闘鬼は元の姿に戻ってから湊の背後に回り、首筋に手刀を打つ。


「あ……?」


 湊の身体が力なく倒れる。闘鬼はそれを瓦礫にぶつからないように支えた。






 三階。

 四分前……


「やはりやるな! 海東・辰希! この俺の攻撃を全て防ぐとはよ!」


 詞凶は笑いながらステップを踏む。


「む……無事か……先生……?」


 辰希は詞凶を見据えながら左腕に抱えている三嶋に問う。


「私に心配は無用ですよ海東君、それより自分の事に集中しなさい」


 三嶋はニッコリと笑って返す。


「む……了解した……しばらく揺れるが……辛抱してくれ……」


 三嶋の承諾を得ると、辰希は翼を畳み、右手を前に突き出す半身の構えになった。


「はは! 見たことない構えだな! どんな戦い方をするんだ?」


 言ってから詞凶が動いた。三歩のステップで、加速をつけて跳び蹴りを放つ。辰希は尾で詞凶の脚を弾き、詞凶がバランスを崩したところで、右拳を放つ。


「はッ! おもしれぇ!」


 詞凶は一瞬で体制を立て直し、辰希の拳に正面から己の拳を打ち込む。


「む!?」


 拳同士がぶつかると、詞凶の拳が辰希の拳を弾いた。

 詞凶はその隙を逃さず脇腹を狙って蹴りを放つ。が、辰希は右翼で脇腹を覆い、防ぐ。すかさず尾で詞凶の身体を打った。


「お!?」


 両腕を交差してダメージを軽減するが、身体は衝撃で吹っ飛ぶ。


「あらよっと……」


 宙で身体を捻り、受け身を取って着地。


「ははは……強いな! 海東・辰希! 俺が本気出してるのにまだ倒れてない、つーか俺に一撃入れてる……愉しいな!」


 詞凶は少女のような純粋な笑顔で辰希を見ていた。





 狂人族・バーサーカーと呼ばれ、戦いを求める戦闘狂。詞凶はその種族に生まれた存在であったため、幼少より戦いの中で生きてきた。

 だが、今までの相手のほとんどが普通の人間であった。銃や刃物などの武器を使って戦う人間でも、所詮は人間、人ならざる者である詞凶の敵ではない。

 だがしかし、今、この瞬間、目の前に自分と互角、もしくはそれ以上の実力者と戦っている。おそらく自分の全てを出し切らなければ勝利はない……。詞凶にとってこれほど愉しい時間はなかった。


「行くぜ! 海東・辰希!」


 詞凶が前に出ると、両サイドの壁を蹴りながら変則的な動きをする。


「む!」


 辰希の真上に移動し、天井を蹴って回転を加えながら辰希の脳天に踵落としを放つ。


「オラァ!」


 翼で頭を覆う前に詞凶の踵がヒットした。


「むぉ!?」


 甲殻に弾かれる事なく詞凶は踵を振り切る。辰希の身体が前に倒れそうになるが、踏み止まった。


「む……!」


 顔を上げて詞凶を見ると、詞凶はすでに辰希の懐に入り、拳の乱打を浴びせた。


「そらそらそら!!」

「ぐ…む……!」


 辰希はなんとか耐えていたが、

「フィニッシュ!」


 一番強烈な拳がヒットした。


「ぐぉ!?」


 辰希の身体が後ろに吹っ飛び、後方にある壁に破砕音を立てて激突した。


「む…やるな……だが!」


 辰希は身体を起こし、翼を広げて壁を蹴る。数瞬でトップスピードまで加速し、飛行した。


「は! おもしれぇ! 返り討ちにしてやんぜ!」


 詞凶は右拳を引き、構えた瞬間、一瞬、風が通り抜けた。すると目の前に飛んでいたはずの辰希が消えていた。


「どこ行った……?」


 詞凶が振り向くと、三嶋を抱えた辰希が立っていた。


「は…マジかよ……ここまで力の差が……でも愉しかったぜ」


 瞬間、風の塊が詞凶の身体を打つと、終了を告げるブザーが鳴り響いた。

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