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「金髪の……エルフ、だと……! あ、あの、握手お願いしても……!」
「別に構いませんけど、そんなに嬉しいのですか?」
「そりゃあ勿論!」
エルフさんはやはり相当な美人だった。
身長は俺より少し低めだが、年齢は俺と同じくらいではなかろうか。
服装は緑色をふんだんに使った、彼女の魅力を支えれる程の美しさを誇る代物だ。
異世界に来たらエルフに会いたい、という夢は叶ったが、勇者の使い魔だったとは思いもしなかった。
なおさら泣かせてしまった事を後悔する。
俺のバカ使い魔と交換してほしいものだが、そういうわけにもいかないのが現実だ。
いいなぁ、俺もエルフと契約を結びたかった。
「おい貴様、なんだ我に向けるその目は? 何だか無性に腹立たしいのだが……あ、今ため息しおったな!」
何だかドラゴンが横でうるさいが、俺は一つ気になっていた事があったので、エルフさんに聞いてみた。
「そういやエルフさん、朝一番にどこに出掛けていたのですか? ほら、朝方いなかったじゃないですか」
「あ! そうなんですよ! すみませんちょっといいですか、 勇者様ちょっと……!」
エルフさんは苦笑いしながら勇者を手招きしている。
不思議に思った勇者がエルフの元に向かうと、エルフさんは、勇者の耳元で何やらコソコソと話し始めた。
「なんだ?」
何かあったのだろうか?
一つ分かったのは、どうやら朗報では無かった様だ。勇者の様子が何かおかしい。
話を聞いた勇者は体をワナワナ震わせるなり、顔を青くして頭を抱えていた。
その表情はまさに絶望そのもの、例えるならこの世の終わりの様な顔を……
いや本当に何があったんだ?
強気な勇者があそこまで追い詰められた表情をするなんて……!
見るに耐えれなくなった俺はついに事情を聞いてみた。
「お、おい、勇者、顔色がマジで悪いぞ……何かやばいことあったのか?」
「お、おお、お金がぁ……!」
「あ?」
「無くなりました……」
「俺の心配返せ」
どうやら、逃亡生活も限界に近づいていたらしい。
聞くと、エルフさんは人が少ない朝や夜に買い物に行っていたらしいのだが、身を隠す際に用意したお金がほとんど底をつきた様だ。
お金を稼ぐにも、それに相応する実力は備えているが、顔が割れているためギルドに行って受付でクエストを受けられないという。
なら、エルフさんが代わりにクエストを受ければ良いと言ったが、勇者クラスになるとその使い魔もかなりの有名人らしいのだ。
確かにギルドの様な冒険者がたむろする所に行けば、フードを被っても意味を成さないだろう。
これは、もう……あれだろう。
「勇者、お前に自首を言い渡す」
「いーやーよっ! 何のために今まで苦労して、姿をくらましたと思ってんの! 私絶対自首なんかしないからね!」
「どうでもよいが、我は腹が減った。早く我に肉を用意して喰わせて欲しいものだな」
あー、こいつらめんどくせぇ……
だが、癪ではあるがドラゴンの言うことにも一理ある。
昨日は何も食べられなかった為、さすがに俺も体が空腹を訴えていた。
この状況、どうすればいいのだろうか。
完全に暗い雰囲気になっていると、そんな中エルフさんが手を挙げた。
「あの。ちょっといいですか。私一つ提案……というかお願いがあるんですけど、よろしいですか?」
唐突だった。
しかし、急に何を思いついたのか知らないが、エルフともあろう者が、俺にお願いとはなんだろう。
何にせよ、俺とドラゴンに叶えられる願いなんて限られている。
「何ですか? 正直俺、昨日冒険者になったばかりだから何の役にも立ちませんよ? それでもいいなら……」
それを聞いたエルフさんはパァと笑顔になると、その提案というものをポツリと呟いた。
「パーティー……組みませんか?」
俺は一瞬、思考を停止した。
パーティー?
今パーティーって言ったか?
パーティー……あのエルフとパーティー!?
しかもあっちからお願いの形で!?
確かに、俺の使い魔がエルフではなかった場合、唯一の解決策はエルフとパーティーを組むことだ。
そうする事で結局は一緒に旅が出来たり、冒険できたり、恋が芽生える……かも。
しかし何故だ? どうして、俺らなんかとパーティーを……
「エルフ、貴様の魂胆は分かったぞ。我かこいつに、ギルドでクエストを代わりに受けて欲しいのだろう? 我は構わんぞ? エルフの能力は興が湧く」
「あ、はいそうです、代わりにクエストを受けて貰えれば、その後は微力ながら戦力になる様に頑張りますので……! もし、よろしければですが……」
エルフさんが手を合わせながら、恐る恐るそんな事をお願いしてくる。
勇者はというと、エルフさんの発言に驚いて固まっている様だった。
13のくせに勇者と言われるほどの実力を持つ少女、それを支える力がある使い魔エルフ。
実力自体も重要だが、肝心なところは既にそこには無い。
あのエルフとパーティー……こんなもん、迷う理由が無いではないか。
「是非!」
「ありがとうございます!」
「え、ちょっと、待ちなさいよ! 私の意見は!?」
「なんだよ勇者。言ってなかったが、俺はお前を通報して感謝料を貰えることだって――」
「あああ! そういえばパーティー組むのに、まだ自己紹介もしてなかったわよね。私はみんな知っての通り勇者。勇者ティナよ、今は色々あって行方不明の身だけどね」
「決まりだな」
歓喜に浸りたかったが、その前に、確かに勇者の言う通り、互いに自己紹介が済んでいなかったな。
ドラゴンと勇者、互いに似ている2人ではあるが、どうやら勇者の方はドラゴンと違って名前を教えてくれる様だ。
そして時計回りという事で、次はドラゴンの番なのだが、果たしてこいつにロクな自己紹介が出来るだろうか?
