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“元”暗殺者の転生譚!  作者: 浅野陽翔
オーブ集めの旅へ
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不意打ち

 あの後、すぐに目を覚ましたセージに襲いかかられること十二回。うち、ユウシアが武力行使すること七回、カンナに止められること三回、ニヤニヤと見つめる村人に矛先を変えること二回。最終的には、騒ぎを聞きつけた父親にこっぴどく叱られ、連れ帰られていた。

 そんなこんなで騒がしかったユウシアの誕生日パーティーの翌朝、ユウシアは村人全員に見送られていた。相変わらずユウシアを睨みつけるセージの姿もある。


「それでは、皆さん、また来ます」

「うむ。待っとるぞ」


 ユウシアの別れの言葉に、村長が代表して返事をする。


「ユウシア君、またね」

「うん、また」


 近寄ってきてヒラヒラと手を振るカンナに、ユウシアも手を振り返す。彼女のすぐ横では、フィーネもユウシアに手を振っている。

 やっぱり可愛い……なんて考えつつそちらにも手を振り返してから、歩き出そうとするユウシア。しかし、


「ユウシア君!」


 カンナに呼び止められる。


「ん?」


 それに反応して振り返るユウシア。すると目の前には、いつの間に近付いてきたのか、カンナの顔が。


「んっ」


 不意を突かれ反応出来ないユウシアの頬に、何やら柔らかいものが触れる。


「……んん?」


 この感触、覚えがある。あれはそう、まだ転生して間もない――つまり、産まれて間もない頃。母親の真似事が出来るのが嬉しいのかなんなのか、暴走気味のラウラがこう、ちゅっちゅちゅっちゅと――

 ……つまり?

 ユウシアは、何が起きたのか、完全に理解した。そして。


「なぁっ!?」

「…………んぁあっ!?」


 悲鳴その一、セージ。からの、悲鳴その二、ユウシアである。

 口をポカンと開けたままカンナを凝視して硬直するユウシア。その前では、カンナが頬を赤らめてモジモジ。すぐ近くに、「フィーも! フィーもゆうおにいちゃんにちゅーするー!」などとユウシアに手を広げながら言う幼女(可愛い)がいたが無視だ。


「うぅ……」


 嘘だ。ほんの少し泣きそうになっただけなのに、ユウシアが目にも止まらぬ速さで抱き上げていた。表情と視線は固定されていたが。


「な、な、何やってんだよお前ぇっ! 野郎、ぶっ殺してやるぅっ!!」


 ようやく現実に復帰したセージが飛びかかってくる。が、


「へぶぅっ!?」


 相変わらず表情も視線も変わらないユウシアに投げられ、顔面から地面に突っ込む。ちなみに、その間ユウシアの右腕に抱えられるフィーネの位置は動かなかった。

 と、こちらも衝撃から立ち直った村人達がユウシアとカンナを全力で冷やかしてくる。といっても、「ヒューヒュー!」「お似合いだぜ、お前らー!」などという子供のような冷やかしだったが。


「ふぼっ!?」

「あふんっ!」


 冷やかした村人達が倒れる。ユウシアが足元から拾った小石を投げつけたのだ。全弾額にクリーンヒットである。表情と視線に関しては言わずもがな。


「…………」

「……っ」


 カンナを凝視するユウシア。恥ずかしそうに身をよじるカンナ。

 ユウシアの後ろに影が。気配を消して忍び寄ったセージである。


「食らえばぼっ!」


 襲いかかろうとしたところでユウシアに掴まれ、引き倒される。もちろん顔面から。


「ゆうおにいちゃん? いくんじゃなかったの? フィーといっしょにいてくれるの?」

「ハッ!」


 フィーネの訝しげな声でやっと現実に引き戻されるユウシア。


(そうだった、あまりの驚きに忘れてた……)

「って、あれ?」


 右腕にフィーネがいる。それはいい。しかし、この左手に掴んでるのはなんだろう……?

 と、ユウシアがそちらを見ると、地面にキスしたまま動かないセージが。


「うわぁっ!?」


 どうやら、全て無意識の行動だったようである。驚いて飛びのくユウシア。

 ふと村人の方を見ると、そちらにも数名倒れている者が。ユウシアの左手に砂が付いている。そして、足元の石が周りに比べて少ないような。

 状況を察したユウシア。


「あぁっ! ご、ごめんなさい、大丈夫ですか!?」


 慌てて駆け寄ろうとするユウシアだが、倒れていた村人達が起き上がり、大丈夫だ、というように手を振るので、その場に留まる。

 そして次に見るのは、カンナ。


「えーっ、と……」

「ぅ……」


 顔を真っ赤にして俯くカンナ。


(これ、どうすればいいの? 教えて神様ーっ!)


 心の中で神に助けを求めるユウシア。しかし、


(あれっ? ラウラってここにいても役に立たないんじゃ?)


 神は役立たずだったようだ。

 助けを求めるように村長を見るユウシア。しかし、村長は楽しそうにこちらを見返すだけである。

 どこかに救世主は――


「ねーねー、ゆうおにいちゃん。いくの? いかないの? フィーといっしょなの?」

 ――意外と身近にいた。

 選択肢のうち二つは同じ意味だったのが気になるが、これを利用しない手はない。


「あ、あぁ、そうだったな、行かないとな! うん! それじゃっ!」


 ただし、利用の仕方は最低だが。

 フィーネを下ろしてから、スチャッ、と手を上げて逃げ出そうと……もとい、出発しようと振り返るユウシア。しかし、振り返った直後、右手を掴まれる。


「ねぇ、ユウシア君。逃げるの?」

「怖い怖い怖いっ!」


 普段より圧倒的に低いカンナの声。心なしか、奥の村人達も数名震えていた気がする。


「この状況で逃げるなんて、男として最低だよ? ユウシア君」


 顔が、笑っているのに笑っていない。有り体に言えば、とても怖い。


「……にっ、逃げるなんて、人聞きの悪い!」

「じゃあ何?」

「え、えーっと、それは……」


 口ごもるユウシア。頭をフル回転させる。

 中々いい言い訳が思い浮かばない。よって、


「ごめんやっぱ逃げる! さようなら! 【集中強化】!」

「あっ!」

「今度会った時はちゃんと返事するからー!」


 信じられない程の速度で走り出し、そんな言葉を残していくユウシア。

 ちなみに、その直後、この場では、「ヘタレー!」だの、「女泣かせー!」だのというバッシングの嵐が巻き起こったという。

 これはあれっすね。今後もカンナ出さない訳にはいかないっすよね。いや、出す気はあったんだけどね? どう出そうかっていうのがね。

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