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8下屋敷家の子にならないか

 家を出たミツキは、父方の祖父の家に向かっていた。祖父なら、今のこの状況を何とかできそうだと思ったからだ。ヒナタもミツキと同じことを考えていたらしい。先に歩いていたミツキを見つけ、ヒナタは急いでミツキに駆け寄った。双子は、昔の記憶と電話で聞いた住所をもとに祖父の家に向かった。


 どれくらい時間がたっただろうか。手元に時計がなかったが、一時間近くは歩いたはずだと双子は思っていた。すでに日も暮れて、辺りはすっかり暗くなっていた。


 ようやく到着した祖父の家は、小学校の頃に遊びに行った当時のままだった。夜も深まり、家を訪ねていい時間ではないが、自分たちの家には戻りたくない。今日、祖父に泊めてもらえなければ、寒空の下、野宿になってしまう。


 意を決して、ヒナタが代表で呼び鈴を鳴らす。すぐにインターフォン越しから声が聞こえた。


「このような時間に何の御用でしょうか。」


「夜分遅くに申し訳ありません。水藤ヒナタとミツキです。この家の主人に名前を言っていただければわかると思います。」


「わかりました。伝えてみます。少々お待ちください。」


 祖父を呼んでもらうように伝える。不審がられたが、少し待っていると、玄関のドアが開けられた。どうやら、中に入れてもらえるようだ。


 

 家の中に入ると、祖父の部屋に案内された。双子を見た祖父は驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうな表情に変わる。


「突然、うちに来たから驚いたよ。あずささんが何かやらかしたんだね。私を頼ってくれてうれしいよ。」


「夜遅くに申し訳ありません。頼れる人がおじいさんの他に思いつかなくて。」


「いいよ、いいよ。それで、いったい、あずささんは何をしでかしたのかな。」


「実は、学校での三者面談のことで……。」


「ぐうう。」


 母親との会話を祖父に伝えようと、ヒナタが話しかけるが、それを遮るようにミツキのお腹が盛大に音を鳴らす。そういえば、夕飯は食べてきたが、母との言い争いで怒って家を出て、ここまで歩いてきたからか、お腹が減っている。話を遮ってしまい、ミツキは顔を赤くして恥ずかしがる。


「ぐううう。」


 ミツキのお腹の音に緊張の糸が切れたのだろうか。今度はヒナタのお腹が音を鳴らす。



「ヒナタ君とミツキ君は中学生だったよね。育ち盛りだから、お腹もすくはずだ。何か、夜食を作らせよう。」


 祖父は笑うことなく、わざわざ孫のために夜食を用意しようと言い出した。近くに控えていたお手伝いさんに夜食を頼んでいたので、双子は有り難くいただくことにした。



 気を取り直して、夜食ができるまで、母との言い争いについて祖父に話していく。母の無神経な言葉に腹を立てて、家を出てきてしまったこと、できれば、家には当分戻りたくないことなどを説明する。


 話を一通り終えたころ、夜食が届いた。卵とツナのサンドイッチだった。それを食べていると、祖父が一つの提案を口にする。




「そんなに家に戻りたくないなら、下屋敷家の子供になるつもりはないかな。」


 突然の提案に驚いて、ヒナタは食べていたサンドイッチを床に落とした。ミツキはのどにサンドイッチを詰まらせて、苦しそうにせき込んだ。


祖父には、母の代わりに担任と面談したり、進路について一緒に考えたりしてくれれば、それだけでよかった。それ以上のことをしてくれるという祖父に、双子は素直に喜ぶことができなかった。


「とても光栄なことだとは思いますが、そこまで僕たちにしてくれる理由は何ですか。確か、おじいさんは、僕たちの父と母の結婚を認めず、勘当までしたと聞いていますが。」


 ヒナタが冷静に理由を問いただす。母親が祖父を嫌っている理由を知らないほど、子供ではない。その仕打ちも知っているうえで、今更どうして、面倒を見ようというのだろうか。


「確かに、自分の息子にそこまでの仕打ちをしておいて、今更孫に甘くする理由がわからない。自分の後継ぎにしようと思って、俺らを養子にしよっていう魂胆か。」


 ミツキも祖父に対して思ったことを口にする。双子は用心深くなっていた。



「素直じゃないねえ。ここは人の親切を素直に受け止めるところではないかね。匠の育て方が悪かったのか。あずささんの性格が遺伝してしまったのか。」


 祖父は悲しそうな表情で双子を見つめて、ため息をつく。



「まあ、うちの子になるかならないかは、君たちにとっても私にとっても、大変重要な問題だ。ゆっくり考えるといい。今日はもう遅いから、泊まっていきなさい。」



 その日は母とのこと、祖父とのこと、いろいろなことがあって疲れていたのか、用意された布団に入るとすぐに眠気が襲ってきて、朝まで双子はぐっすりと眠ったのだった。





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