「我はドラゴン。貴様らも同様、名は認めるまで教えない事にする――以上」
「え? 名前くらい教えなさいよ、なんて呼べばいいか分からないじゃないの」
「大丈夫だって勇者。どうせこいつデレた時とか、感動シーンで名前言うんだから、それまでお預けって事でいいだろ」
「『ドラゴン』は数少ない種族なので2人とも知らないと思うのですが『ドラゴン』という種族はみんな、その人を認めるまで名前を教えないんですよ」
勇者の使い魔――エルフさんの説明により、また一つ増えた異世界での知識。
俺と勇者が『へぇー』と感心の声を漏らしていると、ドラゴンが俺を見て、こんな事を問いてきた。
「おい、次は貴様の番だぞ。実際、我も貴様をよく知らん。いい機会だ、我をも召喚した貴様の正体……只者では無いのだろう?」
「確かに気になるわね、あなた一体何者なの?」
「わ、私も気になります」
「ふむ」
これは困った事になった。
ドラゴンの推理は間違っていない、いやむしろ正解と言ってもいい。
13歳のドラゴンに、13歳の勇者(行方不明中)に、ずっと会いたかったエルフ。
色々と奇抜なメンバーだが、正直俺も人のことは言えないのだ。
そう、俺の正体は異世界人。
そこでなのだが、俺の正体を今ここで発表しても良いのだろうか……
よし
「遠い親戚が王族なだけで、あとは大した事ないよ。そんで俺の名前はカブラギ シュウだ。これからよろしくな2人とも」
隠す事にした。
なんだかそっちの方が面白い気がしたというのが、理由だと思う。
ティナ、ドラゴン、俺の自己紹介が終わり、そして最後に勇者の使い魔、エルフさんに自己紹介が回ってきた。
「では最後は私ですね。私は勇者様の使い魔のエルフ、ナヴィ・ウンディーネです。ナヴィと呼んでください。他には……あ、副業で森の王とかやってますけど今は休業中です。年齢は17で、えーと、よろしくお願いしますね」
「今途中とんでもないこと聞いた様な気がしたけど、とりあえず全員の自己紹介は終わったな」
俺の異世界生活はまだまだ始まったばかりだ。
知らなかった事やこれから知る事は、きっと俺の予想の範疇には無いだろう。
だってほら、こんな凄い奴らが俺の目の前にいるんだからな。
まぁしかしあれだ……とりあえずは、勇者のティナとエルフのナヴィが新しい仲間になりましたとさ。
◇
「さて、パーティーを組んだのは良いけど、これからどうすんの? 因みに俺は飯食った後に、装備を整えたい。見ろよこれ、知ってる? 学ランって言うんだけど」
「よく分からんが奇抜な服だ。我は肉を食いたい、それもとびきり高級なやつだ。もし、行動を起こすならそれからだ」
「高級なお肉だなんて高くて駄目よ。まずお金よ、逃亡生活のためにお金をたくさん稼ぐのよ! 超高難易度のクエストに行きましょう」
「えーっと……私は特に……」
パーティー結成したまでは良かったが、速攻で意見が分かれるのが俺達である。
それにしても、逃亡生活の資金を稼ぎたいティナの意見はまだ分かるが、ドラゴンの意見はただのニートじゃないか。
それと俺もいい加減に、この学ランとはおさらばしたい。
こいつら2人には悪いが、ここで引くわけにはいかないのだ。
「おいティナ、お前って超高難易度のクエストを初心者に受けさせる気か? 速攻で終わると思うんだけど?」
「レジェンドの使い魔を召喚しといて、何を弱気になっているの? それに大丈夫よ、私とナヴィだけで事足りるわ」
「俺も戦いたいんだよ、冒険は男のロマンだぞ? それに、このショタと最初から連携なんか絶対取れない」
「同感だ、我もこんなアホ毛とは到底無理だと思っておる」
こいつ……また俺のチャームポイントを!
「あの〜すみません。ドラゴン様はお高いお肉が食べたいんですよね?」
「ん、そうだ」
「はい、ではシュウさんは装備を整えたいんですよね?」
「え、まぁ、はい」
「勇者様は、私も含めて、沢山のお金が欲しいと」
「そうだけど」
ナヴィが、それぞれの意見を再度聞くと、ようやく自分の意見を呟いた。
「なら!」
「「「なら?」」」
「図書館に行きましょう」