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壊腕  作者: Oigami
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第二十話 真ノ邪

鬼神が所有するマンションの中でも特に優れた部屋を揃えているマンションの最上階。その一室、闘鬼は液晶テレビの前で朝のニュースを見ていた。

ニュースの内容は大手家電メーカー二社、建設会社、全く接点のない三社が同じ時間に社長、幹部、親族までが何者かに惨殺されたという事件を流していた。

(奴ら、表では普通の企業だったのか…)

味噌汁を口に含みながら、闘鬼はそんな事を思う。本来なら今頃、テレビに映っている鬼原の裏の顔と交渉、もしくは戦闘の真っ只中のはずなのだが闘鬼はのんびりと朝食を取っていた。

なぜなら、鬼原は闘鬼達が向かう前に鬼劉を潰した神鬼が、先に向かって壊滅させたらしい。らしいと言うのは直接神鬼に聞いたわけではなく、鬼島から鬼原に移動中に皇鬼から聞いた話によるものだからだ。

しかし、闘鬼はその話を不思議に思った。

鬼原は一族でも上位に位置する巨大な勢力だ。神鬼一人で潰すのは不可能ではないが、矛盾点が一つある。

時間だ。

いくら神鬼が強いとわかっていても、手練の多い鬼原を殲滅するには多少なりとも時間がかかる。それに神鬼は先に鬼劉を潰している。その時間と鬼原へ移動する時間、交渉していた時間、そして鬼原との戦闘時間を計算すると、どう考えても時間が合わない。仮に最初から交渉がない状態で戦闘が始まったにしても、戦闘中に闘鬼達が到着するはずだ。しかし神鬼は壊滅させたと言っている。

(物理的に不可能だ。協力派である序列第二位、鬼火(オニビ)。中立派である序列第三位、鬼武(オニタケ)の介入があればその配下の死体が出るはず…しかし死体は鬼原のみ、両家にクソ親父並の手練がいるとは考えられない…やはり、クソ親父とクソジジイは俺や兄さんに言えない何か隠してやがるな…)

舌打ちをして、闘鬼は朝食の食器を片付けた。

キッチンで食器の片付けが終わると柴犬と三毛猫が朝飯をくれと、闘鬼の足元に擦り寄ってきた。ため息をつきながら、安物のドッグフードとキャットフードが入った袋を探し出し、皿の上に適当な量を配分する。

「なんで俺がお前達の世話をしなければならないんだ?」

怪訝な表情で二匹を睨む。この二匹は二週間前に神鬼と戦鬼が道端で拾ってきたのだが、拾って来た本人達は余計に餌をやったり、散歩などをさせずに家に閉じ込めたり、しつけをせずに甘やかしてただ可愛がっているだけ。というダメ飼い主っぷりを発揮していたので、仕方なく闘鬼が二匹の面倒を見ることになったのだ。

そんな闘鬼の苦労などわかるはずもない二匹は、目の前の餌に夢中になって食いついていた。

「楽でいいな、お前達は…」

そう呟いてリビングに戻ると、闘鬼の携帯が無機質な着信音を響かせた。携帯を開くと画面には登録番号1と表示されていた。舌打ちをしてから電話に出る。

『おはようトウ君〜』

「なんのようだクソ親父?無駄な世間話はいらんから、本題を言え。そしてさっさと切れ」

『うわ〜酷い言い草だね〜ま、いいや、本題に入ろう。今、新しい家族の一員と一緒にそっちに向かってるから』

「……は?」

闘鬼は神鬼の言っている意味が理解できなかった。

家族…?何を寝言を言っているんだこの男。バカか?バカなのか?バカなんだな!?

