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壊腕  作者: Oigami
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第三話:紹介

 学校から走ること1時間、闘鬼は自分の住むアパートに帰宅した。

 ギシギシと音を立て、今にも抜けてしまいそうな廊下を歩き、アパートの端まで進むと、『105』と書かれた部屋の前で足を止める。ポケットから部屋の鍵を取り出して鍵を開け、中に入る。すると玄関に下駄が一足あった。

「散歩に行くか…」


 それを見て闘鬼は呟き、部屋を出て鍵をかける。


「待て待て待て! 待たんか闘鬼!」


 慌てたような声が部屋の中から聞こえてきた。ガチャっという鍵の開く音の後、黒いジャケットを着た丸坊主の男が現れた。


戦鬼(センキ)兄さん……」

「闘鬼、実の兄がせっかく出向いているというのに無視することはないだろう?」

「何故兄さんが俺の部屋にいる? 何をしに来た? 不法侵入で訴えるぞ?」


 闘鬼の問いに戦鬼は苦笑して答える。


「久しぶりに会ったと言うのに酷い言い草だな貴様は……用は二つある……一つはこれだ」


 戦鬼は紙袋を取り出して渡す。


「学ラン、今度は盗聴器がついていない普通のものだから安心しろ」


 紙袋を受け取り、

「ああ、牛鬼に礼を言っておいてくれ」


 返事をしてから闘鬼は部屋のドアを開けて中に入り、鍵をかける。


「もう一つはどうせクソ親父からだろう? 用が済んだら帰ってくれ、兄さん」


 戦鬼はため息をついてから続ける。


「……一応伝えておくぞ『学校で天下取れ!』だそうだ。相変わらずわけのわからん事を言う親父殿だ」


 ドア越しに闘鬼が答える。


「馬鹿なだけだろう?」

「そうかもしれんな……」


 戦鬼の苦笑の後、ドア越しの下駄の音が小さくなっていった。


「そうだ……何かあったら何時でも相談していいからな」


 それだけ告げると、下駄の音が遠くなっていった。






「やっと帰ったか……」


 呟き、必要最低限の家具しかない殺風景な部屋に入る。学ランをハンガーに掛けて、布団を敷いてから闘鬼は目を伏せ、眠りにつく。








 朝。

 8時30分、予鈴のチャイムが響き、ざわついていた生徒たちは各自の席に着く。教室の扉が開くと、ハイテンションの昴が入ってきた。


「よぉーみんな! おはようさん! じゃあ早速宿題集めるぞ〜。一番後ろから宿題を前に回してくれ……って一部の連中凄い虚ろだな……」


 昴がノートを回収し、一人一人のノートを見ながら朝礼を始めた。


「じゃあ今日の時間割を説明するぞ〜! 1時間目は昨日の自己紹介の続きだ。2、3時間目はお待ちかねの小隊メンバーの発表と小隊の交流を深める親睦会で、4、5、6時間目は親睦を深めた所で早速、小隊同士の演習と、他クラスとの演習だ。先生の経験上、演習は結構キツイから頑張れよ〜! そんじゃあ早速、昨日誰かさんに中断された自己紹介の続きだ!」


 すると虚ろだった男子生徒達の目が一瞬で輝きを取り戻し、騒ぎ始めた。


「じゃあ霧谷!」


 長髪でおとなしそうな外見の少女、霧谷が席を立つ。すると男子生徒達が歓声を上げた。


「え……あ……」


 男子生徒の威圧感に霧谷は泣きそうな顔になる。


「ええい貴様ら! 静かにしとれんのか! 霧谷、大丈夫か? 無理するなよ? 大丈夫だったら始めてくれ」


 昴は優しい口調で促す。霧谷はゆっくり頷いてから始める。


「き、霧谷・湊(キリタニ・ミナト)です……あの……えと……種族は、人魚……です。よろし……」


 湊が言い終わる前にテンションの高かった男子生徒達のテンションが更に上がった。


「マーメイド来たー!!」

「マァジッすか!? 魔衣ちゃんといい、このクラスは宝の山だ〜!」


 そして男子達の間で、

「人魚! 人魚! 人魚!」


 そんな、意味不明なコールが巻き起こった。その光景に湊は動揺し、目元に涙を溜めて今にも泣き出しそうな表情で昴に助けを求める。

 そして昴が教卓を叩き、

「てめぇら! 次やったら喉笛食いちぎって校庭に曝すぞコラァ!?」


 牙を剥き出して男子生徒達を睨む。それを見た男子生徒達は皆一瞬で正座をし、頭を床に擦りつけて土下座をした。


「じゃあ気を取り直して次、隣の列いくぞ〜」


 二列目の先頭に座る、金髪の女子生徒が席を立つ。


佐熊・詞凶(サクマ・シキョウ)、種族は狂人……バーサーカーって言えばわかるか? まぁ3年間よろしくな」


 突然、おとなしくしていた男子生徒の一人が立ち上がり、詞凶に向かって叫んだ。


 「詞凶さん! 姐御と呼ばせて下さい!」


そして土下座をする。


「お、おう?」


 状況が飲み込めないまま詞凶が頷くと、俺も! 俺も!、と別の生徒が次々と手を挙げて立ち上がる。また騒ぎになるかと思われた瞬間、昴がガチッという音を立てて歯を鳴らした。すると教室に元の静けさが戻った。


