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第三話「少女ミアとの出会い」

第三話

 シトシトと降る雨が屋根を軽快に鳴らして妖精樹林に恵みを与える。碧が映える樹林地帯は雨を吸収する速度が早く、地面は乾いては濡れ、渇いては潤いを繰り返している。ふと、樹林の合間を縫って、小さな家が建っていた。誰が建てたのかは知らず、ましてや樹林の住人が住んでいるとさえ思えない。屋根は樹林の樹を使用し、壁は山脈の岩盤を薄く切り出し、そのまま取って付けたようなものであった。

 「……。」

 目を開けたアシッドは見慣れない木の屋根を見て目覚める。そして初めて自分がベッドの上に寝ていることに気付いた。一体どうしてこのような状況になっているかが分からず、頭の中が混乱する。自分がここにいる以前の記憶を辿る。自分は雨に打たれながら樹林に逃げ、急に力が入らなくなって巨大な樹の下に身体を伏せてしまった所まではわかる。だが、それ以降の記憶を探ろうとすると頭に靄がかかり、思い出すことは不可能であった。

 人の形をした耳が奇怪な音を察知した。何かがコトコトと蠢く音、それと同時に鼻腔をくすぐる香ばしい匂いが辺りに蔓延する。どうやら液体と固体を火にかけて沸騰させているようだ。音のする方へ目をやると初めてそこに人が居たことに気付いた。赤と橙のチェック柄のエプロンを肩に掛け、薄生地の白いレースカーディガンと青のフレアスカートを着ている少女が居た。少女は鼻歌混じりにコトコトと蠢く何かをかき混ぜているようで、小皿に液体を注ぎ、少し飲むと嬉しそうによしと頷く。

 「……何をしている。」

 「わっ!」

 突然声を掛けられた為か、危うく小皿を落としそうになるが寸で踏みとどまった。落ち着きを取り戻した所でアシッドの方へと向き直る。少し恥かし気に俯く少女はアシッドの視線から避けながら話し始める。

 「め、目が覚めたんですね。よかった……。」

 「俺はここにいたという記憶がない。お前、わかるか?」

 「え、えっと……。あなたが私の家の前で倒れていたので居ても立っても居られなかったので家で介護……させていただきました。」

 「見ず知らずの奴に厄介掛けたってことか。」

 「ご、ごめんなさい!やっぱりお節介でしたよね。ごめんなさい……。」

 平謝りばかりする少女を見てアシッドも口を空けて呆然とするが、いつまでも少女の後頭部だけを見てるのにもイラつきが走る。

 「あ~くそっ。わーったから、頭を上げてくれ。助けてくれたのは感謝する。だが、これっきりだ。お前には迷惑を掛けずにここを去るからよ。」

 腰を上げ、地面へと足を着ける。形成した足というものはしっかりと形状を保ち、多色あるスライムの色ではなく人間と見分けがつかないほどの肌色であった。ぎこちない動作はアシッドが脚で移動したことがないことからあるが、ふらふらとした足取りは余計に少女の心配性に拍車を掛けた。

 「あ、今歩くのは危険です!安静にしててください!」

 「るっせ!俺は行かなきゃなんねぇとこがあるんだ。ここで休んでられねぇんだよ。」

 漸くノブに手を掛け、手前に引いた。

 「だめぇ!」

 ドアが開かれると激しい雨が打ち付け、突風が辺りの家具を巻き散らかし、アシッドの身体にも打ち付ける。液状であるアシッドの身体を水滴ひとつひとつが突き抜け、吸収されずに身体に留まっている。吸収できない異常にアシッドは驚きを隠せず、人間の本能で頭を腕で隠していた。と、開け放たれた扉を身体を使って少女が閉め始める。余程強い風なのか、少女が押そうにも扉と少女の比率が圧倒的であり、扉に一方的に押され始めている。

 「うぅっ……!」

 「……ちぃ!」

 腕で雨を庇うのを止め、少女と共に扉を閉める。思った以上の扉の強さに歯を食い縛りながら扉を漸く引っ掛けに扉が嵌まり、外からの激しい攻撃は免れた。閉め終わった二人は息を切らしながら扉にもたれかかる。ふと、少女の方を見ると、濡れない雨が身体に刺さり、血が滲み始めている。

