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音フェチ作者が書く耳かきシリーズ

おさななじみみかき

作者:

作者は音フェチです

 一週間の楽しみである休日だというのに、憂鬱な気分の俺。

 課題が多いとか、何か用事があるわけではない。

 じゃあ何が原因かと問われれば……


「……かゆっ」


 このどうしようもないほどの耳の痒みだ。

 ちょっとしたことでカサカサッと音が聞こえる。

 耳かきをしたのはいつだったかと忘れるほど前で、相当溜まっているのか?

 しかし、耳の中に指を突っ込むが、細かいものしか出てこず、余計に奥の痒みに拍車がかかった。


「くっそー……耳かきどこやったっけ」


 仕方なく耳かきを探す。


「あった。これだな」


 テレビの真横においてある小さな棚の引き出しから出したのはフワフワの梵天がついた匙。

 目的のものが見つかったが、俺は耳かき棒とにらめっこを続ける。

 深くため息を吐き、ソファに座った。

 どうにも耳かきが下手なようで、自分でやっても気持ちよくない。

 むしろ痛い思いをしてしまう。

 だけどこの痒みと音をどうにかしたい俺は意を決して耳の穴に挿入。

 この辺りかと痒みの発生源を匙で強く撫でる。


「いでっ!」


 力加減を間違えてしまい、痛みが伴う。おまけに痒みは治まっていない。


「何やってるのよまさる


 聞き慣れた声が、痛みでうずくまっている俺にかけられる。

 顔を上げると、幼馴染の有里華ゆりかがコンビニの袋を引っさげて、俺を見下ろしていた。


「耳かきだよ耳かき」

「全然そんな風には見えないけど」

「それよりもお前は何しにきたんだよ」

「おばさんに頼まれたのよ。勝のお昼ご飯を作ってほしいって」


 そういえば、かあさんは今日から昔の友人と一緒に泊まり出かけたんだっけ。


「まさか鍵もかけないなんて。不用心なんだから」

「うるせぇ」


 再び耳かきを差し込もうとするが、さっきの痛みでなかなか先に進めない。


「……もう、しょうがないわね」


 有里華が俺の左隣に座ると、耳かき棒を俺から奪う。

 そして俺の耳を引っ張り、顔を近づけた。

 一体何をするつもりだ。


「うわぁー……思ってたよりも汚い」


 耳を引っ張られるものの、痛みは全くない。

 むしろ少しだけ心地がいい。


「あんまり見んな」

「見ないと掃除できないでしよ」


 イマイチ有里華の言っていることを理解できないでいると、頭に手を回され、そのまま倒される。

 ソファが体への衝撃を吸収し、頭は有里華の太ももがクッションとなった。


「なっ! これって……」


 男の夢である膝枕か!


