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壊腕  作者: Oigami
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第十八話 粉砕

都内某ビル、地上40階

鬼神・闘鬼は階段を使って下の階に移動している最中だった。

特に急いだ様子もなく階段を下って行くと、装甲服にライフルで武装した兵士達の集団がバリケードを作り、銃口を闘鬼に向けていた。

「止まれ!」

兵士集団の隊長らしき男が叫ぶ。

(全員人間…鬼島の傭兵部隊か…)

闘鬼は皇鬼に渡された資料を思い出す。

「止まれって!」

男は叫ぶが、言葉を聞くことなく歩を進める。

「止まらんと撃つぞ!これは脅しじゃない!」

傭兵達はライフルの引き金に指を掛けた。

「撃てよ」

それを見た瞬間、殺気を交えた冷たい声で言い放つ。

その言葉に傭兵集団は引き金に掛けていた指が震え、力が入らない。それだけではなく、闘鬼の殺気に威圧されて誰ひとり、まばたき一つできない状態になった。

(何なんだよあれは…!?あいつは一人、持っているのはただの鉄棒…人数は俺達が上で武器の性能も俺達が圧倒的に上…単純に考えて負けるはずは無いのになんで…なんで身体が動かないんだ!?)

闘鬼に銃を向けている一人の兵士は思った。

常識で考えれば負けるはずはない。それなのに何度も何度も自分の死ぬイメージが脳裏を過ぎる。

(なん…で…?)

気がつくと闘鬼はその兵士の目の前で立ち止まっていた。

「う…あ…!」

男の持つライフルの銃口は闘鬼の額に向いていた。

(撃たないと!撃たないと俺が死ぬんだ!撃たないと…!)

闘鬼は男の怯える目を見据え、ゾッとするほど冷たい声で言い放った。

「どけ」

言葉を聞いた瞬間、男は構えていたライフルを落とし、震える足を動かしてゆっくりと道を空けた。それに続くように、数多くの死地を乗り越えた百戦練磨の傭兵集団は、飼い馴らされた犬のように素直に従う。

闘鬼は誰ひとり殺さず、悠々と次の階へ進む。その後、傭兵集団は二度と闘鬼に銃口を向けることは出来なかった。



1階

鬼神・戦鬼はビルのエントランスホールにいた。 屋上から一階まで飛び降りて、わざわざ正面から仕掛けるという回りくどいことをしたからだ。

これは彼の性格によるもので、どんな場合でも正面から攻める。どれだけ戦況が不利で罠を張られていようと、必ず正面から攻める。自分の鍛えた技を信じて疑わないからこそ正々堂々、正面から攻める。

彼はこれが自分の性格であり、生き様であると思っているからだ。


「ほぉー。ざっと見て…百はいるな。そのうち二十は人じゃない」

戦鬼は三階までの高さのある広いエントランスホールを見回すと、至る所に武装した傭兵達が戦鬼に銃口を向けていた。中には人間に交じった多種多様な種族が力を解放して、戦鬼を睨んでいる。

戦鬼は一通り傭兵達を眺めると口元に笑みを作りながら言った。

「今から五つ数える。その間、死にたくない奴は武器を捨てて逃げろ。そうで無い奴は一人残らず殺す。チャンスは今だけだ。後で命ごいをしたところで聞いてやらんからな。では…ひとつ!」

