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 闘技場内は騒ついた。

 全員が赤い魔法陣の釘付けになり、ギルドから更に人が流れてくる。

 先程、説明をしてくれていたギルドのお姉さんも、ポカンと口を開け、闘技場の門からこちらを覗いている。

 だが俺にとって望む結果で無いのは、言うまでも無いだろう。


「最悪だ……エルフとの暮らしが」


 ブロンズよりマシだが、よりにもよってレジェンドが出てしまうなんて……

 異世界系において、俺TUEEEとかよくあるが、正直俺はあまり好まない。

 だが、自分がなる分には良いのかも知れないが、エルフとの暮らしとだったら、確実にこっちを取るだろう。


「ていうか俺って異世界人だから、強い奴が出るのは確定してたのか?」


 そんな事を言っていると、会場内からの歓声が今日一番に響いてきた。


「すげぇー! レジェンドの魔法陣だ!」


「ねぇ! 見て赤い魔法陣よ! 早くみんなを呼んで!」


「きゃぁぁ! 生で観るの初めて! とっても綺麗!」


 皆、魔法陣の事ばかりで俺は全く注目を浴ない。

 少し寂しいが、徒競走において俺は第1位より第2位になりたい派だ。

 実際俺は、目立ちたく無いし、レジェンドの使い魔のせいで狙われたり、厄介ごとに巻き込まれたりするのは嫌だからな。


 周りの事はとりあえず置いといて、問題は何が出てくるかだ。

 エルフという可能性は潰されたが、せめて可愛い子が出て欲しい所だ。


 レアリティが高いだけあってか、なかなかその姿を見せてはくれない。

 が、間も無く魔法陣から出た炎が密集して、小さな太陽が昇り始めた。

 すると小さな太陽は地面へと墜落し、大きな火柱を上げるが、その熱は不思議と熱くはない。

 火柱は衰える事を知らず次第に大きくなり、綺麗に弾けたと思うと、感じたことのない『風』は衝撃と共に降り注ぎ、正体を露わにする。


 ――見ただけで身がすくむ爪と牙を始め、人の何倍も大きい翼を持つ赤いモンスター。

 あれは、俺の世界でいう『ドラゴン』というやつだった。

『ドラゴン』は姿を現わすなり、雄叫びを上げて世界を震わせた。

 それは、武者震いか恐怖かは定かではないが、間違いなく驚愕は刻みこまれたであろう。


 会場内も静寂に満ちていて、やけに不気味であったが『ドラゴン』は俺の前へとゆっくり降り立った。

 俺はこの時、ギルドのお姉さんに言われた事を思い出していた。


 『使い魔は一緒に暮らす、いわば運命共同体です。いつどんな時でも、共に苦難を乗り越え、仲良く楽しく元気よく! 頑張って下さい』


 え? 待って、こいつと?


 明らかに3メートル以上はあるぞ、こんな巨大なモンスター。

 可愛いどころか、もはやごっついじゃん!

 何の萌え要素も無いじゃん!

 おのれ召喚者め、こんなの用意しやがって! お前さてはラスボス枠だな!

 もはや自分でも意味不明な事を考えていると、赤いモンスターはその大きな口を開いた。


『ほう、貴様が我をここに導いたか。間抜けな顔はしておるが、余程の手練れなのだろうな? 一日にマンドラゴンの肉は勿論、高級な肉を俺に寄越せば、少しは言う事も聞いてやらんこともない』


