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第九話「引力の魔女」

 へパイトスの鍛冶場、竜神の儀式の山岳地帯にて、激しい轟音と溶岩の胎動が進む中、上空には無数の火球が打ちあがっては消え、霧散していく光景が続いていた。

 「はぁ……はぁ……。」

 両腕に火傷が多々見え、息を整えて魔法を維持する。後方で息をするのが限界でいるシグを守りながらの戦闘は相当堪えているようだ。

 「ったくよぉ……きついぜ。」

 前方ではジル導師とゲラルド将軍が大剣と魔法で凌ぎを削っている。とてもじゃないがアレクが入れる隙はなかった。

 「龍の息吹ドラゴンブレス

 杖を翳し、広範囲に広がる火炎を撒き散らす。大剣を振りかざし、ゲラルドに迫る火炎だけを切り裂く。堅い岩をも砕いた大剣を再び構えて横に一閃。転術式を使い、ゲラルドの側で巨大な火球を放つ。一時距離を保ち、燃え盛るゲラルドの様子を窺う。だが、燃え盛る火炎を一凪で消し去り、顔に付着した炭を拭う。

 「魔法の重鎧を常に身に着けているとは……筋肉達磨め。」

 「むんっ!」

 二度大剣を振り、ジルに牽制を仕掛け、駆け始める。ジルも牽制されながらも地面に魔法陣を展開し、炎を地中に打ち込み、大地の胎動を拭き上げさせる。自然が創り出した原始の魔力は流石の対魔法の鎧でも貫くであろうと算段したのだろう。だが、ゲラルドは溶岩の間欠泉を避けて鎧を貫く痛みを介さずに駆けていく。

 「痛みを知らないのか!?この男は!」

 「うおおおおおっ!!」

 片手に大剣を持ち、遠心力を掛けて振りかざす。気圧されたジルは辛うじて大剣で真っ二つになるのを避け、火球の魔法陣展開を始める。が、ゲラルドのもう片方の手には白い魔法陣が展開されているのに気付かなかった。

 「火球ファイアボール!」

 「取り消し(キャンセル)」

 魔法陣より出始める火球が霧散すると、ジルの顔より血の気が引いた。振り下ろした大剣を両手に持ち、ゼロ距離で一閃。

 「がぁあああ!?」

 上と下が寸断され、ジルの断末魔が辺りに響き渡る。

 「うおおお!さっすが将軍だなぁ!」

 離れた所で見ていたアレクは歓喜の声を上げる。が、斬り裂いたゲラルドの手応えは軽かった。

 「……。アレク!警戒しろ!」

 「うぇ?」

 「導師の手応えは軽かった。これはアンデッドを斬ったものと同じだ!」

 そう警告したゲラルドはジルの死体を確認したが、既に死体は無くなっており、溶岩の間欠泉の勢いが強くなる。

 と、そこに儀式の洞窟よりカイル王子が到着していた。

 「三人共、大事ないか?!」

 「王子!敵はどこかに潜んでおります、警戒なされよ!」

 「待っていたぞおおおお!」

 洞窟の入り口上より、杖を振りかざしながらカイルの頭上に迫るジルの上半身が姿を現した。今から駆け付けるには間に合わないゲラルドだが、直ぐに駆け寄ろうとする。だが、ジルの方が早かった。

 「ひゃーっはー!あヴぉ!?」

 が、一本の氷柱がジルの身体を貫き、軌道がずれて地面に倒れる。三人が同じ所を見ると、息を切らしながらシグが氷柱を両手で合わせて打ち出した所であった。

 「シグ……お前。」

 「ハァハァ……大事な時に動けないと……お荷物ですから。」

 「ったく、しっかり休んだ分の貸しはまだ払い終わってないからな?」

 「勘弁してくれ……。これ以上は厳しいから。」

 「ありがとうシグ。君の助けがなければやられていたかもしれないな。」

 シグに駆け寄り、身体を起こさせるカイル。ゲラルドもやれやれと溜息を吐きながら歩み寄り、上半身だけになっているジル導師を見やる。氷柱で貫かれようともアンデッドであればまだ油断ならない