「よ〜し次!」


 前髪の一部が赤い、眼鏡をかけた青年が立った。


「獅士・真紅です。種族は獅子族で、趣味と特技はハッキングです。よろしくお願いします」


 またしても、男子生徒が席を立つ。


「獅士! ネットから特上のエロ画像取って来てくれないか!?」

「俺も!」

「俺金払うから先に頼む!」

「ズルイぞ! 順番は守れ!」


 人魚コールをしていた男子生徒達が騒ぎ始めた瞬間、ガチッ…ガチッ…ガチッ!、と昴が三度歯を鳴らした。


「「ごめんなさいもうしません!」」


 男子生徒達が一斉に土下座をする。


「馬鹿かコイツらは……」


 闘鬼は、先が思いやられる、と呟き、ため息をついた。






 15分後、全員の自己紹介が終わると共にチャイムが鳴り響いた。昴が次の時間の説明をすると10分間の休み時間が始まった。


「暇だな……」


 特にする事もないので、闘鬼は机に突っ伏していた。すると、前の席に座っている魔衣が闘鬼の髪をつつき始めた。


「闘鬼さん〜」


 面倒なので闘鬼は寝たふりをする。


「起きてくださ〜い」


 何度も何度も仕切りに髪をつつく。

 (コイツの事だ……また面倒な事を言うに違いない……授業が始まるまで寝ていよう……)と言い聞かせ、そのまま寝たふりを続ける。


「もう! なんで起きてくれないんですか!? 闘鬼さん!起きてください!」


 耳元で魔衣が怒鳴った。耐え兼ねた闘鬼は起き上がり、魔衣を見る。


「やっと起きましたか〜」

「なんの用だ?」

「お客さんですよ〜」


 言って廊下を指差した。闘鬼は廊下を見ると、昨日瞬殺した龍人の生徒が仲間を二人引き連れてこちらを睨んでいる。


「鬼神! 表出ろや!」

「挽き肉にしちゃるわ!」

「殺す! 殺す! 殺す!」


 そう叫んでいる。実にうるさい。


「どうするんです? 闘鬼さん、結構ピンチっぽくないですか?」


 魔衣はやたらと嬉しそうな顔で闘鬼を見る。闘鬼は、大きくため息をついてから廊下に出て、三人の目の前に立つ。それを周囲から見ていた生徒達は廊下側に集まった。


「どっちが勝つかな?」

「鬼神だろ?」

「でも相手は三人だぜ?」

「あの三人って確か……」

「知ってる! A科の龍人の角田と魚人の笠原だろ、それから鳥人の山上」

「でも角田って昨日鬼神に瞬殺されたやつじゃん?」

「じゃあ俺鬼神に500円!」

「あ! ずりぃ! 俺も鬼神に1000円」

「バーカ、みんな鬼神に賭けちゃ意味ないだろ? 誰か三馬鹿に賭けるやついないのか? ちなみに俺は鬼神に2000円」


 などと言って、賭けをし始めた。


「誰が三馬鹿じゃい! 殺すぞ!」


 小柄な男子生徒が怒鳴る。闘鬼はため息をつき、言った。


「昨日、格の違いを見せてやったのに分からないのか?」


 その言葉に三人がキレた。


「もう許さねぇ! ぶっ殺してやる!」


 力を解放し、本来の姿となる。

 (龍人は昨日見たが…あれはなんの魚人だ? ピラニアか? それから鳥人族、(トンビ)のようだが…まぁ暇潰しにはなるか…)闘鬼は首を鳴らし、三人を見据える。


「一斉に掛かれ! そして殺せ!」


 瞬間、三方向から闘鬼目掛けて三人が飛び掛かる。再びため息をつき言った。


「あまり殺す等と使うな……雑魚共」


 闘鬼が三人の視界から消えた。瞬間、三人が三方向に吹っ飛んだ。


「おおー!」


 廊下側に群がっていた生徒達は闘鬼に向けて拍手をする。


「やっぱ強いよな鬼神は!」

「壊腕って呼ばれてたのは伊達じゃねーってか?」

「おい! 角田の奴が起きたぞ!」


 闘鬼は起き上がった角田を見る。


「咄嗟に左腕の甲殻で顎を守ったか……」


 角田は息を切らし、左腕を抑えながら闘鬼を睨む。


「二度もおんなじ場所狙いやがって! 舐めてんのか!?」


 その問いに闘鬼はため息をついた。


「まだ続けるのか?」

「なんだと!?」

「まだ続けるのかと聞いたんだ……続けるならまた昨日と同じように倒してやる……」


 それを聞いた角田は構える。