「駆け出しの俺がそんなの用意で出来ると思ってんのか、この野良ドラゴン。もっとエルフとか可愛い子が良かった! 断固やり直しを要求する!」


『は……な、なんだと貴様!? この我を呼んでおいてその態度はなんだ! そのアホ毛を食い千切られたいか!?』


「お、おい、やめろよ! これは俺のチャームポイントなんだからな!」


『知るか! 一本残らず食い千切ってくれる!』


 俺は両手で頭を守りながら、ドラゴンと言い争っていると、先程のギルドのお姉さんが近づいて来た。

 だがその顔に余裕はない。

 きっとドラゴンに驚いているせいであろう。


「えーと、では互いに名を名乗って下さい。それでサモンズは終了となります……はい」


「やっぱりやり直しって出来ないですよね。はぁ……おいドラゴン、俺の名はカブラギ シュウだ。これから、よろしくな」


 自分でも意外だった。

 俺は素直に諦めて、指示通りドラゴンに名を名乗ってやった。

 別に、エルフにずっと会えないわけじゃ無いし、今はもう現実を受け入れるしかあるまい。

 出会って早々に口喧嘩をしたが、今はこいつと一緒に頑張るとするか。

 そう思っていると、次はドラゴンが喋りだした。


『我も契約を結ぶのはいい。が、我が認めるまで貴様に名を教える気は一切無い。第一、我はレジェンドだからな、もっと尊敬することだ』


「あーそうだな。ツンデレのドラゴンとかレジェンドだわ。いいぜ、尊敬してやるよ、デ・レ・ゴ・ン」


 俺とドラゴンが睨み合っていると、静かだった観客席から歓喜の声が蘇った。

 今度は何を言っているかは聞こえないが、いつの間にか観客席は満員で、その分だけ闘技場内は盛り上がりを見せていた。

 ギルドのお姉さんもまた困り顔ではあるが、笑いながらこう話す。


「サモンズはこれにて終了です。後のことは2人で協力し、頑張って下さいね」


 ◇ 


 帰り道、日もすっかり暮れて薄暗くなっていた頃。

 ドラゴン級の大きさが街にいると迷惑を掛けるので、俺とドラゴンは街から少し離れた草原にいた。


 あの後、ギルドに戻ると色んな人から握手求められるし、パーティーに勧誘されるし、勝負求められるしで本当に散々な目に合った……という事がちょっとだけ起こって欲しかった。

 ギルドに戻っても、相変わらずギルドのみんなは、ドラゴンばかりに注目するし、べたべた触られるしで、その間俺なんかギルドの隅っこで寂しくしていましたよ。

 確かにね、確かにあまり目立ちたくはないよ。目立ちたくないけど、ちょっと酷いよね!? もうちょっとこう、俺もちやほやされてもいいよね!?

 てかあの後ドラゴン、ちやほやされるのが嫌だったのか、逃げるようにどっか飛んで行くし。


 俺も俺で、やはりエルフとか関係なしに、ゴールドくらいが丁度いいと思った瞬間である。

 だが、そんな事より今一つ気になることがあるのだが、


「おいドラゴン。お前小さくなったり出来ないの? その姿だと目立つし、色々と不便だろ。それに、万が一建物にぶつかって壊しても、それを支払う金が無い」


 俺は夜空を飛んでいるドラゴンに聞いてみた。


『一理あるな。どれ、やってみるとするか』


 動きを止めたドラゴンは地面へと着陸。

 意外と素直な事に不思議に思いながらも、ドラゴンは何か口で唱えると体全体から黒煙を放射した。

 俺もろとも包みこんで。


「ゴホッ! ゴホッ! おま、ワザとだろ!」


 黒煙から抜け出した俺は、ドラゴンがいるであろう黒煙に向かって文句を言うと、やがて晴れた黒煙からドラゴンが、出てき、た……え?


「はて? 何のことだ。貴様にそんな事を言われる筋合いはないぞ。貴様の指示通りにやったまでだ」


「お、お前……! その姿は!」


「そうかそうか驚いたか。今謝るなら我にしてきた失礼を許してやらんこともないぞ」


 悔しいが確かに驚いてしまった。

 正直言うと、ギルドに闘技場があった事よりも、こいつが召喚される時よりも、衝撃はさらに大きかったと言えるであろう。


 嘘だろ? だってこいつ……


「ドラゴンお前……歳いくつだ?」


「は? 何言っておる貴様。13だが?」


「クソガキじゃねぇか! もっと年上を敬えよ! それにお前裸じゃん! そういうのって鱗で何かするんじゃないの! 人として恥ずかしくないの!?」


「人ではないドラゴンだ! あと一気にうるさいわ! 貴様と言う奴は本当に何なのだ、人間はドラゴンを慕うと我は習ったぞ!」


 ドラゴンが黒いツノが生えた赤髪の人間に変身した。

 までは良かったのだが、まさか4つ年下の少年に変わるとは予想外だった。

 やばい、俺の中での『ドラゴン』のイメージが崩壊していく音が聞こえてくる。


 全く何なんだこいつは……


 気のせいかもしれないが、今日の俺はやけにテンションが高い気がする。

 異世界初日とは言え今日はかなり疲れた。

 今の時間は知らないが月明かりが綺麗だから、大体9時くらいであろうか。


「おい貴様、我はもう眠いから早く帰るぞ。我はベッドを要求するが文句はあるまいな」


 目をこすりながらドラゴンはそんな事を言ってきた。

 さすがは13歳、9時にはもう眠い時期なのか。

 俺が13の頃は夜更かししてゲームしていたもんだが、こいつもまだまだガキだな。


「何言ってんだショタゴン。野宿に決まってんだろうが」


「貴様それ本気で言っておるのか。我は人間は住処を持つ習性があると習ったが、例外もおるのか? というかショタゴンって……っおい、聞いておるのか貴様!」


 俺はドラゴンが何か言っているのを聞き流していると、野宿する場所を探し出した。

 探すと言っても、周りは草だらけで何も変わりはしないのだが、出来るだけ石が転がってない所を中心に……


「おっ」


 意外にも早く、一点に草が生い茂っている所があったので行ってみた。


 が、早速問題発生。


「おい、なんか先客がいるんだけど……ん? この子、どっかで見た事あるような、ないような?」


 赤髪ロングの女の子が、そこには眠っていた。



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