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壊腕  作者: Oigami
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第十一話 実戦

 午前8時30分。

 始業のチャイムが鳴り響くと同時に、スーツ姿の昴が教卓の前に立つ。


「おはようみんな! 連絡行ったと思うけど今日は、いろいろ支給される物があるからバックは持って来たか? 忘れた奴は挙手…お! やるな〜誰も忘れてないな。そんじゃあ今日の日程を教えるぞ〜」


 満足そうな表情を見せると、昴はチョークで黒板に日程を書き始める。

 黒板にはでかでかと「野外実習」と書かれた。


「先生! 午後から始まる野外実習ってなんですか〜?」

「あ〜、それは……あれだ……」


 魔衣の問いに昴が無言になった。


「ちょっ! なんで黙ってるんすか!?」


 突然、乙音が立ち上がる。


「それはまぁ、忘れたからおいといて……昼は実習服を着て屋上に小隊順に整列してくれ」

「ちょっと! おいちゃ駄目っすよ!てか忘れたぁ!?」

「じゃあ一時間目〜、第一体育館に移動すっからついて来い」

「私の質問は無視っすか!?」


 






 第一体育館。


「よ〜しみんな。これから午後の野外実習に使う装備を配るから、小隊順に取りに行ってくれ」


 昴が山積みになっているダンボールを指差す。

 ダンボールの近くには厳重に武装した兵士とジャージを着た副担任の三嶋が立っていた。

 「支給品の取り扱いには十分注意するんだぞ~」


 忠告を受けた後、闘鬼達は順番に指示されたダンボールから支給品をバックに納める。


「闘鬼さん、真紅君、辰希君、なんですかこれ?」


 魔衣がバックの中から缶のような物を取り出して尋ねた。


「それはスタングレネード、敵の目や耳を封じるために使う手榴弾だ」

「へ〜便利な物なんですね。この金具はなんですか?」

「安全装置です。それを外してから相手に向かって投げるんですよ」

「む…外すな……よ?」

「てい!」

 瞬間、真紅の説明と辰希の忠告より早く、魔衣が閃光弾の金具を引っこ抜いた。


「馬鹿!」


 闘鬼は咄嗟に己の両目を右手でふさぎ、同時に左手で魔衣の目を覆いながら閃光弾を真上に蹴り飛ばした。


「みんな耳塞げ!」


 叫んだ瞬間、体育館の中で閃光と耳鳴りのような音が鳴り響いた。

 数秒後、闘鬼は目を開けて辺りを見回すと、闘鬼の言葉を聞いた数人と昴が耳を塞いで辺りを見回して状況を確認している姿が見えた。

 昴がこちらに気づき駆け寄って来ると、

「何があった!?」


 耳鳴りが収まっていないのか、昴は片耳を押さえながら大声で問う。


「すみません先生……」

「閃光弾が暴発しました」


 魔衣の言葉を遮るように闘鬼が答える。


「暴発?」


 昴の確認の言葉に闘鬼は頷く。


「そうか……ま、いいや。次は三嶋先生がいるステージ前に行って、実習用の武装を受け取って来い。……それにしても暴発って、ふざけたもん寄越しやがって」


 昴は不機嫌そうな顔で別の生徒達の元へ走った。


「……なんとかごまかせたな」


 溜息をつきながら闘鬼が言う。


「あはは〜すみません闘鬼さん。またご迷惑をかけてしまって」

「む……魔衣、話はちゃんと最後まで聞いたほうがいい……」

「まったくだ。お前、もう少し考えて行動できないのか?」


 呆れたような口調で闘鬼は魔衣を見る。


「あはは〜」


 魔衣の笑顔を見て、三人は再度ため息をつき、四人はステージ前に向かった。

 体育館のステージ前には数十個のケースが並べられていた。

 その前で三嶋が四人に一つずつケースを渡す。


「先生〜このケースの中って何が入っているんですか〜?」


 ケースを振り回しながら魔衣が尋ねる。すると三嶋が四枚のカードキーを取り出した。


「このカードキーでケースが開きます。中身は午後の授業で使う武器が入っています。マニュアルも一緒に入ってますから、しっかり読んで昼までに扱い方をマスターしてください。それと練習がしたかったら体育館の地下に行ってくださいね」


