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遅れました申し訳ありません。
最近忙しく合間を縫って書いたため、展開が早く少し雑かもしれませんがご了承を。
「生意気言ってごめんなさいと言え! 疑ってごめんなさいと言え! 1日10肉誓うと言え! この高貴たる我を散々馬鹿にしおって、ここらで一度反省するのだな!」
「生意気言ってごめんなさい! 疑ってごめんなさい! お土産買ってこなくてごめんなさい! 1日10肉誓います! だからいい加減助けてくれー!」
「お、おい! 我は別に土産の事など気にしておらんぞ! た、ただ腹が減ったから果物の他に追加が欲しかっただけだ……」
あいつ面倒くさい!
「分かった! 分かったから、そろそろ助けてくれ! もうゴブリン何匹いるか分かんない程いるからー! ……あぁぁぁ! 服掴まれた、こんにゃろおおおおおお!」
「ゴヘッ!?」
俺は服を掴んできたゴブリンを短剣で殴りつけてやる。
すると、今度はその短剣を持った腕を他のゴブリンがしがみついて来た。
「いでででで! おいドラゴン、まじでもう限界だって頼む! 元はといえば俺がクエストを受けたのは、夜中に赤くて巨大な何かが飛んでるとか、街の外で爆発が起きたとか、ご近所さんからクレームとかあったからいでででで!」
「住処を持たずして何がご近所さんだ。我はただあの鬱陶しいギルド連中から逃げたり、早とちりエルフにせんとうぼうえいをしただけに過ぎん。大体甘いことを言うでない、いつまでそうやって逃げ回ってるつもりだ。ゴブリンごとき倒せない程度では、我の契約者として相応しくはないぞ」
だから正当防衛なとか、色々とツッコミを入れようとしたが、確かにドラゴンの言うことにも一理ある。こんな所でつまづいているようじゃ、とてもじゃないが今後やってはいけない。
しかし、現実はそう優しくはない。
俺の力ではゴブリン達を討伐するなんて到底出来っこないのも事実だ。
……でもそういや、あのギルドの酒飲み兄ちゃんは、警告の意ではあったがゴブリンはコンビネーションは厄介だが単体では大したことないと言っていた。
そしてこのゴブリン討伐は、群れ自体の討伐ではなく、一体につき2万コインのクエストだったはずだ。
うーん、剣一本の俺にやれるのだろうか……いやそもそも、今ここで頑張らないとドラゴンに魔力貰える可能性はいよいよゼロになる様な気がする。
かといって作戦無しに真正面から戦うのもなぁ。
いやいや待て…….そうだ思い出せカブラギ シュウ。俺は一体何のために異世界に来たのかを――ん? 待てよ……? あれ!?
「何のためだっけ……やっぱハーレm――ボロベビバ!?」
「ブッ……フハハハハハハッ! 随分と派手に転びおって! 見ろ、ゴブリン共にも笑われておるぞ! というか、今ので貴様のチャームポイント? が折れておるぞ! フハハハハハハッ!」
あんのガキー!
「おいごらー! 降りてこいバカゴン! お前さっきからいい加減にしろよ! この俺を怒らせたことを後悔させてやる! お前なんか……あぁ!? ゴブリン共こっち来んじゃねぇ! お前らは後だどっか行ってろ!」
俺の言葉にゴブリン達が少し戸惑いを見せる。
「やれるものならやってみるがいい! ゴブリンすら倒せない雑魚だろうと、アホ毛が折れているマヌケだろうと、売られた喧嘩は買うのが筋だ……それと、血相を変えてこちらに走って来るのはいいが、そこら辺は段差が多いから気を付けるのだな。また転んでしまうぞ……ブフッ」
完全にブチギレた俺は、ドラゴンがぶら下がっている木に向かって――
◇
「――と、いうことがあって辛うじて倒した1体のゴブリンと引き換えに2万コインを貰ってきました……あとこれ、正真正銘の水です……あ、それと短剣ありがとうございました……すいません」
「シュウさんお疲れ様です。ご無事で何よりでした。あの、そんなに落ち込まないで下さいね。えっと、ドラゴン様とシュウさんってとても仲が良いんですね! 喧嘩するほど仲が良いと言いますし……シュウさん? そ、その本当に大丈夫ですよ!? だからそんな顔しないで下さい! あ、それとこの短剣は色々なお礼としてシュウさんに」
そう優しく励ましながらナヴィさんは短剣を手渡してくれた。
非常に嬉しいことなのだが……何故だろう、凄く虚しい。
正直俺は、一度は倒されたはずのゴブリンが何故か暴れているということで、その原因究明に危険ながらも冒険してる感があって嫌々ながらも少し燃えていたのだ。
なのに結局、何も分からずじまいでドラゴンにも邪魔され、本来の目的のお金もあまり稼げず、全然解決には至らなかったわけで。
「我が契約者よ、そんなに落ち込むことなどないぞ。安心しろ、どちらにせよ明日になればその図書館とやらに行けば大量の肉が食えるのだろう?」
「そりゃそうだけどさ、誰が原因だと思ってやがんだ。ゴブリンに囲まれたと気付いた時にどっか行きやがって。大体俺のこの煮えきらない冒険心をどこにぶつければいいんだよ。初めてのクエストがドラゴンと喧嘩して、その隙にゴブリンに囲まれて死にかけたとかいう馬鹿な話、誰も信じてくれないぞ」