 「お、おい!これはどうゆうことだ!?」

 「どうって……あなたはここら辺の土地を知らないの?」

 「ま、まぁ……そうだな。俺は……そう、旅をしているようなものだからな。それよりお前は大丈夫なのか?」

 「あぁ……。大丈夫です、これぐらいなら。」

 はにかみながらも大丈夫そうに振る舞うが血は滴り落ち、フローリングに赤い花を咲かせる。この光景を見てアシッドは何を思ったか。今まで人間を吸収してきた、血を吸収してきたのだ。血を目の当たりにしてアシッドの奥底で何かが疼いた。飲みたい……食したい。その鮮血に滴る白くて細い肉を咀嚼して飲み干したい。渦巻く欲はアシッドの思考を侵食していき、気が付いた時には少女の細腕を掴んでいた。

 「……!?」

 少女はびくつき男性の行動をまじまじと見るしか出来ずにおり、男性はというと掴んだ腕をそのまま口元まで移し……血が出る部分に口付けする。

 「ぅ……!?」

 少女は少しこそばゆい感覚でもじもじとする。アシッドは少女の腕を食そうとした瞬間、人間を取り込んだ時に理性というものを学んだ。己が望むままに欲に動くことを止め、相手が今どういった状態になっているのかを読み取り、体内にある濡れない雨を除去する事と消毒を行う手を導き出した。それが、患部に口を付け吸い出すことであった。吸い出した血の中に固い物があり、口の中で転がす。恐らく濡れない雨の正体である。ある程度血を吸い続けると少女の身体で形成されたかさぶたが患部を塞ぎ始めていたので、口を離すアシッド。

 「ふぅ……。いい味だな。お前の血。」

 「は……はひ……?」

 身悶えしている少女は足腰が震えており、まともに立てずにいた。相当の血を吸われて貧血状態になってしまったか、或いはアシッドの部位に長く触れていた為に自動的に快感を受け取ってしまい、身体が熱を帯びたようになりまともな思考回路を回せなくなったか。呂律が回らないことから恐らく後者であることが可能性としてはあり得る。

 「あぁ?何座り込んでんだ。っつか、説明してくんねぇとあの雨について分かんねぇっての。」

 口に留まっていた固い物を吐き出す。よくよく見るとその固形物は鋭い針の形をしており、先端には返りがあって、体内に食い込むような形をしている。少女から取り出せたのはアシッドの唾液が少女の患部に侵入することで肌が一時的に柔らかくなったことで返りが肉を裂きながら体内から飛び出て、アシッドの口の中へと侵入したのだろう。

 「あぅ……。あ、あの……、少し肩を……。」

 少女が安静になるまで暫く時間がいるようだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 大分少女の状態が安定したところで、玄関からすぐ左にあるリビングでテーブルを挟んでアシッドと少女は向かい合っている。

 「と、取り敢えず……自己紹介からしましょう。お互い名前が分からないというのも不便じゃないですか?」

 「そういうもんか?」

 「は、はい……。私はミアです。」

 「……。」

 「……。」

 「どうした?」

 「うぇえ!?いや、ですから私はミアです。だから、これからはミアと呼んでください。」

 「おう、わかった。ミア。」

 「……えへへ。」

 名前を呼ばれたことがうれしかったのか、アシッドの口から自分の名前が出た時に身体が強張るが、直ぐに柔らかくなる。その光景にアシッドは首を傾げるが深くは詮索しない。

 「あ、あとは……あなたの名前です。」

 「俺のか?あ~……そういや、俺には名前ってのはないな。」

 「名前が……ないのですか?」

 「ああ、周りの奴等はアシッドとか言ってたがどうもなぁ……。」

 アシッドと呼ばれるのはあまり好きではない。七つの罪の内の色欲を司る肩書き。そもそもアシッドとは溶解を意味することから都合よく付いたものであり、思考を持つことで苛立ちが湧いたのだ。

 「……シド。」

 「……あ?」

 「シド、なんてどうですか?呼びやすいですし。」

 ミアはアシッドの反応を待っているようで、身体を少し揺らしながら笑みを浮かべている。まさか、自己紹介から名前を付けにくるとはアシッドと呼ばれた者は目を見開き、口角を上げる。

 「……ほぅ、いいじゃねぇか。アシッドから取ってるのかは釈然としねぇが、気に入ったぜ。今日から俺はシドだ。」

 第三話を読んで下さりありがとうございます。作者のKANです。初めましての方は初めまして。

 二ヶ月程書けずにいましたが、リアルの方で色々とありましてモチベーションが下がっておりました。まぁ、趣味の一環として置いてますので気長に待っていただけるとありがたいです。

 では、第四話でお会いしましょう。ではでは……。

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