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壊腕  作者: Oigami
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第九話:事後

 闘鬼達四人は、ドームに散乱している瓦礫を片付けていた。


「も〜、闘鬼さんのせいで終わらないじゃないですか〜」


 魔衣はぶつくさいいながら小さい瓦礫をトラックに積む。


「魔衣、お前が言えたことか?」


 鉄骨を折り曲げ、トラックに積み込みながら闘鬼が答える。彼らが瓦礫を片付けている理由はほんの数分前の出来事だった。






 10分前。

 終了のブザーが鳴り止んだ途端、演習場が大きく揺れ、倒壊した。


「あーあ……」

「壊れちゃったよ……」


 倒壊した演習場から瓦礫を押し退けて四人が現れた。


「やり過ぎたか?」


 闘鬼は気絶した湊と雷廉を抱え瓦礫を蹴り飛ばして現れた。


「あはは〜! いや〜、びっくりしましたよ〜。いきなり床が崩れるもんですから」


 笑いながら水瀬を担いだ魔衣が現れる。


「し、死ぬかと思いました……」


 咳込みながら真紅が現れる。


「む…みんな無事か……?」


 笑っている三嶋と気絶している詞凶を抱えて辰希が空中から舞い降りる。


「あれ? どうしたんですか先生?」


 魔衣が眉間にシワを寄せていた昴に問うと、

「第五小隊ぃぃぃ! またお前らか!! ペナルティとしてこの瓦礫を片付けろ!!! 片付けが終わるまで帰宅は許さねーからな!」


 昴がものすごい形相で四人に叫んだ。






 10分後。


「む…確かに……魔衣が屋上で折った鉄骨は…この建物を支える重要な柱の一本だったな……」

「あうう…でも! あんなに壁とか柱とか壊したのは闘鬼さんですよ!」


 闘鬼を指差して反論する。


「そうですね……あの壊し方は異常でした」

「む…そうだな……二階は酷い有様だった……」


 辰希と真紅は腕を組み、頷きながら言った。


「辰希、真紅、お前達はどっちの味方だ?」


 闘鬼の睨みを効かせた視線から二人は目を反らす。


「もちろん私の味方ですよね?」


 魔衣がわざと潤ませた目を見せる。


「む……」

「僕達は〜中立です! だって二人とも悪いんです……」


 真紅が言い終わる前に、魔衣のつま先が真紅の顎を打った。


「から……?」


 真紅の身体がゆっくりと瓦礫の上に倒れる。


「「優等生ぶってんじゃねーよ…」」


 真紅を見下ろしながら魔衣と闘鬼が呟いた。


「真紅!?」


 辰希が真紅に駆け寄る。


「き、気絶している……」

「すいません〜、ちょっと足が滑ってしまいました〜。てへッ!」


 魔衣は無邪気に舌をだして笑う。


「もう醜い争いは止めて、作業に戻りましょう!」


 魔衣はそう言うと鼻歌を歌いながら瓦礫をトラックに積みはじめた。


「真紅!」

「辰希、ほって置け」


 闘鬼の妙な威圧感に気圧され、辰希は真紅を瓦礫のない場所に移動させてから作業に戻った。






 30分後。


「終わりませんね〜。闘鬼さん、辰希君〜」


 魔衣は瓦礫に腰掛けながら言った。


「ここまで崩れるとはな」


 闘鬼は瓦礫の上に腰掛け、ドーム内の自販機で買った缶コーヒーで一服をする。


「む……」


 同じく茶をすすりながら辰希は頷く。


「休憩はここまでにして、続きやりますか!」


 魔衣が立ち上がり、伸びをしてから瓦礫を拾う。


「真紅、いつまで寝ている?」


 闘鬼が気絶している真紅の頬を平手で打った。


「は!? ここは一体? 僕はさっきまで川で溺れていたはずでは……?」

「何馬鹿なことを言っている? さっさと起きて働け」


 闘鬼は肩に鉄骨を担ぎながら答える。


「はぁ〜……誰か手伝ってくれないでしょうかね〜」


 魔衣がため息をつくと、突然、ドームのドアが開いた。


「魔〜衣ちゃ〜ん!!」


 ドアが開くと同時に、水瀬が魔衣に飛び付いた。


「愛しの魔衣ちゃ〜ん! 助けに来たわよ〜」


 水瀬は魔衣の顔にほお擦りをしながら言った。


「蕨さん! 手伝いに来てくれたんですか!?」

「そうよ〜。演習場はアタシ達も壊しちゃったんだから責任あるし〜。先生の目を盗んで助けにきたわ。ほらみんな! 手伝うわよ〜」


 水瀬がドームの入口に顔を向けると第一小隊と第三小隊のメンバーが揃っていた。


「第二と第四の連中は先生を説得してるんだけどね」


 苦笑しながら水瀬が言う。


「それでもありがとうございます! 蕨さん!」


 魔衣は水瀬に深く礼をする。


「そんなの気にしない気にしない、それより……アタシの事は名前で呼んでね」

