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壊腕  作者: Oigami
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第二十五話 本家

神鬼の返答は闘鬼が思っていたものと違った。

はぐらかすか隠し通すだろうなとは思っていたのだが『いいよ』と、すんなり答えたので拍子抜けしてしまった。相変わらず読めない奴だと闘鬼は思う。

『話は本家で会合が終わったら詳しく話すよ。牛鬼をそっちに向かわせたから、合流したらすぐにこっちに向かって。それから、魔衣ちゃんも一緒に連れて来て。一緒に会合に出席してもらうから』

「何故だ?あいつは部外者だ。なのに鬼神の問題に関わらせるのか?」

『彼女も奴に関わってしまった以上、狙われる可能性が高いからね。だから教えておいたほうがいい』

「それならあいつを本家に連れて行かなくても、俺が聞いた事を直接話せば済むだろう?それに…あいつを本家に入れるってことは…当主であるアンタの立場が危うくなる…」

『私の事を心配してくれるなんて優しいね〜闘君。ま、その辺は大丈夫だからさ〜。それに魔衣ちゃんとは一度話してみたいと思ったからね』

神鬼は苦笑しながら答える。

『じゃ、また後でね』

通話を切ると闘鬼は深いため息をつく。その後魔衣と連絡を取り、迎えに来たヘリにで本家へと向かった。



鬼神本家、現当主は鬼神・神鬼。表の世界では国内外を問わず傘下に数千の企業を持つことで知られている。この国を支配していると言っても差し支えないほどの財力、政治的発言力を持ち、鬼神が動くと世界が動くとまで噂されている。裏では異種族による傭兵を育成する傭専学校を支援、その卒業生を世界中の様々な国や地域に派遣し、紛争、内乱の鎮圧に貢献するなどで表の世界を陰から支えてきた。そして巨大な財力で私兵集団を保有、代々当主が私兵集団の長となり決して表には出ない巨大な事件を解決している。

その本拠地はどんなネットワークを駆使しても不明とされており、過去数百年の間に鬼の一族で起こった内乱で一度も壊滅状態に陥った事がないどころか、本拠地を発見された事すらないという。



傭専学校からヘリで数十分後、闘鬼達は青木ヶ原樹海の奥地にいた。

青木ヶ原と言えば「自殺の名所」や「一度入ったら出られない」などと言われているが、実際は遊歩道や案内看板が多く、キャンプ場や公園の多い観光地である。というのが表の認識、裏の実態は樹海全土が鬼神本家の|《要塞》と化している。

闘鬼達はそんな観光地とは掛け離れた樹海の中を歩き続けていた。

「闘鬼さん〜あの…道間違ってないですよね?」

魔衣は額から冷汗を流し、闘鬼の右腕にしがみついたまま問う。

「さあな、俺自身が本家に来るのは五年ぶりだから…道があっているのかすら分からない。樹海は同じ木や地形が多いから記憶しづらいんだ」

闘鬼は辺りを見回しながら答えると、魔衣は肩を震わせ、両目を閉じて闘鬼の腕にしがみつく。

「わ、私こういう不気味な場所はダメなんですよ…」

「不気味って…お前の実家の周りもこんな感じだろうが?」

闘鬼はどこぞの県の山中にある暗部本家を思い出す。

此処とあまり大差ないだろう…

「一緒にしないで下さい!実家の周りの森は優しいですけど…樹海は不気味で怖いんですよ〜なんか悪霊とかが出そうで…」

「魔族なのに幽霊怖がってどうする?」

と鼻で笑うと魔衣は拗ねたように闘鬼の腕から離れる。が、近くで物音がすると闘鬼の背中にしがみついた。

「こ、怖いものは怖いんですよ!」

泣きそうな顔になりながら魔衣は闘鬼の背に顔を押し付けた。それを見かね、仕方なく魔衣の頭を軽く叩き「心配ない」と告げる。魔衣満足そうに笑みをこぼし、小さくガッツポーズをとり、

「よっしゃ好感度アップ…」

闘鬼に聞こえないような声で呟いた。


「闘鬼様、魔衣様」

先頭を歩いていた牛鬼が立ち止まると、目の前に洞窟があった。

「ここを進めば到着です」

と言い、牛鬼は洞窟の中に入って行った。闘鬼達もそれに続く。

洞窟の内部は薄暗く、所々に松明が置いてあり、それが不気味な雰囲気を醸し出していた。

入口から奥に進んで行くと、洞窟が徐々に広がり、道が整備されていく。更に進むこと数分、三人の目の前に高さ10メートル、幅は20メートルはあろうかという巨大な木製の門があった。その門の目の前で牛鬼が立ち止まる。

