第十話「アレクVS色欲のアシッド」
龍種の波紋
最強の種族とも呼ばれる龍の魔力を一時的に宿す上位の魔法。但し、龍の魔力を宿すということは許容量を越えた魔力を無理矢理に取り込むということ。許容できない魔力は反動を起こし、宿した本人の身体を徐々に壊していく諸刃の剣である。大きな力程、己の身を滅ぼす。だが、許容量が多い人が使うことで、龍の魔力を自在に扱うことが出来、身体が壊れる心配もない。
怒号を散らし、こちらに銃口を向ける青年に三人は身構えるが、ゲラルドは右腕を突き出して待てと示す。
「待ってくれ。こちらに非があるのだろうが、その少女は操られて我々に攻撃を仕掛けて来たのだ。正当防衛に変わりないだろう?」
「そういう問題じゃぁねぇんだよ。だったらなんだ、てめぇらに罪がないっていいてぇのかあ!?」
「では罪滅ぼしに私を差し出しても差し支えはないか?」
「将軍!」
「静かにしてくれませんか王子……。この者は只者ではありません。下手に機嫌を損ねられたらこちらは後がありません。」
小声でカイルを制し、青年を見る。眉間に青筋が立ち、今にも引き金を引いて誰かが撃たれてもおかしくない。ましてや、こちらは先ほどの少女とジル導師が操るアンデッドと連戦しており、疲弊しきっている。ゲラルドの頬に冷たい汗が伝う。言葉は選んだ方がいいだろう。
「罪滅ぼしだぁ……?ってことはよー……。」
引き金に掛ける手に力が込もっていることがわかり、すぐさまゲラルドは三人の前に立ちはだかるように立ち回る。
「罪の意識ってのがあるわけだよなぁ?」
火山に響く銃声。大きな音は一瞬にして火山の胎動音に掻き消され無音と化す。銃口から黒い煙が立ち上り、ゲラルドの大剣に大きな銃痕が刺さる。
「すみません王子、どうやら彼は元から我々を生かす気はないらしい。私が殿を務めますので退却してください。」
「将軍!直ぐに剣を放せ!」
ハッとゲラルドは大剣を見る。すると、黒色の粘液体が今にもゲラルドの手元に飛び掛かりそうになっており、直ぐに大剣を放した。粘液体はゲラルドの手が離れると大剣の柄に纏わりつきジュルジュルと溶かしてしまった。
「スライム……まさか、あの銃弾に!?」
「情報はもう出てんだろぉ?俺が誰なのか……近辺の村を壊滅させてやった化け物の話をよぉ!」
ホルダーを落として指先に指を捻じ込むと弾丸の形を成すと、指先を切り離してホルダーを起こした。
「東門ですれ違った時は感じなかったが、今ならわかる。最悪のタイミングで遭ってしまったようだ。バスティーユの監獄獣、色欲のアシッド!」
「おせぇ!」
更に拳銃を乱発して、辺りに銃痕を刻み付ける。黒色の弾丸はゲル状となり、地面を這い回る。
「マジでヤバい状況みたいっすね。退却するってんなら優先は王子、シグ、将軍の順番だよな。」
「アレクはどうするんだ?」
「決まってる。将軍に殿なんか任せられねぇっすよ。まだ余力残してる俺が務めますんで!」
アシッドと呼ばれる青年の前にアレクが前に出る。
「あぁ?てめぇからか?」
「監獄獣だかなんだかしんねぇが、俺がてめぇを止めてやるわ!」
紅い魔法陣を地面に展開し、呪文を唱える。
「我が賢者にして最強を誇る龍、イグニスの名の下に!汝の炎熱で我の身を焦がし、敵を滅ぼす加護を給わん!」
地面に展開した魔法陣が龍の形を成すと、アレクに向かって灼熱の炎を吹きかけた。炎の熱を身に纏い、アレクの紅い髪は橙の髪へと変色する。
「龍種の波紋!?」
「あのバカ……。王子、将軍。あいつの意気を無碍には出来ません。直ぐに逃げましょう。」
「そのようだ……。シグ、肩に掴まれ。」
アレクの後ろにいる三人は遠回りにアシッドとの距離を離していき、下山する道へと進む。
「逃がすかよぉ!」
「させねぇ!」
銃口を向けるより先にアレクの拳がアシッドの頬に直撃する。拳に掛かる負荷は人を殴るよりも軽く、殴られたアシッドの頬は拳の形で抉られ、跡には焼け爛れた粘液が燻っている。
「てめぇ……。」
「銃なんかに頼らねぇで拳で語り合おうじゃねぇか、なぁ!」
苛烈に拳で攻めてくるアレクにアシッドは両腕を前にしてガードをする。灼熱までに達した拳はアシッドの両腕を徐々に溶かしていき、遂には両腕が弾け飛び、拳銃も地面へと投げ出される。
「ぐっ!」
「おらおら!防御してるだけかよ!」
再び拳を突き出すと、アシッドは身体を花の開花のように開き、中心部分に隠された銃火器を明らかにした。
「まずっ!」
ゲル状の中で引き金が引かれ、銃を乱発する。アレクも咄嗟に反応して横へとずれて左からの拳を繰り出す。が、転じてアシッドも直ぐに両腕を形成し、アシッドから見て右から迫るアレクへ右手を槍に変形させて突き出す。拳と槍がぶつかりあい、熱に負けてアシッドの粘液は蒸発していく。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
