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回帰

 想像以上にこの章長引いてる……。

 ――時間は少しだけ遡り、丁度ユウシアが眠ってしまった頃。

 闘技場では、ユウシアとヴァイツの試合から二つ後、第二回戦の最終戦が行われるところだった。

 出場者の一人は、ユウシアとも仲のいい、ゼルト・キャスター。槍が得意で、ユウシアとも激戦を繰り広げた猛者だ。

 そして、その相手。

(……まだ、何もしていない……そのはずなのに、なんだ、この威圧感はっ……)

 ゼルトは、試合の開始前から、冷や汗を浮かべていた。

 彼の向かいに立つのは、長く艷やかな黒髪を高いところで纏め、ゆったりとした服、日本でいう着物に近い服を纏った女性。女性にしては長身で、凛々しい顔付きの、美人、という言葉がよく似合うような人だ。その腰には、軽く反りの入った片刃の剣、刀――その中でも特に長い、大太刀を差している。

 五年、近接一位。かつ、学年首席である、シオン・アサギリ。それが彼女の名だ。また、生徒達による自治組織である、「準騎士生議会」の副会長も務めている。俗に言う生徒会のような組織で、毎年首席生徒がスカウトされる。そして、議会の中での役職は実力によって決められる、と言えば彼女の実力も分かるだろうか。つまり彼女は、この学校全体で見ても、第二位に立つ程の実力者なのだ。

 余談だが、現在、議会ではユウシアの勧誘計画を立てているところとかなんとか。

 閑話休題。

 ともかくゼルトは、運の悪いことに、と言うべきか、自分より圧倒的に強いであろう者と戦うことになってしまったのだ。

「――貴方の戦いは、一度見せて頂きました」

 また一筋汗を流すゼルトに、シオンが声をかける。

「一月前の、ユウシアさんとの決闘です。たまたま暇を持て余していたので、今年の新入生、それも首席の実力はどれ程のものか、と、興味を抱いたのですが……」

 そこでシオンは、小さく微笑を浮かべる。

「……驚きました。彼のみならず、貴方も中々良い動きをしていた」

「……ありがとう、ございます」

「ですからこの戦いも、少し、楽しみにしていました。胸を貸しましょう。全力でかかってきなさい」

「はい」

 大太刀を抜き、正眼に構えるシオンに、ゼルトも槍を構える。

『なんかイイ感じのところで……第二回戦第八試合、開始です!』

 エルナの声と同時、ゼルトは走り出す。

(出し惜しみはしない……全力で行く!)

 まずは、様子見も兼ねて、素直に正面から突きを放つ。しかしその速度は、神速と言っても過言ではない。

 そんな攻撃を、対するシオンは躱すでもなく――

「――なっ!?」

 槍の穂先に、大太刀の切っ先を当てて止めてみせた。

 突き、というものは、所謂「点」の攻撃で、斬撃の「線」や、魔法などによる「面」の攻撃に比べると圧倒的に避けやすい。また、槍は使い手の手元から攻撃する先まで一直線にのびているので、横から攻撃を加えれば逸らすことも簡単だ。

 当然ゼルトも、そのどちらかで対応してくると思っていた。

 しかし、実際はどうだ。「点」に対し、わざわざ「点」で対応して来たではないか。

 ゼルトが驚きに見舞われている間に、シオンは大太刀を巧みに操り、絡めるように回してゼルトの槍を弾き飛ばしてしまう。

「くっ!」

 遅れてそれに気が付いたゼルト。慌ててその場から飛び退くと、急いで詠唱を終わらせて影と同化する。

(まずは、槍を回収しないと……)

 ゼルトは感覚の端っこで辺りを警戒するシオンを感じ取りながら、飛ばされた槍の影を探す。

 そして、そこから現れようとした瞬間だった。

「そこッ!」

「!?」

 丁度ゼルトが現れようとしていた場所に、鋭い斬撃が。もう少し現れるのが早ければ、確実に斬られていただろう。

(何故……)

 狼狽するゼルトに答えるように、シオンは口を開く。

「貴方の戦いは見た、と言いました。影を警戒しないと思いましたか?」

(それにしたって……!)

「それにしたって、普通は現れる場所に正確に攻撃出来るはずがない、と思いますか? ……今この場所には、私の足元と、貴方の槍。そして、闘技場の端にしか影がありません。そして、わざわざ私から遠い端の影に現れるとは考えにくい。となれば私は、残る二ヶ所のみを警戒していれば良い、と言う訳です」

 警戒する範囲を絞ったからといって、普通、いきなり現れる気配を察知出来るものでもないだろう。しかし、それが出来てしまうのがこの人なのだ、と、否応にも思わせるような不思議な雰囲気がシオンにはあった。

「……さぁ。影に潜っているのも、ずっと続けられる訳ではないでしょう。時間制限が存在するか、そうでなければ潜っている間は魔力を消費するはずです。そろそろ出て来ては如何ですか?」

(あなたが出させなかったんでしょう……!)

 ゼルトは内心で愚痴を溢す。

 しかし、シオンの予想は当たっていた。ゼルトのこの魔法は、影に潜っている間、かなりの勢いで魔力を消費していくのだ。この後のことを考えると、そろそろ魔力消費を抑えておきたいのも確かだった。

 だが、出ようとしたところで、そこに攻撃を受けてしまうのは明らか。

(詰み、か……いや)

 せめて最後に、一矢報いるだけでも。

 そう考えたゼルトは、行動に移る。

「ふっ!」

 シオンは、再び槍の方に気配を感じ、斬撃を放つ。

 しかし、

「分身……?」

 確かに斬ったはずのゼルトは、なんの手応えも寄越さずに消えていく。

 そして、その直後現れた気配は――真後ろ。

「っ!」

 慌てて振り向こうとするが、思った以上にゼルトが近く、思わず硬直してしまう。

「『繋ぐは影、影の精霊。汝、我が槍と成りて、敵を穿て』〔シャドウ・ランス〕」

 聞こえる詠唱の声。その声に反応し距離を取ったシオンが見たのは、本来は遠距離攻撃のための魔法であるはずの影の槍を掴むゼルトの姿。

「ハァァァァアアアアアッ!」

 ゼルトが雄叫びと共に、今まで以上の速度で突っ込んでくる。それにシオンは、またも微笑を浮かべていた。

「――私が背中を取られたのは、貴方で三人目です。その実力に敬意を表し、全力でお相手しましょう」

 そう呟いたシオンは、大太刀を腰だめに構える。

「浅霧一刀流――『回帰・一閃』」

 次の瞬間。

 空間が、横に、ズレた。

 その場に崩れ落ちるゼルトの体。

「……安心して下さい、峰打ちです」

 そう声をかけたシオンの大太刀は、既に鞘に納まっていた。回帰。この一撃で仕留めるという誓いを込めたこの技は、納刀までを技の流れに組み込んでいた。

 シオンの勝利。ユウシアに力を認めさせたゼルトは、手も足も出なかった。

 ほら。やっぱさ、和風美少女っていいよね。

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