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壊腕  作者: Oigami
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第十五話 日常

地上31階、とある高級マンションの最上階にあるスイートルームのような一室でジリジリジリジリッ!と、目覚まし時計が耳障りな音を響かせる。ベッドの中から手を出して手探りで目覚まし時計を探し当てると、闘鬼は思い切り投げ飛ばした。ガシャン!と言う破砕音と共に目覚まし時計が止まる。それと同時に身体を起こした。

「強度に問題あり…」

鬼神グループ傘下の企業が開発した[投げて止める目覚まし時計!]のモニターを任された闘鬼はまだ眠気の残る頭で評価を下し、完全に目を覚ますために洗面所に向かう。

「クソ忌ま忌ましい…」

闘鬼が鬼神の本家に合流してから二週間が経っていた。その間、分家の目立った行動もなく、何事もない日常が過ぎていたのだが、その日常が返って闘鬼の苛立ちを増大させていた。家では毎朝毎晩、神鬼や戦鬼の意味不明な行動にストレスを溜めたり、二人が犬と猫を飼いはじめたのだが、なぜか闘鬼が世話をしなければならなかったり。

学校では魔衣が体育の柔道で体育教師を絞め落としたり、授業中にいびきをかいて爆睡していたりなどの行動の責任を小隊長である闘鬼に押し付けられる、などといったことで正直限界だった。

「来るなら早く来い、腰抜けどもが…」

溜まりに溜まったストレスを分家の連中で発散させよう、と思いながら無駄に高級感ただよう洗面所で顔を洗う。朝食をとるためキッチンに向かうと浴衣を着た青い丸坊主の青年、戦鬼が市販の納豆を掻き交ぜながら眠っている。いつから回しているのか、納豆はすでに原形を留めていなかった。

そんな戦鬼を無視して冷蔵庫に入っているもので適当に朝食をとり、学ランに着替えて部屋を出た。そのままエレベーターに乗り、屋上のヘリポートに向かう。ここ最近の通学は

「内乱が収まるまで送り迎えにしよう」

と神鬼が余計なことを言ったせいで走って通学からヘリ通学になった。

(どこの世界にヘリで通学する学生がいるんだ?)

とため息をつくとエレベーターの自動ドアが開いた。

屋上に出ると黒スーツを着た鬼神家使用人、牛鬼が待っていた。

「では、参りましょうか闘鬼様」

牛鬼が言うと、ヘリのハッチが開いた。傭専学校にも配備されている鬼神グループの技術開発局が開発した最新鋭のヘリだ。闘鬼は薄っぺらい鞄をぶら下げてヘリに乗った。




ヘリに乗ること数分、傭専学校の敷地上空に到着した。

「行ってらっしゃいませ、このまま引き返して戦鬼様をお送りしなければならないので、闘鬼様にはここから飛び降りていただくことになりますが?」

牛鬼が物騒なことをサラっと言う

「ああ、その方がありがたい。Vip用のヘリポートを使うと目立つ」

そ返すと闘鬼はヘリの後部ハッチから飛び降りた。パラシュートも装着せずに。

「地上から300メートルほどの高さがありますが…ま、闘鬼様なら大丈夫でしょう」

牛鬼は適当に納得してからマンションへ引き返した。




傭専学校の敷地は半端なく広い。校舎を中心に半径20キロが敷地になっている。学生寮や職員寮などの宿泊施設は勿論、スーパーや銭湯から、様々な演習場、研究施設など幅広い施設が多くある。なので施設から校舎までの距離が半端なく遠い。そのため敷地内に移動専用のバスがあり、至る所にバス停がある。

そのバス停の中でも、最も校舎に近いバス停に霧谷・湊はいた。傭専学校にも指定の制服はあるが、とりあえず校彰さえついていれば私服でも構わない。なので大半の生徒は私服で登校しているのだが、根が真面目な湊は指定の制服を着ていた。そんな彼女は屋根付きのバス停でベンチに座り、時刻表に目を通していた。

「バス…遅いな…」

時刻表を見ると既にバスは到着してもいい時間帯なのだが、まだバスは来ない。だいたいの原因は朝の苦手な生徒達のために同じバス停でしばらく停車しているからだ。したがって最後の方になるほど到着が遅れてしまう。湊は学生寮も学校から近いので歩いて通学しても問題ないのだが、今日は何となくバスで行こうと思ったのだ。しかしバスは来ない、やっぱり歩いて行けばよかったかなと思いつつ、バスが来るまで暇つぶしに短編小説を読むことにした。読みかけのしおりで挟んでいた部分を開き、文頭の文字を読もうとした瞬間。