『今すごく馬鹿にされたような気がしたのは気のせいかな?』

へらへらとした掴みどころのない口調で神鬼は問う。

「どういうことだ?いくら離婚したおふくろがアメリカにいるからって再婚するつもりか?また面倒なことじゃないだろうな?ちゃんと説明しろクソ親父!でないと殺す!!」

いつの間にか口調が荒れていたが、闘鬼は気にせず問う。

『ち、ちょっと落ち着きなって闘君、再婚じゃないから!私はあの人以外の人と一緒になるつもりはないからさ』

神鬼は闘鬼を静めようと言葉を選んで答える。

「じゃあ誰が来るんだ?」

『え〜と…闘君より六つ年下で、10歳の女の子だよ』

「妹!妹か!妹なんだな!?」

突然寝室で眠っていたはずの戦鬼が、いつの間にか闘鬼の携帯を横取り、声を荒げて問う。

『あ、おはようセン君〜うん、新しい家族は妹だよ〜うれしいかい?』

「当たり前だ親父殿ぉ!どんな子だ?早く合わせてく…」

「やかましいわクソ兄貴!」

言い終わる前に闘鬼の拳が戦鬼の頭を殴り飛ばしてた。

「グバァァ!?」

戦鬼は得意の合気を使う暇もなく身体が豪快にすっ飛び、ソファーに激突した。

闘鬼は戦鬼の足元に落ちた携帯を奪い返す。

「おいクソ親父…お前もコレみたいになりたくなければ、どういう事か詳しく話を聞かせろ…わかったな?」

実の兄をコレ、と物扱いしながら背筋に寒気がするほど冷たい声で告げ、闘鬼は通話を切る。その瞬間、

ピンポーン…

間をおかずに部屋にインターホンが鳴り響き、ドアが開いた。

闘鬼は視線をドアに移すと、赤いオールバックの髪にいつもの白いスーツを着た神鬼がいた。その隣に闘鬼よりも頭三つ分背が引くく、背中まで伸ばした深紅の髪を持ち、黒いワンピースを着た少女が立っていた。

少女は感情のこもっていない無表情で、神鬼は引き攣った顔のまま笑い、額から汗を流して闘鬼を見ていた。

「おお!その美少女が俺の妹になる子か!!」ソファーで気絶していた戦鬼は目を覚まして起き上がり、闘鬼の後ろから身を乗り出した。

「てめぇは寝てろクソ兄貴!!」闘鬼は振り向かずに裏拳を放つと、戦鬼の鼻っ柱にクリーンヒットした。

「な、なぜに…!?」

再び戦鬼の身体がふっ飛び、今度は液晶テレビに激突した。

「それじゃあ…詳しく話しを聞かせてもらおうか、クソ親父?」

目が笑っていない笑みを見せて神鬼を見る。神鬼は冷や汗をかきながらコクコクと首を縦に振った。


2分後

気絶している戦鬼を放置したまま、闘鬼はソファーに腰掛ける。テーブルを挟んだ反対側のソファーに少女と神鬼は座わった。

「クソ親父…今度はどこから拾ってきた?」

今にも怒りが爆発しそうな感情を無理矢理抑えたような声で問う。

「この子は〜その、保護したんだよ保護!」

大量の冷や汗をかきながら神鬼は答える。

「ほぅ…保護ねぇ…どこでだ?」

「え、えと…き、鬼原の本拠地で…」

その言葉で闘鬼はテーブルを叩いて立ち上がり、神鬼の胸倉を掴んだ。

「なぁクソ親父…俺は耳が悪くなったようだ。悪いが…もう一度、はっきり言ってくれないか?」

神鬼は唾を飲み込みハンカチで汗を拭うと、引き攣った笑いで答えた。

「鬼原の本拠地で…保護したんだよ」

言い終えると同時に、闘鬼は神鬼を壁にたたき付け、凄まじい怒声で言った。

「お前は馬鹿か!?敵方の…それもお前が潰した組織の人間を保護しただと!?冗談も休み休み言え!」

闘鬼の怒りは先程のものとは違った。ただ養子を取るだけなら普通に怒っただけだったろう。しかしそれが敵方の生き残りだと知れば話は別だ。

「やっぱり、トウ君なら怒ると思ったよ」神鬼は苦笑いをしながら答える。

「怒る怒らないの問題じゃない、お前は…コイツの親兄弟を殺した張本人だろう!?なぜ生かしておいた!?なぜ一緒に殺してやらなかった!?」

内乱が起きた場合、敗れた一族は、反乱を起こさせないよう、一人も残す事なく皆殺し。それが代々、鬼の一族に伝わる暗黙の掟だった。

「それにお前は…協力派をすべてを敵に回すつもりか?」

暗黙の掟を破る…それは掟を遵守する鬼の一族を敵に回すという意味をもっている。

「落ち着きなって闘君〜心配ないよ、この子の存在は世話的に死んだことになってる。だから協力派の分家は情報収集を専門とする鬼崎以外は誰も知らない。この子の正体が鬼原の生き残りだなんてね。それに鬼崎は絶対に鬼神を裏切らないから情報は漏れない。ま、仮に鬼崎以外にバレた時は私とおじいちゃんがなんとかするからさ〜」