 「がぁああうあ……。」

 「なんだこいつは……。ジル導師ではない、ただのアンデッドだ!」

 「どういうことだ……私は確かにジルと認識……まさか。」

 「そのまさかさ!」

 アンデッドの口がパクパクと動き、野太い男の声が発せられる。

 「端から私が煙たい場所になぞいくものか!使い魔だけで十分よ!」

 「堕ちたなジル。死霊魔術師ネクロマンサーに成り下がるとは。宮廷魔導師の名が廃る。」

 「そんな肩書きなど疾うに捨てたわ!だが、将軍と有能な部下、王子をまとめて殺せるいい機会だ。」

 「今の使い魔の状態でお前が手を掛けることはできない筈だ。王子、直ぐにここを発ちましょう。」

 と、間欠泉が冷えて穴が塞がると、来た道より大柄な男がゆったりとこちらに向かってきていることが分かった。警戒する一行であったが、大柄な男が白目を剥いた状態で歩いているのに気付くと同時に、男は歩みを止めてその場に倒れ込んだ。

 「引力の魔女グラビトン・パイトニーよ!この者達を殺せ!殺すのだぁぁぁ!」

 アンデッドは力の限り叫びつくすと、術者の魔力が尽きたのか口を開けたままで事切れた。倒れた男の後方、紅く質量の濃い魔力を全身に纏い、瞳孔が青白くなった少女が佇んでいた。身体でひしひしと感じる魔力の量に一行は警戒を強める。

「引力の魔女だぁ?こんなちっこいガキがか?」

 飄々とした口調でアレクが少女へと近付く。が、近付いた瞬間に少女から強く引き寄せられる感覚に陥る。この状態にアレクも焦る。

「うおっ!?ぐっ……引き寄せられ……っ!」

 アレクの片足がフワッとした瞬間、ゲラルドが前に飛び出し、地面に大剣を突き刺してアレクを庇う様に身を構える。

 「甘く見るなアレク!彼女は本物の魔女だ!」

 「って言ってもよ!?近付こうとすれば身体を持ってかれるじゃないっすか!」

 大剣に込める力を強くする。引き寄せられる力が増したようだ。溶けて食い込んだ鎧が次々と抜かれて、血飛沫が飛び散る。

 「魔力に反応すると自然とあらゆる物体を引き寄せては魔力に変換するのが彼女の体質でもあり魔法だ。しかも、ここは……。」

 「原始の魔力が無尽蔵にある場所……。そういうことだな将軍!」

 カイルが果敢に双剣を生み出し、少女の方へと投げる。風の魔力で生み出された双剣は少女に吸い寄せられるようにしてぶつかると、少女を覆う紅いオーラが少しだけ弾け飛ぶが、直ぐに元の状態へと戻る。

 「だが、二つの属性の魔法は吸収されずに弾かれ合う。そこに三つ目の魔法を与えれば勝機が見えるはずだ!」

 先の攻撃だけで相手の能力を分析する洞察力に流石と言わざるを得ないアレク。ゲラルドは若かりし頃のゲイル王を見ているかのようで目頭があつくなる。

 「だが、将軍の魔法では無効化は出来ても攻撃には至らない。だからシグ。俺らが時間を稼いでいる間に回復に専念するんだ。」

 先程最大火力でアンデッドを打ち倒したばかりのシグを鑑みてか、カイルは時間稼ぎをする為に少女へと走り出す。少女も攻撃を受けて怒り、怒号と共に辺りの地面を砕いては引き寄せ、溶岩を活発化させていく。ゲラルド達に掛かる力が弱まったと同時に、大剣を引き抜き、白い魔法陣を展開しつつ、カイルに続く。火属性の上位を纏っている少女に対して熱操作魔法が効くかは分からないが、牽制にはなるだろうとアレクもシグを一瞥すると駆ける。疲弊しきっているシグも王子達に応える為に回復に専念する。が、溶岩が活発になっている上で高温の環境下である。恐らくカイル達も疲労はしている筈だ。ここで、のんびりと観戦している暇はない。静かに、自身の体温を低く低く保持していく。

