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 さて、これはどうしたものか。


 人間離れした生粋の美少女がいる。

 美少女は見た目、ドラゴンと同じくらいの年齢で、認めたくはないが、俺がロリコンに陥いりそうな破壊力のある容姿であった。

 鎧を着てるからして、この子も冒険者を生業としているのだろうが、何故こんな所で寝ているのだろうか。

 異世界だと普通だったりすんのかな?


 いや待てよ……今のこの状況、どうせタイミングよく起きて冤罪を吹っかけられるパターンじゃないか! 基本的に面倒ごとは避けたいがポリシーだ。考えろ、今はどうするべきだ!?


 まず近くに13歳のドラゴンがいるから、やましいことは何もできない。

 いや、いなくても何もしないけど。

 だがこのまま放置しておくと、こんな場所で寝ているこの子自身も危ない様な気がする。

 だからといって起こそうとすればお約束が降りかかってる可能性も……!

 あとやっぱり1番気になるのは、この子をどこかで見た事があるような……


「うーん」


 寝ている美少女の前で腕を組み悩んでいると、珍しくずっと静かだったドラゴンが、こちらに歩いてきた。


「やはり人間は住処を持たぬのか? この女も貴様と同様、虚しく野宿しておるわ。それに今のこの状況、これが世に言う夜這いというやつか」


 こいつ、後で殴ってやる。


 発言が斜め上なのは、サモンズによって召喚された俺の使い魔ドラゴンだ。

 俺を認めた時に名前を教えるとか何とか言っていたが、一体いつになるのやら……あれ、別に知らなくても問題無くね……? いや、今はそんな事より、


「んなわけあるか、ワケありだよ、ワケあり。家出とかそんなだろ。それとお前、寝ている女の子に全裸で近づくんじゃない! 服無いのか!? 寒くないのか!? バカなのか!?」


「服など持っておらん、それに高貴なドラゴンは寒さを感じんのだ。そんなに着て欲しいのなら貴様の服を寄越せ、少し大きいが我慢してやる」


 面倒くさそうな顔で服を寄越せと手招きするドラゴンだったが、男の萌え袖とか需要が無いにも程があるだろ。

 もしこいつが可愛いエルフだったら、絶好のシチュエーション間違いなしだったろうに。

 勿体ないなぁ。

 そんな事を思いながら深くため息をすると、ドラゴンがそれを不服に思ったらしく、


「痛っ! 何すんだよドラゴン、痛っ! わ、分かった! 悪かったから手で脇腹を刺すのはやめてくれ!」


「フン、我が温厚だったから良かったものの、他のドラゴンだったら丸焦げだぞ。感謝するのだなアホ毛め」


「アホ毛はチャームポイントって言ったろ。なに悪口の分類に入れてくれてんの? アホゴン君」


 俺とドラゴンは互いに不敵に笑い、ファイティングポーズを取ってジリジリと対峙する。

 やはり、こいつとはこうなってしまう。

 第一、今日知り合った仲とは言え、ロクな会話すらしてない上に、俺が一方的に名前を教えてやっただけだ。

 先程もギルドの冒険者達に流されて、名前以外の軽い自己紹介のタイミングも逃してしまっている。

 まぁ、それでいきなり仲良くなる訳がない。

 全く仕方がないな、ここは年上の俺が折れて……


「――む、むぅ。むにゃ? ふあぁ……あ」


「「あ」」


 ようやく息が合った俺とドラゴンだったが、少々うるさ過ぎたようだ。

 虚無な草原を背景に、空気が静まり返って思考が停止する。

 が、すぐに我に帰って平常心を保たせ、場を和ませるのを試みた。


「ご、誤解しないでくれ! 決してそんな卑劣な行為をだな……なぁドラゴンお前もなんか……あ」


 しまった! こいつ全裸のままだった!


「おいドラゴン! 早く! 早くこれ着ろ!」


「あ? 何を言っておるか聞こえんぞ? もっとはっきり申せ」


「お前はもっと羞恥心を覚えろ! このガキゴンが! あ、ごめんね。こいつちょっとバカでアレなんだけど……本当にごめんね!」


 俺はドラゴンに服を着させ、彼女にひたすらに謝るが、彼女は固まったまま反応が無い。

 ドラゴンもまた、動かずに彼女の反応を待っていた。

 説得に成功したか否か、その答えは、ようやく動いた彼女の唇から這い出てきた。


「き」



「き?」



「き」



「き?」




「――きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ですよねー


 彼女から発せられる高い悲鳴が、謙虚な草原を覆い込んでいった。

 そりゃ叫んでしまうのも無理は無いだろう。

 何たって、起きたら知らない男が2人もいるんだからな。しかも片方全裸だし。

 俺も起きて目の前に女の子2人もいれば、驚いて叫んでしまうぞ……うん。

 だが、それはそれ、これはこれだ。

 何とか落ち着かせねば……これではドラゴンの言った通り、本当にただの夜這いになってしまう――!


