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壊腕  作者: Oigami
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第二十六話 天鬼

皇鬼が暴れ出してから数時間後、月に一度開かれる会合は強制終了となり、皇鬼によって気絶させられた重臣達は本家内にある医務室に運ばれ、その他は後始末|(強制的に)の手伝いを終えると各自解散という事になった。



闘鬼達は神鬼と皇鬼が会合の後始末をしている間、本家内の別室で待たされていた。応接室のような場所なのか、部屋の内装は洋式で豪奢なソファーにテーブル、床にはこれまた豪奢な絨毯が敷き詰められ、室内のあちこちには無駄に高そうなインテリアが並べられている。

闘鬼はソファーに深く腰掛けて両足を組み、暇そうな表情で欠伸を掻いていた。その隣には魔衣が腰掛け、高級品ばかりの部屋に落ち着かず、緊張した様子だった。

「そ、それにしても、ホントに凄かったですね〜闘鬼さんのお祖父さん。嫌な奴らをぶっ飛ばしちゃったんですから。でもよかったんですか、あの人達って一応お偉いさんなんですよね?後から色々大変なんじゃ?」

魔衣が緊張を紛らわすように問い掛ける。

「屑共のことだ、報復しようにもあの圧倒的な力を恐れて何もできん」

そう答えると、魔衣が笑みを作り、闘鬼の顔を覗き込んだ。

「どうした?」

「闘鬼さん、なんか嬉しそうだな〜って」

「フン…」

神鬼以上に行動が読めない皇鬼が突然会合の場で暴れる。そのことに驚きはしたが、何故だかスッと、気分が良くなったのは確かだった。

「それより悪かったな…魔衣」

はい?、と魔衣はキョトンとした目で闘鬼を見つめる。

「どうしたんですか闘鬼さん?」

「どうしたって…詳しく説明もしないでこんな場所に連れて来て、屑共のつまらん話を聞かせて悪かったな」

「謝ることないですよ闘鬼さん。私は別に大丈夫ですから」

魔衣は笑顔で答えると顔を逸らし、僅かに頬を紅潮させて「…だって闘鬼さんが一緒にいれば全然…」と、闘鬼に聞こえないような声で呟くと、それは部屋のドアが勢いよく開かれる音で掻き消された。