「開門」

門の前に手を(かざ)すと電子音が響いた。

『指紋、網膜、声紋認証。対象を鬼神近衛弐番隊隊長、牛鬼と認識。開門します』

歯車が噛み合うような音が響き門が内側に開く。門をくぐると先には巨大な球状の空洞が広がっていた。


「うわ…すご…」魔衣は思わず声を漏らす。

球状の空洞の中心には巨大な屋敷がすっぽりと収まっていたのだ。

「行きましょう。我々が最後ですから」

牛鬼が先頭を進み、中に入る。



屋敷の中に入ると、牛鬼は奥に進む。

「何処に行くんですか?」

魔衣の問い掛けに闘鬼は不機嫌そうな顔で答える。

「これから月一に一族を集めた会合が開かれる。何故か知らんが、クソ親父がお前も参加させろと言いやがったからな…」

「で…闘鬼さんはなんで不機嫌なんです?」

「…一族の会合ってやつは、その辺のゴミ屑以下みたいな思考回路を持つウチのジジイの兄弟達が延々と保身や、のし上がかりのために嫌みを言い合う場所だからだ」

「へぇ〜じゃ闘鬼さんはゴミ屑以下の連中が嫌いだから不機嫌なんですか?」

闘鬼は眉間に皺を寄せ、無言で頷く。それと同時に牛鬼が立ち止まった。

牛鬼が目の前の(ふすま)を開くと何十枚と畳が敷き詰められた広間に到着した。広間には鬼神家の重臣と呼ばれる人物数十名が縦に並べられた席に向かいあって座っている。

重臣達は入って来た闘鬼と魔衣を奇異の目で睨み、ひそひそと何かを呟き始めた。

「(鬼ですらない…他の種族を連れ込むとは…)」

「(それも、どこの馬の骨とも知らぬ娘子…闘鬼殿の女か?)」

「(当主の子息とはいえ…目に余る行為…鬼神の教育係は何をしておる?)」

「(餓鬼が…色気づきおって)」

飛び交う陰口を闘鬼は呆れながらため息をつき、重臣達を睨みつける。

「お連れ致しました。神鬼様」

牛鬼が頭を下げると一番奥の席に座る白いスーツを着た赤髪の男、神鬼が笑みを見せて手を振る。神鬼の右隣りには革ジャンを着た皇鬼が座ったまま居眠りをしており、皇鬼の隣には浴衣を着た戦鬼が怠そうな表情で座っている。

「さ、二人とも適当に座っちゃってよ」

闘鬼は空いている神鬼の左隣の席に座り、魔衣も続くようにその隣に座った。

「じゃあ、揃った事だし。ぼちぼち始めますか〜」

神鬼の言葉で場の空気が変わった。話し合いや陰口を叩いていたものは黙り、無表情で視線を神鬼に向ける。その瞬間に何本もの糸が張り巡らされたような緊張に包まれた。

「まず、この一ヶ月間の報告を…私、鬼神・神鬼から…」

神鬼はいつものようなふざけた態度とは打って変わり、感情の篭っていない冷たい表情で告げる。

「先月二十八日…反乱勢力、序列第十八位鬼島、序列第二十四位鬼劉を殲滅…同時期に反乱を企てたと思われる序列第四位鬼原は何者かによって既に壊滅状態でした…生き残りである鬼原・真那を保護…その二日後、鬼原を壊滅させたと思われる鬼神・兇鬼と接触、次男、闘鬼が交戦するも負傷…救援として向かった私、神鬼。前当主、皇鬼。|《五行》無銘の三名にて追跡するも目標は逃走…目下全力で捜索しておりますが兇鬼の所在は掴めておりません…以上で報告を終了します…」

神鬼の報告が終わると重臣達がざわつき始めた。

「裏切り者を保護など…何を考えておるのやら…」

「相変わらず…新当主の考えは読めぬな」

「うつけなだけであろう?」

重臣達が嘲笑する様を闘鬼は睨みつける。

(クソ親父が…)

