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世間は冬、始まりは夏。じゃあ終わりは?

寒い、冬なんだから当たり前の話ではあるが寒い。俺は暖房の電源を入れ設定温度を最大にする。米の炊き方は初めちょろちょろだが体の温め方は初めがぱっぱじゃないと我慢ならない。

箪笥の中を見て今日は何を着ようかと暖房の人工的な暖かさに触れながら悩む。今日は24日。去年までは憎き日であったが今年はなんだか浮かれている。薫は何を着てくるだろうか。

別に互いにイヴだから、特別な日だからって調子に乗ってすごくお洒落にするわけでは無い。が、それでも互いに隣で歩いてて胸を張って歩けるくらいの格好はしたいものだ。といっても薫に張るほどの胸は無いが。

ふと思い出す、そういや前にもらったセーターが押し入れにあるはず、と俺は押入れを開く。彼女のプレゼントを押入れに入れるとは何たる男よ4ヶ月前の俺よ、まぁ夏にもらっても着ないであろう服だ、押し入れに入れても仕方がない、とりあえず俺はそのセーターを取り出して着てみる。深い緑色のシンプルなセーター。まぁ俺の容姿的にはこのくらいがちょうどいい。しかし薫も夏に訳わからんプレゼントをするもんだ。

まぁちょうど今の時期着るもんだし、その上着るものに悩んでいるわけなので。夏に貰ったセーターに上着羽織ってジーンズ履いて家を出るわけだ。

電車に乗って待ち合わせの駅へ向かう。電車の中は甘い匂いで一杯だ。去年まではその甘い匂いに吐き気がしたが今年はその甘い匂いに負けじと期待を胸に膨らませ財布の中の金運アイテムを見る、いい加減20代半ばの男女二人が四半期も中学生の恋愛などしてはおれんのだ。


待ち合わせ場所には15分前に着いたが、遅刻と錯覚する。もう薫が来てるのだ。

薫は待ち合わせ場所にはギリギリでいつも「ほら女は化粧で忙しいからさ」とほざく。面倒くさくてナチュラルメイクが多い女が吐いていい台詞ではない。が今日は違った、しっかりとしたメイクなのだ、今日に限っては遅刻しても許されるレベルでお洒落をしている。

「遅いよ悟遅刻だよー」

薫が何やらニヤついた

「あー着てる、絶対着てくると思った」

どうやら件のセーターのことらしい

「着ないともったいないだろ、着れない時期に渡しといてよく言うよ」

まるでこの日を狙ったかのようなプレゼント。

先見の明ってのはこういう事を言うのだろうか。

「でもそれなかったら着る服無くて困ってたんじゃないのー、今年の夏に冬服一緒に片付けたときほとんど捨てちゃったからね、よく着るよねあんなにボロボロなやつ」

ボロボロとは失礼な、多少は言い返してやらねば俺の生活を支えてくれた服たちの魂が報われん。

「ものは大切にって言うだろ、もったいない精神だよ」

鉛筆も最後まで消しゴムも最後までものを大事に使うことはいいことなのである、学校の先生もそう言ってるわけだしな。

「あそこまでいくと貧乏性って言うんだよ穴開いてんのにさ―」

煩い小言が始まった、今日は別に煩い小言を聞くための日ではない、甘い日なのである。

「それで何処に行くんだっけ」

「服屋」

即答である。薫の性格上最初は飯、その後カラオケと思っていたが今日はメイクを決めているだけに一味違うようだ

「ふーん、んで何買うの?冬服はこないだ買ったって言ってたよな」

「春服だよ、12月だけどもう売ってるところは売ってるんだー」

これから寒くなるというのに巫山戯た店もあるもんだ。そういや今年の流行は去年から始まっているなんて昼のバラエティーでやっていたような気がする。

「んじゃ行くか」

左手を差し出しエスコートする。

「あのね、イヴだからってなれないことするとどっかでコケるぞ」

そう言って薫は左手に対して右手を重ねるのだった。


婦人服の店は苦手だ、どうせ俺には何がいいか分からないし、それにアウェイ感、俺は薫が自分で納得した服ならどれでもいい、どうせ何着ても可愛いし。


薫と付き合い始めたのは7月の終わり、同じ職場で仲が良く、二人で飲みに行くことも多かった。最初は互いの上司の愚痴を言い合うくらいの仲だったのだが、まぁそんなに上司の愚痴は続かず、5、6回ほど飲むと愚痴は最初のビール一杯。その後はもうプライベートの話ばかりになっていった。プライベートの話も最初は休みの日なにしてるのかやら学生の頃の昔話やらだったのだが、学生の時の初恋の話を互いにぶっちゃけたあとくらいから恋バナに発展、その後互いにいい人止まりで終わっていることが多いことに気が付き、んじゃいい人同士で付き合えばいいんじゃねと付き合い始めることになった。