 三嶋は笑顔で告げると、並んでいた別の小隊員にケースとカードキーを渡す。


「何が入っているんですかね?」


 魔衣はカードキーでロックを解除してケースを開ける。

「魔衣、最初に言っておくが、さっきのような事はするなよ?」

「は、はい! すみません! 気をつけます」


 魔衣が恐る恐るケースを開けると中には、AK-74(アサルトライフル)が入っていた。


「銃ですよ」

「銃だな」

「む…銃だ…」

「なんで銃が?」


 中にはAKの他に、弾薬、空のマガジンが四つとダットサイトが入っていた。


「闘鬼さん達のも一瞬なんですかね? 開けてみてくださいよ」


 魔衣は自分のケースに入っていたAKを取りだしてから三人のケースを見た。


「そうみたいですね。僕も魔衣さんと同じAKです」

「む…俺もだ…」


 闘鬼も同じようにケースを開けて中を見る。


「あれ?」

「む…?」

「なんで?」


 三人が闘鬼のケースを覗き込むと。


「なんか、闘鬼さんのだけちっちゃいですね〜」


 魔衣が闘鬼のケースからAKではない拳銃を取り出した。


「S&W M29…リボルバーですね。でもなんで闘鬼さんだけマグナム?」


 真紅が首を傾げながら拳銃を見ると、

「知るか、銃など使わなくてもナイフや力を使えば充分だろう?」


 闘鬼は魔衣から拳銃を受け取ると、ケースに戻し。


「行くぞ」


 そう言ってから体育館の階段に向かった。


「どこに行くんですか〜?」

「射撃訓練だ。三嶋先生が、練習するなら地下に行けと言っただろう?」

「あ〜なるほど〜」


 魔衣は納得すると闘鬼の隣まで走った。


「ナイフで充分って言ってたのに練習って…闘鬼さんは意外と真面目なんですね」

「む…そのようだ……」


 真紅と辰希は苦笑しながら跡に続いた。






 第一体育館・地下射撃訓練場。

 訓練場に6発の銃声が響くと人型の的、その頭と心臓の円の中心に二つの穴が空いた。


「すごい……!」

「む…」


 真紅と辰希の二人は茫然と闘鬼の撃った的を見つめ、隣では魔衣がニヤニヤと笑いながら言った。


「闘鬼さん。射撃下手ですね〜、二発しか当たってないですよ〜? ほら、私なんて全部当たってます! どうですか? すごいでしょう!」


 魔衣は自慢げに自分の撃った的を指差すと、先の的には穴が不規則に空いていた。


「そうか、それはよかったな」


 闘鬼は興味なさそうにリボルバーを回転させ、弾丸を装填する。


「あ〜なんですか? そのどうでもいいような返事は?」


 闘鬼は左手に拳銃を持ち、半身の構えになる。


「魔衣、新しい的に変えてくれ」

「はいは~い」


 返事をした後、魔衣は手元のリモコンを操作して新しい的を出した


「出しましたよ〜」


 瞬間、撃鉄が弾丸を打った。一瞬で6度の銃声が鳴り響く。

 魔衣は的を見てまたもニヤニヤと笑って闘鬼を見た。


「残念でした〜、また二発しか当たってないですよ〜」


 的には頭と心臓の二カ所に穴が空いている。


「真紅、録ったか?」


 闘鬼は的を見据えたまま後ろにいる真紅に問う。


「は、はい!」


 慌てて返事をして、真紅は持っていた携帯端末を操作する。


「闘鬼さん、負け惜しみですか〜?」

「負け惜しみ? はっ、馬鹿か?」


 闘鬼は鼻で笑うと、

「できました。闘鬼さん」


 真紅が携帯端末を闘鬼に渡した。


「そのボタンで再生できます」


 真紅が指示したボタンを押すと、映像が映しだされる。


「なんですか〜、これ?」

「さっき闘鬼さんの射撃をスーパースローで録画したんです」


 映像には弾丸が的の中心を貫通した後、次の弾丸が綺麗に貫通した穴を通り抜けていた。


「おお〜! おんなじ穴に通しているなんてすごいです闘鬼さん! ……って自慢ですか?」

「いや、お前の天狗になった鼻っ柱を叩き折っただけだ」

「あう〜……ショックです〜」


 魔衣が両手を地面についてうなだれた。


「む…闘鬼……どこでこんな技術を……?」


 ライフルを構え、的を狙いながら辰希が問う。


「小三の時、クソジジイに教え込まれた。射撃の技術などいらんと言ったのだがな」


 薬莢を落として、新しい弾を装填する。


「む…すごいな……」

「ジジイにとってはただの道楽だ。ゲームや映画を見て覚えた銃のジャグリングを、そのままコピーして自分なりのアレンジをして遊んだり、一人でロシアンルーレットでスリルを楽しむ馬鹿だ」

