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壊腕  作者: Oigami
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第十四話 反乱

 後頭部を強打され、朦朧としていた意識を取り戻しかけた時、霊は目の前の光景を疑った。

 先程まで戦っていた敵三人が、誰が誰だと判別のつかないただの肉塊に成り果てていた事。

 その三人より実力が上のはずの男、セルゲイと思われる男の上半身が粉々に砕けていた事。

 そしてなにより目を疑ったのは、鬼神・闘鬼が力を解放せずに敵の指揮官を破壊したということだった。


「こいつぁ…夢…か…?」


あまりの出来事に彼は顔が引き攣り、笑っていた。






 闘鬼は腕にこびりついた血液を非常に面倒臭そうな表情で拭き取っていた。


「帰ったらクソジジイに液体を弾く素材のグローブを作らせるか…」


 ぶつくさ言いながら血液を拭き終えると、倒れている霊、水瀬、雷廉を担ぐ。


「魔衣は時宮と佐熊を、今から回収地点まで急ぐぞ。残り時間は四分だからな」

「了解です〜」


 魔衣はニヤニヤ笑いながら返事をしてアリスを担ぐ。


「どうせここに用はないだろう。天井をぶち破って一気に屋上まで行く」


 闘鬼は二人を担いだまま上に跳び、天井を蹴破った。鈍い音と共に天井に穴が空く。


「なんでもありですね〜」


 魔衣は笑いながら上の階にジャンプする。

 闘鬼もそれに続こうとした瞬間、背後から斬撃が飛んできた。

 が、闘鬼は特に気にする事もなくあっさり避け、上の階に水瀬と霊をほうり込む。


「魔衣、五人を連れて先に行け。俺はこいつを仕留めてから行く」

その命令に、は〜い、と魔衣が気の抜ける返事をする。


「じゃ、先に行って待ってますからね〜」


 魔衣は力を解放してから五人を抱え、天井を破壊しながら上を目指した。


「行ったか」


 魔衣が離れたことを確認してから、闘鬼は斬撃が飛んできた方向に殺気を飛ばす。

 すると狂ったような笑い声と共に、抜き身の刀を持った長髪の女、鬼頭・マキがいた。


「フフフ…流石は『本家』のお坊ちゃん…普通の人間なら今の殺気で気絶してますよ…」

「抜き身の長刀に今の技…貴様…鬼頭(キトウ)の者か? 何故『分家』がここにいる?」


 闘鬼は殺気を放ちながらマキを睨む。


「フフ…まさかあのセンセイの生徒さんに…鬼神のお坊ちゃんがいるとは…」

「話を逸らすな」


 闘鬼はさらに強い殺気を放った。


「そんなに怒らないでくださいよ…センセイは生きてます……もっとも死にかけですけどね……」


 口元を歪め、マキは笑う。


「聞いていなかったのか? 俺は話を逸らすなと言ったんだ。何故『分家』の貴様がここにいる?」


 闘鬼の問い掛けにマキは一瞬不思議そうな顔をしてから、すぐに不気味な笑みを見せて答え

た。


「『本家』のお坊ちゃんなのに聞かされていないとは…フフフ……教えてあげましょう…今、一族で内乱が起きているということを…」


 何?と闘鬼は眉をひそめて思考を巡らせた。

 闘鬼達、鬼の一族と言うものは大小様々な勢力が持つ力の序列で支配者が変わるというシステムになっている。

 その中で一番力を持っているものを本家と呼び、それ以外を分家と呼ぶ。

 今は数多ある鬼の一族の中で最も巨大な勢力である[鬼神]の家系が一族全てを支配をしていた。

 マキの言う内乱は、支配者を変えるための言わば革命のようなものだ。

 

 闘鬼は馬鹿馬鹿しい、と一蹴する。


「鬼頭ごときが鬼神に勝てるとでも思っているのか? だとしたら身の程知らずも……」

「いつ鬼頭だけが仕掛けると言いました?」


 闘鬼の言葉を遮るようにマキは告げる。


「他にも内乱を起こす勢力はいますよ…鬼城、鬼山、鬼島、鬼羽…フフフ、他にもまだまだ…私は彼らと協力して活動資金を集めていただけです…だから今日は貴方と戦うつもりはありません…言うならば顔見せです…では…」