空気が振動する。

「ふたつ!」

傭兵達は誰ひとり銃を降ろさずに構えたまま。

「みっ…」

つ、と言い終わる前に一発の銃声が響き渡った。発射されたのはエントランスホールの三階部分に潜んでいた狙撃手の持つ、対戦車ライフルからだ。

当たれば弾丸は戦鬼の頭を、スイカ割りのように粉々に砕く…はずだった。

弾丸は戦鬼を避けるように左にズレて大理石の床を穿った。

「あ〜あ、せっかく助かるチャンスだったのに無駄にして…ま、しかたないな、お前らは全員…ここで死ね」

言い終わると同時に出刃包丁を横に振った。

何かが外れる音と風を切る音が同時に響き、出刃包丁の刃が遠く離れた狙撃手の喉を描き切った。

「え…?」

狙撃手は何が起こったのか理解出来ないまま喉から血を噴き出し、床に崩れ落ちた。

喉を切り裂いた出刃包丁の刃は、巻尺が戻るように柄に納まる。

「まず一人、残り九十九」

戦鬼は笑みを見せて出刃包丁を水平に振った。



地上28階

鬼神・皇鬼は戦鬼と同じように屋上から飛び降りていたが、落下の途中に窓ガラスを突き破って移動していた。

「ちょっと動いただけなのに、群がるもんじゃな〜」

皇鬼が立ち止まった階には、装甲服で武装した兵士ではなく固有の服装で、ナイフ、刀、槍、拳銃、その道の達人数十人が立ち塞がっていた。

「鬼神・皇鬼を討てば、裏の世界での地位は不動のものとなる…!」

「あの首は俺のもんだ!」

「ひゃは!死ねクソジジイ!」

傭兵集団が力を解放した。ハイエナ、龍、モグラ、ライオン、蟷螂(カマキリ)などの各々の姿に変身する。

「ワシの首ってこんなに安かったのか…」

皇鬼はため息をつき、両手を床についてうなだれていると。

「ヒャッハッ!いただきだぜぇ!」

鎌を持ったハイエナの獣人が飛び掛かる。

「マジでショックじゃ〜」

皇鬼は鎌の刃を、右手の人差し指と中指で挟んで受け止めた。

「な!?」

ハイエナの男は力を込めて引き離そうとするが、まったく動かない。

「こんな程度の連中に…勝てると思われるなんてのぉ〜ワシも落ちたもんじゃな」

皇鬼は空いた左手でゴルフバックの中に手を突っ込んだ。

「ま、気を取り直して行くかの…それでは!本日最初のビックリドッキリ武器は〜これじゃ!」

取り出した物は、血糊がついた赤黒いハンマーと、四本の五寸釘だった。

「ほ〜これか。おい若僧、歯ぁ食いしばれ」

言ってからハンマーを縦に振り下ろす。

グシャ!と、ハイエナの男の頭が粉々に砕け散り、頭があった場所から噴水のように血が噴き出した。

「おっと、食いしばる歯も砕けたかの?」

皇鬼は笑いながら死体を蹴飛ばし、ハンマーを右手に持ち替えた。

「ほれ次行くぞ〜」

左手に持った釘を宙に浮かせ、ボールをノックするようにハンマーで打ちつける。

釘が弾丸のようなスピードで飛ぶ。

釘は一人の傭兵の身体を穿ち、その勢いで釘は壁を貫通する。

「はっはっ〜!ホームランじゃな!」

皇鬼は残った三つの釘を浮かせ、先程と同じように打ちつける。釘が弾丸のように飛び、四人の傭兵の身体を穿った。

「この分だと貴様ら、二分と持たんぞ?」

皇鬼は笑いながらゴルフバックの中に手を突っ込んだ。



31階

広い通路の中心で闘鬼は、目の前にいる標的の男を見据えていた。

男の名は鬼島・泰刃(キジマ・タイハ)。筋肉質の身体にノースリーブのジャケットを羽織った金髪の青年。

泰刃はボクサーのような軽いフットワークを踏み、不敵な笑みで闘鬼を見据える。

「お前だろ、壊腕ってあだ名の奴は?」

闘鬼は無言で鉄棒を縦に振り下ろす。

カシャンカシャンと音を立てて六角柱の鉄棒が1メートルほどの長さに伸びた。

「無視かよ、まぁいいや。ところで一つ質問。なんで傭兵集団を殺さなかったんだ?」

「奴らが俺に仕掛けて来なかったから」

「喋らない奴だと思ったら、即答かよ」

泰刃は笑う。

「お前、強いだろうけど甘いな。敵は向かって来ようがきまいが殺すもんだぜ?」

闘鬼は答えず、ただ泰刃を見据える。

「また無視か、それより聞けよ。お前が見逃した傭兵達、俺が全員ぶち殺したからさ。やっぱり人間って使えないよな〜ちょっと殺気に当たっただけで動けなくなるんだもんよ」

その言葉に闘鬼は、一瞬眉をひそめる。

「あれ?怒った?でもさ、使えねー奴は例え味方でも殺す。これ裏社会の常識な」

「よく喋る奴だな、来るなら来い。それとも、怖くて手が出せないのか?」

闘鬼は殺気を飛ばすと。

「へ、言うねぇ!」

言ってから、泰刃が前に出た。人間のプロボクサーの数倍の速さで間合いを詰め、闘鬼の顔面目掛けて手刀を繰り出す。闘鬼は咄嗟に顔を左にずらして手刀を避けるが、僅かに頬が斬れた。

「どうよ?コイツの切れ味は!」

泰刃は掠ったものの、一撃を加えたことを確認すると間合いをとる。

「なるほど、これが鬼島の技か…」

「へ!俺達は焼けた砂利に手刀を打つ。それを幼少期から毎日欠かさず繰り返すと、切れ味は日本刀の切れ味を上回るまでに鍛え上がる!そして俺はさらに独自の修練を積み重ね、ダイヤすらカットできるまでに鍛えあげたんだぜ?」