「それ……止めた方がいいですよ」

「いっそのこと、死んでくれれば面倒な相手をしなくて楽なんだがな」


 闘鬼は鼻で笑ってから的に向かって引き金を引いた。







 午後。

 屋上にY科の生徒達が迷彩服に身をつつみ、小隊長を先頭にして整列していた。


「よし! みんな集まったな?」


 迷彩服を着た昴がアタッシュケースを担いでいた。


「これから野外実習だ。第一小隊、第三小隊、第五小隊は先生と一瞬に後ろのヘリに乗れ。第二小隊、第四小隊は三嶋先生と一緒に次のヘリに乗ってくれ。実習の内容はヘリの中で説明する。なんか質問あるやついるか?」


 水瀬が手を挙げる。


「先生、ヘリなんてどこにあるのよ? なんにもないけどさ?」


 水瀬が昴の後ろを指差す。辺りにはヘリどころか何もない、ただの屋上だった。


「おっと、忘れてた」


 昴が右手で指を鳴らすと、何も無かった屋上から大型のヘリが二機現れた。


「MiⅢかよ!?」

「いや……ト○プルエックスだろこれは」

「いやいや、0○7だよ」


 男子生徒達が話していると、昴が両手を叩いた。


「無駄話はそこまでだ。早く乗れ、帰る時間が遅くなるぞ」


 昴は親指でヘリを指差した。


「じゃあみんな、これから実習の内容を説明するぞ!」


 昴がインカム越しに皆に言った。


「今私達は関東山地のとある場所に向かってる。そこにある洋館で、とある海外マフィアと日本のヤクザの会合が開かれてる。この二つの組織は麻薬売ったり武器の売買したり、他にもいろいろうざい事やってるから潰しちゃえって依頼されたから、今回の実習の課題にしようって決定したわけよ。それで君達第一、第三、第五小隊は洋館の周囲と一階にいる警備を殲滅し制圧する。なるたけ銃やナイフで倒してくれ、変身して殺すと片付けが面倒なことになるからな。それさえ守ってくれれば派手にやっていいぞ。開始から終了までの制限時間は15分。それまでに合流地点の屋上へ集合すること。質問あるやついるか?」


 孤狛が手を挙げる。


「先生はその間、何をするんですかい?」


 すると昴は資料の中から二枚の写真を取り出した。一枚目の写真には金の短髪でロシア系の男、二枚目の写真には黒い長髪の日本人女性が写っている。


「先生はこの写真の男と女を始末しなきゃならないから、別行動になる。万が一、先生がこいつらを仕留め損ねて、君達がこいつらと遭遇した場合は逃げてくれ。ゼッッタイに君達じゃ勝てないから。他に質問は? ……よし、無いみたいだから次行くぞ〜」


 そう言って昴はアタッシュケースを取り出し、中を開けて一本の注射器を取り出した。


「これはナノマシンって言って、通信機の変わりになり、ついでに体調をベストの状態にしてくれる優れ物だ。これを耳の後ろの辺りに打ってくれ」


 昴が皆に注射器を渡すと、全員が耳の後ろに注射針を打つ。


「最初は違和感があると思うけど、慣れるまで我慢してくれ。周波数は出席番号だから、通信をするときは、打ったところを押さえて番号を念じれば通信ができる」


 言い終わると、ヘリが減速しはじめた。


「もうすぐ到着みたいだな……よし、第一小隊から順に降下しろ。地上まで20メートル、どってことないだろ?」


 昴が薄い笑みを見せると、ヘリの後部ハッチが開いた。


「めったな事じゃ死なないんだから、派手に行けよ!」







 闘鬼達は同時にヘリのハッチから飛び降り、宙で回転しながら受け身をとって着地する。


「魔衣選手、後方四回転半捻りで見事着地〜! 得点は〜10点10点10点! 金メダルです〜! ……あだ!?」


 ポーズを決めた魔衣の後頭部を闘鬼が平手で打った。


「馬鹿かお前は?」


 言ってから耳の後ろに手を当て、体内通信の回線を開く。


「真紅は後方で十亀、霧谷と共にバックアップ。辰希、武藤、野乃代、佐熊は真紅達を警護しつつ洋館周囲の敵を殲滅。俺、魔衣、時宮、名波、蕨は洋館へ突入し、一階を制圧する」


 闘鬼が通信を切ると、霊が無理矢理回線を開いた。


『鬼神! なんでお前が仕切ってんだよ!?』

『いちいち噛み付かない……霊、突入するわよ』

『む…みんな……気をつけてな……』

『よぉーし! ついて来い辰希! 孤狛! 雷廉!』

『了解です。姐御』

『はぁ……疲れそうだな』

(み、みんな…頑張って……)

(行ってらっしゃいっす!)

「さて、行くぞ魔衣」


 闘鬼はリボルバーを片手に持ち、走り出した。


「了解です!」


 敬礼の真似事のようにポーズをとってから魔衣は闘鬼の隣に続いた。

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