「オッス!待たせた魔衣ちゃん!それとおまけの闘鬼!」

笑い声と共に皇鬼が現れると闘鬼の右斜め前方にあるソファーまでダイブすると、安物のタバコを取り出して一服し始めた。その後から神鬼、戦鬼が続いて部屋に入った。

「いや〜悪いね闘君。陽炎君とこの先の事を話し込んじゃて遅れちゃったんだ」

「この先の事って…ほとんど世間話だったじゃないか親父殿」

笑う神鬼を戦鬼は呆れ顔で見、ソファーに腰を下ろす。


「ま、いいじゃない。月一にしか顔見せしないんだからさ〜トウ君もあとで、緋炎(ヒエン)君と話してきなよ〜確か同い年だったでしょ?」

「面倒だ」

闘鬼が即答すると「確かにあいつ顔はいいんだが暑苦しいからな〜」と戦鬼が納得したように頷く。それを神鬼は苦笑し、闘鬼の対面のソファーに腰を下ろす。

「そういえば真那鬼はどうした?」

「マナちゃんはマンションで猿鬼とお留守番。表向きは隠し子って事になってるけど〜流石に本家には連れて来れないしさ。下手に連れて来てバレたら大変っしょ?」

「そういえばそうだったな…」

闘鬼が思い出したように呟くと戦鬼が失笑を漏らす。

「闘鬼、もうすっかり真那鬼を家族として見てくれるなんて…兄ちゃんは嬉しいぞ!」

直後、戦鬼が笑顔で飛び掛かった。

「うざいキモいゲタハゲ死ね」

息継ぎもせづに言い切り、飛び掛かる戦鬼を裏拳で殴り飛ばす。

「グボォ!?」吹っ飛んだ戦鬼を見て魔衣は「うわ〜漫画みたいです!」と拍手をすると戦鬼の身体が天井と壁に激突、それから床を二、三回バウンドすると動かなくなった。


「…そんじゃま!前置きはこの辺にして本題と行こうか〜セン君とトウ君が知りたがってる……鬼神・兇鬼のことを」

その言葉で闘鬼の顔が険しくなり、倒れていた戦鬼が起き上がる。

「まず…何から知りたい?」

「奴に関する事を全て」

自分の恐れをよく知るには、恐れたものをよく知らなければならない。闘鬼はそう思う。

「直球だね〜」

神鬼は苦笑して軽く首を縦に振って頷く。スーツの内ポケットから葉巻を取り出し、ライターで火を点けて一息。それからやっと口を開いた。


「それじゃあ奴の過去から話そう…奴の本名は鬼神・天鬼(アマキ)…鬼神・兇鬼っていうのは…鬼神を追放された者に与えられる名前なんだ」

「追放された者…?」

戦鬼が怪訝な表情で問う。

「うん、過去に鬼神・兇鬼となった者達は三人、追放理由は様々なんだけど、天鬼が追放された理由は…過剰殺戮オーバーキル。昔から残忍な男だったよ…それでも最初の方はまだまともだったかな?」

神鬼は懐かしむように、それでいて哀しんでいるような表情で続ける。

「…戦場では敵味方見境なく、平時では異種族は勿論のこと…人間は老人、女、子供…奴は気まぐれで殺し続けてきた…散歩に行くって言って屋敷からふらっと外に出たと思うと…帰って来たときには服が返り血で汚れているのは日常茶飯事だった…私は何度も奴の凶行を止めようとしたけど全部無駄…逆に止めようとする度に奴の殺戮はエスカレートしていったよ…それで天鬼が二十歳の時、事態を重く見た当時の当主であるお祖父さんと当時の鬼火、鬼武の当主が天鬼の討伐を決定。結果は鬼火、鬼武の両当主の命、その二つと引き換えに兇鬼は瀕死の重傷…放って置いても死ぬ怪我を負ったんだ」

「だが奴は生きていた…か?」

「ワシは今でも後悔しておる…肉親という理由で情が残り…奴にトドメを刺せなんだ…生かしてしまった…」

両目を閉じ、皇鬼は奥歯を噛み締める。

「すまぬ…ワシがあの時に殺しておけば…真那鬼の両親が殺される事も、魔衣ちゃんが巻き込まれる事もなかったんじゃ…本当にすまぬ…」

「そんな…気にしないでくださいよ皇鬼さん!私は大丈夫ですから」

魔衣が皇鬼を気遣うように言うと、闘鬼はそれを見て呆れたようにため息をついた。

そして皇鬼の目の前に移動し、下げたままの皇鬼の髪を掴み顔を上げると、思い切り顎を蹴り上げた。その勢いで皇鬼が無理矢理立たされた状態になる。

「なッ!?」

何が起こったのか理解できない。そんな様子の皇鬼に闘鬼は背を向ける。

「謝るな…クソジジイ」と告げてから再びソファーに腰掛ける。それを見た戦鬼が納得したように両手を叩くと席を立つ「そんじゃ俺からも〜」と皇鬼の胸倉を掴み、右ストレートを叩き込む。すると皇鬼の身体だ吹っ飛んだ。

「ちょっ…なに!?」

「弱ってんじゃねーよ祖父様、祖父様が弱ると俺達は調子が狂う、だから俺も闘鬼もそんな祖父様を見たくねーんだよ…いつもどうりのウザイ祖父様でいてくれや」

戦鬼が笑うと、皇鬼は頬と顎を抑えキョトンとしたまま二人を見つめ、やがて理解したように笑みを見せた。

「すまぬな…お前さんらにこんな姿を見せて……だからって老人に手ぇ挙げんじゃねーよボケ孫共がぁ!」

「俺が上げたのは足だが?」

「じゃかしい!成敗!」

「うお!?やる気か祖父様!?」

戦鬼が構えた瞬間、皇鬼が二人に目掛けて飛び掛かった。


「あわわ…大丈夫なんですか神鬼さん!?」

「う〜ん、まぁいつもの事だしね、しばらくすればおさまるよ」




数分後

「そろそろ話を戻すよ〜」

見兼ねた神鬼が両手を叩いた。すると三人はとりあえず殴り合いを辞めてソファーに腰掛ける。しかし睨み合ったまま、いつまた殴り合いが始まるか分からないという空気が漂っていた。

「も〜仕方ないな〜」

苦笑しながら神鬼が両手を叩く。すると何処からか黒スーツを着、長身にサングラスを掛け、顔には入れ墨の入った厳つい男が現れた。男の手には盆があり、その上には急須(きゅうす)と人数分の湯飲みがある。男はきびきびとした動きで湯飲みに煎茶を注ぎ、高級そうな和菓子を差し出す。そして五人に配り終えると