「はい!」

「じゃあ、作業にかかるわよ!」






 ――詞凶、霊、アリス――


「おい、雷廉! 辰希と一緒に鉄骨片付けろ。湊と乙音は魔衣と一緒にちっちゃい瓦礫をリヤカーに乗せな」


 詞凶が皆に指示を出していると、

「おい佐熊! 俺より目立ってんじゃねーぞゴラァ!」


 突然霊が詞凶に突っ掛かり始めた。


「あ? やる気かハゲ?」

「だ、誰がハゲだ! これは剃ってるだけだ!」

「ハゲはハゲだろ?」

「てめぇ!」


 霊が詞凶に飛び掛かろうとした時、右からアリスが止めに入った。


「相変わらず馬鹿なんだから……」


 アリスがため息をつきながら霊を抑える。


「は! お前は人の二倍腕があるんだから二倍働け!」

「佐熊! 後で覚えてやがれよ!?」

「はいはい、わかったからさっさと変身して片付けるよ、霊」


 アリスは瓦礫をトラックに積みながら霊に促す。


「お、おう……わかった!」


 霊は四本腕で瓦礫を片付け始めた。






 ――辰希、孤狛、雷廉――


「苦労するな……野乃代、海東……」


 雷廉はため息をつきながら言った。


「そうだな〜。武藤、キャラの濃い奴らがいると苦労するよ〜。特に、内の霊とアリスは……」


 孤狛が深くため息をつく。


「む……俺の小隊の闘鬼と魔衣は…無茶苦茶な奴らだ……」

「いや……姐御と水瀬はおそらく一番無茶苦茶だと思うぞ……」


 三人は揃ってため息をつく。


「ま、俺達がみんなのストッパーにならねーといけねーんだよな」


 孤狛は瓦礫を拾いながら苦笑する。


「ああ、姐御はかなり突っ走る癖がある……」

「む…魔衣や闘鬼は自分が怪我をするのを厭わないからな……」


 再び深いため息をついてから顔を見合わせる。


「……なんか俺達、小隊は違うけどいいダチになれそうだな。戦場じゃあよろしく頼むぜ、雷廉、辰希」

「ふむ……そうだな」

「む…同感だ……」


 三人は苦笑しながら作業を再開する。





 ――魔衣、水瀬、湊、乙音――


「あの〜水瀬さん! いつまで抱き着いているんですか?」


 魔衣は上に乗っている水瀬に問う。


「ん〜、もうちょいかな」


 魔衣の頭を撫でながら水瀬が答えた。


「み、水瀬ちゃん、さっきからそれ言ってる」

(ミナト)の言う通りっすよ水瀬! いつまでセクハラしてるっすか?」

「あ〜。わかったわかった……やるわよ〜」


 水瀬は渋々瓦礫をトラックに積める。


「改めて見ると、よくここまで壊したわね〜」

「これやったのって、八割が闘鬼さんなんですよね〜」


 魔衣は苦笑しながら細かい瓦礫を拾う。


「この辺の瓦礫なんて、もう砂っすよ? どうやったらこんなに粉々になるんすかね? 話しによると、湊を見つけるためにここまで壊したみたいっすけど……湊はどうやって壊したか『唄』で捉えることできたっすか?」


 乙音はほうきで粉を集めながら問う。


「え、えと…なんて説明したらいいか……あ、あの…お、鬼神君は、もの凄く速かった」


 湊はおどおどした口調で話す。


「もの凄く速く? 湊ちゃん、それってどゆこと?」


 水瀬が湊の背後から抱き着く。


「はわ!?」

「お…アタシよりでかい……」

「セクハラ厳禁っすよ!」


 乙音が水瀬の頭にドロップキックをかました。


「がはッ!?」


 水瀬の身体が宙を舞い、瓦礫の中に埋もれる。


「遊んでないで作業を再開しますよ〜。早くしないと遅くなってしまいます〜」

「う、うん…ごめんなさい魔衣ちゃん……」

「湊さんが謝る必要はないですよ〜! 作業を再開しましょう!」


 三人は瓦礫に埋もれている水瀬を放置して作業を再開した。






 ――闘鬼、真紅――

 散乱している鉄骨やコンクリートの塊を砕き、小さくまとめながらトラックの荷台に乗せる。闘鬼は、その作業を黙々と繰り返していた。


「闘鬼さん」


 真紅がほうきで埃を集めながら呼んだ。


「どうした?」


 鉄骨を折り曲げながら問う。


「いくつか質問していいですか?」

「ああ、構わないが?」


 じゃあ、と先につけてから真紅が言った。


「闘鬼さんって、一体何者なんですか?」


 真紅の問いに、闘鬼は苦笑してから問い返す。


「何者とは……人種や能力は自己紹介の時に話したが?」

「いや、そういうのじゃなくてですね……ほら、今日の演習。他の小隊メンバーの霊さんやアリスさん、雷廉さんは他の小隊員と違って戦闘能力が高く、一年生でもかなりの腕利き……たぶん二年生の警護科の生徒でも、勝てる人は少ないはずです。でも闘鬼さん、貴方の強さは異常ですよ。一年生の実力者を、まるで赤子の手を捻るかのように倒した……なんであんなに強いんですか?」