「なーに? まさか恥ずかしいの?」


 俺の反応を楽しんでニンマリとしている有里華。


「べ、別にそんなわけ」

「いいのいいの。私みたいな可愛い子に膝枕されながら耳かきされるなんて男の夢でしょ」

「いや、自分で可愛いとか──え、耳かき?」

「そ、耳かき」


 有里華は耳かきを持って構えている。


「い、いい。一人でやれる」

「あんた不器用なんだから私に任せなさいって。それに他の人にやってもらうと気持ちいいんだから」


 たしかに俺は不器用だ。現に痛くてしょうがない。

 小さい頃、母さんにやってもらっていた時は気持ちよかったのをよく覚えている。

 その快感を思い出したせいなのか俺の口が自然と開く。


「……頼む」

「了解」


 有里華は近くのティッシュ箱から一枚だけ取り出し、開いて置く。


「動かないでよ」


 耳かき棒の先端が耳に触れる。


 ──スッ、スリ、スリスリ、スリー──


 匙で撫でるように溝に沿って耳垢を掬う。

 とても優しい手つき。母さんの耳かきを思い出すほどに気持ちがいい。


「ほらほら、溝に隠れてた垢がどんどん出てくる」


 少し楽しそうな声で丁寧に耳垢を取っていく有里華。


 ──スッ、スッ、スッ……スリリー──


「はい、表面は終わり。次は穴に入れるから絶対に動かないで」


 匙は俺の耳穴へ侵入を開始する。


 ──カサッ、カサカサッ──


 入ってすぐに耳垢に触れてた。

 その反動で耳の中の痒みが顕著になり、身じろぎたくなってしまう。

 いや、もうなっていた。


「か、痒い! 早くしてくれ!」

「待ちなさい! 手前の取らないとどんどん耳垢が奥にいっちゃうでしょ」


 手前の垢を少しずつ、少しずつと取り出していく。


 ──カッ、カッ、カリ、スーッ……カッ、カササッ、カリカリッ、スーッ──


 ティッシュの上はどんどん耳垢が積まれていく。

 耳かき棒がまた入り、壁に触れる。


 ──カリッ──


 その瞬間、痒みが和らぎ、この上ない至福を迎える。


「そこ! そこのやつ!」

「はいはい。わかったから黙って」


 ──カリカリッ、スーッ、カリックリッ──


 強すぎず、弱すぎない力加減。

 有里華って、耳かきうまいんだな。


「どう? 私のテクニック」

「あぁ、すげー気持ちいい」

「ふふっ、素直ね」

「本当のことだからな」


 でもこれ一回きりと思う残念だ。

 これから自分でやってもここまで気持ちのいい耳かきなどできるはずがない。


「……なぁ、有里華」

「どうしたの? あんまり喋られると取りづらいんだけど」


 恥ずかしいのを我慢し、意を決した。


「これからも耳かきしてくれないか?」


 ──ガリッ──


 俺が言い終えると同時に有里華が力強く奥をかき、そのせいで激痛が走る。


「いっで!! 強くかき過ぎだ! 気をつけろよ!」

「あ、あああんたが変なこと言うからでしょ!」

「変なことってなんだよ!?」

「それは──はぁ、もういい。私が悪かった」


 ため息を吐いて梵天で耳穴を撫でる有里華。


「はい、終わり。さっさと反対側向いて」


 勝手に話を切られ、腑に落ちないながらも俺はゴロンと転がり、向きを反対にする。

 先程と同じように表面の耳垢を取り除いていく。

 さっき違う点といえば、どこを向いても有里華が視界に入り、女子特有の香りが鼻腔をくすぐっているところだな。

 少し気恥ずかしい。


「勝」

「なんだ?」

「今からは絶対に動かないで、声も発しちゃダメ」


 真剣な顔の有里華。

 俺は一度頷き、有里華に全てを任せる。


 ──スーッ……ゴッ──


 な、なんだ!?

 まるで岩をかいたような音。


 ──ゴッ、ゴッ、ゴリッゴリ──


 なかなか頑固にくっついているのか、取れている感じはしない。


「かったいわねー。なら」


 さっきまで触れていたところよりも離れた場所をかき始める。


 ──カリカリ……カリカリ……カリペリッ……ぺリ、ぺリ──


 匙で耳垢をめくっているが、一向に出そうとしない。変にじらされているからムズムズして仕方がない。


「おい、有里華」

「シッ! 今いいところなの!」


 真剣なようなので、俺は黙って有里華に任せることに。


 ──カリカリ、カリ、カリ……──


「ふーっ……せー……っの!」


 ──バリッ!!──


 ん!?

 大きな音と共に耳から水が抜けたような爽快感が全身に走る。


「でっか。よくこんなのが耳の中に入ってたわね」


 ティッシュに置かれた耳垢はまるでミルフィーユをように黄ばんだ層が何層も重なっていた。

 ヘタをしたら小指の爪ぐらいの大きさがあるんじゃないか?


「まだ起き上がらないでよ。まだ細かいの取ってないから」


 素早く匙で残った耳垢をすくい上げる。

 その度一緒に俺の意識もすくいとられていき……

 俺の意識はここで途絶えたため、これ以上何があったかはわからない。



「こいつ。寝ちゃってる」


 ふと、勝の顔を確認すると、気持ちよさそうに寝息をたてて眠っている。


「あと少しで終わりだってのに」


 と、面倒くさそうに呟いてみるけど、内心はそんなことは思ってない。

 最後の仕上げに梵天をくるくると耳の中で回し、表面をサッサッと払う。


「はい、おしまーい」


 耳かきが終了したけど、やっぱりこいつは起きない。


「もう、少しだけだからね」


 勝の頭をそっと撫でながら、勝の言葉を思い出す。


「これからもあんたの耳かきぐらいしてあげるわよ。ずーっと、ね」


 自分で言って気恥ずかしくなる。

 だけど、不思議と嫌な気分ではない。

 むしろ少し幸福感を満たされ、私は子守唄がわりに鼻歌を部屋に響かせるのだった。

感想お待ちしております!

特に音フェチの方!!

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― 新着の感想 ―
[一言] ・・・勝は右耳が2つあるのでしょうか? >>有里華が俺の左隣に座ると、耳かき棒を俺から奪う。 >>イマイチ有里華の言っていることを理解できないでいると、頭に手を回され、そのまま倒される。 …
[良い点] 音フェチではないですが、好きです。
[良い点] 自分も耳かきのおはなしとか好きなんですが、余分な文章がなくて読みやすかったです。
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