「まぁまぁシュウさん、その辺にしておいてあげて下さい。ドラゴン様も別に悪気があってやったわけでは……わけでは……あ、いやドラゴン様違いますよ? 別にそんなんじゃ――い、痛い痛い! す、すみません待ってください! 勇者様が起きてしまいます!」
「無理しないで下さいねナヴィさん、悪気100パーセントですよこいつ。それとドラゴン、それ以上ナヴィさんの髪の毛を引っ張るなら俺もそろそろ本気を出すぞ」
そう睨むと少しむつけたドラゴンはナヴィさんの髪の毛を離して横になった。
……というか、ドラゴンは一体何がしたいんだ。腹が減っただのなんだの文句を言うくせに邪魔ばっかしてくる。
……まさかこいつ、もしかして意外と寂しがり屋の構ってちゃんなのか? 確かにドラゴンもまだまだ遊びたい年頃なのかもしれないが、あの『ドラゴン』でも……まぁでも確かに偏見なのかもしれない。『ドラゴン』と言ったって、こいつまだ13のガキンチョだしなぁ。
しかし、そう考えてみるとドラゴンと同い年のティナにも同じことが言えてくる。
たった13歳で伝説の勇者……よくよく考えてみると結構凄いことだよな。
俺なんかよく友達と遊びまくってた年頃だし、そりゃ逃げ出したくなるのも……まぁ実際に逃げ出した理由はよく分からないのだが。
まぁしかし、ナヴィさんの膝枕でグースカピーしてる赤毛の鎧娘にはきちんと謝っておこう、何となくだが改めてそう思った。
翌日、ティナが二日酔いになり、俺が全員に何回も土下座することになったのはこの時はまだ知る由もない。
◇
「ねぇ、私になにか言い残したいことでもある?」
「いいえ、ありません。強いて言うならば顔を隠すために俺が買ったその風呂敷は、伸縮自在な上に防水効果もあって持ち運びも大変便利な――ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 剣を鞘に収めてください!」
「それ以上喋ってたらその生意気なアホ毛をぶった斬ってたわよ」
「その、勇者様、シュウさんもだいぶ反省してるみたいですし、その辺で機嫌を直しましょう? 誰にだって間違いはあります、それに私達はパーティを組ませて貰っているんですから」
「おい、もうそんなことはどうでもよいであろう。我はいい加減我慢の限界だ。ようやく図書館とやらに行けるかと思えば、今度はその二日酔い?とかいうやつでまた行けなかったではないか! 酒とはロクなものではないな! 早くしろ、今日こそはその図書館とやらに行くぞ!」
「あ、あのさドラゴン君……こんな時に言うのもアレなんだけどさ、ほんのちょっとだけでいいから魔力くれない? 俺こんなほぼ無防備でクエストなんか行きたくないんだけど。召喚者が死ぬと使い魔も死ぬとかいう設定ないの?」
「知るか。貴様はしばらく反省してるがいい」
くそ、なんも言い返せない。
「ま、まぁ……召喚者に何かあっても使い魔には何も影響はありませんが、だ、大丈夫ですよ! シュウさんは私がフォローしますし、万が一のことがあれば私がシュウさんをテレポートでこの街に逃がしますから」
「ナ、ナヴィさん….…」
つまりその万が一のことがあった場合、俺は邪魔ということですね。うんまぁ仕方ない、このパーティでは俺が断トツで弱いし。
「そういえば私が酔いと頭痛と闘ってた間に、どうしてか暴れているゴブリンの討伐にたった一人で行ったんだっけ? よく生きて帰って来これたわね。まぁナヴィがその短剣を待たせてたみたいだし、どっちにしろ無事だったんだろうけど」
「え、この短剣なんか凄いのか? これほんとに貰っていいんですかナヴィさん? てかさらりと怖いこと言うなよティナ」
「その短剣は性能はいたって普通の短剣ですよ。ただマーキングを付けているだけです。私がいつでもテレポートでそちらに飛べるように」
まじかよ……ナヴィさんカッコいい。でも、俺完全お荷物だねやっぱり。
全く悪気のないナヴィさんから少し心を傷つけられていると、ドラゴンが不機嫌そうな顔でナヴィさんを呼んだ。
「おいエルフ、そんなアホ毛のテレポートはどうでもいいから今すぐ図書館にテレポートしろ。さもなければ、前にあった貴様との戦いの続きといこうか。あれは貴様から仕掛けたことだ、文句はあるまい」
「は、あ、いえ、あの……! シュ、シュウさん、勇者様! 私の手に捕まって下さい。早速、図書館に行きましょう!」
「すいませんナヴィさん。あとでドラゴンには言っておきます」
俺はナヴィさんの差し出された手を取り、ドラゴンもそれに続く。そしてみんなが勇者を見つめると。
「うぅ、やっぱりこの風呂敷を……勇者の私が、この勇者の私が……でも、見つかりたくないし〜。でもこれはないわよね? だってこれ泥棒の衣装なんでしょう? いやけど無いよりかは――」
なにかブツブツ言ってるがようやく意を決したのか、うじうじしながら勇者は風呂敷で口元を覆い、髪を結ぶと、ナヴィさんに手を添えた。
「――では行きますよ。『テレポート』」