力なき指が僅かながら動く。灰色がかった景色に色味が増し、肺が酸素を求めた。未だに私の胸を貫いている刃物は背中から飛び出ている。急いで、この氷を抜かないと……。手になかなか力が込められないが、両手で氷を掴む事ができた。ぐぐっと私の身体も持って行かれるが、氷を抜かなければ命は長続きしない。ふと、脳裏を掠めた青年の声。そういえば、私のこの体質について考えていたような……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ちぃ!」
攻撃を受ける度にアシッドの粘液は空気中に蒸発していく為、身体が徐々に縮んでいるようだ。身体に隠していた銃器も半分程露出している。対するアレクは、身体の皮膚の細胞が壊死し始めている。壊死した皮膚は剥がれ落ち、地面に砕けては塵となって消えていった。龍種の波紋の使用による反動が時間経過する程に激しくなってきている証拠だ。
「へっ……。お互い瀕死状態ってか?(よし、三人はもう降りたみたいだな)」
熱気が籠もった息を吐き出す度に、アレクの皮膚は軋み、皮膚の内側が黒くなっていく。
「……。」
気に食わなかったのか、アレクの挑発に青筋が更にひくつくアシッド。視界から他の三人が消えているのは闘っている最中に理解していた。故に、目の前の敵は時間稼ぎの為に闘っているのだということも。
「もう闘う気力もないってんならとどめといかせてもらうぜ!」
再びアレクの魔力が増し、アシッドに渾身の右ストレートを食らわせようと急接近する。拳銃は既に地面に落ち、取る時間もない。身体に隠してある銃器には弾は込めてあるが、銃身の中で玉詰まりを起こしているようで引き金が作動しないようだ。アレクが地面を跳び、右腕に力と魔力を込める。
「うおおおおおおおお!!がっ?!」
だが、アレクは地面に突っ伏してしまい、もがき苦しみ始めた。何かが身体の中を駆け巡り、激しい激痛を伴う。これは龍種の波紋による反動とは違う痛みであった。
「……ふぅ。何が互いに瀕死状態だぁ?」
「がぁ!てんめっ……なに……を……!」
「瀕死状態なのはてめぇだけなんだよぉ!!」
うずくまるアレクを見て、アシッドがへらへらと笑う。見間違いか、アシッドの身体は徐々に元のサイズに戻り始めている。
「俺の身体は様々な物が溶け合った水が殆どを占めている。だがよぉ、俺の身体を吹っ飛ばす度に溶けた何かも同時に飛ぶ。溶けてた何かが無くなったら俺の身体は純粋な水の身体になる。水ってのは純度が高い程、吸収しようとする力が強くなる。つまりよぉ、俺の身体が蒸発する度に純度が高い水蒸気ってのが広範囲に広がるっつーことで、頭の悪いてめぇでもわかるよなぁ。」
「が……かぁぁ!!」
アレクの頬はこけ始め、徐々に皺が増え始める。純水は不純物を完全に取り除かれた状態である。水という物質はあらゆる物質を溶かす性質があり、純度が高くなったアシッドの身体、水蒸気は攻撃をし続けるアレクの呼吸に合わせて知らず知らずのうちに体内に取り込んでいた。水蒸気が蒸留し、水となったアシッドの身体は徐々にアレクの身体の水分等を吸収する為、体内を駆け巡り始める。結果、多くを取り込んだアシッドの水はアレクの身体に必要な水を吸収し続け、身体は干からびていく。
「攻撃し続けたてめぇの報いだ。これで詰みだ。」
ホルダーを落とし、穴に指を込めてホルダーを起こす。虫の息のアレクの額に銃口をくっ付ける。
「てめぇだけしか仕留めれなかったが、ミアを起こした後で殺してやるよ。」
引き金が引かれ、乾いた音が響いた。
第十話を読んで下さりありがとうございます。作者のKANです。初めましての方は初めまして。
さて、投稿期間がある程度縮んだのでは、と自嘲気味に吼える私ですが。頭がすっきりするほど、脳内のアニメーションは鮮麗に映り、描写が思い浮かんでくる訳ですよ。つまり、空想が捗っているのです。
今回、純度が高い水を抜粋して書いてみました。始めは純水が毒という認識で途中まで書いていたのですが、毒という訳ではなくて、物質を溶かしやすい性質を持っているが故に、粘膜等がただれて浸透圧の関係で、血液が希釈(薄くなる)といったものでした(Wiki等を調べて)
解釈は様々ではありますが、アシッド(シド)の身体は水であり、今まで数々の人間等を取り込んで不純物豊富な訳です。アレクの攻撃によって水と不純物が分離、不純物は地面に染み込み、水(水蒸気)は宙を漂う。ここはアシッドが自身の身体を動かすことが出来るという条件がありますので上空までは飛ばない程度に操作しております。なので、アレクの体内で水蒸気が溜まっていき、水となり活発に操作できるようになってしまったのです。
長ったらしい解釈ですが、割り切っていただけると幸いです。私は理系ではなく文系なので化学的に証明されると困ってしまいますので(汗
では、次回の後書きでお会いしましょう。では……




