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34双子の周りの人々

 ヒナタは放課後、担任のもとに急いだ。


「す、水藤君。先生が放課後、職員室に来るようにって、言っていたよ。」


 帰りのHRが終わり、帰宅しようとしていたら、相沢に声をかけられた。わざわざ他人と使って呼びだすほどの用事は何だろうか。そもそも、用があるのなら、直接自分に言えよと、担任に突っ込みたくなった。もちろん口に出すことはしない。





「おう、やっと来たか。水藤はどうも俺のことが嫌いみたいだから、俺が直接呼んでも来ないだろう。」


「そんなことは関係ないです。用件は何ですか。ないなら呼ばないでください。先生も忙しいだろうし、俺も忙しいです。」


「そう言うなよ。話は簡単だ。お前の成績についてだな。」



 仕方なく、職員室に向かい担任に会ったのはいいが、担任は、ここじゃあ話しづらいといって、体育準備室で話そうと提案してきた。ヒナタはさっさと終わらせて家に帰りたかったが、成績については思い当たる節があるので、無碍にできなかった。



「お前の成績だが……。」


「成績が悪いことは理解しています。でも、赤点を採るまでにはなっていないでしょう。そのための対策もしています。最近、母が家庭教師をつけてくれました。だから大丈夫です。」


「そ、そうか。」


 ヒナタの素早い対応に担任は戸惑っていた。しかし、担任にはもう一つ聞くべきことがあった。」



「まあ、成績についてはおいおい話してもいいか。いや、おいおいじゃあだめだ。」


 担任は進路希望調査について言及を始めた。ヒナタはウっと言葉を詰まらせる。


「そうそう、成績も話し合いたいところだが、まずは進路希望だな。お前だけだぞ。進路希望、まあ、うちの高校だとどこの大学を志望しているかというものだ。それを提出していないのはお前だけだ。」



 ヒナタはどう答えようか考える。そもそも、今の状況で大学について考えることが難しい。このまま3年間をミツキと交代で通うのか。あの狂った母親と後3年も一緒に暮らしていけるかどうか。


 目先の問題が山積みで、高校卒業後の進路にまで頭が回らなかったのだ。適当に自分たちの成績で入れる大学を書いてもよかったのだが、なぜかそれにためらいを覚えてしまい、空白で提出してしまったのだ。


「まだ、一年生ですよ。これから考えてもいいでしょう。そんなことを聞きたかったのなら、時間の無駄です。用事が済んだのなら帰らせてください。」



ヒナタは許可を得ずにそのまま席を立ち、担任の返事も聞かずに帰宅した。残された担任は頭を悩ませていた。



「全く、今時のガキは面倒だな。」








 ミツキは困惑していた。それは、いつものように昼休憩でお弁当を食べていたときだった。


「今日からまた2週間が始まるようだけど、いつまでそんなことを続けていくつもりなんだ。担任やクラスメイトは騙せても、オレは騙されないぞ。」



「な、にいって……。」

 

ヒナタが進路希望について担任から呼びだされた日の次の週はミツキが交代で通う番だった。突然、杉浦が核心を突くような質問をしてきたのだ。ミツキはどう答えたらいいか一瞬言葉に詰まった。


「まあ、わかるも何も、お前らは市内では有名だったよ。成績優秀で、部活の成績もいい。おまけに美人な双子の兄弟といったら、人気も出るだろう。」



「それは、知らなかった。」


「知らぬは当人のみってやつだ。どうして、こんなことをしているのか聞いてもいいか。今まで黙っていたけど、ちょうどいい機会だ。もうすぐ夏休み。いろいろと考える機会になるだろう。ええと、お前はミツキだな。今はヒナタと呼んだ方がいいのか。」



「俺は、ひなた、だ。」


「だから、俺にその嘘は通用しない。」


「俺達を、どうする、つもりだ。」



「別にどうもしない。ただ理由を聞きたいなと思っただけだ。とはいっても、ここで話すようなことでもないな。どこか空いた日にでも3人で集まって聞くとしよう。」



 ミツキの胸がどきんと不自然になった。そして、胸のあたりが苦しくなる。それが何の感情なのか理解できないまま、昼休憩は終わりを告げた。



 杉浦は双子の入れ替わりに気付いたと言いながらも、その後の双子の対応が劇的に変えることはなかった。それは双子にとっては学校にばれることがなくてよいことだったが、その反面、杉浦という男に対しての警戒心を抱かせた。


 いったい、杉浦は自分たちをどうしたいのだろうか。疑心暗鬼のままただ時間だけが過ぎていった。








 杉浦とのことも面倒だったが、もっと面倒なのは、家庭教師だった。



「おはよう。ヒナタ君。」


 今日は面倒な家庭教師が来る日だった。母親は自分たちが二人いることを家庭教師には伝えていなかった。そのため、家に二人でいることができなかった。幸い、家庭教師が来る日はバイトを入れていたので、家に双子がそろうことはなかった。




「おはようございます。」


「ああ、相変わらずのクールキャラだねえ。その顔がくずれるときが見たいものだ。」



 意味不明な発言をする変態だった。それでも、母親が雇った家庭教師を無下にもできないので、しぶしぶ勉強用具を取り出し、勉強しようという姿勢を見せる。



「素直だねえ。」


 家庭教師は雑談も多いが、とりあえず勉強を教えに来ているという自覚はあるようだ。二時間びっちりの勉強タイムが始まった。







 そんなとき、久しぶりに結城彰人から連絡があった。ヒナタとミツキはスマホを持っていなかった。母親は買い与える気がないようだ。特に連絡したい相手もいなかったので、持たないでも不満はなかった。


 それに、連絡手段がないわけではなかった。祖父が夏に暮れた携帯電話がまだ使えたのだ。祖父の執事がそのまま契約を継続してくれたようだ。


「ブーブー。」


 もらった携帯電話が着信を告げている。慌てて通話ボタンを押すヒナタ。そこからは懐かしい声が聞こえてきた。



「久しぶり。最近、連絡がないが、高校の勉強はちゃんとついていけているか。」


 どうやら、家庭教師を断られたことで、勉強は大丈夫なのか心配になったらしい。



「心配しなくても大丈夫。それに、母さんが新しい家庭教師を雇って、今はその人から勉強を教えてもらっている。」




 今の双子にとって、安心できるのは結城彰人だけだった。彼からの連絡だけで双子の心は安らぐのだった。


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