そして付き合い始めての最初のイベントが俺の誕生日8月17日。ビアガーデンで誕生日会。普通なら家でイチャイチャとかするんだろうがそれをしないのがいい人止まりの俺たちだった、そしてそん時の誕生日プレゼントがこれ、セーターである。

薫になぜ、セーターなのか理由を聞いても、まぁまぁ着るもんだし困らないだろで終わり。


わけのわからない夏のプレゼントの理由を俺の頭で探していると薫が2着の服を持ってこっちに来る。一時間も悩んだくせに面倒くさい質問が飛んでくると考えるとうんざりする。

「買って」

いやもちろん買ってあげるつもりではいたが、突然放られるど真ん中ストレートに俺は固まった

「えっ」

「だから、買ってって言ってるの、2着。どうせ悟に聞いても神様の言う通りなんだからそれなら2着買って」

「は、はい。かいます……買います」

そうしてお会計まで一直線。財布の中の諭吉はすっ飛んだが何故か心は軽くなる。まぁ次のデートに着てもらえると思ったらちょっと楽しみではあるが。

「さて次は何処に行きますか」

とりあえずここからさっさと立ち去りたいので次の行き先を決める

「飲みor飯」

「飯にしましょうぜ旦那」

「旦那になるとしたら悟だろ」

とテンポよく会話したが最後の台詞が恥ずかしかったようで、まるでしりとりに負けたときのように悔しい顔をしている。

「嵌めたな」

「なんのことやら」

と誤魔化すが実際のところハメてはないのである。

「まぁいいやご飯ならあそこがいいなこないだ行った焼肉屋さん」

「イヴに焼き肉とは女の子らしさのかけらも無いな」

「女の子らしさはさっきの服屋で使い切ったのでありません。あしからず」

「まぁそれくらいのほうが薫らしくていいや」

店の前で話をしても一向に焼肉屋はこちらに来ないので焼肉屋に向かって歩くことにした。

今度は上着のポケットに手を突っ込んだまま歩き出す。

「あのさ」

「ん」

「私の誕生日4月なんだ」

「知ってるよ22日だろ」

「そうなんだけどさ……その時はこの服着て今度は夏服を買いに行こうね」

ちょっと恥ずかしそうに薫が話す、いつもは友達みたいな感じなのに、ちょっと彼女っぽいことを言われるとこっちも恥ずかしくなってしまう、中学生か俺は。

「そうだな、そん時は俺の夏服も買おう、ボロボロのやつばっかりだからさ」

そう言い俺は左手をポケットから出して薫に向ける

「ん、買おうね」

そう言いながら薫は右手を重ねる

「ちなみに私の誕生日だから悟は自分のと私ので出費が大変だろうけど頑張ってね」

どうやら今から服貯金を始めなければならないらしい。

焼肉屋は普通に座れるようでウエイトレスが

「喫煙席、禁煙席どちらに致しますか」

と選択肢を俺にくれる。勿論

「喫え」

「禁煙席で」

どうやら俺に向けられている選択肢ではなかったようだ。

禁煙席に着く途端薫が口を開く。

「500円超えたらやめる」

「ねぇ今のタバコの値段言ってごらん、お姉さん怒らないからさ」

なーにがお姉さんだ三つ下じゃないか。

「ご、520円です」

「一日どれくらい」

「一箱は吸います」

俺のほうがずっと体が大きいのに。今は塩をかけられたナメクジのように自分の体が薫よりもさらに小さくなってるように感じる。

「よし、わかった」

薫が腕を組みじっと俺を見る。

まぁタバコなんてのはすぐやめられるもんじゃないし許してくれたかな。

「その分私の服代貯金にしなさい」

いいえと言えたらいいなーと思いつつ。

「はい」

選択肢なんてものはない、俺は首を縦に振って席に置いてある水を飲む

「いい、今日からね。その右ポケットに入ってるやつも私に提出して」

「はい、わかりました姉御」

「ふふ、よろしい」

と俺の禁煙生活が始まったところでウエイトレスが注文を取りに来る

「ご注文はどうしますか」

「タン、ロース、カルビ、それと、ハラミで」

この肉食女子め、野菜も頼んでくれ。

「あと野菜セット一つくださいそれと魚介セットも」

俺は草食系でいい。こうやってバランスが取れてるんだからいいコンビである。

「あーあと忘れてた、ビールジョッキで2つ」

飯って言ったのに結局飲みになるよなぁ、焼き肉屋じゃ。

「以上で」

いつも「以上で」を言う係は俺である。

頼んで数分するとビールと肉と野菜が来る。

「じゃあ、悟君今年もお疲れ様でした来年も頑張りましょう乾杯」

「それじゃあ忘年会じゃねーか乾杯」

薫がビールを勢いよく飲んでいく、こいつビール飲んでるときだけ男みたいだな、格好いい。

「ぷはー、悟ものめのめー」

