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天才

 次の日ユウシアは、リルやアヤ、リリアナと共に観客席にいた。フィルの試合の観戦のためだ。

「……フィル、やけに弱気だった気がするけど……平気かな?」

 試合開始を待ちながら、ユウシアはそう呟く。

「まぁ、相手が相手ですから……」

「相手、誰なの?」

 苦々しげに返すリルに、アヤが問いかける。

「……天才よ」

 と、一言だけ言うリリアナ。

「天才?」

「そう。三年生にして、“議会”の頂点にまで上り詰めた天才。それが次のフィル様の相手、アラン・レイノルズよ」

「議会の頂点……ってことは、会長? シオン先輩が副会長だったのはそういうことか……」

 と、リリアナの言葉を聞いてユウシアが言う。

『準々決勝第一試合、選手の入場です!』

 そこへ響くエルナの声。ワァァアア! という歓声と共に、二人の選手が入場してくる。

 片方の、ユウシア達がいる場所に近い方の入場口からは、真紅の鎧に真紅の髪。フィルだ。

 そしてその反対の入場口。そこから現れた人影に、黄色い歓声が上がる。

 陽光を反射して煌めく、少し長めの白銀の髪。整った顔にはどこか人懐こい笑顔を浮かべ、観客に手を振っている。

「あれが、アラン・レイノルズ……」

 アランは、腰の左右に一本ずつ、背中側に二本、そして両脚に一本ずつ。計六本の剣を差している。

(六本……? 持てて二本だろうに、予備か?)

 それを見てユウシアは、訝しげに目を細める。だが。

(普通に考えれば、戦闘中に武器を手放すなんてやってはならないこと……それはあの人も分かってるはず。でも、予備じゃないとしたらなんだ? 六刀流なんて、出来る気がしないけど)

 ユウシアは、アランと戦うことを考えて、分析を始めている。彼と戦うとすれば決勝戦だ。自分が決勝に進むことを、準決勝の舞台でシオンに勝利することを疑っていない。そして、今ここでフィルが勝つ可能性も、準決勝でアランが負ける可能性も自然と除外していることには気が付いていない。

「現役の騎士様と戦えるなんて、光栄です」

 フィルと向かい合ったアランは、そう口にする。

「……私は後輩です。騎士の身分も、まして王女の身分も関係ない。敬語はやめて頂きたい」

「そう言われましても……いや、分かったよ」

 と、苦笑しながら答えるアラン。

「学校の中では、ただの後輩として扱おう」

「ありがとうございます、先輩・・

 フィルは、「先輩」という部分を強調するように言う。言外に念押しする彼女に、アランはもう一度苦笑する。

「……でも、戦えることが楽しみだったのは確かだよ」

「かつて『神童』とも呼ばれたあなたにそう言って頂けるのは、光栄に思います」

「昔の話さ。今はただ騎士を目指す生徒なのだから」

「……先輩ならなれますよ。必ず」

「ありがとう。……そろそろ始めようか」

 アランはそう言うと、エルナに目を向ける。彼女はそれに頷きを返すと口を開く。

『現役の騎士であるフィル様と、校内最強と名高いアラン君! 注目の一戦です! それでは! 準々決勝第一試合、開始ッ!』

「起動」

 開始の合図の直後、アランはそう小さく呟く。

 その直後。

 彼の差す六本もの剣が、音も立てずに動き出し、独りでに抜けると、そのままアランの周囲を漂い始めた。

魔導具アーティファクトか!」

 それを見たユウシアは、思わず声を上げながら立ち上がる。

「あたしの〔ブレイド・ダンス〕みたい……」

 アヤの言葉に頷くリルとリリアナ。確かに、あの浮遊する剣と、アヤの操る魔法による水剣や氷剣はよく似ているように思えた。

「……今までは、あまり()()は使ってこなかったんだけどね。相手が相手だ。全力でやらせてもらうよ」

 その言葉に、フィルは剣を構えると声を上げる。

「ハイッ!」


++++++++++


 自分よりも強い相手とは、何度も戦った。ハイドだってそうだし、訓練でユウシアと戦ったときは、いつも負けていた。

 それでもフィルは諦めなかった。貪欲に強さを追い求め、少しずつ、だが着実に強くなってきているのは、ユウシアも感じていたし、彼女自身も感じていた。

 正直、今回の戦いで勝てる気はしていない。

 だがそれでも諦めたり、逃げたりはしない。強者と戦ったという経験は、自身の成長に繋がる。負けたという事実は、自身を成長させるバネになる。

 そう、例え――

『勝者、アラン・レイノルズ!』

 ――例え、一方的な敗北を味わったとしても。

「うっ……」

 フィルは、地面に倒れ伏せたまま小さく呻く。

 何も出来なかった。

 防戦一方だった。

 試合開始直後、気付けば剣に囲まれていて。三百六十度全てからの攻撃に、五分も持たなかった。

 それでもフィルは、他の人からすれば賞賛に値する程の長時間を耐えたと言えるだろう。普通、一分も持たないのだから。

 だが、フィルはそれでは満足出来ない。

 勝ちたい。そうでなくとも、せめてまともに戦ってみたい。

「……アヤに、訓練に付き合ってもらおう」

 フィルは、アランがいなくなった後の闘技場で、そう呟いた。

 もう決勝のカードがほぼ決まった。

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