 マキはそれだけ告げると、姿を消した。


「…逃げたか……まぁいい、先生を回収しなければならんしな」


 闘鬼は耳の後ろに手を当て、体内通信の回線を開いた。


「真紅、大神先生の座標を送れ」

『闘鬼さん!? よかった! やっと繋がった!』


 真紅の叫ぶような受け答えに闘鬼はうっとうしそうに耳を塞いだ(と言っても体内通信は直接鼓膜に響くので意味はない)。


「…どうした?」

『それが、闘鬼さんが魔衣さんと別れた時に、闘鬼さんの周囲にジャミングがかかっていて通信できなかったから心配してたんですよ! それに大神先生は血だらけで戻って来るし、魔衣さんは五人も抱えて合流してくるし…もう何がなんだか…』

「落ち着け真紅。後何分で撤収だ?」


 真紅はやや落ち着きを取り戻し、

『あと、40秒です。急いでください!』

「わかった。すぐに行く」


 通信を切り、闘鬼は魔衣が空けた天井の穴に向かって跳躍した。






 闘鬼は宣言したとおりものの5秒で合流地点まで到着し、そのままヘリで学校に到着すると、まず昴や怪我をした生徒達は急いで保健室へ運ばれた。

 傭専学校は国立であり、なおかつ様々な企業からの支援のおかげで隅々まで最新の設備が充実している。

 なので保健室がへたな病院よりも数段優れているのだ。

 怪我人以外の点呼が終わると三嶋が代理で終礼をして各自解散となった。

 闘鬼達、第五小隊の面々は怪我人の見舞いに行こうとしたが保健医の死上(シガミ)に、詳しい検査の最中だから明日出直せ、と言われ追い返されてしまった。

 その後魔衣が、暇なので柔道しましょう〜、寝言を言ったので三人は魔衣から全力で逃れて帰宅する形となった。











 闘鬼は自宅に帰ると、玄関先に一匹の子犬がダンボールの中で震えながらこちらを見ていた。ダンボールには[引き取ってください]と非常によく知っている人物の筆跡で書かれていた。

 ため息をつきながら子犬を掴んで目の前まで持って来ると、子犬は宙ぶらりんのまま闘鬼を見つめていた。


「中国じゃあ犬を食うらしい。牛鬼に調理法を教えてもらって晩飯はコレだな」


子犬に向かって呟いた瞬間、

「ダメー!!」

 っと叫びながら一つの影が闘鬼の手にぶら下がっている子犬を高速で奪い取った。


闘鬼は首を動かして影が過ぎ去った方を向くとそこには、

「…ストーカーかクソ親父」

 子犬を抱き抱えているのは白スーツに真っ赤なオールバックの男、父、鬼神・神鬼だった。


「トウ君! 君はそんな冷徹な人間だったのかい!? こんなにかわいいわんちゃんを、よりによって晩ゴハンだなんて!」


 神鬼はわざとらしくハンカチで目を抑えて問う。すると闘鬼の背後から笑い声と共に下駄の音が響いた。


「はっはっは〜言っただろう親父殿? 闘鬼は誰にでも尻尾を振る犬っころよりも、自由なにゃんこの方が好きなはずだとな!」


 声だかに宣言している人物は、小さな子猫を抱いた青い丸坊主の青年、兄、鬼神・戦鬼だった。


「どうだ〜闘鬼? このにゃんこの愛らしさを! さっき電柱の脇に捨てられていたのを拾ったんだ〜この肉球など堪らんぞ?」


 戦鬼が子猫の肉球を触りながら崩れた笑顔で問うと闘鬼は、

「綺麗に洗って毛と皮を剥いでから臓物を小分けにして丸焼きにしたら旨そうだな」

 と物凄く冷たい目で言い放った。その言葉を聞いた戦鬼は背中に寒気を感じて子猫を懐に隠し、震える口調で言った。


「にゃ…にゃ…にゃんこを食うだと…!? なんて恐ろしい奴だ! 動物愛護団体の敵、いや…全世界のにゃんこ大好き人間の敵目ぇぇ!!」


 戦鬼は顔面蒼白のまま何処の国か判別のつかない言葉で闘鬼に罵声を浴びせる。

 そんな馬鹿な事をしている父と兄を見て闘鬼は深いため息をつく。


「帰れ」

「「うるさいこの人で無しぃぃ!!」」


 双方とも両腕にしっかりと小動物を抱き抱えながら叫ぶ。そんな二人に向かってもう一度深いため息と舌打ちをしてから、

「貴様ら…」


 闘鬼の頭の中で何かが外れた。


「このクソクズ野郎共が!! 何故いつもいつも家で待ち伏せしてやがる!? 盗聴器なんぞつけやがって、そんなに息子の行動が気になるのか!? このクソ変態親父が!」

「え…?」

「それになんだその小動物は、どっから拾って来た!? 元いた場所に今すぐ捨てて来い!!」


 いつもと違い、完全にブチ切れた口調だった。


「し、しかしだな闘鬼? このにゃんこは捨てられててかわいそうだったし…凄く弱ってたから…」


 突然ブチ切れた闘鬼に恐る恐る戦鬼が言うと、

「じゃかぁしい!! だいたい犬や猫、その他大勢の動物など毎年何十万匹と保健所で殺されるか管理のできん無能な飼い主に殺されるか虐待を受けている!! たかが一匹や二匹救った所で変わらんわ!!」