笑いながらステップを踏み次の攻撃の構えを取る。

「なるほど、ダイヤまでしか斬れないんだな?」

闘鬼は鉄棒を振りかざし、泰刃の真上に跳躍した。

落下の勢いで鉄棒を泰刃の頭上に振り下ろす。が、金属音が響き鉄棒が弾かれた。

「あめぇんだよ!」

泰刃は鉄棒を左手で受け止めていた。

「何?」

闘鬼の動きが一瞬止まる。

その隙を逃さず、空いた右手で闘鬼の腹へ手刀を放つ、が闘鬼は咄嗟に泰刃の身体を蹴り飛ばして手刀を避ける。

泰刃は受け身を取って着地する。

「やるな、でもやっぱりあめぇ。そんな棒きれじゃあ、俺の腕は壊れねーよ」

泰刃は低い姿勢で構え、全速力で前に出る。一気に間合いを詰め、下から右手刀をアッパーのように突き上げた。

闘鬼は首を後ろに引いてかわし、カウンターに鉄棒を頭部を狙って水平に振る。泰刃は左手で受け止めるが、衝撃を殺し切れず身体がワイヤーアクションの映画のように宙に吹っ飛んだ。

「まだまだ」

闘鬼は床を蹴って泰刃の目の前まで跳躍し、鉄棒を振り下ろす。泰刃は両腕を交差して防ぐが、ミシミシと筋肉と骨が軋む。

そのまま衝撃で身体が落下し、床に激突した。

「かっ…!?」

床に蜘蛛の巣状のひびが入り、骨が数本砕けた。

「この程度の実力で俺に勝てると思ったか?」

闘鬼は呆れたようにため息をつき、鉄棒を元に戻す。

「これほど雑魚なら、殺す価値もない…失せろ」

鉄棒をスーツの内側にしまってもと来た道を引き返す。

「てめぇ…まちやがれ…!!」泰刃はふらつきながら身体を起こし、闘鬼を睨む。

「まだ終わってねぇんだよ!!」

力を解放すると、泰刃の身体が甲殻類のような硬い殻に被われ、肌は濃い緑に染まり、額からは鋭い角が一本、手の甲からは日本刀のような刃が生えた。

「死ねやぁぁ!」

手刀を振りかざして背後から闘鬼に突撃し、刃で袈裟掛けに振り下ろす。

「馬鹿が…」

スーツから鉄棒を取り出し、振り抜くと同時に金属音と何かが折れる音が響いた。

「な…に…!?」

折れたのは泰刃の右腕から生えた刃だった。

「まだやるか?」

「ウラァ!!」

闘鬼が言い終わるより速く、泰刃は残った左腕の刃で切り掛かっていた。それを闘鬼はわかっていたかのように鉄棒で刃を受け止める。

「馬鹿が、そんなに死にたければ…」

鉄棒を持つ左手と逆の右手で拳を硬くにぎりしめ、

「死ね」

放つ。

刹那、泰刃の上半身が粉々に砕け、残った部分から血液が噴き出した。

「馬鹿な奴だ…」

闘鬼は鉄棒をスーツの懐に戻し、屋上へ向かった。



1階

エントランスホールは至る所に切り刻まれた死体が散乱し、血の海となっていた。

「7分か…意外と時間かかったな」

戦鬼はペン回しのように柄だけの包丁を回す。

「闘鬼の奴は要領がいいから、きっともう終わってるだろうな」

出刃包丁には柄から蜘蛛の糸のように細いワイヤーが伸び、刃と繋がっていた。

戦鬼が柄に備えてある引き金を引く事にワイヤーの長さが変わり、柄を回すと、それに連動して離れた場所の床や柱、エントランスを飾るオブジェが切り刻まれていく。

「俺もそろそろ…やることやろうかね」

戦鬼は柄の引き金を引く。カシャンと音が響くと、柄に包丁の刃が戻った。


「鬼神・戦鬼さんですね?」

突然、戦鬼の背後から男の声が響いた。

「誰よ?俺が狙ってる標的だとうれしいんだが」

戦鬼は振り向かずに問いかける。

「私の名は鬼島・永砕(キジマ・エイサイ)。貴方を殺す者の名です…覚えておいてください」

感情のこもっていない声で答えた。

「ああ、しっかり覚えておこう…俺に殺される者の名を」

戦鬼はゆっくりと背後に振り向いた。



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