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魔力回路

 風邪引くと皮膚の感覚が鋭敏になって服とかが擦れて痛いです。特に体洗ってるときなんか、死にそうだった。ほら、タオル派なんで……。

 間に合ってよかった、と、リリアナを抱えたままユウシアはホッと息を吐く。

 あの黒い玉が凝縮した瞬間嫌な予感がして飛び出してきたユウシアだったが、距離もあってか間に合うかどうかは際どいところだった。

 リリアナは今、ユウシアの腕の中で安心したように眠っている。披露と助かった安心感が睡魔として襲ってきたのだろう。

「全く……アヤももう少し加減を……」

 なんてブツブツ言いながらアヤの方に目を向けたユウシアが目にしたのは、今にも倒れそうになっている彼女の姿。

「ちょっ……!」

 何の偶然か、アヤが倒れていくのは、たった今彼女の魔法で抉れた地面。これはこれで、怪我は免れない。

 支えに行きたいところではあるが、それには抱えているリリアナが邪魔になるし、だからといって疲弊した彼女を置いておく訳にもいかない。片手で担ぐのは、個人的にしたくない。というか、単純に今のリリアナの体がユウシアの速度に付いて来れない可能性がある。それもこれもアヤが無駄に離れたところにいるから、などと八つ当たり気味の思考をしながら、とりあえずリリアナはマントの陰に隠してどうにか、とアヤのところに向かおうとしたところで、そちらに人影が現れる。

「先生!」

 現れたヴェルムは、アヤをしっかり支えると、いつの間にか意識を失っていた彼女をその場にゆっくりと横たわらせて、ユウシアの方へ。

「ユウシア君、リリアナさんを診せてください」

「え? あ、はい」

 ユウシアはその場にしゃがみこむと、リリアナの背中を支えたまま彼女を座らせる。その首筋に指を当てるヴェルム。その表情は険しい。

「何を……?」

 ヴェルムは、ユウシアの質問にリリアナに目を向けたまま答える。

「……最後のアヤさんの魔法。僕にも見覚えも聞き覚えもないものでしたが、あれは物質から魔力と霊力エーテルを奪う魔法でした。それは間違いない」

 ヴェルムがリリアナに魔力を流しているのがユウシアには感じられた。

「確かに、最初はそうみたいでしたけど……その後の爆発も、ですか?」

「はい。闘技場と観客席の間に張られていた結界。その魔力が強く乱されていたのを確認しています」

 武闘大会――というより、決闘においては、魔法が使われることもあれば、その魔法が狙いを外して観客席の方に流れてしまう可能性もある。そのため、闘技場と観客席の間には、物理的な衝撃にも魔法による衝撃にも耐えられるかなり強固な結界が張られていたのだが、その魔力が乱されていたらしい。先のアヤとリリアナ二人による高位魔法の応酬にもビクともしなかった結界が、だ。それが乱れるということは、魔力そのものに干渉されたとしか考えられなかった。

 ヴェルムは、リリアナの容態を確認して顔を顰める。

「これは、かなりマズイことになってますね……魔力が根こそぎ奪われたのは元より、魔力回路の方もズタボロ……」

「魔力回路……ですか?」

 首を傾げるユウシアに、彼にも知らないことがあるのか、と場違いなことを考えるヴェルム。頭を振ってその考えを払い、ユウシアの質問に答える。

「はい。魔力の通り道……と言えばいいでしょうか。手や足、体のどこに行くにも魔力はその回路を通るのですが……リリアナさんはそれがこっぴどくやられていますね。……下手をすれば、一生魔法が使えない体になるかもしれません」

「なっ!?」

 ヴェルムの言葉に、ユウシアは思わず声を上げる。魔法が得意なリリアナは、魔法が大好きでもある様子だった。そんな彼女が魔法を使えなくなるなど、ユウシアには許容出来ない。

「なんとかなりませんか!?」

 声を荒らげるユウシアを、ヴェルムは手を向けて諌める。

「落ち着いてください、ユウシア君。この学校には優秀な医師が揃ってますから。きっと治ります」

「そう、ですか……取り乱して、すみませんでした」

「いえいえ。大事な友達のことですもんね」

 ヴェルムは笑って首を振る。

「……はい。……あっ、そういえば、アヤは……?」

 すっかり忘れてた、とアヤの方に目を向けるが、そこには横たわっていたはずの彼女の姿がなかった。

「あぁ、僕がリリアナさんを診ている間に医務室に連れて行かれましたよ。軽く診ただけですが、おそらくは極度の疲労による気絶ですから、特に心配はいらないでしょう」

「そうですか……よかった」

 ユウシアはもう一度ホッと息を吐く。それと同時に立ち上がるヴェルム。

「さて、と。僕は、この闘技場の修繕ですかね……はぁ」

 真ん中に大穴が開いてしまった闘技場を見て、ヴェルムはめんどくさそうにため息を吐く。

「まずは素材を発注して……あぁ、そういえば結界の発生装置も魔力が乱れた影響で少し調子が悪いんでした……うぅ、明日いっぱいで終わりますかね……」

 大変だなぁ、などと、どこか沈んだ様子のヴェルムを見ながら考えるユウシアだった。

 とりあえず、アヤは目が覚め次第ヴェルムに謝らせようと思った。

 あーあ、アヤ、やっちゃったー(軽い)。

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