「ホントに人で無し!!」

「黙れぇぇ!! それから貴様ら一体なにしに来た!? こんな茶番などしやがって!! 要件を言え! そしてさっさと帰れ馬鹿共がぁぁぁ!!」


 最近溜め込んでいたストレスを一気に発散すると、闘鬼の怒号が収まった。

 その事を確認してから神鬼は手を挙げて言う。


「わ、わかったよ。要件を説明するね? トウ君は最近分家の連中がクーデターを起こそうとしてるのは知ってる?」


 神鬼はこれ以上闘鬼を刺激しないように、引き攣った顔のままいつもより慎重に告げる。


「あ?それがどうした?」

「だ、だから〜こっちも分家の協力派と一緒に迎撃体勢を整えないといけないから、トウ君にはしばらく本家の戦力として動いてもらうから実家に戻ってもらおうってわけ〜」


 神鬼の言葉に闘鬼はいつもの落ち着きを取り戻しながら耳を傾ける。


「クーデターが起こると私達は敵から狙われる事になる。そうなると敵は見境がなくってトウ君の住むこのアパートの人達も巻き添えになっちゃうかもしれない、だからトウ君にはしばらくの間、私やセン君と一緒にいてもらう。勿論学校には通って大丈夫だから〜。それで伝えたい事は終わりだよ〜」


 最後まで顔を引き攣らせながら言い終えると、

「それだけか?」


 ボソッと闘鬼が呟いた。


「え?」


 神鬼が聞き直すと、

「たったそれだけの事のためにくだらん事をしやがってぇぇぇ!!」


 再び闘鬼のつなぎ止められそうだった何かが外れた。


「ど、どうする親父殿!?」

「し、仕方がないよ! こうなったら奥の手だ!」


 神鬼は懐から拳銃を取り出す。中身はアフリカ象を一瞬で眠らせることのできる麻酔薬の入った弾丸、消音器を装着した状態で銃声は出ないので近所迷惑にもならない。


「ごめんねトウ君! 後で謝るから!」


 神鬼は目にも止まらぬスピードで引き金を引くと、麻酔針が闘鬼の首筋に刺さった。だが、闘鬼は眠らずに力を解放しようとする。


「あっれぇぇぇ〜?」


 神鬼は尋常でない量の冷や汗をかきながら目の前の闘鬼を見る。

 人間でない異能な種族でも、この麻酔薬を受けると一瞬で眠ってしまう…はずなのだが、闘鬼は日ごろ溜まったストレス(ほとんどが神鬼によるもの)で怒りが止まらない。


「ヤバイぞ親父殿! どうするんだ!?」

「もう一発!」


 神鬼はもう一度麻酔銃の引き金を引くが、闘鬼は止まらない。


「本当に麻酔が入っているのか親父殿!?」

「そのはずだよ! だって前にもこれで眠らせたことあるんだもん!」


 そんな事を言っているとすっかり闘鬼の変身が終了し、鬼の姿で二人を睨んでいた。


「あわわわ!?」

「このクズ野郎共がぁぁぁあぁぁ――……あ?」


 闘鬼が二人に飛び掛かろうとした瞬間、闘鬼が元の姿に戻り、その場に倒れた。


「あ、あっぶね〜ギリギリセ〜フ……」


 神鬼は麻酔銃を胸のホルスターにしまい、闘鬼を担ぐ。

 そのまま近くに止めてあるリムジンまで連れて行き、とりあえず拘束具を装着しておく。


「と、とりあえずオッケー」

「ああ、まさかほんの冗談のつもりがここまでキレるとは…」

「まぁ…ちょ〜っと昔の事に触れちゃったしね〜怒るのは当然かな?」


 神鬼は苦笑しながら子犬の頭を撫でる。


「なんだ昔の事って?」


 戦鬼の問いに神鬼は昔を思い出したように答える。


「昔は闘君も犬や猫を可愛がってたって話しだよ〜。詳しいことは本人に聞いてちょうだい」


 戦鬼は不思議そうに拘束された闘鬼に目をやる。


「さ、家に帰るよ〜、安全運転ヨロシク!」


 ドライバーに指示を出すと、リムジンは緩やかに発進した。

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