「洋室に煎茶と和菓子って…普通紅茶に洋菓子じゃね?」突然、何を思ったのか男がギャグを口にした。それも救いようのないくらい滑るギャグを、いや、ギャグと呼べるのかと思うほど完成度の低いものを言った。

瞬間、部屋の温度が急激に下がる。


滑った…そうとしか言いようがない空気が流れ、あまりの出来事に睨み合っていた三人が呆然とする。

無口そうで、冗談など言いそうにない男が突然ギャグを放つ。それも救いようのないほど滑った。魔衣はその事に動揺し、どうリアクションを取ればよいのか、フォローすべきなのか困ったような引き笑いで闘鬼の顔を見つめていた。

「失礼致しました…」

男は一礼をすると無表情のまま姿を消した。


「今のは蛇鬼…か?」

「流石はユーモアのセンスがかけらも無い男じゃ…いきなりのギャグでここまですべるとは…」

「やっぱり流れを切り替えるには蛇鬼のスベリネタは最適だね〜そんじゃま、空気が切り替わった所で話を戻そうか」茶を一口啜(すす)り軽く頷くと、口を開いた。



「トウ君は…直接奴と戦ってどう感じた?」


あまり思い出したくはないが…

そう思いながらも闘鬼は記憶を掘り返し、脳内で兇鬼との戦闘を再生する。

己の技は無力化され、力を最大解放した状態でも奴は力も解放することなく、圧倒的な実力差を見せつけられ、敗北した。

「特に無いな…」

舌打ちをして答えると神鬼は首を傾げる。

「本当に?何か引っ掛かったことはない?」

闘鬼は怪訝な表情でもう一度記憶を掘り返す。

「…そういえば何故奴は俺の技を使えた?あれは俺が丸一年かけて完成したはずだが…奴は一瞬で使用した…」

闘鬼が呟くと神鬼は頷いて答える。

「そう…あれはトウ君が開発し、苦心して完成させた技。実用性が高いから私も闘君の後に習得したんだ。だから分かる。あれはパワー、スピード、タイミング、この三つが揃った状態で、刹那の瞬間に拳を打たなければならない…原理はわかっていても習得はかなりの修練が必要になる。でも奴は闘君との戦闘で始めてその技の存在を知った。そして使用した…それは何故か?」

「もしかして見たまんまコピーしたって事ですか…?」

魔衣が横から答えると戦鬼が鼻で笑った。

「魔衣ちゃん、いくらなんでもそんな漫画みたいな話は…」

「そんな漫画みたいな話なんだよセン君」

「は…?」

「奴は相手の技を見るだけで忠実なコピーを作り出し、その弱点も読み取るという天性の才能を持っている。奴に掛かれば、中国拳法、日本武術、ボクシング、ムエタイ、テコンドー、ありとあらゆる全ての術や技を、見るだけで習得してしまう出鱈目な奴なんだ。それはオリジナルの技も同じ。トウ君の技は仕組みと一瞬に対処法もコピーされたんだ」

「馬鹿な…」

闘鬼は眉間に皺を寄せ、信じられないような表情で呟く。自分の努力を否定された気分だと、

「そう思いたいのはよく分かるけど、本当のことなんだよ。でも奴は無敵ってわけじゃない。対抗策はあるよ…」

「どんな方法だ?」

闘鬼はソファーから身を乗り出して問う。

「奴がコピーできるのは仕組みだけ、じゃから…奴がコピーできん程の純粋な力、もしくは速さがあれば勝てないこともない…かの〜」

茶を啜り、他人事のように皇鬼が答える。

「つーことは今の闘鬼にゃ両方とも絶望的じゃねーか?」

「黙れクソ兄貴、手前だって技を奪われたら絶望的だろうが」

「あ?俺には奥の手があることを知らねぇのか?」

「知らんな、聞いたこともない。どうせハッタリだろう?」

「おうおう、言ってくれるねぇ、なんなら今見せてやろうか?」挑発する戦鬼に闘鬼は無表情で「上等だ」と立ち上がり、指の関節を鳴らす。


「神鬼さん、また険悪な空気が流れてる所で今更なこと聞きますけど〜なんで私を呼んだんですか?」

「あ、そうだね〜そういえば大事なこと忘れてたよ〜」

神鬼は思い出したように両手を叩くとニヤニヤと笑って答えた。

「ウチの義娘にならない?」

「…はいィ!?」


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