ズドン!という砲弾が落下して爆発したような音が背後で響いた。

「!?!?」

湊は驚いて手に持っていた短編小説を落とし、頭を抱えてしゃがみ込んだ。

「な、何…?」

恐る恐る背後を見ると、直結3メートル、深さ1メートルほどのクレーターがコンクリートの歩道にできあがっていた。

「チッ…落下地点がズレたな。やはりパラシュートを付けるべきだったか?いやしかし、それだと目立つな…いっそのことクソジジイに光学迷彩でも作らせるか?」

クレーターの中心にいる人物は、赤髪に前髪の一部だけが黒く、学ランを着た鬼神・闘鬼だった。

闘鬼は身体についた土埃を軽く掃ってからクレーターを出る。

「ま、辺りに人はいないようだし、目立ってないだろう」

と、辺りを見回すと、両手を地面について座り込んでいる(腰が抜けて立てない)湊と目が合った。

「お、おはよう…鬼神…君?」

状況が飲み込めないまま、とりあえず挨拶をする湊。

「…」

そんな湊を見て、いつものようなため息や舌打ちもでず、なんとも気まずそうに左手で頭をおさえる。

「お…おはよう?」

再度疑問形の挨拶に闘鬼は、ああ、と返事をしてから(これが魔衣だと無駄に騒ぐからな…見られたのが霧谷だったというのが救いと言えば救いだ)と勝手に納得して薄っぺらの鞄を担いで校舎に向かう。

「あ、あの!」

突然呼び止められて振り向くと、湊が恥ずかしそうに言った。

「お、起こしてください…そ、その…腰が抜けちゃって…立てないんです」

その言葉に闘鬼は小さく鼻で笑い、湊に近寄りって右手を差し延べた。湊が両手で腕を掴んだ事を確認してから怪我をさせないように一気に起こす。

「悪かったな、驚かせて。どこか怪我はないか?」

闘鬼はどこか申し訳なさそうに言うと、湊はぎこちなく首を縦に振る。そのまま立ち去ろうとしたとき、ちょうどバスが停車した。

「あ、あの…よかったら一緒に行きませんか?」


そんなこんなで闘鬼はバスに乗ることになった。バスの中は制服を着た生徒は勿論、私服を着た生徒、白衣を着た生徒、実習用の迷彩服を着た生徒達が座席でうたた寝をしたり、教科書に目を通したり、拳銃を分解したりと様々なことをしている。その生徒達の中で一際目を引く女子生徒がいた。その女子生徒は学ラン姿でバスの最後尾の席を独占し、アイマスクと耳栓を付けて眠っている。

