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詠唱省略

 準々決勝を終え、翌日。

『さぁさぁ、武闘大会も残すところ後二日! 本日準決勝二試合を行い、明日は三位決定戦を行ったあと、メインディッシュ! 決勝戦になります! 現在勝ち残っているのは、学年順にシオン・アサギリ、アラン・レイノルズ、ユウシア、アヤの四人! 正直私は、誰が優勝してもおかしくないと思います!』

 しばらく続いていた武闘大会の中でも、最大級の賑わいを見せる闘技場内に、エルナの声が響く。

『準決勝第一試合の対戦カードは、アランVS(バーサス)アヤ! 剣士と魔法使いという違いはあれど、どちらも空飛ぶ無数の剣を操るという、似通った戦闘スタイルの二人です! 現在校内トップの実力を持つアラン君が順当に勝ち上がるのか! 出来がいいと話題の新入生の中でも、特に魔法に長けたアヤちゃんの番狂わせはあるのか! 私、とっても楽しみです!』

 何やらテンションが上がっているエルナ。ヴェルム曰く、毎回準決勝のあたりからテンションが目に見えて上がっていくとか。騒がしいが、実況的にはいいことだろう。

「アヤ」

 ユウシアは、入場直前のアヤに声をかける。

「ん? ユウ君、どしたの?」

「番狂わせ、起こして来な」

「……あはは、さすがに厳しいんじゃないかなーって思うんだけど……うん、やれるだけやってみるよ」

 決然とした瞳で頷き、入場していくアヤを、ユウシアは手を振って見送った。

「……まさか、準決勝まで来て、一年生が二人も残ってるなんてね」

 アランは、アヤを見て小さく笑いながら言う。それにアヤは苦笑すると、

「あたしもびっくりですよ……ここまで残るなんて」

「謙遜はよくない。今ここに立っているのは君に実力があったからだ。誇っていいと思うよ」

「ありがとうございます……と、言いたいところですけど。先輩であることを差し引いても、やけに上からですね」

 アヤは、挑戦的な光を目に浮かべてそんなことを言う。アランはその目を見ると、どこか面白そうに笑う。

「そうだね。君はここで負ける。決勝戦に、シオンさんともう一人の一年生……どちらが来るかは正直分からないけど、僕はどちらが来ても勝つ。勝ってみせる。番狂わせなんて起こさせない。優勝するのはこの僕でなければならないのだから」

(……? あの人、なんか……)

 観客席へと移動していたユウシアは、アランの目に違和感を感じる。

 本来なら、彼の台詞には憤りを感じて然るべきだろう。だがアヤは何故か、性格の悪さとか、そういったものは感じなかった。

『それでは、そろそろ始めましょう! 準決勝第一試合――開始ッ!』

「起動」

「『水精よ、剣と成り舞踊れ。切り裂き血潮を力と変えよ』〔アクア・ブレイド・ダンス〕!『氷精よ、剣と成り舞踊れ。切り裂き血潮を力と変えよ』〔アイス・ブレイド・ダンス〕!」

 合図と同時、二人は自身の武器を展開する。アランは魔導具アーティファクトの飛剣を。アヤは水剣と氷剣を。

「詠唱省略!?」

 ユウシアの隣に座るリルが、目を丸くして、珍しく大きな声を上げながら立ち上がる。

「あっ……も、申し訳ございません……」

 周りに迷惑をかけてしまったことに気付き、恥ずかしそうに目を伏せて席につくリル。

「リル、詠唱省略って?」

「あ、はい。えっと、今アヤさんは、例えば〔アクア・ブレイド・ダンス〕でしたら『繋ぐは水、水の精霊。汝、我が剣と成りて、舞え、舞え、舞踊れ。敵を切り裂き、血潮をも力と変えよ』と詠唱しなければならないところを、『水精よ、剣と成り舞踊れ。切り裂き血潮を力と変えよ』と詠唱しました」

「それって、魔法発動するの?」

「普通はしませんわ。ですが結果はご覧の通りです」

「……発動、してるな。なんで?」

 首を傾げるユウシアに、リルは首を振る。

「解明されていませんわ。ですが、卓越した使い手であれば可能だ、と。……わたくしも、それを目指していたのですが……先を越されてしまいましたね」

 アヤは、【魔導の極致】のスキルを持っている。「魔導」という分野において、他の追随を許さない才能。

 リルだって、一般的に見れば天才と言えるだろう。だが、あくまで一般的に見れば。その範疇を出ないのだ。先を越されるのも当然だ。

 ……しかし、そう思いつつも恋人には甘くなってしまうのが人というもので。

「……大丈夫。リルならすぐに追いつけるよ。それどころか、追い越すかもしれない」

「ユウシア様……はい! わたくし、頑張りますわ!」

「あぁ、応援してる」

「ふふっ……」

 試合中のアヤとアランは真剣なのに、突如発生した甘い空気。一応【偽装】は使っている。使っているが……例の如く対象外のフィルとリリアナはもう諦めたような目をしているし、【偽装】の効果で普通にしているように見えているはずの周りの観客の中にも、空気の変化を感じ取ったのか首を傾げている者が多数。

「……アヤが頑張ってるんだから、試合に集中しなさいよ……」

「「!!」」

 リリアナの呆れ返ったような呟きに、ユウシアとリルは慌ててくっついていた体を離し、姿勢を整えるのであった。顔はお互いに真っ赤。

 フィルは、苦笑いを抑えられなかった。

 リア充共の祭典から少し遅れて甘い話。準決勝なんぞをやっている最中に入れるものじゃないのは分かってる。でも、あの二人が勝手にイチャつき始めたんだよ……。

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