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プロローグ

 

 視界が赤く、息が白い。

 どうしてこうなったと言えば色々あるとは思うが、とにかく俺は、目の前にいるこいつと決着を付けなきゃいけ無かった。


 ――大体ふざけんな。

 正直に言うと周りのやつはみんなバカだ。

 何が当たりだ、何が羨ましいだ、何が良いんだ。

 こいつのどこが……!


『ほう、貴様が我をここに導いたか。間抜けな顔はしているが、余程の手練れなのだろうな? 一日にマンドラゴンの肉は勿論、高級な肉を俺に寄越せば、少しは言う事も聞いてやらんことはない』


「駆け出しの俺がそんなの用意で出来ると思ってんのかこの野良ドラゴン。もっとエルフとか可愛い子が良かった! 断固やり直しを要求する!」


 ◇


 月曜日の朝、それは学生なら誰もが憂鬱になる時間だ。

 ならば水曜日を一週間の始めにしよう。という考え方もあるらしいのだが、どうしても月曜日が一週間の始めにしか思えない。


 おまけに今日は朝から額に汗が出るほど暑いから、やる気がさらに削がれるというものだ。

 そしてそれは俺こと蕪城(カブラギ) (シュウ)も例外ではない。


 突然だが俺は都市伝説やオカルトというものを体験してみたいと考えている。

 理由は何かと聞かれれば面白そうだからであろう。例えば異世界に行ったり、何かに目覚めたりするなど色々だ。


 どうしていきなりこんな事をだって? この世界はあまりにも平和すぎて、何だか無性に寂しくなってしまったからだと思う。


 勿論そんな事は無理な事くらい知っている。ついでに言うとあの世とか神様とかあまり信用しないタイプに位置するのだ。

 そんな自己矛盾にとらわれながらも今日を始めたいと思う。


 もう高校2年生。

 そろそろ将来の事を考えなければならない時期であり、俺もその例外ではない。


 最近習った『モラトリアム人間』という世間で言う『ニート』にならないよう、俺は日々努力しなければならないのである。


「あ」


 玄関に立つと鞄を落とし、我ながら間抜けな声を出してしまったと思う。この通り俺は不登校でも引きこもりでも何でもない。


 だって外に行かないと何もイベントが発生しないだろうから、勉強はそこまで好きでもないが……まぁ仕方なく行っているのだ。


 さて、今日も今日とて何が起こるか。未来が見えれば楽しくないし、過去に振り返っても虚しいだけだ。


「行ってきまーす」


 学校と家の距離は比較的近く自転車は必要ない。

 時間ギリギリだったので駆け足で行くいつもの登校道は、いつもと変わらず平凡な下り道だ、登校での発生イベントはどうやら明日へとお預けらしい。


 今日は二学期の最初の日、朝の集会で長々と校長の話を聞き、うろ覚えの校歌を歌い、そして退屈な授業をするに違いない。


 手を首筋に絡めながら呑気にそう思っていた矢先、()かが起きた。






「――っ」


 それは急だったのだ、本当に急だった、どう例えればいいのさえ分からない。急にそれは襲ってきたのだ。


 視界が黒に染まったと思うと地面に足がついていない感覚が確かにあった。

 おまけに重力を感じず、ふわふわと浮いた……そうまるで溺れたかのような、そんな気がした。


 どっちが上でどっちが下なのか分からない。


 右と左は存在するのか分からない。


 自分がどこにいるか分からない。


 自分が何しているかも分からない。


 分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない


 自分が、分からない。


 これが蕪城(かぶらぎ) (しゅう)のこの世界で最後の感想である。


 ◇


「――髪がみんなカラフルだ」


 そしてこれが、カブラギ シュウ、この世界で最初の感想である。

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