 埃を掃く手を止めてから問う。


「そんなことか?」

「そんなことって……異常じゃないですか! ただ腕を振り下ろすだけでソニックブームを起こすなんて異常すぎですよ!」

「じゃあ調べればいいだろう? 得意のハッキングで」

「それはやってみたんですけど……鬼神家の事を調べていると必ずデータが消去されたり、物凄いプロテクトがかけられているんですよ。だから直接闘鬼さんに聞こうと思った訳です。で、なんであんなに強いんですか?」


 真紅が真顔で問うのに対し、闘鬼は鼻で笑ってから、自分で考えろ、と言い放って作業に戻った。

「ちょっ! 答えてくれないんですか!?」






 二時間後……

「これで終わりだな」


 闘鬼が最後の鉄骨をトラックの荷台に乗せた。


「む……」

「も、もう動けません……」

「さすがに…演習後の重労働はきついわ……」

「重いですよ水瀬さん〜」

「水瀬ちゃん…重い……」


 水瀬は息を切らしながら魔衣と湊にもたれ掛かっていた。


「いや〜三階建てのビルを12人で片付けられるもんなんすね〜」


 乙音は感心しながらトラックに積まれた瓦礫を眺める。


「俺が…一番…目立ってた……よな?」


 霊は俯せに倒れながら、横にいるアリスに問う。


「ああ、あんたが一番目立ってたよ、霊」


 アリスが霊の肩を優しく叩く。


「疲れたぜ〜さ、帰るぞ雷廉」


 肩の関節を鳴らしながら詞凶が言った。


「賛成です。姐御」

「もう7時か……あ! 家についたら笑って○ラえて終わってるじゃねーか〜!」


 孤狛は両手を地面についてうなだれる。

すると魔衣が水瀬から離れ、皆に向かって一礼をしてから言った。


「みなさん、手伝だってくれてありがとうございました!本当は私達の責任なのに、ありがとうございます」


 そう言って、もう一度深く礼をする。


「何言ってんのよ〜魔衣ちゃん〜」


 再び水瀬が抱き着く。

「アタシ達は仲間なんだぜ?」


 へへっと笑いながら詞凶が言った。


「協力するのは当たり前っすよ!」


 親指を立てて乙音が笑う。


「た、助け合いは大事だよ……!」

「そうよ、この借りはいずれ返してくれればいいから」


 アリスは微笑む。


「ありがとうございます! では、私達第五小隊隊長、闘鬼さんから一言お礼の言葉をお願いします!」


 魔衣が闘鬼の方を向く。


「は……? いつ俺が隊長になった?」

「え? 第一試合が終わった後、先生に言って登録しましたけど?」


 魔衣は不思議そうな顔で闘鬼を見る。


「何故俺なんだ?」

「だって闘鬼さん、私達四人の中で一番リーダーシップがありますし……ね? 辰希君、真紅君?」


 魔衣の言葉に二人は無言で頷く。


「ほら?」

「お前達……」


 闘鬼は深くため息をついた。


「鬼神〜、俺達にねぎらいの言葉くらいよこせや〜」

「そうだ! 礼言えやコラァ!」

「そういえば鬼神って……人にお礼とか言わなそうね?」

「う、うん…そうだね」

「プライド高そうっすし」

「人に頭下げるくらいなら自決しそうね」

「確かに」


 皆の言葉に闘鬼はため息をついてから言った。


「俺とて人に礼くらいしっかりとする。皆、御苦労だったな、ありがとう」


 闘鬼はゆっくりと頭をさげる。


「御苦労って…上から目線かよ……」

「しかも心がこもってないわね……」

「全然ねぎらわれてないっすよ」


 水瀬達が冷めた目で闘鬼を見ると、

「で、でも…鬼神君、ちゃんと頭さげてたよ?」


 咄嗟に湊がフォローに入る。


「確かに、鬼神の礼って結構レアモノじゃね?」

「姐御のおっしゃる通りです」

「みなさん、これくらいで勘弁してあげてください。闘鬼さんが泣いちゃいますよ〜」

「馬鹿か?」


 軽く魔衣の頭を小突く。


「あたっ!? あう…じゃ、みなさん今日はもう解散ということで、また明日会いましょう〜」

「お疲れっした〜」

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