「あれって…魔衣ちゃん?」

湊が闘鬼に確認すると闘鬼はため息をついて魔衣に近づく。すると回りの生徒達の視線が一気に闘鬼に集まった。

「(ま、まさかアイツ、あの女帝を起こすつもりか!?)」

「(何!?あの新入生入学から二日目に現れた吸血悪魔を!?)」

「(彼女の眠りを妨げる者は貧血で倒れるほど血を吸われてしまうぞ!)」

「(だが止めようとすると我々もとばっちりを受けかねん…ここは彼が犠牲になるのを黙って見るしかないんだ)」

などと、ひそひそ訳のわからない話をしているのを尻目に、闘鬼は魔衣のアイマスクと耳栓を同時に剥ぎ取った。

「う?…うがぁ!!」

魔衣が眠りを妨げられた事に腹を立てたのか、鋭い牙を剥き出して飛び掛かった。

「起きろバカヤロウ」

闘鬼は飛び掛かる魔衣の頭をわしづかみ、強引に席に座らせた。

「うが!?」

魔衣はまだ寝ぼけているのか不思議そうな顔をする。

「いい加減に起きろ、魔衣」

闘鬼が魔衣の額にデコピン(強め)を放った。

「〜〜!?」

魔衣が額を抑えながら上目で闘鬼を見て

「あ!闘鬼さん〜おはようございます〜」

やや涙目になりながら笑って挨拶をする。

「あれ?闘鬼さんってバス通でしたっけ?」

「いや、そんな事より席を詰めろ。俺達が座れない」

すみませんと言ってから魔衣が席を詰めて闘鬼と湊は座る。

「(な、なんて奴だ!?女帝を手なずけ、さらにかわいい女子生徒に挟まれるとは!?)」

「(う、うらやましい…)!」

「(一年の分際で…呪い殺してやる!)」

そんな事を話している生徒達をうっとうしいと思いながら闘鬼は軽く睨む。すると他の生徒達が一斉に目を逸らした。

「(なんだよアイツ超こえぇー!)」

「(ヤバイ目を合わせると…殺られる!?)」

闘鬼を睨んでいた生徒達は冷や汗をかきながら硬直した。



「そう言えばなんで闘鬼さんと湊ちゃんは一緒にいたんですか〜?」

豪快なあくびをしながら魔衣が問う。

「そ、それがね魔衣ちゃん…鬼神君が…空から落ちてきたの」

魔衣の問い掛けに湊は苦笑して答える。

「落ちてきた?ちょっと闘鬼さん、なに朝っぱらからダイブしてんですか?迷惑ですよ〜」

「お前に言われたくない。それより、テスト勉強はしたのか?今日は英語とロシア語のテストだと、外国語教師のミーシャが言っていただろう?」

闘鬼の言葉に魔衣が固まった。

「ナンデスッテトウキサン?」

額からふつふつと汗を流しながら笑顔で問い返す。

「も、もしかして魔衣ちゃん…忘れてた?」

「馬鹿だな、本物の馬鹿だ」

呆れたように闘鬼が言うと、魔衣は頭を抱えてうなり始めた。

「そうです忘れてましたよコンチクショー!勉強なんてしてないですよ!こうなったら闘鬼さんの解答用紙をカンニングしなければ…」

「お前の後ろのにいる俺の答案用紙をどうやってカンニングするんだ?」

「気合いです!」

「ド阿呆」

「う…じゃあ闘鬼さん、体内通信で答え教えてくださいよ!」

魔衣が耳の後ろに手を当てながら言った。

「教室には電波妨害のジャミングがかかっているから体内通信はできないということを知らんのか?それに出来たとしても却下だ」

「あうう…で、ではカンニングしかないですね」

「で、でも…カンニングは見つかったら大変だよ?」

すると魔衣は鼻で笑った。

「ふっふっふ…湊ちゃん、カンニングは絶対にばれないようにやれば許してもらえるのですよ!ほらこれを見てみなさい!」

と、入学初日に闘鬼から貰ったレポートの資料を取り出し

「この資料に、傭専学校ではカンニングの技術は評価されると書いてありますよ!読んでみなされ!」途中の一文を指差した。

「え、えと…傭専学校ではカンニングを情報収集技術として評価している。試験中にカンニング行為を教員に見つからなかった生徒は試験終了後、教員にカンニングしたことと方法を自己申告すること。その生徒には無条件で最高得点を与える…しかし、試験中にカンニング行為を見つかった生徒は休日返上で追試と補修を受けること、ちなみに赤点を取った生徒も同じ」

「ふふふ…リスクは高いですがその見返りはさらに大きいのです!」

不適に笑いながら魔衣は言う。

「せいぜい頑張るんだな」

闘鬼が鼻で笑うと調度バスが校舎に到着した。




一時間目が始まって20分が経過した。

闘鬼は自分の解答欄の埋まっている答案用紙を見て眠そうにあくびをする。

(暇だ…)問題は普通の高校で一年かけて勉強する範囲であったが、闘鬼にとっては朝飯前だった。なぜなら、幼い頃から鬼神の英才教育を受けていたので、アメリカの大学を軽く飛び級で卒業できるほどの学力を持っているのだ。

(高校生のレベルとしては難しい方だが…こんなものだろう)闘鬼は視線を目の前に座っている魔衣に移した。

(カンニングをすると言っていたが…さっきからそんなそぶりは見せていないな)終了のチャイムが鳴るまであと40分、

(どんな手を使うか、暇潰しに手並みを拝見といくか)

闘鬼はなるべく不自然に見えないよう魔衣の行動を観察することにした。

(まてよ…目の前にいるコイツ分身か?だとしたらもうカンニングは始まっているな…それなら少し遊んでやるか)

闘鬼は口元に薄い笑みを浮かべてクラスの一人に体内通信の回線を繋げた。



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