「はいよ、悟、いきまーす」

その後はビール飲み飲み。お肉を食べて、上司の愚痴やら同僚の話やらいつもの飲みになってしまった。

「ふーくったくった」

薫がお腹をぽんぽんと叩く、しかしよく食べるこの女。

「女の子がそんな言葉使っちゃいけません」

「ふーん女の子ねぇ」

薫の目つきが少し鋭くなる。

「私ってまだ女の子なのかなぁ」

どうやら妙に女の子という単語に気になるようだ。

「じゃあ・・・おば」

別の言葉が見つからなかったので笑いに流す。

「ぶっ殺すぞてめぇ……でもまぁ……女の子かぁ」

「まぁとりあえず会計して次何処行くか決めようぜ」

「そうだねまぁ悟を彼女不敬罪で山に埋めに行くってはどう」

「それは彼女が悲しむので無しで」

「じゃあ彼女のお財布が悲しむのでここはおごりでお願いね」

一本食わしたつもりが食わされた、薫は口が強い。

そして会計に向かいまた諭吉が飛んでいく、薫はホントよく食う。

「細かは出すよ、なんか申し訳ない金額だし」

「んじゃ頼むわ」

その後焼肉屋のミントガムを貰って店を出る。

「さて、次はどうする」

目的もなくとりあえず歩き出す。周りはカップルたちで一杯だ。俺らもその一つなんだけどね。

「んー悟はどうしたい」

どうしたい……そりゃイヴなんだしホテルで…とかにしたい、したいけどなぁ。

「実はさ、さっき悟の財布ちらっと見えたんだけどさ、変なの入れてるんだねー」

「ほら金運が上がるっていうじゃんそれで入れてるんだよ」

見られたとき用に作っていたごまかしを即座に使う。

「金運はどうせタバコやめるんだから上がらなくてもいいと思うな」

「それはさっき決めたことだろ、それまでは金運を上げたかったんだよ」

また誤魔化す、互いに期待していることは分かってる、でもどうしていいのかわからない。

「ちなみに私はカラオケでもいいよ」

「んじゃカラオケ行くか」

おれが苦し紛れの返答のあとに薫るは少し寂しい顔をする

「私達ってさ、互いにいい人止まりだから付き合い始めたって感じだよね」

「まあな、互いに意気投合してって感じゃないか」

「うん、でもさ一応好きじゃないとこんな事は言わないわけなんだよね、私はなんだかんだで我がまま聞いてくれたり基本的に私の意見を尊重してくれるそんな悟が好き」

「でも悟が私の何処が好きなのかわかんない、もしかしたら私いい人止まりの人にまたなっちゃうのかなってすごく不安なんだ」

薫が震えてる、寒さで震えてるわけじゃないのは分かってる

「だからさ、悟は私の何処が好きなのか教えてほしいんだ」

俺はただなんとなく彼女が居るという感覚しかなかった、でもよく考えるとそれって付き合ってることにすら入らないんじゃないか、ここでちゃんと好きって伝えないと好きなところを伝えないと薫は俺のいい人になってしまう。そんなの嫌だ。だって大好きなんだから。

「俺はさ、正直に言うと最初はノリがよくて話が合うし薫が付き合ってみるなんて持ちかけたから付き合い始めたんだよね」

「でもさこうやって遊んだりしていくうちにすごく好きになったんだよ、例えばなんだかんだで俺の事心配してくれたりさ、俺って自分に甘いからさわざわざ薫が悪者になって俺をちゃんとしようと頑張ってくれてるところとか、こういう日に張り切っちゃうところとか可愛くてさ、もう好きでたまらないわけさ」

薫を抱きしめる。薫の中にあった力が抜けていく感触が薫が俺の胸にもたれることによって伝わってくる。

「だからさ薫は俺にとっていい人じゃないんだ、すごく大好きな女なんだよ」

疲れた、言葉を発するだけでこんなに疲れるなんて思っても見なかった俺も薫にもたれたいくらいだ。

「じゃあ次は何処行く、やっぱりカラオケ」

意地悪そうに薫が言う顔は俺の胸うずくまっているせいで隠れて見えない。

「実はカラオケが付いてるホテルもあるんだけど、どう」

これが今の俺の全力の誘い方だった。

「……誘い方が下手くそーバカ」

そう言いながら薫は俺の左腕に組んで。

「じゃあ行こっか、カラオケみたいな場所」

俺はその言葉に鼻を伸ばして歩き出した。


どうも最近寒いですね。主に気温が

私の場合は心も懐も寂しいですが暖房をつけて頑張っています。心にも暖房があったらいいのになー

今回はとある油性ペンみたいなあだ名のシンガーソングライターさんの冬が始まりそうな曲をモチーフに書きましたがどうでしょうか?話の時期は冬がはじまるというかもう冬なんですがね・・・


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