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山茶花  作者: あじさい
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 ついに、木森(きもり)先輩とのデートにこぎつけた!

 花火大会のときも、学園祭のときも、一緒に歩くことを拒まれてきたけど、ついに念願が叶うときが来た。

 でも、ひとつ問題があった。

 デートして告白して付き合おうにも、もはや手遅れだったということだ。

 先輩は卒業式を終えて大学進学を待つだけだったし、わたしは先輩と入れ替わりに、本格的な受験勉強を始めなければならない時期に突入しつつあった。

 だから、これは思い出作りなのだ。


 木森先輩が同じクラスの麗奈(れな)先輩のことを好きだってことは知っていたから、元々わたしに勝算なんてなかったし、それは鈍感なわたしにも分かっていた。

 でも、気の利いたデートをすればわたしに振り向いてくれる確率だってゼロじゃないはずだと思って、わたしは以前から先輩とデートする機会を(うかが)ってきた。

 先輩とわたしは陸上部で知り合った。弱小チームだったけど、当人たちは大真面目に部活に取り組んでいるつもりだったから、土日も練習に励んでいた。部活と勉強を両立させることを考えたら、先輩とわたしがデートをしている時間はなかった。

 先輩を好きになった高1の夏、わたしは先輩の前で花火大会の話題を出した。そのときは、「俺、人混みは苦手なんだよね」の一言に撃沈した。

 その秋の文化祭では、同じクラスで同じグループの友だちに先輩への思いを打ち明けてまでフリーになって、勇気を出して、「ご一緒しませんか?」とド直球を投げたけど、「2人だけで歩くと色んな奴に冷やかされるから」と断られた。「先輩、友だち少ないじゃないですか」と言ってやっても良かったんだけど、振られたからってすぐに嫌味を言う女だと思われたくなくて、慎ましく引っ込むことにした。

 クリスマス、あるいは年末のイルミネーションは、先輩が思い人の麗奈先輩に告白して振られた直後だった。もしかしたらチャンスだったのかもしれないけど、わたしは何も言い出せなかった。仮にデートが成立したとしてもその最中に「本当は麗奈と一緒に来たかった」なんて思われたら、と考えると、自分に対しても木森先輩に対してもイライラした。

 バレンタインデーは陸上部の女子全員で男子部員全員と顧問の先生にチョコを配ることになった。木森先輩を好きなのはわたしだけだったけど、みんなそれぞれに思い人がいて、部活内部のイベントという名目で手作りチョコを渡したかったみたいだ。みんなでチョコを作ってわたしから木森先輩に手渡せたのはたしかに楽しかったけど、あれじゃ義理チョコと変わらない。実際、ホワイトデーのお返しはごく儀礼的に市販のクッキーで済まされた。色気のかけらも感じなかった。

 その次の年は先輩が受験勉強で忙しくなったから、桜がどうとか花火大会がどうとか言える雰囲気ではなかった。やっぱりわたしは木森先輩と(えん)がないみたいだ、と思うと悲しかった。恥を忍んで言えば新しい恋を探す努力をしてみたこともあったけど、木森先輩以上に誰かを好きになることはなかった。


 卒業式の後、親しくしていた同性の先輩から、木森先輩が第一志望の大学の前期試験に落ちたと聞いた。木森先輩の志望校は国公立なので、後期試験に全てを賭けるらしい。木森先輩の学業成績があまり良くないことは知っていたが、後期試験は小論文だから大丈夫だろう、とわたしは思った。小論文は木森先輩を救済するためにあるんじゃないかというくらい、先輩は読書家で、高校生としては類を見ないくらい哲学や文学に詳しかった。

 木森先輩の後期試験が終わったその夜、わたしは先輩にLINEを送り、ねぎらいの言葉もそこそこに、「一緒に喫茶店でも行きませんか?」と言った。既読がついてから5分にわたって反応がなかった。わたしは先輩を困らせてしまったと思って怖かった。でも、先輩の返事は予想以上に優しかった。

「せっかくだし、上野行こう」

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