闘鬼は神鬼が重臣達にいいように言われている様が昔から嫌いだった。当主でありながら何故屑のような臣下ごときに敬語を使い、いいように言われるのか…理解できなかった。

一度神鬼を睨むが、神鬼は相変わらず氷のような表情を変えていない。それを見て闘鬼は舌打ちを漏らす。

「《五行》が三人も揃っておるのに逃げられたとは…なんたる失態か…」

「恥さらしもいいところよ…」

「鬼神・兇鬼は現当主の双子の兄…逃げられたのではなく…逃がしたのでは?」

重臣達がざわつく中、眼帯をつけた隻眼の男が咳ばらいをする。

「次は私、鬼火家当主、鬼火・陽炎(オニビ・カゲロウ)が報告をいたします」陽炎は両手をつき頭を下げ、報告を始める。

「反乱勢力、序列第十七位鬼城、序列第三十一位鬼羽を殲滅、その折に序列第三位鬼武の干渉がありましたが…あちらは別の目的で動いていたようでしたので見逃しました」

陽炎が頭をあげると重臣の一人が笑う。

「見逃したのではなく…負けるのが怖くて逃げたのであろう?」

しかし陽炎は無言のまま男の言葉を無視する。

「恐れながら!」

陽炎の隣に控えていた端正な顔立ちの少年が頭を下げた。

「我々鬼火は、鬼神を守護する盾!無意味な争いで砕ける事は我等の意思に反します!鬼武との戦闘は必要なき物と判断、よって見逃した所存でございます!」

少年の言葉を聞き、回りの重臣達が嘲笑する。

「言い訳とは見苦しい」

不気味に笑う男を見て少年は奥歯を噛み締める。それを見た陽炎は少年を後ろに下がらせ、重臣の男に謝罪として頭を下げた。遠目だったが、陽炎の腕が僅かに震えている。


腐ってやがる…


闘鬼は心底うんざりした。安全な場所から物を言う重臣共を、今すぐにでも八つ裂きにしてやろうかと思った。だが、なんとかその衝動を抑える。ここで騒ぎを起こせば余計に重臣達を付け上がらせてしまう。震える拳をにぎりしめ、苛立ちを無理矢理抑え込む。

「(闘鬼さん…大丈夫ですか?)」

突然横から左手を包まれた。そちらを向くと魔衣が右手を両手で握り、心配そうな顔で闘鬼の顔を覗き込んでいた。

「(まだ怪我が…治ってないとか?)」

「(いや…問題ない…)」

即答すると、闘鬼は自分自身に呆れてしまった。らしくない、と。いつもの自分なら重臣達の言葉を聞いても何も感じないはずなのだが、今日は自分でも不思議に思うほど熱くなりすぎている。

(奴に恐れてしまった影響で器が小さくなったか…?滑稽だな…)

自嘲気味にため息をつくと、平静を取り戻す。


「裏切り者を保護する、反逆者を取り逃す、こんなことだから反乱勢力を付け上がらせるのだ!これ以上他の種族に醜態を曝すわけにはいかぬ!今すぐ当主を変えるべきだ!」

鬼火に言い掛かりをつけていた重臣が立ち上がり、声高に宣言した。するとそれに続くように他の重臣達も立ち上がり、騒ぎ始める。

瞬間、バンッ!と爆発音に似た音が響き渡った。その音源は皇鬼が右手で畳を叩いた音だった。余程の威力だったのか、畳が手の平の形に綺麗に凹んでいる。

「うるせぇんじゃよ…貴様ら…」

居眠りをしていた皇鬼が薄く目を開き、重臣達を睨みつける。

「うるさくて眠れぬわ…」

欠伸を噛み締め、立ち上がる。

「さっきから聞いておれば…まともに前線で戦った事のない愚図共が…偉そうにほざきおって…」

皇鬼は目を細め、見下す。

「な…!前当主にして我らが兄上とはいえ数百年と陰から鬼神を支えた我らに対する暴言とは何事…」

「やかましい!」

皇鬼の声が室内に響き渡った。ビリビリと空気が振動し、衝撃波のような物が飛ぶ。それをまともに受けた重臣達が畳の上に尻餅をついた。

「身の程を(わきま)えんか愚図共…それに貴様…誰に向かって物を言っておる?」

皇鬼は倒れている重臣の男に歩み寄る。

「ワシは鬼神・皇鬼、先々代、鬼神・覇鬼の長兄にして貴様らの兄じゃぞ?」

胸倉を掴んで真上に持ち上げると、男が僅かに悲鳴を漏らした。

「愚弟共…貴様鬼神を陰から支えたと言っていたな?」

皇鬼は闘鬼の目で追えない程の速度で男を投げ飛ばした。男の身体が襖を突き破って廊下に投げ出されると、男は白目を剥き、口から泡を噴いて気絶した。

「鬼神を陰から支えていたのは…貴様らのような曲がった根性を持ち、私欲のためにしか動かぬ俗物共ではない…いにしえより先代達の志に従ってきた者達…それ即ち、鬼火達のことじゃ!」

咆哮すると同時に、皇鬼が動く。そこから先は一瞬だった。まるでコマ落ちした映画のように、何が起こったのか認識することもままならないまま数人の重臣が吹っ飛ばされ、広間の中央に無造作に積み上げられた。


「…恥を知れ!カスども!」


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