準々決勝
『さぁ、続きまして準々決勝第二試合! アヤVSマキナ・トライトだ!』
フィルとアランの戦いを終えた闘技場に、エルナの実況が響く。
闘技場内に立っているのは、ご存知アヤと、何やら大鎌などというユウシアでさえ使い手を初めて見るような武器を担いだ女子生徒。彼女が二年近接二位、マキナ・トライトだ。全身黒づくめ。ユウシアやシオンより余程暗殺者らしい装備である。トライト家は代々騎士の家系だったりするのだが。
「ふひひひひ……魂を刈りとってやるわ……ふひひひひひひ……」
「うひっ」
マキナのボソボソとした呟きに、アヤが変な声を漏らす。
(ぶわぁって、鳥肌がぶわぁってした……)
両腕を擦るアヤ。のみならず、実は何故か小さいはずのマキナの声が聞こえていた観客達にも同じことが起きていたり。
『うへぇっ……ハッ! え、えっと、開始です、開始!』
これまた同様に鳥肌ぶわぁだったエルナ。気を取り直したように、そして若干自棄になったように試合開始を宣言する。
「……え? これでスタート!? うわぁっ!」
言動はふざけていても、その実力は本物である。アヤとは違いしっかりと開始の合図に反応したマキナは、大鎌のリーチを活かして中距離からの攻撃を繰り出す。
それをかろうじて回避したアヤは、いつものように〔アクア・ブレイド・ダンス〕と〔アイス・ブレイド・ダンス〕を発動する。
余談だが、この〔ブレイド・ダンス〕、しっかりと他の属性のものもある。炎や風はもちろん、ゼルトが得意とする影もだ。ならば何故アヤは水と氷しか使わないのか、だが、完全に好みの問題だったりする。青系の色が好きなのだ。水剣は青色、氷剣は水色だったので、お気に召したらしい。
閑話休題。
マキナは、アヤの魔法による猛攻に晒され、防戦一方となってしまう。
そもそも、アヤの得意な〔ブレイド・ダンス〕とマキナの大鎌では相性が悪い。どうしても大振りになってしまうマキナに対して、アヤは手数で攻めることが出来るのだ。
更には、そうやってマキナが迎撃出来なかったものは、彼女に傷を付けると、その血を吸って性能を向上させる始末。
このままではとマキナが無理に攻撃を仕掛けても、【芸達者】により動きの良くなったアヤに苦し紛れの攻撃などは当たらない。
アヤは一撃必殺の威力を秘めた大鎌を潜り抜けると、近くに浮いていた氷剣を掴み取り、それをマキナの喉元に突きつける。
「……これで、終わり、です」
これがアヤでなくリリアナあたりだったのなら、こうは行かなかっただろう。彼女は、性格の問題かあまり手数を重視した魔法は得意ではない。
だが、マキナと相性の良かったアヤは、特に苦戦することもなく勝利したのだった。
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『さぁ! 今日中に準々決勝は終わらせてしまう予定なので、ちゃっちゃと行きましょう!』
エルナの言う通りと言うべきか、少し急かすように選手の入れ替えが行われた闘技場内には、ユウシアと、三年のクリフ・ベルスターが立っていた。近接二位。アランの次点にあたる猛者である。ただ、彼とアランの間にはそれはもう絶望的な差が存在したりするのだが。言っても詮無いことである。
『ではでは。準々決勝第三試合、ユウシア対クリフ・ベルスター。開始!』
「行くよッ!」
クリフは、短くそう言うと一気に走り込んで来る。直剣と盾を持つ、オーソドックスなスタイルだ。だがそれはそれだけ、バランスが取れていて強力ということでもある。
しかし、当のユウシアはと言えば。
「……えっと。先生達の目が早くしろって怖いので、すいません」
言いながら頭を軽く下げると、向かってくるクリフと、とても自然にすれ違う。
「――っ、あがぁぁああっ!」
直後クリフの口から漏れる悲鳴。倒れ込んだ彼の両腕と両脚は、おかしな方向に折れ曲がっていた。
「綺麗に折ったんで……割とすぐ治ると思います」
ユウシアはそう言い残すと、さっさと闘技場から出ていった。
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準々決勝、第八試合。本日最後の話であり、準々決勝最後の試合でもある。
シオン・アサギリの向かいに立つのは、四年、セシル・キリスタス。遠距離一位。
だが。
「……すみません」
一閃。
一瞬の内に、勝敗は決してしまった。
ダイジェスト。かつ、名前使い回しという手抜きっぷり。