 「ア"ア"ア"ア"ア"!!」

 皮を剥ぐように地面をめくり、モーニングスターの穂先の状態になり、先程よりも強い引力をもって辺りを引き寄せていく。流石の力に三人もなかなか身体を動かせない。カイルは鈍い身体を動かしながら風の太刀を生み出し、その場で回転させて少女の引力を利用する。岩肌に触れた同時に爆散させ、岩を露出させる。そこへ踏み出したゲラルドが勢いを付けて大剣をボードに見立てて足を着けて露出された所へぶつける。引力とゲラルドの加速に伴ってぶつかる威力が倍になり、少女は固めた岩に肌を削られながら飛ばされ、鈍い音と共に地面にぶつかり、纏っていた魔力が弾ける。そその隙を狙ってアレクは果敢に熱を込めた拳を少女に振りかざすが、少女が起き上がると同時に直ぐに魔力を纏い、アレクの攻撃は吸収されてしまったまま動けなくなってしまった。

 「しまっ……!」

 「アレク!」

 ゲラルドが白い魔法陣を展開して拘束している魔力を打ち消し、二人で後方へと下がる。

 「これじゃあいくらやっても埒があかないぜ!おいシグ!まだかよ!」

 「黙ってろ……これでも最善を尽くしているんだ……。」

 少しずつ呼吸を整え、冷気を身に纏っていくシグ。先程アンデッドを倒した攻撃を打ち出す為に両手を構える。

 「王子、タイミングは任せますよ!」

 「わかっている!いくぞ!」

 再び魔力を帯びて岩を備えた少女へ特大双剣を生み出したカイルが投げる。そして、付着したと同時に形状を爆散させ、岩肌を砕き、魔力の障壁を削ぎ、少女が見えるようになった。そこへ、シグが鋭利な氷柱を打ち出す。

 迫る氷柱に少女は目を見開き、身体が貫かれる様を見る。先程砕かれた岩で肌を引き裂き、血が身体に滲み出て更に身体に掛かる冷ややかな感覚を感じた。痛みはとうに感じず、魔力障壁は解け、引っ付けていた岩も崩れ落ちていき、その場に膝を崩す。

 「……はぁ、はぁ。」

 四つん這いになって息をし、激しい汗を掻くシグはもう次の攻撃には期待できないだろう。他三人も引き寄せられる感覚が解けたのを感じ、一息付く。

 「ふぅー……なんとか難は逃れた感じっすかね。」

 「どうやらその様だな。急ぎ、父さんにジル導師の謀略を伝えなければ……。」

 「ですな。シグ、よく頑張った。帰った時にはゆっくり休むといい。」

 ゲラルドがシグを起こして肩を貸し、カイルとアレクもエイレーネへの帰路へと歩を進めようとする。

 ザッと砂利を踏みしめる音。四人が起こした音としては些か荒々しかった。音がした方へ四人が目を向けると、そこには見慣れない青年が銃を携えながら佇んでいた。

 「……君は、確か東門で。」

 ゲラルドが見慣れない恰好をした青年がいたことを思い出して呟くと、青年は眉間に青筋を立てて銃を構える。

 「てめぇらあああああああああああああ!!」

 

 

 第九話を読んで下さりありがとうございます。作者のKANです。初めましての方は初めまして。

 いやはや、失踪と言われても仕方ありませんよね。約4か月ぶりの更新ですから。

 これからは徐々に書き進めていく所存でありますので何卒ご容赦を。

 ではでは……。

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