「上等だ!」


 叫び、前に出る。加速をつけ、拳を大きく振りかぶる。

 甲殻種の龍人の打撃は、その身体を覆う強硬な甲殻で拳の威力を数倍に引き上げる。さらに龍人の持つ強靭な筋肉が組合わさることで、その拳は鉄筋をたやすくへし折る。その拳を、角田は持てる力を総動員して一点に打ち込んだ。


「何!?」


 拳が虚しく空を切った。その一瞬の刹那、闘鬼の拳が角田の顎を打つ。






「はぁ〜」


 階段を登りながら昴はため息をつく。


「やっぱりあの4人を同じ小隊に組ませるべきなのか……それとも別の小隊に組ませるべきか…」


 再びため息をつくと、ちょうど階段を登り終えた。悩みながら教室に足を運ぶ。


「ええい考えるのは面倒だ! やっぱバランス考えて別々に組ませよう!」


 昴は納得し、軽い足取りで教室へ向かう。


「さぁ〜て授業だ授業だ……」


 ブオッと言う音と共に何かが横切った。髪が風で巻き上がり、背後で飛んできた何かが壁にぶつかる音がした。

 なんだ今の? 教室から飛んできたのか? なるほどガキ共が……アタシに喧嘩売ろうってか? いい度胸じゃねーかボコボコにしてやんぜ……手始めに投げ返してやろうか……一体何投げたんだあいつらは……

 振り返って壁を見ると、昨日の龍人の生徒が泡を吹いて倒れていた。


「は?」


 思考が停止する。(何故? なんで? またコイツが?)視線を戻し、教室の方向を見ると赤毛の生徒が立ち、その周りには、別の生徒が二人倒れている。(ああ……なるほど……)なんとなく状況を理解して、教室まで走る。





「やり過ぎたか?」


 力の加減を間違えたか…などと呟き、教室に戻ろうとした瞬間、

「鬼神ぃぃぃぃ!」


 遠くから昴の声が聞こえた。


「やべ! 先生だ! 早く席着かねーと!」

「急げ急げ!」

「馬鹿押すな!」


 ギャラリーの生徒達は我先にと席に着く。闘鬼はため息をついて昴の到着を待つ。


「鬼神!」


 昴はもの凄い形相で闘鬼を見ている。


「なんですか先生?」

「昼休みに生徒指導部に来い! とりあえず今は授業だ……コイツらは先生が保健室へ連れて行くから……いいな? おとなしく席に着いていろよ?」


 そう告げると昴は、倒れている笠原と山上を担ぎ、途中に倒れている角田も担ぎ保健室へ向かった。

 昴は気絶した男子生徒達を運びながら一人呟いていた。


「畜生……また校長にどやされる……」


 ため息をつきながら1階の保健室へ向かう。


「あのオールラウンド馬鹿を止める方法は……あいつ以外の成績トップ三人で止めさせるしかねーか……」


 再びため息をついてから保健室へ向かう。







 10分後、昴は何時もと変わらない笑顔で教卓に立っていた。男子生徒達は先程の昴の形相とのギャップに恐れを抱きながら、おとなしくしていた。


「じゃあ小隊メンバーを発表するぞ〜! まずは第一小隊、霧谷、佐熊、武藤(ムトウ)(ワラビ)だ。続けて第二小隊、千馬(センバ)盾守(タテモリ)矛崎(ホコサキ)巳樹(ミキ)、第三小隊十亀(ソガメ)時宮(トキミヤ)名波(ナハ)野乃代(ノノシロ)、第四小隊、燕沢(ツバメザワ)虎松(トラマツ)針山(ハリヤマ)(マダラ)、最後の第五小隊は暗部、鬼神、海東、獅士だ。三年間命預ける仲間だからな! みんな仲良くやれよ〜! それじゃあこれから小隊ごとに集まって親睦を深めろよ〜」

「偶然ですね〜! 闘鬼さんと海東君とは深い縁があるみたいですよ〜」


 魔衣はニコニコ笑いながら三人を見る。闘鬼は深くため息をついてから呟いた。


「何故……コイツと組む事になったんだ……?」

「む……鬼神、獅士、暗部、よろしく頼む……」


 辰希は一礼をしてから三人を見る。


「よろしくお願いします皆さん。僕も精一杯頑張るので皆さんも頑張りましょう」


 真紅は爽やかな笑顔を振り撒き、三人を見た闘鬼はさらに深いため息をついた。


「疲れる……」

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