いつものような調子で神鬼は答えた。

「だがコイツの意思はどうなる?家族を殺した相手と暮らすなど…」

「その心配はないよ〜。この子、記憶喪失だから」

「なに…?」

闘鬼はソファーに座ったままの少女に視線を移す。

「保護した直後は覚えてたみたいなんだけど、改めて家族の死を認識したショックで記憶が飛んじゃったみたいなのよ。だから私が誰で、何をしたのかはもちろん、自分の名前すらまったく覚えてない」

「だが記憶が戻ったらどうなる?勝ち目のない相手だろうと、敵討ちとしてお前を殺しに来る。その時はどうする?殺せるのか?」

真剣な表情で問い掛ける闘鬼に、神鬼は笑って答えた。

「その時は、私に考えがあるから任せてちょうだい。トウ君とセン君にはこの子の兄弟として接してあげてくれればいいから。面倒事は私が全部引き受ける」

「…助けてくれと頼まれても俺は知らんぞ」

神鬼は頷いて答える。

「…勝手にしろ」

闘鬼は舌打ちすると、ようやく神鬼の胸倉から手を離し、ソファーに座り直す。

「セン君は昔から妹が欲しいって言ってたから楽勝なんだけど、よかったよ。トウ君が認めてくれて」


神鬼はニヤニヤしながらで闘鬼を見る。

「で、コイツの名は?」

ため息をついてから問う。

「うん、下の名前は鬼原の家系図では鬼原・真那。でも戸籍上死んでるし、うちの家族になるから鬼神の名前に変えて、鬼神・真那鬼(マナキ)だね。ほら真那鬼ちゃん、お兄ちゃんに挨拶して」

「…」

真那鬼は無表情のまま闘鬼の目を見て会釈した。

「あっちで寝てるのは戦鬼、俺より一つ年上の兄貴だ」

すると真那鬼は闘鬼に右手を差し延べた。どうやら握手をしたいらしい。

「ああ、よろしく…なぁ!?」差し延べた右手が突然横から捕まれ、身体が床に倒れた。

「俺が戦鬼だ〜よろしくな〜真那鬼」

戦鬼は左手で闘鬼を押さえ付け、右手で真那鬼と握手していた。

「なにしやがるクソ兄貴?」

「ふ、さっきの仕返しだ馬鹿野郎」

戦鬼は鼻血を流しっぱなしのまま闘鬼を上から睨み、闘鬼は下から戦鬼を睨んでいた。

「まぁまぁ二人とも…今日は新しい家族が増えためでたい日なんだし、仲良く仲良く」

「そうだな親父殿、では真那鬼。俺をお兄ちゃんと呼んでみよー!!」

イエーイ!と戦鬼は一人勝手に盛り上がり始めた。それを見た神鬼は気まずいような表情で告げる。

「戦君…実はマナちゃん、一時的に喋れない状態なんだよ」

「何だと!?それではお兄ちゃんと呼ばれないではないか!!」

戦鬼は頭を抱えて悶え始めた。

「どうするんだクソ親父?真那鬼が喋れるようになったら記憶が戻るんじゃないのか?」

「それは大丈夫、医師によると二、三日時間をおけば大丈夫みたい。記憶の方はよっぽどの事がない限り戻らないってさ」

「そうか!二、三日で喋れるのか!」

戦鬼が起き上がり、真那鬼の頭を撫でる。

「ずっと喋れないわけではないなら、直るまで待つだけだ」

「なんだ何かしたい事でもあるのか?」

「もちろん、『お兄ちゃん』と呼ばせる…ゴフゥァ!?」

闘鬼の拳が戦鬼の鳩尾に入ると、身体がくの字に折れ曲がった。

「そんな事だろうと思ったぜ…クソ兄貴」

鳩尾を抑えて転げ回る戦鬼を見て、真那鬼が微かに笑う。

「お?」

「あ?」

「むぉ…?」

三人の視線が真那鬼に集まると、口を揃えて

「「「笑った…」」」



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