「一旦話を!」


「――チッ、我に牙を剥くか」


 混乱に満ちた雰囲気を、ドラゴンの言葉が理不尽に捻り潰した。

 焦る俺とは裏腹に、ドラゴンは街を見るなり、急にこんな事を言い出したのだ。

 またドラゴンが変な事を言い始めた――否。

 これは俺の知らないドラゴンの存在感。

 背中から何とも言えない威圧を感じ、心に強烈な何かが浸透していくのが分かる。

 

 今一度、俺は思い知らされた。


 こいつは――

































































 ドラゴン



































「な、何言ってんのお前。ほらお前も謝るんだよ、変なモノ見せてすみませんでしたって……!」


「……」


 ドラゴンの先程までの面影は消え、だが表情は一切変わらない。

 ドラゴンの言動に理解が追いつけなかったが、僅かながら俺にも異変を感じる事は出来た。

 そう、何だか空気が揺れ――


「おい、何だあれ?」


 俺は街の方を凝視すると、形まではよく分からないが、何かが猛スピードでこちらに向かって来るのが分かった。

 今までずっと寝ていた美少女も、どうやらそれに気づいたらしく、何だか嬉しそうな顔をしている。

 嫌な……嫌な予感がする。

 気付けていない脳の片隅で、嫌なパズルがどんどん揃っていくのだ。


「あのさ、ごめんお嬢ちゃん。こんな状況で悪いんだけど、あの近づいて来るの何なの?」


 .美少女はこの俺の言葉を聞くなり、酷く驚いた顔をして、何かを考え込みはじめた。

 ブツブツと何か言っているが、よく聞こえない。

 そして、しばらくすると少女はこんな事を言ってきた。


「あ、あなた……もしかして私の事を知らないの?」


「え?」


 それは予想だにしてない意外な返答だった。


「あーうん。そうなんだよなぁ、君をどっか見たことあるような気が……」


「……なんだ良かった、ただの世間知らずなのね。親に愛されなかったの? でも大丈夫、世界は広いわよ。でもそのお陰で助かったわ、礼を言うわね」


「おい、あのショタといい、お前といい、この世界のやつは年上に対する礼儀がなってないよな!?」


 人を慈悲の目で見てくる少女は、寝ている時とは全くの別人だった。

 それに性格がややドラゴンと似ている様な気さえする。

 そもそも、この子を知らなくて世間知らずなら、そんな大物がこんな所で寝ているなんて、なおさら変な話だ。


 一体何者なのだろう。


「あ、そういえば質問の途中だったわね。あの近づいて来てるのは、サモンズで契約を結んだ私の使い魔。私が悲鳴を上げちゃったから、勘違いして助けに来ちゃったみたい」


「うわー、それ面倒くさい勘違いパターンだ。でもそれなら早く、君の使い魔を止めた方がいいと思う」


「え、どうして?」


「ん」


 疑問を突きつけた少女に対して、俺はとある方向に指を刺した。

 美少女が振り向くと、そこにはフードを被った美少女の使い魔が、ドラゴンとの戦闘を繰り広げていた。


 フード被りは接近しながら緑のエネルギー玉の様なものを手に、ドラゴンに放出。

 それを見てドラゴンは嘲笑い、息を吸って吐く。

 人間にしてみれば単純な呼吸だが、ドラゴンにとってそれは膨大な風の噴出。

 緑のエネルギー玉は空へと螺旋状に跳ね返され、空で爆発的に散った。

 それを背景にフード被りがさらに接近し、再び手に魔法を宿して次の手を――


「諄い」


 気付けばフード被りは地にひれ伏し、ドラゴンはフード被りの上に乗っていた。

 フード被りは焦りながらも、自分の上に乗っているドラゴンに魔法を放とうとしたが、その手を抑えつけられ進路が変更。

 顔のすぐ横の地面に、風穴が開いた。


 おお、決着といったところか。


 さすが仮にもレジェンドの魔法陣から出ただけの事はある。

 あのフード被りが弱いんじゃなくて、ドラゴンが強いという事は素人目の俺にも感じた。

 いやー、あれで萌え袖の姿じゃなきゃ決まってたんだけどな。

