アヤVSリリアナ
途中までですけども。
『いやー、皆さん素晴らしい戦いですね! さて、盛り上がってきたところで次は面白そうな対戦カードです!』
本戦は進み、次は第五試合。
『一年遠距離型一位、アヤ対、同じく一年遠距離型三位、リリアナ・マクロード! 二人とも優秀な魔法使いな上に、どうやら仲もいいようで! 派手な魔法合戦が見られることを期待したいところです!』
「……緊張するね、少し」
闘技場の真ん中で、エルナの実況を聞きながら困ったように笑うアヤ。
「少しだけ、ね。……それよりもあたしは、あなたと本気で戦えるのが楽しみでならないわ」
その向かいで、リリアナは好戦的な笑みを見せる。
「そうだね……確かにそうかも。うん。あたしも楽しみ」
「訓練のときにやった模擬戦では決着が付かなかったけど――」
「――今度こそ、勝つよ」
「「――全力で!」」
『第五試合、開始ッ!』
開始の合図と共に、リリアナは後ろに下がり――アヤは、一気に距離を詰める。
「っ!?」
魔法使いとは通常、相手と距離を取って戦うものだ。それは、この学校において魔法使いが「遠距離型」と分類されることからも明らかである。だというのに、アヤはまるで近接型かのように走り込んでくる。しかもそのスピードが尋常ではない。
アヤの持つスキルは二つだ。
一つは、【魔導の極致】。魔導に精通し、魔導に関して全生物の頂点に立つスキル。魔導と魔法の違いはアヤにはまだ分からないが、異常と言ってもいい程強力なスキルなのは間違いがない。
そしてもう一つが、【芸達者】だ。
アヤはこのスキルをほとんど使ったことがなかった。あるとすれば、数ヶ月前、セリドの街で泊まった宿屋の看板娘、ミーナが危険な雰囲気を纏いながら落としてきたボールを使って曲芸じみたことをやっていたときくらいか。
だが、今回武闘大会を行うにあたり、アヤはこのスキルに焦点を当てていた。
これは芸だ、と、認識を改めるのはそう簡単なことではない。このスキルを反映させるためには、常識レベルで自分の頭に刷り込まなければならないからだ。
しかしアヤはそれをやってのけた。開幕直後の異常な速度はそれが原因だ。
後にアヤはこの苦労を、
「ずーっと芸芸芸芸考えてたんだもん。ゲシュタルト崩壊とお友達だったよ。頭おかしくなりそうだった」
と語る。
閑話休題。
何芸か、と言うのは少し難しいが、“走る”ことを芸だと認識出来たアヤは、目を丸くするリリアナに向かってかなりの速度で近付きつつ、詠唱を開始する。
「『繋ぐは氷、氷の精霊。汝、我が剣と成りて、舞え、舞え、舞踊れ。敵を切り裂き、血潮をも力と変えよ』〔アイス・ブレイド・ダンス〕」
最早アヤの十八番とも言えるであろう魔法、〔ブレイド・ダンス〕。氷で出来た剣がアヤの周りに生み出される。その数なんと二十本。かつて自分の偽者と戦ったときは、〔アイス・ブレイド・ダンス〕と〔アクア・ブレイド・ダンス〕を合わせて二十、それも自分は制御に集中していて動けなかった。しかし彼女の留まるところを知らない成長は、自身は十全に動きながら、片方の魔法だけで二十本もの数を操ることを可能にしていた。
「うっそでしょ……!」
リリアナは驚きを顕にしつつも、自身も詠唱を開始する。
「『繋ぐは炎、炎の精霊。汝、我が盾と成りて、敵を防げ』〔フレイム・ウォール〕!」
向かってくる氷剣に対し、リリアナが作り出したのは炎の壁。アヤの氷剣はその壁に衝突すると、一瞬で溶け、更に過剰な熱量により溶けた水もすぐ蒸発してしまう。
「くっ」
アヤは小さく唸りながら、動かしていた足を止める。
その隙に距離を取るリリアナ。今度は彼女が攻撃に出る。
「『繋ぐは炎、炎の精霊。汝、我が武器と成り、砲と成りて、我が前に立ち塞がる全てを消し飛ばせ、灰燼と化せ』〔フレイム・カノン〕」
リリアナが伸ばした手から、彼女より一回りも二回りも大きい炎が放たれる。まるで柱でも倒したかのようなその見た目は、まさに「砲撃」。炎属性最上級の魔法である。
人など数十人単位で簡単に殺せるようなその魔法を簡単に放ったリリアナに観客がざわめくが、当の彼女はこれで決着が付くなど微塵も考えていなかった。
「――『繋ぐは水、水の精霊。汝、我が盾と成りて、敵を防げ』〔アクア・ウォール〕」
〔フレイム・カノン〕とは比べるべくもない低級の防御魔法。しかし、圧倒的な魔力量を以て行使されたその魔法は、リリアナの砲撃を見事に防ぎきった。
『これは……これは凄いぞぉ! 一年生同士の戦いだというのに、今までの闘技大会などでは見たこともような高位魔法の応酬だぁ!』
エルナが興奮気味に叫ぶ。
「リリアナ。こんなのはまだまだ――」
「――えぇ。小手調べよッ!」
魔法を考えるのに普段より時間がかかる……。