 にしても、本当にあれで13歳なのか……今度何か魔法の一つや二つ見してもらおう。

 さてと、良いもん見せてもらったし、この美少女も泣きそうになってるしドラゴンを止めるか。


 追い討ちを仕掛けようとしたドラゴンに、俺はゲンコツをした。


 ◇


「うううう! 怖かった! 怖かったです!」


 フード被りが、美少女の膝元に泣きついていた。

 ドラゴンとの戦いが余程怖かったらしく、もっと早く止めるべきだったと少し後悔する。

 するとゲンコツされて、ずっと拗ねていたドラゴンがこんな事を言い始めた。


「フン、泣くくらいなら最初から何もしなければ良かったものを。貴様らのせいで、我が悪者みたいではないか! これはあれだ。せ、せんとうぼうえいってやつだ」


「正当防衛な」


 やっぱこいつ13のガキだわ。

 一瞬でも凄いと思った自分を呪いたくなる。

 まぁ、とりあえず一段落という訳だが、今日は本当に疲れた。

 これで異世界初日……これからも未知なる事がたくさんあるんだろうな。

 だが、今それを予想するのはネタバレと同じ行為だと思う。

 ゲームにおいて、俺は説明書をしっかり読む派だし、攻略法なんて絶対に聞かない。

 ストーリーも見るし、それにチュートリアルを飛ばすなんて以ての外だ。

 俺は真剣に楽しむ、ガチのエンジョイ勢だからだ。

 それに関しては、異世界でも同じ事が言える。

 俺は精一杯、ガチのエンジョイ勢を貫こうと――


「おい貴様、なに浸っておるのだ。本気で顔が気持ち悪い事になっとるぞ」


「今日1日の人の反省会を邪魔をすんな。お前あと、眠いんじゃなかったのか? うるさいから早く寝てろ。俺はもう少し、この人達と話をする」


「ふむ、そういえばそうであったな。では、我、は寝る、と、する……か」


 寝た。


 こういう単純なとこは、こいつの長所なのかもしれない。

 さてと、かなり疲れたけど俺はもう少し夜更かしするとしますか。


「お二方、いいっすよね」


「私は別にいいんだけど……この子が」


 フードを被ったこの子の使い魔が、彼女の膝元で眠ってしまっていた。

 顔はあまり見えなかったが、美しい寝息をたてている。


「あー、寝ちゃったのか……まぁ君だけでも別にいいよ」


「そう。それで聞きたい事って? というか! 私も言いたいことがあるんだけど……」


 少女は少し頰を赤らめながらも、目を反らし軽く怒った表情で言ってきた。

 何かを言おうとしているのかは知らないが、口をパクパクさせていて、正直言って、中々に可愛いげな姿だった。

 そしてようやく意を決したのか、唇を震わせた。


「あ、あ、あんなのを見せつけるなんて!ひ、 酷いじゃないの! 私まだ13なのに!」


 あんなの? 見せつける? 酷い? まだ13…………ああああぁぁぁぁ!!!


「すんません! あいつまだまだガキで、羞恥心の無いアホなんです! 悪気あったわけじゃ無いんです! 本当すんません!」


 俺は頰を赤らめる美少女に向かって土下座した。

 あの時、その事について謝れなかったんだった。

 情けない、17の俺が13の女の子に土下座するなんて情けない……ドラゴンめ、明日覚えとけよ。


「フン。まぁいいわ、もう二度やめて頂戴ね」


「はい、では俺の質問を……」


「聞こえない!」


「どうして! ……こんな所で寝ていたのかなー、と思いまして」


「……あなた本当に私の事知らないの?」


 俺の質問を聞いて、心底呆れた顔をした美少女が、ため息混じりにこんな事を言ってきた。

 しかし、知らないと言っても仕方がないでは無いか。

 今日、異世界召喚して召喚者に放置されて、そして新聞を読んだら治安悪いって知って……あれ?


 新聞を読んだら治安悪いって……


『これって、新聞だよな? なになに……ドラゴンが脱走、勇者の行方不明、魔王軍が王都に侵略、キメラの実験成功……ちょっと待て、治安悪くない!?』




「あぁぁ! 思い出した! 君、行方不明になった勇者か!」







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